データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] APEC・CEOサミット 野田総理ビデオメッセージ

[場所] 
[年月日] 2011年11月10日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

 日本国の内閣総理大臣、野田佳彦です。世界のビジネスリーダーの皆様に対して、日本経済の「今」と「未来」を発信する機会を与えて頂き、誠に光栄です。

 大震災から8か月あまりが経ちました。日本国民は、世界中からの温かい励ましに支えられながら、大震災からの復興を力強く進めています。被災地のインフラや経済も確実に立ち直りつつあり、首都圏を含めた被災地以外では、震災前の日常が戻っています。また、製造業のサプライチェーンもほぼ完全に回復し、世界への供給責任を果たしています。

 東京電力福島原発の事故についても、原子炉の冷却も順調に進んでいます。事故の収束は、想定よりも前倒して進んでおり、もはや日本でビジネスを行う大きな支障とはなっていません。

 古来、日本人は危機に強い民族です。危機を梃子にして、今、日本は新しく生まれ変わろうとしています。世界のビジネスリーダーの皆様に、この場を借りて、二つのことを訴えたいと思います。

 一つ目は、震災からの復興を進めるエネルギーは、我が国の経済成長を大きく後押しする、ということです。実際、IMFの予測によれば、2012年の日本経済は、他の先進諸国よりも高い2.3%の成長が見込まれています。中小企業や女性など日本の潜在力を解き放てば、予測よりも更に高い成長も可能だと私は考えています。

 これは、「被災地に大きな復興需要が生まれる」ということにとどまりません。復興のプロセスそれ自体が、イノベーションを生み出す大きな原動力となるということです。被災地が現在進めている「復興」は、単なる「復旧」ではありません。地域が持っている強みを活かし、農林漁業、再生可能エネルギー、医療など二十一世紀の成長分野で世界最先端のモデルを示し、それを実践することが復興の中心テーマとなっています。

 政府としても、大胆な規制改革や税制の特例を講ずる「復興特区」を設け、新設法人について法人税を5年間無税とする、といった大胆な投資促進策を準備中です。我が国は、復興を共に進めるパートナーとなる内外の企業の投資を歓迎し、そのための環境整備を急ピッチで進めていく考えです。

 二つ目は、我が国は、アジア太平洋地域の中核として、各国・各地域との絆を深めていく強い決意を持っている、ということです。ダイナミックな成長を遂げるこの地域の経済統合の更なる推進は、すべての国や地域の利益です。その道標となるのが、昨年とりまとめた「横浜ビジョン」です。

 経済連携の強化は、「絆」の証です。我が国は、域内のヒト・モノ・サービスの円滑な流れを促し、企業のビジネス環境を整備するため、抜本的な国内改革を推進しつつ、率先して高いレベルの経済連携を進め、新たな貿易・投資ルールの形成を主導します。

 また、頻発する自然災害への対応、大気や水の汚染、エネルギー制約、食料価格の高騰など、この地域が共通で抱える課題は、今後の発展の制約要因になりかねません。我が国は、官民が連携してその解決に積極的に貢献することを通じて、この地域との「絆」を深めてまいります。

 日本の復興は、アジア太平洋地域との「つながり」なくしてありえません。また、アジア太平洋地域の確かな未来は、日本の貢献なくしてあり得ません。

 日本経済は、復興を梃子にして、再び力強く立ち上がり、成長の道を歩みます。そして、イノベーションを通じて、より良き世界を作るための貢献を続けます。世界のビジネスリーダーの皆さんも、日本の復興の歩みに参画いただき、ご一緒に、アジア太平洋の未来の扉を開いていこうではありませんか。

 ご清聴ありがとうございました。