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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本経団連第62回評議員会 麻生内閣総理大臣挨拶

[場所] 経団連会館
[年月日] 2008年12月22日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

 それでは、第62回経団連の評議員会にお招きをいただき、挨拶をさせていただく機会をいただきまして、誠にありがとうございました。

【今年一年を振り返る】

 12月もこの時期になりますと、今年一年を振り返る、だいたいどこのマスコミでも同じような番組というか、企画ものが出てくるんですが、暗い面ばっかりが出てくる話が多いのは毎度のことですけど、今年は、その中にありましても明るいニュースもいくつもあったのではないかと思っております。

 北京オリンピック。ソフトボールの上野(投手)の熱投というものを見て、非常に感激された方も、経営者の中には多かったのではないかと思っております。やはり、投げ続けて優勝した姿っていうのは、多くの方々が勇気付けられたことだと存じます。

 また、日本人からノーベル賞が同時に4人受賞。これも過去に例がないと思っております。

 しかし、やはり経済界にとりましては、厳しい一年であったと思っておられる方が多いと存じます。

前半は、いわゆる資源価格の高騰。そして後半は、いわゆるアメリカ発世界金融危機というような話になるかと思います。

 たぶん2008年9月15日という数字は、かなり歴史の教科書に残るような話になるであろうと思っております。海外発の二つの大きな「つなみ」みたいなものに飲み込まれてしまった。

そういう一年だったと思います。

 しかし、私は、この日本の場合は、少なくとも今回の世界的な不況の中で、最初にこの不況から脱出できる国が日本でなければならない。日本であると、そう考えております。

【日本の役割】

 まず、考えておりますところは、日本経済は日本経済自身に何か構造的な問題があった訳ではありません。

これは、過去の三つの過剰で苦しんだ、過剰設備等々前回の不況と、大きく異なる点だと思っております。

 先ほど、御手洗会長から、G8ビジネス・サミットのご報告がありましたが、たぶん同じように感じられたと思いますが、とにかく、日本に対する期待は、海外においては極めて大きい。

 北京でのASEM、また、ワシントンDCでの緊急金融サミット、そしてペルー・リマでのAPEC等々。国際会議に参加するたびに、多くの国々の首脳が、日本の意見を真剣に聞いてこられます。

 一つは、やはりバブル崩壊、いわゆる97年98年。あのアジアの金融危機というのは、日本は日本だけの力で乗り越えた、乗りきった。もう一つは、世界第二位の経済大国である、その経済力。自動車会社が政府の緊急支援を受けるなんてことはありません。これらが、期待につながっているのだと私はそう思っています。

 今、世界経済は、この金融危機の混乱の中から、新たな秩序づくりに動き出したところだと思います。

我々は、こうした期待に十分応えるという義務があろうと存じます。

【経済対策】

 当面は、今、御手洗会長も言われましたように、何と言っても、景気対策です。

百年に一度と、よく言われるような危機に対応するためには、大胆な対応が必要だと存じます。異常な経済状況には、異例な対応が求められるのは当然です。

 世界に先駆けて経済対策を、今回最初に行ったのは日本。

一次補正予算、10月末に生活対策、そして、先週末に決定した緊急対策。矢継ぎ早に、手を打ってきたと存じます。

 合計で、支出や減税の財政措置が12兆円。

 GDPに占める比率で2%です。米国が、英国が、よく経済対策を言っておられますが、これを足し上げても1%台だと思います。GDPに占める比率は、思い切った規模の対応を世界第2位の経済大国がやっております。

さらに、金融措置も加えますと、75兆円の対策となっています。

 これらの経済対策のポイントは、二つ。

 一つは「雇用」、一つが「資金繰り」であります。

【雇用対策】

 まず、雇用につきましては、先般、経団連の方々にもお見えいただきましたが、私から雇用の安定に努めて頂くよう、お願いしたところであります。

 雇用は、生活に直結いたしております。

 いわば、生活の糧(かて)。

 雇用に不安があれば、財布のひもが固くなるのは当然です。

 雇用を安定させるためには、生活の安心を生み、消費の拡大にもつながります。これは、企業の社会的責任とも言えると思います。

厳しくとも、ここで雇用と生活を、しっかりと守ることが、景気の流れを、好循環へと変えていくきっかけともなる、と考えております。

 だからこそ、経済界と政府が、「雇用と生活を守る」という共通目的のもとに、二人三脚で、最大限の努力をしていかねばならないと考えております。

 先週とりまとめた緊急対策では、企業や自治体独自の、前向きな取組を、強力に支援することとしております。

国会も年明け5日から通常国会を開きます。二次補正予算、そして来年度予算を速やかに成立させ、約1兆円に及ぶ、この雇用対策を、実行に移してまいります。

 経済界の皆さんにも、是非ともご活用いただいて、「雇用の安定」に、ご協力いただきたいと思います。

 特に、この年末、何よりも切実なのは、住むところであります。少なくとも、そのまま社員寮などに住み続けることができるようにしていただきたい。

 政府としても、そのための助成も行っておりますので、この場を借りて、皆さまに改めてお願いをさせていただく次第です。

【資金繰り対策】

 もう一つのポイントは、資金繰り。

 これまで、中小・小規模企業向けの資金繰り対策につきましては、二階経済産業大臣に積極的なご理解をいただいて、この1か月半程度で、11万件、2兆7千億円近くの緊急信用保証を行うなど、積極的に進めてきたところです。

 しかし、このところ、中小・小規模企業ではなくて、大企業、いわゆる中堅・大企業でも、急激に、資金調達が厳しくなってきていると、私は認識しております。

 こうした市場機能が働きにくい時こそ、まさに政府の出番と、そう考えるのが当然だと思っております。

危機対応として、政策投資銀行や商工中金を通じて、CP(コマーシャル・ペーパー)の買い取りや貸付のため、3兆円規模の対策を講じることにしております。

 白川日銀総裁もお見えですが、日銀も、思い切って、前に出ていただいたと存じます。

 中堅・大企業への資金供給にも、万全を期してまいります。

【成長戦略】

 こうした当面の対策に加えて、今後は、成長戦略が中長期的には重要だと考えております。

 したがって、生活対策の中でも、省エネ設備投資を、初年度に、全額、即時償却を認め、過去に例は無いと思います。海外子会社の利益を、無税で国内に戻せる制度を、創設することとしています。

さらに、世界は、今、資源・環境制約の高まり、金融資本市場の行き過ぎと反動、といった新たな枠組み、パラダイムシフトの中におります。

 こうしたパラダイムシフトを踏まえ、中長期的な成長戦略の策定に着手します。

 第一に、環境や再生医療など、戦略分野に、官民をあげて、果敢な投資を行い、阻害要因となる制度の改革や、インフラ整備を行うことです。

 例えば、環境問題は、制約要因のように考えられがちですが、私は、新しい成長に向けたチャンスだと思っております。日本には、世界に冠たる環境、そしてエネルギー技術があります。これをもっと使って、成長と両立する低炭素社会を、世界に先駆けて実現したいと考えております。

 第二に、アジアの成長力拡大と、内需拡大のための取組を進めることです。アジアは、「世界の成長センター」として、世界経済を下支えする、という大きな役割を、期待されております。

 私は、金融面での対応に続いて、こうした実体経済面での対応が、不可欠であると考えております。

 このために、国境線を越えました、物流や港湾などの産業大動脈の構築。また、社会保障のセーフティーネットの整備や、農業改革を通じた内需拡大。こうした取組に対して、日本が、積極的な役割を果たすことが大事だと考えております。早速、総理特使を任命し、アジア各国と調整に当たらせ始めております。

【おわりに】

 毎日、厳しい経済状況を伝える、ニュースが多いと思います。

ただし、景気の「気」の部分まで暗くなってしまっては、本当に悪循環になるものだと思っております。

 出口のないトンネルなど、ありません。

 あの戦後の焼け跡の中から、世界第二位の経済大国をつくりあげ、また、オイルショック、またはプラザ合意を240円が120円までドルが暴落したあの時期にあって、日本はその後、日本はきちんと国内体制、構造を作り直して、必ず不死鳥のごとく再生してきたのが、過去60年間の日本の歴史ではないのでしょうか。私はもっと自信をもっていいと思います。

 その奇跡的な発展を支えた日本型経営の強みは、例えば、「人を大切にする経営」、「ものづくりの力」など。

こうした原点を、経済界の皆さんが、見失わない限り、きっと日本は、世界の中で最も早く、この世界的な不況から脱出することができる。私は、固くそう信じております。

 その為に如何に努力をするか。如何に政策を、如何に制度と、今政府に与えられている責務だと思っております。

 来年も、年明け早々から、経済対策の「実行」。この一点に集中してまいります。

 そして、来年の年末にはこの場所で、皆さんが一年を振り返るときに、明るく振り返ることができる。そのような一年にしたい、と考えておりますので、皆様のご協力をお願い申し上げます。