データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム開会式における小泉内閣総理大臣基調講演(平成16年11月14日)

[場所] 
[年月日] 2004年11月14日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

御列席の大臣、大使閣下、そして各界のリーダーの皆様、

 人類の知的活動の新たな1ページを開くであろう、この記念すべき科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム第1回会合において、世界各国の各界のリーダー諸氏を前に基調講演の機会を得たことを非常にうれしく思います。また、STSフォーラム開催国の総理大臣として、皆様のご参加を心より歓迎いたします。

 私は内閣総理大臣就任以来、環境保護と経済発展は両立できる、そして、この二つの両立を可能にするのは科学技術の力であるとの信念に基づいて、科学技術の振興に力を入れてまいりました。

 世界中の誰もがおいしい水、きれいな空気、安全な食べ物、美しい自然を望んでいます。しかし、美しい環境を維持、保全しようとするとコストがかかる、環境保護は経済発展の足を引っ張るのではないかと考える人が多いのではないでしょうか。

 環境保護と経済発展は両立できるのです。

 日本は、今から40年前、毎年年率10%を超える高度経済成長を続けていた頃、国内では公害が大きな問題となっていました。当時は、環境保護に配慮すると、余分なコストがかかると考えられていました。

 私が総理大臣に就任した3年半前、低公害車は公用車の5%に過ぎませんでした。低公害車の方が価格が高いというのがその理由でした。私は直ちに、3年以内に政府が使用する全ての公用車を低公害車に切り換えるよう指示を出しました。政府が、高くても低公害車を購入するのであれば、もっと多くの低公害車を作ろうと、自動車会社は設備投資を始めました。そして、低公害車の価格は低下し、低公害車は一般のユーザーの間にも急速に普及し始めたのです。排気ガスゼロの夢の自動車と言われる燃料電池自動車、これも第一号車を政府がリースで購入しました。来年春にできあがる総理公邸には、家庭用の燃料電池システムを設置する予定です。

 現在では、人々は多少高くても環境にやさしい製品を購入するようになりました。環境と経済は両立するのです。そして、この二つを両立させる鍵が、科学技術の力なのです。

 科学技術は、私たちの前に立ちふさがる課題を解決し、進むべき新しい道を切り開いてくれます。しかし同時に、科学技術には「光」とともに「影」の部分があることを忘れてはなりません。

 蒸気機関の発明は産業革命の波を生み、人類に急速な経済発展という恩恵をもたらしましたが、その一方で、化石燃料の消費の爆発的な増大によって地球温暖化という問題を引きおこしました。また、情報通信技術(IT)の発展と普及は、人々に便利な生活をもたらす一方で、情報セキュリティという新たな問題を発生させています。そして、最近の生命科学の進展は、クローン技術の取り扱いという我々の生命倫理観に対する重大な挑戦を投げかけているのです。

 科学技術の驚異的な進歩は、国境を越えて私たちの生活に変化をもたらしています。だからこそ、私たちは、世界の人類の英知を結集して科学技術のもたらす問題の解決に取り組んでいかなければなりません。

 このSTSフォーラムは、科学技術の「光」と「影」と人類の未来の問題について焦点を絞り、科学者だけでなく、政治家、政策担当者、ビジネスマン、ジャーナリストなどの様々な分野のオピニオン・リーダーが、国境を越えて一堂に会して議論するという、世界で初めての試みです。この会合を可能とした関係者の方々に対して深い敬意を表したいと思います。

 ご存じのように、この会議場は、地球温暖化防止の京都議定書が合意された場所です。また、この新たな知的活動の波が、1300年の悠久の歴史をもつここ京都から世界に広がり、広く一般市民の日常を照らし、暖かく豊かにするものとなることを強く願っております。

 京都はちょうど紅葉が始まり、山の幸、海の幸がおいしい季節です。この機会に是非京都で史跡を訪ねるなど思い出に残る経験をしていただきたいと思います。

ご清聴ありがとうございました。