データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] フランス企業運動(MEDEF)主催昼食会における小渕内閣総理大臣挨拶

[場所] 
[年月日] 1999年1月7日
[出典] 小渕内閣総理大臣演説集(上),150−155頁.
[備考] 
[全文]

 セリエール会長、

 御列席の皆様、

 まず、只今セリエール会長から、心温まる御挨拶を頂き、心より感謝します。

 昨年十一月セリエール会長の訪日の際にお目にかかり訪仏を招請いただきました。それからそれほど時間が経つことなく訪問を実現したことを光栄に思います。

 本日は、お忙しい中、フランス経済界の指導的立場の方々にお集まり頂き、お話できる機会を頂いたことを、大変光栄に思います。

 さて、新年早々、私は迷わず、フランスを皮切りにイタリア、ドイツといった欧州諸国を訪問することにしました。これは欧州の歴史の躍動をこの目で見たかったからです。

 三十六年前二十五歳の学生だった私は政治家を志し、ヨーロッパを歴訪していました。時はまさにドゴール、アデナウアーといった指導者の下、今日の欧州統合の要である仏独友好関係の礎となったエリゼ条約が調印された直後でありました。

 そしてこのヨーロッパを統合する努力は遂に六日前ユーロを生むところまで来ました。世界史に新しいページを刻む大事業だと言わねばなりません。

 これはなによりも関係国の強固な政治的意思の賜であります。また厳しい構造改革がたゆまなく続けられた結果でもあります。そのことに私はまず、敬意を表したいと思います。

 同時に、私は期待と希望も表明したいと思います。確かにユーロは新しい歴史を開くものであります。しかしユーロ圏全体の経済が米国に比肩するほどの大きなものである以上、ユーロは世界経済の安定と発展に寄与するべきことは当然であります。

 私はこの観点から、ユーロは安定し、信頼される通貨となることを望みます。また、ユーロ圏経済が一層開放的なものとなることを望みます。そうしてこうした欧州が、引き続き各国と協力して保護主義との戦いに挑んでいくことを確信しています。 

 一方、我が国は欧州と一層緊密な協力を進める方針であります。我が国自身もこのような歴史的展開を予見して、円が国際的に活用されるよう環境の整備を進めているところです。そうすることにより、我が国も国際通貨体制の安定化に貢献しなければならないと信じているからであります。

 明らかにユーロの誕生は、一つの大きな機会を生んでいます。欧州と日本、それに米国が協力していけば、安定し、発展的な国際通貨体制を作ることが可能であります。我々はその方向に向けて協力していくべきであります。

 欧州との協力は、政府間だけのことではありません。欧州統合の進展に伴い、国毎に行われてきたビジネス対話に加え、全欧州のレベルでのビジネス対話の強化が益々重要となってきました。欧州のビジネス界において、欧州統合プロセスの牽引役の皆様が、日欧対話の構築に向け積極的な役割を果たして下さることを期待しております。

 一九九九年は、この様に欧州にとって歴史的な転機の年と言えますが、アジアにとっては、構造改革等の努力を一層推進し、力強い成長軌道への復帰を目指す一年となります。

 特に日本経済については、私は、現在全力をあげて進めている諸政策によって、九九年度にははっきりとしたプラス成長が可能になると信じています。私が総理の職についたのは、昨年の七月でありますが、その時以来、私は日本経済の早期再生を最大の目的にして日夜努力をしてきました。金融システムの安定化・信用収縮対策、二十一世紀型社会の構築に資する景気回復等を柱とする緊急経済対策や恒久的な減税を始めとする諸施策を果断に決定し実行に移してきています。

 この関係で私は、日本の経済を支える基礎的な要素がいかに強いかに注目していただきたいと思います。日本経済は、約一千二百兆円、即ち約九兆ユーロもの個人金融資産や約七千五百億ユーロ(百兆円)以上の対外純資産を有しています。ハイテク分野を始めとする技術水準の高さも従来通りです。日本人が急に勤勉でなくなった訳ではありません。我が国のこれまでの発展を支えてきた基礎はいささかも崩れてはいないのです。

 我が国はこの強固な諸要素を土台にして、新しい構造改革に取り組んでいます。健全で創造的な競争社会を作り、同時にセーフティ・ネットを整備する。そのために小さな政府を目指し、規制をなくしていく。投資にも貿易にも開かれた我が国は、諸外国にとっても一層魅力を高めるでしょう。これが私の諮問に応じて経済戦略会議がここに同席の樋口議長の下で昨年末にとりまとめられた日本経済再生の基本戦略であります。私自身、この戦略を貴重な提言としてしっかり受けとめているところです。すなわち、構造改革によって日本経済は潜在力を発揮し、中長期的に安定成長を取り戻す。これが私の信念であり、私のメッセージであります。

 もとより日本経済の再生は日本のためだけではありません。これは世界全体の安定のためにも重要であります。我々はそういう強い認識の下でやっているのであります。つまり、我々は世界第二の経済規模の国としてその役割を果たそうとしているのであります。

 同じような意識は、我が国のアジア諸国に対する支援において特にはっきりしています。日本はアジア全体のGDPのおよそ三分の二をも占めています。日本経済の再生が、アジアが経済危機から脱出する上で、大きな鍵を握るのです。日本がこれまでに発表した種々の支援策総計約八百億ドル、即ち約七百億ユーロは世界最大規模のものであります。アジアを救うために最大の努力をしているのは、不況下の日本なのです。

 最近「アジアの奇跡」は崩れ去ったという議論を聞きますが、私には正しいとは思えません。確かにアジアには問題もあります。しかし、アジア諸国で急速な経済成長を支えてきたいくつかの重要な基礎的な要素は依然として健在です。特に、たゆまぬ勤勉さ、旺盛な企業家精神、外部文化の受容能力等、アジアには優れたところがあります。アジアもまた早晩復活する。私はそう信じています。是非、欧州もこのようなアジアの復活に向け協力していただきたいと思います。

 御列席の皆様、

 私は、只今、ユーロ圏諸国と一層強い協力関係に入ることを提案し、また日本経済とアジア経済の回復に向けた我が国の決意を論じて参りました。

 ここで、私が強調したいメッセージは単純であります。それは日本はヨーロッパが信頼するに足るパートナーであるというものであります。日本は経済面においても、そして政治外交面においてもヨーロッパが信頼するに足るパートナーであります。

 日本とヨーロッパは結局のところ、同じ船に乗っているのです。日本もヨーロッパもグローバリゼーションがもたらす光と陰の相克に直面し、その発展的調和を模索しています。日本もヨーロッパも自由の支配する平和と繁栄を世界に拡大しようとしています。日本もヨーロッパも美しい地球環境を将来の子孫に残さなければならないと強い決意をしています。人権や民主的手続、弱者への配慮等の点でも我々は同じ価値基準で行動しています。

 要するに日本とヨーロッパは地理的には遠いが、同志的な協力者なのであります。それは、あの名作「夜間飛行」でサンテグジュペリが描いた男達の連帯の意識に似ています。我々は異なった土地で同じ目的に向かって働いているのです。

 二十世紀は、科学技術が飛躍的に発展し、国際社会の統合が著しく進展した世紀でもありました。しかし同時に対立と抗争もなくなることのない世紀でもありました。二十一世紀は希望と進歩の世紀、そして平和と繁栄の世紀とすべきであります。そのためにも日本と欧州は一層協力していかなければなりません。私は今回、ヨーロッパでそのことを是非とも強調したい。そう言う思いでやって参りました。今回その重要な機会を与えて下さったフランス企業運動に改めて御礼を申し上げる次第であります。ご清聴有り難うございました。