データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 内閣総辞職に当たっての村山内閣総理大臣の談話

[場所] 
[年月日] 1996年1月11日
[出典] 村山内閣総理大臣演説集,786−787頁.
[備考] 
[全文]

 村山内閣は、本日をもって総辞職することといたしました。

 一昨年六月に内閣総理大臣の重責を担うこととなって今日まで約一年半、私は「人にやさしい政治」を政治の中心に据え、持てる力のすべてを出し切って走り続けてまいりました。この間は、戦後五十年という節目にあたるとともに、政治、経済、社会のあらゆる分野にわたりまさに日本が揺れ動いた時でありました。

 このような内外の厳しい環境の下で、本内閣は、三党が一致団結し、透明で民主的な政治運営に努めながら、切れ目のない円高・経済対策による景気の回復に全力を挙げるとともに、税制改革、年金改革、新しい農政への対応、政治改革の仕上げ、さらには規制緩和や地方分権をはじめとする行政改革などの課題にも積極的に取り組んでまいりました。

 特に、今日なお私の脳裏から離れないのは、六千人を超える生命を奪った昨年一月の阪神・淡路大震災であります。政府としては、被災地の復旧・復興と尊い犠牲から得た教訓に基づく防災危機管理体制の整備につとめるとともに、地下鉄サリン事件にはじまるオウム真理教問題などかつて経験したことのない凶悪事件に対する徹底した真相解明と再発防止策、四十年にわたる水俣病問題の解決、宗教法人法の改正など、国民一人一人が安心して公正に暮らせる国づくりに全力を傾けてまいりました。

 さらに、昨年八月には内閣総理大臣談話を発表し、わが国の歴史認識と今後の外交の基本理念を内外に明らかにするとともに、被爆者援護の問題や従軍慰安婦問題をはじめとする戦後処理問題にもようやく結論を見いだすことができました。冷戦後の国際情勢下におけるわが国防衛力整備のあり方や沖縄米軍基地問題を含む日米安全保障体制についても真剣な論議を積み重ね、今後の対応のための基本的枠組みを定めることができたものと考えております。また、先般のAPEC大阪会議において、APECをビジョンの段階から実行の段階に移行させるという歴史的成果を収めることができたこともこの内閣の重要な外交成果であると考えております。

 戦後五十年という大きな節目を越え、平成八年度予算政府原案の決定をみるとともに、いわゆる住専問題についても一定の方向付けを行い、本内閣の最重要課題である景気回復にも明るい兆しが見えはじめたこの機会に、この明るさをさらに確実なものとするため、私は、人心を一新し、内外の重要課題に取り組む清新な体制にバトンタッチすることが必要であると決意いたしました。

 二十一世紀まで余すところわずかとなった今日ほど、新世紀にふさわしい自由で創造性にあふれた社会の構築、新たな国際環境の下での世界の平和と繁栄に向けての積極的な貢献のための基礎固めをしておくことが大事になっている時はないと思います。新体制においても、三党が一致結束して山積する諸課題に当たっていただくことを心から希望する次第であります。

 「わが生を観て進退す」といいます。私自身、一政治家としてこれまでといささかも変わらない気持ちで、世界の平和とわが国の発展のため、全力を尽くす考えであります。

 これまでの国民の皆様のあたたかいご支援とご協力に対し、心から深甚のお礼を申し上げます。