データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 国連50周年記念総会特別会合における村山富市内閣総理大臣演説

[場所] ニューヨーク
[年月日] 1995年10月22日
[出典] 外交青書39号.
[備考] 
[全文]

議長、

事務総長、

並びに国連代表の皆様、

 国連の創設50周年に当たり、御列席の皆様と共にこれを喜びたいと思います。

 私は、冒頭、次の2つのことを申し述べたいと思います。

 先ず第1に、日本国民の国際社会に対する感謝の気持ちの表明であります。国際連合が創設された当時、わが国は、戦後の廃虚の中から国家の再建に取り組もうとしているところでした。そして、わが国は、再び戦争の惨禍が起きることのないよう固く決意をして平和憲法を制定いたしました。以来、憲法が禁ずる武力の行使は行わないことをはじめとする平和国家としての基本理念に基づき、国連への協力を外交の重要な柱として、国際社会の平和と繁栄のために積極的な貢献を行ってまいりました。

 わが国としては、これまで国際社会の多くの国から支援を受けて、今日の経済的繁栄を築くに至っていることを忘れたことはありません。

議長、

 第2に、国連の役割が益々増大をし、多様化していることであります。来世紀に向 かって人類が人口の爆発的増加にいかに対応するかは極めて深刻な問題となっております。これに伴い、食糧の安定供給、更には環境保全の確保が大きな課題となっています。難民、エイズといったその他の地球規模の問題への対応もますます重要となっています。更に、宗教的、民族的対立が国境を越えた深刻な紛争を引き起こしていることは憂慮に耐えません。そして、多くの場合、これらの困難な問題の根底には、貧困や社会の不安定があります。こうした問題にも一層効果的に対処し、世界の平和と繁栄を築くために、国連が果たすべき役割は益々増大いたしております。

議長、

 国連がこのような役割を果たす上で求められているのは、国家単位の取り組みだけではなく、「地球市民」の一人一人の幸福を見据えた努力を行うことであります。女性やNGOの役割も益々大きくなっております。これまでのような国家の安全保障だけでなく、「人間の安全保障」という新しい考え方が登場し、国連にとっても大きな課題となっている所以であります。個々の地球市民の人権を尊重し、貧困、病気、無知、迫害、暴力から我々を守るという視点に立つ「人間の安全保障」というこの考え方は、総理就任以来、私の施政の軸としている「人にやさしい社会」、即ち、市民一人一人が社会で平等に扱われ、その能力が十分に発揮できる社会の創造という私自身の政治指針にも合致するものであります。そして、人間中心の社会開発を重点分野とすべきことは、去る3月に行われました「社会開発サミット」で強調したところであります。

 わが国は、これまでも指導的役割を果たす援助国として、持続可能な開発の考え方を支持をし、民主主義と経済改革を支援をし、また、地球規模の諸問題への対応を含め幅広い経済協力に努めてまいりました。また、わが国は、様々な政策手段を総合的に組み合わせることを軸とする新たな開発戦略を提唱しております。わが国としては、このような分野において一層大きな役割を果たしていく所存であります。また、人道支援、予防外交やPKO、更には、核兵器の分野及び対人地雷、小火器等通常兵器の分野で軍備管理・軍縮といった、平和のための協力に今後とも一層積極的に取り組んでいきたいと考えております。

 国連創設50周年は、広島・長崎の惨禍からの50年でもあります。今こそ核兵器の究極的廃絶への努力が更に加速されなければなりません。そのような時に、未だに核実験が行われていることはまことに遺憾であり、核実験の即時停止を強く呼びかけます。そのために、今次国連総会において出来るだけ多くの加盟国の支持を得て核実験停止に関する決議案が成立することが極めて重要であると思います。更に、全面核実験禁止条約を明年春までに妥結をさせ、秋までに署名を終えることが、核軍縮の主要な一歩として何よりも緊急の課題であると考えております。

議長、

 国連がその使命を十分果たしうるようになるために必要とされる改革についてのわが国の考え方は、先にわが国の一般討論演説において述べた通りであります。

 先ず第1に、国連第2の拠出国として大きな役割を果たしてきたわが国としては、すべての加盟国が、国連の財政危機を直視をし、それぞれの財政義務を全うするとともに、国連の財政改革に緊急かつ真剣に取り組むことを強く呼びかけたいと思います。

 第2に、経済・社会分野における国連システムの改革は益々必要になっています。経済社会理事会をはじめとする関係諸機関の効率化、任務の見直しが急務であります。このような立場から、わが国は、「開発のための課題」に関する議論に引き続き積極的に参加をし、わが国としての貢献を行ってまいります。

 第3に、安保理改革については、安保理の実効性と正統性の向上による機能強化が強く求められています。このためには、常任理事国の増加を含む安保理の拡大と透明性の増大等運営方法の改善が必要であります。わが国としては、今次総会が終了する明年9月までに、これらの点を含む改革案の大枠について合意することを目指し、速やかに作業を進めることを求めたいと思っております。

議長、

 21世紀までにあと五年、人類は、来たるべき新しい世紀が新たな地球文明の創造と発展の希望の世紀となるように、手を取りあって前進すべき時に来たのであります。私は、この機会に、わが国国民が50年前に行った、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼をして平和のうちに生存していくとの決意を、ここに改めて確認したいと思います。そして、わが国としては、新たな国連像が模索される中で、一層国連を重視をし、支援をし、今後とも、世界平和の創造と貧困や不平等の解消のために、自由と民主主義という普遍の理念に基づいて、出来る限りの国際貢献を行っていくことを御約束をして、私の演説を終えたいと思います。

 ご静聴有り難うございました。