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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 内外情勢調査会における細川内閣総理大臣の講演

[場所] 
[年月日] 1994年4月12日
[出典] 細川演説集,143−153頁.
[備考] 
[全文]

 ただいま原野会長から今日は時局が大変シリアスな状況だから、何かそういうことについてのお話があるだろうというお話でございました。おそらく、今日は全国から三百人位の方がいらっしゃるので、というお話でございましたが、おそらく皆様方は、何か私の言葉の端々からこれから日本の政治がどうなるんだろうかということを、大変期待をしていらっしゃるだろうとは思いますが、こういう時勢でございますから、なかなかシリアスな話を申し上げる訳にはまいりませんで、思ったことの三分の一位しか言えないと、国会答弁みたいな話になるかもしれませんが、そういう意味で後でがっかりしたとおっしゃる方が多いのではないかと思いますが、時節がら慎重にものを申し上げることはお許しいただきたいと、始めにお断りをしておきたいと思います。

 さる八日に連立与党党首・代表者の会議、また、それに引き続く閣議におきまして、私は総理大臣を辞任することを表明させていただきました。政治の最高指導者として、道義的な責任、また、政治的な責任というものを考えて、総理の職を辞する決意をしたわけでございます。予算の一刻も早い成立を始め、内外に我が国の命運を左右するような重要な課題がこれだけ山積しております時に、些かの政治の停滞も許されない現下の状況におきまして、このような形で進退を決するということは、国民の皆様方に誠に申し訳ない限りでございますが、願わくは、私のこの行動が国民の政治に対する信頼を何がしかでも回復していただくことにつながるならばと、心からそう思っている次第でございます。

 昨年の八月に連立政権がスタートいたしまして、それからあっという問に八か月が経過したわけでございます。その問、政治改革、行政改革、経済改革、こうした三つの構造改革を押し進めていくことが、この内閣の歴史的な使命であると申し上げて、その推進のために一意専心してまいりました。鎌倉時代の執権でありました北条泰時という人がこういうことを言っておりますが、私が今、ちょうど桜の花が咲いているときに、改めてその言葉を思い起こしていたわけですが、北条泰時が言いましたのは「ことしげき 世のならいこそものうけれ 花のちりなむ 春も知られず」という歌でございますが、政務に没頭している間に、いつ桜の花が咲いて、いつ散ったのかそういうことも知らないうちに、季節がうつろってしまった。そういう趣旨の歌でございますが、本当にこの八か月間を振り返りまして、休みもなく、夜も昼もなく内外の山積する課題に取り組んでまいりました。振り返ってみますと、まず過去の問題に対する気持ちの表明から始まりまして、このことは内外で大きな反響を呼んだわけでございますが、特に海外からはそれなりに評価をしていただいていると思っておりますが、その後、政治改革、あるいはまたウルグアイ・ラウンド更にはまた、日米関係の、特に日米経済関係、あるいはまた幾度かの経済対策、どれをとりましても政権の存亡にというか、国の運命にかかわるような重要な課題ばかりでございました。

 この間、行革審、あるいは、平岩研究会、あるいはまた政府税調などにおきまして、これからの我が国の政策の基本的な方向についてのとりまとめをいただいてきたわけでございます。また、安全保障に関しましても防衛大綱の見直しに着手をしていただくことを決定をし、今、その御議論に入っていただいているわけでございますが、二十年前に策定されました防衛大綱というものが、冷戦が崩壊した後もそのままでいいのかどうか、こういう新しい、冷戦が崩壊した国際情勢の中で、真に意味のある防衛力というものはどういう姿が望ましいのかということについて、基本からひとつ御議論をしてとりまとめていただきたい。こういうことで今年の夏頃、つまり概算要求をまとめる頃までにその方向性を示していただきたい、こういうことをお願いを申し上げているわけでございます。

 当面は、もちろん、予算の成立に全力をあげなければならないということでございますが、対外的には、七月にナポリでサミットがございますし、そのサミットの時には日米首脳会談というものも開かれる予定になっておりますから、その時までには、日米の包括経済協議につきましても、なんらかの、もちろんそれでお互いが満足するという形になるかどうか分かりませんが、できる限り、我が国としてもそれなりに、できる限りの踏み込んだ形のものができるようにしてまいりませんと、日米関係というものは、本当におかしな方向に行ってしまう、そういう危機感を非常に強く持っているところでございます。六月いっぱいにまとめるように、さきに経済改革大綱というものもとりまとめたところでございますが、それを具体化して行くべく、今後とも政府において取り組んでいくことが何よりも重要な課題であるというふうに思っているところでございます。

 それから、もう一つ対外関係で気になりますことは、何と申しましても朝鮮半島の状況でございますが、この間題につきましても、強い関心を持って、私共は引き続き安全保障理事会の動きなり、あるいはまた、関係国の動きというものを見守っていかなければなるまい、政府としてそれなりの対応ができるように、きちんとした内々の準備というものは当然のことながらしていかなければなるまい、このように思っております。

 この数年、振り返ってみますと、日本のこの経済社会の基本的な問題でございますが、バブルとその後の長期に渡る不況というものは、これまでの経済構造の閉塞状況と申しますか、矛盾をそのままにして、豊かさを求めようとしてきたことのもたらした帰結ではなかったかという感じがしております。実質生活水準の向上とこれまでの経済構造の維持ということは、これは両立が不可能なことでありまして、このまま二十一世紀の高齢化社会に突入するということは、日本の将来に、決していい結果をもたらさないだろうと、このように私は考えております。

 先般、中国にもまいったわけでございますが、アジア諸国の発展というものは、たいへん目ざましいものがございますし、米国もまた自信を回復してきておりますが、日本は本当に学ぶべき科学技術を持った豊かな国だということで、安閑として、外から見てですね日本はそういう国だということで、日本自身が安閑としていられるような状況に果たしてあるのかどうかということになりますと、私は、決してそうではないんじゃないかと、今、日本の大学に留学をして勉強しようというような、海外の大学生であるとか、研究者の方々というものは、残念ながら極めて少ないというのが現状でありまして、そういうことは今の日本の状況というものが、決して安閑としていられるような状況でないということを端的に示しているのではないかという感じがいたしております。いずれにいたしましても競争力の逆転といったような、そういう事態になることに対しまして、私は強い危機感をもっているわけでございまして、このことも今後に向けての大きな課題であると、このように認識をしているところでございます。

 経済構造の転換と、生活水準のキャッチアップと申しますか、実質購買力の増加を実現しておくということが、今、実現しておくということが、これから数年間の最大の課題であろうと、このように考えております。そういうことを進めていくことこそ、実現していくことこそ、対外的な摩擦を削減するということにもなるわけでございましょうし、また質の高い高齢化社会を築くことも、初めて、そういうことを進めることによって、実現していくことによって、可能になるんだというふうに私は考えている次第でございます。生活者優位の社会の実現ということは、国民が自らの選択の余地を増やしていくということでございましょうし、また、自己責任を持って生きていく社会を実現していくということであろうと、このように思います。政府の役割というのはその場合に、いわばセイフティネットと申しますか、安全弁、安全ネットの提供をするということであって、経済構造の転換の試みということは、これは政治構造の転換と不可分の関係にあると、このように私は考えております。経済におけると同様に、政治におきましても合理性というものがもっと確立をされなければなりませんし、責任体制の明確化というものが何よりも必要である、このように考えている次第でございます。

 これからの政治的な課題ということでございますが、最大の内政問題は、今申し上げましたように経済構造の転換だというのが私の基本的な認識でございます。その担い手は、もちろん経済界であり、労働界の皆様方であるわけでございましょうが、政治はそれを側面からサポートし、また、その環境を整える役割を担っているのだというふうに思っております。

 まず、政治改革でございますが、政治改革につきましては、日本の新しい政治を実現するための政治改革というものを百パーセントこれを完成させるということが、何よりも当面の急務であるというふうに考えております。そのためにも、残された区割り法案を、何とかこれを実現しなければなりませんし、それを実現することによって、行政主導の体制から、政治主導の体制へと変わっていくということも初めて可能になってくるだろうと、そういう意味でも、この区割り法案というものを成立させて、政治改革というものを百パーセント仕上げるということが、何よりも肝要なことだというふうに考えております。区割り法案が不成立ということになりますと、これは、現行選挙制度で選挙をやるということになるわけでございますし、政治改革そのものが、せっかくここまで、この努力をしてやってまいりました政治改革全体がぽしゃってしまうということになるわけでございますから、そういう状況だけは何としても避けなければなりませんし、もし、そういう状況になってしまうということであれば、これは五十五年体制に戻ってしまうということでございますから、これだけはとても容認できるようなことではないと、これが私の今一番気になっていることでございます。

 それから、第二に経済改革の問題でございますが、景気も幾度かの対策の浸透によりまして、若干明るさが見えてきていることは皆様方もお感じになっているとおりでございます。何よりも今必要なことは経済の構造的な改革であって、先ずはそのために経済活動の障害物を取り除く作業としての規制緩和から始めなければなるまいと、政権発足以来、そのようなことを念頭においてその作業に取り組んでまいりました。勿論、これは一朝一夕にすることではございませんが、三月に入りまして行政改革推進本部で三つの作業部会をスタートさせたわけでございます。一つは住宅・土地についての作業部会、もう一つは情報・通信についての作業部会、それから、三つ目には輸入促進・市場アクセス流通についての作業部会。この三つの規制緩和についての作業部会をスタートさせていただいて、今、大変精力的にその作業をしていただいているところでございます。現在約一万一千件位の規制があるわけでございますが、それを一律に削減するというような従来のやり方ではなくて、経済規制については、原則、自由・例外規制とするという方向の下で、内外価格差の是正でありますとか、あるいはまた、産業のフロンティア開発でありますとか、内需拡大という視点に立って、極力ターゲットを絞り込んでやっていこうということでこのような形で規制緩和に取り組んでいるということでございます。六月までに具体的な成果が上がるように、これから精力的に詰めていただくことになっておりますが、先程申し上げましたように、これこそが経済の構造改革を進める鍵であるというふうに考えております。

 この規制の問題とも関連をいたしますが、第三者機関というものも作ることにいたしておりまして、この第三者機関につきましては、民間の方々五人の委員と、独立の事務局から成る行政改革委員会というものを作るということで、既に三月に法案を提出させていただきました。第三者機関が本当に強力なものとして機能するならば、相当に効果が上がるものになるだろうと、また、是非上がるものにしていかなければならない、そのように考えているわけでございます。また公正取引委員会につきましても、審査体制の強化でありますとか、あるいは、ガイドラインの策定でありますとか、競争政策の展開を進めますとともに、OTOの強化なども打ち出しているところでございます。これらの点につきましても、是非、これをしっかりとした形にしていかなければなるまいと、このように今後とも、新政権の下でもそれを進めていただくことが極めて重要な課題であるというふうに考えている次第でございます。

 経済改革のもう一つの柱は、これはなんと言いましても税制改革でありまして、これにつきましても、今度こそやり損なわないように、これを実現しなければならないわけでありまして、この点は、これから新首班の大きなお仕事になるわけでございます。税制改革の必要性につきましては、これも改めて申し上げるまでもないかもしれませんが、高齢化社会が急速に進んでいく中で、働き盛りの人達に、過度の負担がかからないように、日本の経済社会の活力が失われないようにしていくということが、何よりも重要なことでございますし、五月中に与党のなかで結論を得るべく、今取りまとめをしていただいているところでございます。そのこととの関連で税制改革を実行するということになりますと、どうしてもその、一つの前提としてと申し上げてもいいのかもしれませんが、行政改革を進めるということが大きな課題でございまして、行政の効率化、あるいはまた、歳出の削減合理化ということは、自らやはり、政府が身を削る努力をしないと、税制改正についてのご理解は、なかなか得にくいということでございましょうから、どうしてもこの行政改革というものは避けて通ることの出来ない課題だと思っております。

 先程申し上げましたように、与党のなかの三つの部会で、それぞれ税制改正についての作業をしていただいているわけですが、この三つの部会の中でも、特にこの行政改革の部会が一番難航しておりまして、それはそうだろうと思います。確かに行政改革というものは中々難しいというか、高いハードルがたくさんございますもんですから、これをどうやってクリヤーするかということで大変ご苦労いただいているところでございますが、何とかしかし、この点につきましては、先程も申し上げましたように形をつけないと税制改正についてのご理解が得難いということでございますから、是非これは、難事業でございますが、しっかり取りまとめをいただきたいということで、今、お願いを申し上げているところでございます。同時にまた、地方分権、あるいはまた、情報公開といったようなことにつきましても、いずれも来年の通常国会にかける方向で道筋だけは付けさせていただいたところでございます。中々、この地方分権や情報公開につきましても、各省庁とも抵抗が強い話でございまして、二年、三年時間をかけなければだめだ、そういう話が強くあったわけでございますが、それはだめだと、どうしても年内にこれは取りまとめて、そして次の通常国会に出せるように作業を急いでもらいたいということで、それだけは既に、再三確認をしているところでございます。特にこの点について、これからの新首班の下におきまして、しっかりとその路線だけは、道筋だけは引き継いでいってもらいたいものだとこのよう期待をしているところでございます。

 いろいろこの八か月間に手掛けましたこと、あるいは、道筋をつけましたことなどについて申し上げましたが、幾つか、残された、あるいは手が着けられなかった課題もございまして、その一番大きなものは、新しい時代に向けての思い切った教育改革でございました。教育改革は、これは先程、海外から来る、来たいという留学生や研究者が減っているということを申しましたが、小学校から、初等教育から大学教育に至るまで、これは本当にこれから我が国にとっての大きな課題だと、極めて重要な課題だというふうに考えております。

 それからまた、行政改革につきましても、今ちょっと触れて申し上げましたが、これから本格的な取り組みをどうしてもしていかなければならない課題だと思いますし、あるいはまた、私が非常に関心がございましたのは、軍縮に向けての我が国の積極的な役割というものを、どういうふうに果たしていくかということでございました。例えば通常兵器に関する国連の軍縮登録制度、軍備登録制度の充実に向けての我が国としての努力というようなものが、もっと押し進めていくことができないのかどうか。こうした点についても、実は五月の中旬でございましたか、広島で国連の軍縮会議というものが開かれる予定になっておりまして、その時には、我が国として、何がしかもう少し踏み込んだことが言えないかどうかと、そういうことをいろいろ検討をしていたところでございますが、これは今後の検討課題として残されたものの一つでございます。それからまた、環境問題につきましても、今この環境問題の象徴的な問題として残されております水俣病問題の解決などにつきましても、まさにこれから手を着けようとしていた課題でございますが、そこまで手が着けられなかったことは大変残念なことだというふうに思っております。

 以上申し上げましたような政策的な課題というものが、これから時系列的に申し上げますと、新内閣でこれから処理して、引き続き処理していただかなければならない課題として、いわば縦軸に並んでくる課題であろうと思いますが、その縦軸、つまり政治的課題というものがその縦軸という意味でございますが、それに対しまして、横の方からは、横軸として政界再編の動きというものがこれからますます活発になってくるだろう。今既に活発になっているわけですが、今までは水面下の動きであったわけですけれども、私の辞意表明を契機といたしまして、今まさにこれが漂流水のような状況でその勢いが加速をしてきている、こういう状況であろうかと思います。私は五十五年体制の政党の最も基本的な編成軸というのは、憲法と安全保障、たいへんこうはっきりと、すっきりと申し上げるのならば、憲法と安全保障政策というものを軸にした編成軸であったというふうに理解をいたしております。これはまた、世界における自由主義陣営と社会主義陣営の対立の国内的な反映でもあったわけでもありましょうし、それが自民、社会の二大対立というものがそれによって形づくられてきたというのが私の受け止め方でございます。しかし、この五十五年体制の二大勢力というものは、自民党も社会党もはっきり言わせていただければ、共に規制と保護を目指していたと、そういう勢力であったと言ってもいいのではないかというふうに思っております。確かにそういう体制によりまして、豊かさというものが相当程度実現をされる一方で、片やその構造的な、先程から申し上げたような問題というものが顕在化をしてきたわけでございます。そういう状況に対しまして、これからの政党編成の最も重要な対立軸は何かということを考えますと、私なりに考えますとそれは今までの憲法や安全保障が軸になって政党が、政党の軸が別れるということではなくて、これからはやはりなんといっても経済の構造改革といったものがその対立軸になるのではないかというのが私の基本的認識でございます。つまり規制と保護に対して我が国の経済社会の活性化や実質購買力の向上のための規制緩和、あるいはまた、自己責任の考え方というものが出てきているということではないかと、こう受け止めている次第でございます。

 今、いろいろ政界再編成の問題に絡めまして、よく世情、普通の国かとかあるいはきらりと光る国かとかいろんな話がございますが、あるいはまた、社民リベラルかどうかといったような話もいろいろございますが、私はそういう分け方といいますか、そういう仕分の仕方、色分けの仕方と言いますのは、どうもやはり依然として、先程申し上げた五十五年体制の憲法と安全保障政策というものを軸として考えた場合の色分けの仕方であって、それはちょっと私は少し、もう終わったのではないかと、そのように私は考えて、あるいは感じているところでございます。

 今、この政治の状況は、嵐の海に突入したという感じだと思います。いうならば緊急事態下にあると申し上げてもいいのかと思いますが、私は昨日も日本新党の若い方々が来られて、日本新党の立党の原点を忘れてもらっては困ると、日本新党は立党時から理想主義の旗を高く掲げて船出をした、明確な理念を持って船出したと、その原点を見失わないようにしてもらいたいと、こういうことで来られたんですが、私はそれはおっしゃるとおりだということを申し上げました。しかし、日本新党が旗揚げをしました一昨年の五月、それから昨年の八月に新政権が出来るまで、これがいうなれば芝居で言えば第一幕だったと申し上げてもいいのかと思いますが、第二幕は昨年の八月から私が八日の日に辞意を表明するまでのその期間の八か月間。そして、今第三幕が上がったということであろうかと思いますが、先程も申し上げましたように、今まさに政治状況というものは嵐の海に入っている。私は日本新党の若い方々に申し上げたんですが、今、この嵐の海に入って、スタートした時と同じように理想の旗をマストに掲げて、理想の旗と言うか、帆をいっぱいにマストにはってこの嵐の海を進んで行こうということになると、これは風でもって、吹きすさぶ風と波で帆が千切れて飛んでしまうかもしれない。あるいは下手すると帆をかけていると船ごとひっくりかえって、皆沈没してしまうかもしれない、溺れてしまうかもしれない。この嵐の海を乗り切るためには、やっぱり帆を下ろして、一時帆を下ろして、そしてこの海を乗り切るしかしょうがないんじゃないかと、そういう時に、この緊急事態下で、あの人は好きだとか、嫌いだとかあるいは、何だか政治体質が合わないとか、政治手法がどうだとか言っていたんじゃ、これは嵐の海は乗り切れない。好きでも嫌いでも、そんな贅沢な神学論争はやめて、一生懸命皆でオールを漕がないとこの嵐の海は乗り切れないんじゃないかと、そして、嵐の海を乗り切ったところで、もう一度、畳んでおいたこの帆をマストに掛ける。我々の理念なり、旗印、志というものをもういっペん掲げる。私はそういう意味で前から穏健な多党制の時代になるだろうと、しかしそれは、もう少し時間が経ってからの話であって、今、この嵐の海を突っ切る緊急事態下の、いうなれば革命政権下のこの状況のなかで、あんまり好きだとか、嫌いだとかそういうことをいうのをやめてもらいたい。そこのところは一つ私も志はしっかり懐の中にしまいながら、持ちながら、お互いにそこは飲み込んで、この緊急事態というものを乗り切っていかなければだめなんじゃないかと、私はそういうことを若い人たちに申し上げたところでございます。

 いずれにしましても、現在の連立政権というのは、守旧、保守的な守旧に対する改革派の結集としてスタートをいたしました。その改革は、先ず第一に政治改革として具体化されたわけでございますが、これからは先程も申し上げましたように、経済の構造改革というものがターゲットとしてより重要なものであるというふうに確信をいたしております。その経済の構造改革を推進する立場に立つか否か、それが五十五年体制に代わる新たな九十五年体制を作る軸になるのではないか。これが私の基本的な認識でございます。諸々の改革は、まだ全て道半ばでございますが、私自身、立場は変わりますが、引き続き改革の火を燃やし続けて、その改革に微力ながら取り組んでまいりたいと、このように決意を新たにしているところでございます。

 冒頭に申し上げましたように、こういう時節がらで、あまり申し上げたいことも申し上げられない段階でございますが、意のあるところはひとつお汲み取りをいただきたいと存じます。どうもありがとうございました。