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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 国際平和協力隊員故高田晴行氏合同葬儀における宮澤内閣総理大臣の弔辞

[場所] 
[年月日] 1993年5月30日
[出典] 宮澤内閣総理大臣演説集,366−367頁.
[備考] 
[全文]

 国際平和協力隊隊員、岡山県警視、故高田晴行君の合同葬儀が執り行われるに当たり、謹んで追悼の言葉を申し上げます。

 去る五月四日、カンボディアにおいて、崇高な任務に就いていた前途有為な青年の命が奪われました。誠に悔やんでも悔やみきれない痛恨事であります。遠い異国の地において、一家の柱としてかけがえのない存在であった高田君を失ったご遺族の方々に思いをいたす時、深い悲しみと強い憤りを禁じ得ません。

 高田君、君の文民警察官志望の動機は、警察官としての使命感に燃え、国際平和協力隊の一員として、世界平和のために努力したいということであったと伺っております。昨年十月から任務に就いた君は、高い理想と勇気ある行動力を持って職務を遂行し、その仕事ぶりは我が国から派遣されている同僚はもちろん、任務を共にしたフランス及びスウェーデンの文民警察官からも、また、現地カンボディアの人々からも多大な信頼を得ていました。五月四日に理不尽な凶弾に倒れた際も、自らは負傷による痛みと猛暑に苦しみながらも、「ほかの人は大丈夫ですか」と最後まで仲間を気遣っていたそうです。任務半ばにして、異国の地で果てなければならなかったお気持ちを察すると、胸を締めつけられる思いですが、君が最期の瞬間まで、人間として最も高貴な輝きを放っておられたことは、暗黒の中の一条の光明であります。

 私は、君を力ンボディアに派遺した責任者として、君の無念を思うとき、また、ご遺族の悲しみを思うとき、申し上げるべき言葉を知りません。安全対策に十全を期したとはいえ、もっとやるべきことはなかったのかと心が痛みます。

 今、君が尊い命を捧げたカンボディアでは、戦乱に疲れ切った国民が平和な国づくりのために最後の試練を迎えています。冷戦後の新しい平和秩序の構築を模索している国際社会は、懸命にこれを支えています。

 私は、君を失った悲しみを乗り越え、安全にさらに万全を期しつつ、カンボディアに恒久的な和平を築き上げる活動に今後とも貢献していかなければならないと考えています。君の理想を引き継ぎ、カンボディアにおける国際平和協力業務を最後まで成し遂げることが君の御霊に報いることになると信じております。

 高田君、奥様や二人のお子さんを心から愛し、ご両親を誰よりも大切にしておられた君ですから、ご遺族に対してさぞかし心残りのことと思います。私も、先日、ご遺族を弔問いたしましたが、君に対する深い愛情と追慕の念に包まれた高田家の皆様にお目にかかり、君の気持ちは痛いように分かります。私どもは君のご遺族に誠意を尽くし、できる限りのことをいたします。

 ここに謹んで高田君の御霊の御冥福をお祈りし、ご遺族の方々に衷心からお悔み申し上げ、私の追悼の言葉といたします。