データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 「新しい世界と日中関係」(海部内閣総理大臣)

[場所] 北京
[年月日] 1991年8月11日
[出典] 海部内閣総理大臣演説集,190−199頁.
[備考] 
[全文]

中国は,私にとっていつも大きな関心をそそられる国であります。三年前,私は二度にわたり中国を訪問し,各地を旅する機会がありました。その際,私は中国の広さと深さ,そしてそれゆえの力強さに,改めて深い感銘を覚えました。中国は,その長い歴史の中で,多様な民族,多様な風土,多様な文化を縦糸あるいは横糸として豊かな文明を織り出し,それを今日に伝えてきました。そしてこの中国といかにして友好協力関係を作り上げるかということは,有史以来,わが国にとって常に大きな問題だったのであります。

ここ北京の中日青年交流センターは,両国青年の交流を通じ日中両国の平和と友好が二十一世紀にしっかりと引き継がれることを堅く信ずる両国政府の協力によって建設されました。このような両国にとって格別の意味を持つ記念すべき場所で,世界が大きく変動し新しい秩序を求めて激動している歴史的な時期に,中国の各界を代表する方々の前でお話しできますことは,私にとってこの上ない喜びであります。関係者の皆様に深く感謝いたします。

今から十九年前の一九七二年九月,日本と中華人民共和国は,国交を正常化し,それまでの不正常な関係に別れを告げて,新たな友好関係の構築に向けて第一歩を踏み出しました。これは日中両国の歴史において画期的な意義を持つ出来事でありました。

日中両国の間には,長い友好の歴史の中で日本が深く反省すべき不幸な一時期がありましたが,この歴史を克服し,両国関係を真の友好協力関係に変容させるには,双方の忍耐強い努力と限りなき情熱が必要でありました。私は,今,多くの困難を伴ったこの間の過程を想起するとき,日中両国関係の正しい発展のため,献身的な努力をしてこられた多くの方々のことを,深甚な敬意をこめて想起せずにはいられません。

その後,平和友好条約が調印され,中国の改革・開放政策が進展し,両国関係は着実に前進しました。近年の発展ぶりは大方の予想をはるかに越えるものがあります。今や日中間の貿易量は,この十九年間で二十倍になり,人の往来は五十四倍に伸び,国民レベルの交流を示す友好姉妹都市関係にある地方自治体の数も百三十二に上るようになりました。中国に対する経済技術協力もほとんどすべての省・自治区で実施され,両国の交流は日本と中国の全土に及んでおります。このような両国間の接触の拡大は,相互理解と相互信頼を一層強化する基礎を提供していると言えましょう。

国家間の相互理解と相互信頼を確立することは決して容易ではなく,またその過程は決して平坦ではありません。国交正常化から今日までの日中両国関係においても,両国はさまざまな困難を経験いたしましたが,両国関係は,まさにこのような試練を一つ一つ克服してきた歴史ではないでしょうか。古詩に,「まことに磐石の固きこと無くんば,虚名復た何の益かあらん」という戒めの句があります。今や両国関係は,成熟した善隣友好関係に入りつつありますが,私は,今後ともこの詩の教えを固く守り,多くのひとびとの血と汗の努力で築かれてきた両国関係を不動のものとし,さらに発展させることに力を傾けたいと思います。

明年,日中両国は,国交正常化二十周年を迎えます。それは,日中関係の過去を振り返り,二十一世紀を展望するための大切な年であります。私は,今回,李鵬総理との会談において,この記念すべき年を,二十一世紀に向けて,ゆるぎのない日中関係を自信をもって見通しうるような,新たな節目の年にしようという決意を共にいたしました。

これからの新たな二十年は,日中両国の青年が創り出すものであります。私は,そのためには,若者たちが何よりもお互いの国情を正しく理解することが必要であると考えます。若い人たちが直接知り合い,学び合うことにより,相手の長所も短所も十分理解し合う成熟した友好協力関係を作り上げることができるでありましょう。

若い世代の交流強化は,これまでも両国指導者が強い関心を持つところでありましたが,明年の国交正常化二十周年を契機に,双方の青年が更に幅広く参加し,さまざまな形で交流を強化することを心から期待しております。私は,この点に関し,特に,現在の友好姉妹都市関係の基礎の上に全国的な規模で青年同士が交流の輪を拡げることに尽力したいと思います。

日中両国は,ともにアジアに位置する重要な国であります。この二つの国の安定した友好協力関係は,アジア・太平洋の平和と安定の極めて大切な前提条件の一つであります。言い換えれば,アジア・太平洋の平和と安定,そして繁栄のためにも,日中両国は友好協力関係を維持し,発展させる責任があるということであります。とりわけ,一九七八年に中国において新しく改革・開放政策が打ち出されて以来,飛躍的な広がりを見せた日中両国の協力関係は,アジア・太平洋にとって,より積極的な意味をもつようになりました。それは,中国側からみれば,中国経済と,世界の中で最も活力に富むアジア・太平洋経済との一体化が進み,ともに発展する機会を得,そのことを通じてこの地域の安定と繁栄に貢献する所を得たということであります。これを日本側から見れば,中国に対する幅の広い協力を通じ中国自身の安定と経済発展に資するということだけではなく,そのことを通じて,アジア・太平洋全体の安定と繁栄に一層貢献することができるようになったということであります。

このように中国の改革・開放政策,とりわけ沿海発展戦略は,中国経済をアジア・太平洋の経済的活力と結び付ける点で,中国のみならずアジア・太平洋の今後の発展にとって大きな意味を持つものであります。昨年ヒューストンで行われました先進国首脳会議においても,私は,このような観点から,中国の孤立化を避けるべきであると強く主張し,中国の改革・開放政策への支援を訴え,中国に対する第三次円借款の供与について理解を求めたのであります。中国における改革・開放政策の進展は,単に日中両国の利益に適うだけでなく,広く世界のためでもあります。私は,この機会にわが国の中国の改革・開放政策に対する一層の協力をお約束するものであります。

アジアの風土において平和と繁栄を実現するには,まず経済の発展に全力を尽くし,経済の発展に伴って民生の向上と政治の安定をはかり,それによって経済を更に発展させながら,社会の成熟と一層の政治の前進を求めるという手段をとることが賢明であります。私が,経済と政治のこのような交互作用を通じる社会の活力の維持・向上がアジア・太平洋の発展の要であると信ずるのは,近年,この地域で急速に成長した開発途上国が,いずれもこのパターンによって発展しているからであります。

不安定かつ不確実な様相を呈している今日の世界で,アジアの太平洋は,相対的には安定し,これまで世界経済の中で最もダイナミックな成長を達成してきましたが,更に発展の大きな可能性を秘めております。アジア・太平洋が,二十一世紀に向けて平和な環境の中で着実に経済的繁栄を持続できるようにすることこそ,今日の国際社会が我々に期待し求めていることであります。私は,そのような認識に立って,去る五月のASEAN訪問では,アジア・太平洋の活力が世界経済の成長を支え,世界的に開放的な自由貿易体制を維持する上で重要な役割を果たすものとならなければならないとの考えを強調いたしました。

アジア・太平洋に平和をもたらそうとするとき,私たちがまず突き当たるのは,カンボディア問題,朝鮮半島における南北対立,日ソ間の北方領土問題等,未解決の紛争や対立の存在であり,何よりも先ず,相互不信の根源となっているこれらの問題の解消に尽力しなければなりません。

とりわけ,カンボディア問題の解決は焦眉の急務であります。この問題については,最近,シハヌーク殿下のイニシアティブの下,カンボディア人当事者間の対話の場として最高国民評議会(SNC)が活動を開始し,早期の和平達成へ向け,重要な進展が見られました。私は,ここに至るまでに,中国政府が果たした役割は極めて大きなものがあったと評価しております。特に先般のSNC北京非公式会合の開催に向けたホスト国としての中国の貢献は多大でありました。我が国も,昨年六月の東京会議の開催等一連の外交努力を通じてカンボディア人当事者間の対話の促進を図ってまいりました。今後残された重要課題が一刻も早く解決され,カンボディアに永続的な平和がもたらされるよう日中両国が緊密に協力し,シハヌーク殿下を支持しつつ,あらゆる努力を傾注していくことが今までにも増して必要であります。そしてカンボディア問題に見られるような,国際政治における中国の建設的な役割と積極的貢献は,中国の重要性を全世界に一層強く印象づけることになるでありましょう。

朝鮮半島において一層の緊張緩和を進めることも,東アジアの安定のために不可欠の重要性をもっております。その見地から,南北首相会談が再開の見通しとなったことは喜ばしいことであります。日本としては,南北対話の進展,ひいては南北の平和的統一に向けた動きを支援するとともに,関係諸国とも密接に協力しつつ,朝鮮半島の緊張緩和のために,出来るかぎりの努力を行っていく方針であります。我が国は昨年十一月より,主にこの北京の地におきまして,朝鮮民主主義人民共和国との国交正常化交渉を開始したところであり,いずれ,第四回会談が開催される予定であります。日本としては,引き続き,朝鮮半島の平和と安定に資するような形で,誠意を持って交渉を進めてまいります。この点,朝鮮民主主義人民共和国が国際原子力機関(IAEA)との保障措置協定締結問題について,最近,署名の意向を明らかにし,同協定の案文に合意したことは,一歩前進であると評価しており,今後,同協定が速やかに履行されることを強く期待しております。

ここで私は,わが国も大きな関心を有している香港問題について一言申し上げたいと思います。香港の中国移管も指呼の間に迫ってきました。一九九七年以降も,中英共同宣言と基本法に基づいて,香港が現在の経済的自由を享受しながら繁栄を続けることが,中国の近代化努力にとってのみならず,アジア・太平洋の繁栄にとっても不可欠であります。そのためには,基本的には中英両国が十分に必要な諸準備を行い,円滑な移行を確保するために尽力することが肝要であり,わが国は,中英両国政府の一層の努力を強く期待いたします。この関連で,わが国は,新空港建設問題に関し,中英両国政府の間で合意が設立したことを歓迎しており,いずれメージャー首相の訪中を経て,両国の努力が加速され移行への準備が順調に進むものと期待しております。わが国としても香港の永続的な繁栄を確保するために必要な努力を今後更に強化してまいります。

ここ一,二年の間に,世界は,欧州における東西関係の根本的変化と湾岸危機という重大な歴史的変動を経験しました。こうした中で,私たちはそれぞれの経験を総括しつつありますが,世界の平和と繁栄を永続させるために,いかなる世界の秩序を作り上げるべきかという厳粛な課題に直面しております。

私は,新しい国際秩序を構想するに際して,考慮しなければならない重要な点は,およそ次の通りだと考えます。

第一は,強靭性という観点から一国の国力を考えるとき,それを支える要素として経済及び科学技術の発展が重要になったということであります。経済と科学技術の発展を通じて国民の生活水準の向上と社会の安定が可能であり,それが不可能な体制は変わらざるをえなくなったからであります。第二に,軍事力の持つ影響力が相対的に低下し,軍事力だけではもはや世界の流れに大きな影響を及ぼすことができなくなったという変化があります。以上の結果,第三に,世界の主要国間の力関係に変化が生じ,世界は明らかに二極構造から多極構造に変わってきました。そして,第四に,東西の対立が解消した後,民族問題と宗教問題という長い人類の歴史の中で対立の根源となってきた古い問題が再び頭をもたげてきたということであります。

これらの変化は,これまで世界の各国がとってきた安全保障戦略や政治体制に否応ない見直しを迫るものとなっており,世界はそれらを踏まえて,新しい国際秩序の構築に向けて現在の不確実さと不安定さを克服するための共通の努力を開始しております。わが国り憲法は,日本は,「平和を維持し,専制と隷従,圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において名誉ある地位を占めたい」と述べております。このような考え方からしても,また,その経済力の然らしめる世界の将来に対する責任からも,私たち日本国民はこのような共通の努力に積極的に参加する道を選択することを決意しております。私は,かつて,わが国が平和な国際環境の中で今日の繁栄を築きあげることができたのは何故かという原点に立ち帰って,わが国として,新しい国際秩序の基本となる五つの理念を明らかにいたしました。我々の求める新しい国際秩序とは,平和と安全が保障され,自由と民主主義が尊重され,開放的な市場経済体制の下,世界の繁栄が確保されるような秩序であり,それは更に,人間らしい生活のできる環境が確保され,対話と協調を基調とする安定的な国際関係が確立されることを目指すものであります。

近年,わが国の国際的地位の向上を背景に,国際平和の維持,確保のために,わが国が国際社会で果たすべき責任はますます大きなものになってきております。今回,湾岸危機を契機として,わが国が強化しようとしている世界の平和と繁栄のための努力は,正にこのような考え方の延長線上にあり,わが国に対してより大きな貢献を求める国際社会の期待の増大に応えようとするものであります。わが国としては,世界平和のために資金,物質面のみならず,人的側面においても積極的役割を果たしていくべきであるとの考え方に立って,国連選挙監視団への要員の派遣,ペルシャ湾の環境汚染,クルド人を中心とする避難民救済,バングラデシュのサイクロン災害等への国際緊急救助隊の派遣,ペルシャ湾への掃海艇の派遣等を行い,国際平和協力に関する新たな法案についても鋭意検討を進めているところであります。

我が国は,世界の平和と繁栄を確実な基礎の上にのせるため,今後,このような役割を積極的に果たしていきたいと考えておりますが,他方それは近隣諸国を脅かすような軍事大国への道につながるものでは決してありません。

私は,この点に関連して,つぎの二点を明確に申し述べておきたいと思います。第一は,今日,私たちは,過去の戦争に対する厳しい反省の上に立って,真に平和国家に生まれ変わったということであります。日本国民は,二度と戦争を起こさないと決意しております。平和な国際環境の下で経済をはじめ平和な各種の交流を通じて今日の発展を享受している日本国民が,この認識を変えることは絶対にありません。第二は,わが国は,このような国民レベルの基本認識を踏まえて,節度ある防衛態勢を堅持するということであります。わが国は確固としたシビリアン・コントロールと平和憲法の下,専守防衛に徹するとの基本理念に立っており,例えば,攻撃型空母や長距離戦略爆撃機を保有しないことにするなど実際の兵力構成や兵器体系の整備に当たっても,専守防衛に徹する姿勢をつらぬいております。この日本の姿勢は,今後も変わることがないという決意を明確に申し上げておきたいと存じます。

世界の平和と繁栄の問題についてより大きな役割を担おうとするに当たり,わが国は,中国との友好協力関係を全地球的視野から改めて眺めてみることが大切となってまいりました。換言すれば,今や,世界的広がりの中で,両国関係の新たな位置づけを探索すべき時代に入ったということであります。

そこで私は,二十一世紀を人類にとってより一層住みやすい平和で繁栄した世界にするため,日中両国が何をなすべきかについて,私の見解を申し述べたいと思います。

第一に,平和の確保の問題であります。湾岸危機の例に見られる通り,特に国際秩序が脆弱な地域にあっては,過大な軍事力の集積はその安易な使用への途を開き,いちじるしく地球の平和と安定を損なうおそれがあります。軍事力を使用せずに問題を解決するためには,対立の背景にあるさまざまな問題を解決するための政治的努力を行うと同時に,軍備を管理し,軍縮を実現するための努力を真剣に行っていかなければなりません。日中両国は,先ずアジア・太平洋のみならず広く世界の政治問題の解決のために,それぞれの立場から努力すべきであります。私は,特に国連安全保障理事会常任理事国たる中国が,その地位にふさわしい政治面の役割を果たすこととともに,軍備管理・軍縮問題についても建設的役割を果たしていくことを期待いたします。

この点,日中間の各レベルでの軍備管理・軍縮問題に関する意見交換は,回を重ねるごとに内容が充実してきており,共通の基盤が形成されつつあることは喜ばしい限りであります。特に,昨日,李鵬総理は,私との会談において,中国が核不拡散条約(NPT)に参加することを原則的に決定した旨明らかにされました。私は,中国が核不拡体制の強化という国際社会共通の目標の実現に向けて画期的な一歩を踏み出されたものとして,これを高く評価いたします。このような中国の決定が今回の私の訪問時に示されましたことは,中国の日中関係重視の証左として,また,世界秩序の構築や安全保障の強化の面で世界に貢献する日中協力関係の具体的な例として,誇り得るものと考えます。今回の中国の決定により,他の未締約国のNPT条約締結が促進されるとともに,九五年以降も同条約が長期間延長されることにつながるものと強く期待いたします。

通常兵器の国際移転問題につきましても,中国が先月パリで開催された五か国会合に出席する等積極的な対応をされていることを歓迎いたします。この問題に関し,私は本年五月,国連軍縮京都会議において,通常兵器移転の透明性を促進するため,国連への報告制度の設立を内容とする決議案を来るべき国連総会に提出する旨述べましたが,この考え方はロンドン・サミットの宣言においても確認されるところとなりました。私は,この分野におきましても,安全保障理事会常任理事国である中国の役割は重要であり,日中両国の緊密な協力を強く望むものであります。

第二に,産業の大規模化や国境を越えた経済活動の加速化が進んでいる今日,地球環境問題の重要性は急激に増大しており,この問題に対する国際社会の真剣な努力が強く求められております。中国の場合,その近代化努力の進展に伴いエネルギー使用絶対量の増大傾向が著しく,西暦二〇〇〇年には,全世界の増加量の一割強を占めるようになるとも言われております。したがって,この分野における日中両国間の協力は,開発と環境保護の関係をどのように調和させるかという,地球全体にとって極めて重要な課題に共に取り組むことを意味し,両国の肩にかかった責任はまことにお大きいものがあると言わなければなりません。去る六月,中国政府は北京において,開発途上国の環境・発展問題閣僚会議を開催し,環境問題に対して積極的に取り組む姿勢を明らかにされました。わが国は,このような中国政府の姿勢を高く評価いたします。わが国は,中国が環境問題に対して行う自助努力に対して,すでに日中友好環境保全センターの設立などの協力を行っておりますが,今後とも地球の環境問題を解決するとの観点から,積極的に協力していく方針であることを明らかにしたいと思います。

最後に第三として,世界にとりますます重要となってきている民主と人権の問題について申し上げたいと思います。

私は,政治の要諦は,より多くの人が自らの持つ能力を自由に発揮することができ,幸福である感じることのできる社会を作り上げることにあると考えます。言い換えれば人々がその生活を幸福と感じるであろう物質的,制度的条件を造りだし,国民の総意に従ってこれを絶え間なく改善していくことだと思います。これらの諸条件は,経済の発展段階や歴史的背景の相違によって,あるいは国情や地域の状況差によって,外見的には異なった様子を見せることはあるとしても,国民の多数が求めることを実現する,すなわち,国民の意見を正確に吸い上げ,政治に反映させるという一点では完全に一致するはずだと信じます。

私は,いかなる国にとっても,国民の基本的人権を守り,国民のための政治という原点に立って,政治改革を着実に進めていくことこそ,結局は全世界とのつながりを強化する道であると考えます。

地球は,年々小さくなり,世界は年々,相互依存関係を強めております。この地球に文明の新たな高まりをもたらすためには,世界のすべての国々の積極的な参加が不可欠であります。この中華の地に様々な民族が,国土の多様性の中で,それぞれの文化の長所を活かし合いながら,素晴らしい文明を作り上げているのと同じく,今や全地球を構成するすべての国々がそれぞれの固有の文化を礎にして,新たな国際社会の創造に向けて積極的な参加と貢献を行う時代となりました。かくまで小さくなったこの地球において,日中両国は,何千年前と同様,依然として隣国同士であり,今後も共に手を携えていくべき関係にあります。時代が私たちに課した新しい要請に対して,私たちの世代も祖先がそうしたように英知を振り絞り,渾身の力を傾けて立ち向おうではありませんか。司馬遷は,「断じて敢行すれば,鬼神もこれを避く」と言いました。私たちにその意志がある限り,いかなる困難があろうとも,私たちの挑戦は必ずや成功するものと確信いたします。

ご清聴,有難うございました。