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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 大行天皇崩御に際しての竹下内閣総理大臣の謹話

[場所] 
[年月日] 1989年1月7日
[出典] 竹下内閣総理大臣演説集,56−57頁.
[備考] 
[全文]

 大行天皇崩御の悲報に接し、誠に哀痛の極みであります。御快癒への切なる願いもむなしく、申し上げるべきことばもありません。

 天皇皇后両陛下、皇太后陛下を始め皇族各殿下、御近親の方々のお悲しみはいかばかりかと、お察しするに余りあります。

 大行天皇におかせられましては、御年二十歳で摂政に御就任、御年二十五歳で皇位を御継承になり、その御在位は六十二年の長きにわたらせられました。顧みれば、昭和の時代は、世界的な大恐慌に始まり、悲しむべき大戦の惨禍、混乱と窮乏極まりなき廃墟{きょとルビ}からの復興と真の独立、比類なき経済の成長と国際国家への発展と、正に激動の時代でありました。

 この間、大行天皇には、世界の平和と国民の幸福とをひたすら御祈念され、日々実践躬行{きゅうこうとルビ}してこられました。お心ならずも勃発{勃にぼっとルビ}した先の大戦において、戦禍に苦しむ国民の姿を見るに忍びずとの御決意から、御一身を顧みることなく戦争終結の御英断を下されたのでありますが、このことは、戦後全国各地を御巡幸になり、廃墟{きょとルビ}にあってなす術{すべとルビ}を知らなかった国民を慰め、祖国復興の勇気を奮い立たせて下さったお姿とともに、今なお国民の心に深く刻み込まれております。

 爾来{爾にじとルビ}、我が国は、日本国憲法の下、平和と民主主義の実現を目指し、国民のたゆまぬ努力によって目ざましい発展を遂げ、国際社会において重きをなすに至りました。

 これもひとえに、日本国の象徴であり、国民統合の象徴としてのその御存在があったればこそとの感を一入{ひとしえとルビ}強く抱くものであります。

 大行天皇の仁慈の御心、公平無私かつ真摯誠実{摯にしとルビ}なお姿に接して感銘を受けなかった者はありません。その御聖徳は、永久に語り継がれ、人々の心の中に生き続けるものと確信いたします。

 新陛下におかせられましては、この清き明かき{明にあとルビ}御心を継承しつつ、国民とともに歩む皇室を念願され、既に、これまでも内外各分野において種々お努めいただいているところであります。この度の御即位により、皇室と国民とを結ぶ敬愛と信頼の絆{きずなとルビ}が、益々{ますますとルビ}強く揺るぎないものとなるとともに、諸外国との友好親善も更に深まることを念願してやまない次第であります。

 癒す{癒にいやとルビ}術{すべとルビ}のない悲しみを胸に、ここに、国民とともに、衷心より哀悼の意を表するものであります。