データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 税制改革推進全国会議における中曽根内閣総理大臣の講演,税制改革について訴える

[場所] 
[年月日] 1987年2月10日
[出典] 中曽根演説集,403−420頁.
[備考] 
[全文]

 本日は、お忙しいところをわざわざお集まりをいただきまして、誠に有難うございます。

 きょうは、私、皆さんにこの税制改革に関する私の真情と申しますか、衷情を申し上げまして、是非とも御協力をいただきたく、お願いを申し上げる次第なのでございます。

 新しい税金をつくるという時には、これは別の血液が入ってくるようなことでありますから、全身にアネルギー{前5文字ママ}が起こるということは、当然であります。今度のような大型の、大掛かりな税制改革を行う、そういう場合には、やはりそれ相応の大きな反応が起こるのはあり得べきことであり、それだけに皆様方にもいろいろ御迷惑をおかけしていると思うのであります。

 しかし、よく−−きょうは、ありきたりの御挨拶だけでなくして、自分はなぜこれをやらんとしているか、党はなぜこんなに一生懸命になっているかということを、是非皆さんに御理解願いたいと思って、ありきたりな話でない話を私はしようと思ってきたのであります。

 なぜやるか。

 よくいわれますのは、そんな、火中に栗を拾うようなことをしないほうがええじゃないか。もうそう政権も長いこともないのに……もう円満にやってたほうがええじゃないかと、そういうことをよくいわれる。しかし、今の内外の情勢や自由民主党が戦後の日本の政治や経済の発展にかけてきている、あらゆる段階において、党をあげて闘ってきました。そして、その都度、日本の運命を開いてきておるのであります。

 われわれも内政の問題において、今、そういう問題に差しかかっているんではないか。今、自分の一身や党の安泰ばかり考えていて、そういう歴史的な挑戦を放棄した場合に、果たして自民党としての責任を全うできるか、そういう反省もまた一面においてあるのであります。

 それと同時に、今や、減税をしろという声は、国民全体の声であります。通常議会が毎年一月に開かれるごとに、野党と自民党の領袖の皆さんが苦労しているのは、減税問題をどう処理するか。もう、ここ五年以上にわたって、毎議会毎議会苦労してきて、減税問題を解決しなければ、もうにっちもさっちも動きがとれん。国会対策上からも、そういう段階になっておりますし、経済的に見ましても、国民の、今やもう、圧倒的な声として思い切った大減税を敢行せよという声になってきておるのであります。

 そういう情勢で差し迫ってきたところに、内外の情勢、特に外の情勢が最近は非常に変わってまいりました。と、申しますのは、各国がみんな相当な減税をやって、そして国際経済に備えてきているということであります。

 アメリカは、御存じのようにレーガンの大減税をやりまして、所得税、最高五〇パーセントであったのを、一五パーセントと二八パーセントに下げてしまっている。法人税は四六パーセントであったのを、三四パーセントに下げてしまっているわけです。

 日本が今のような状態で、法人税の実効税率が、約五二・九パーセントといわれておる。あるいは個人の税金にいたしましても、高いところは八八パーセント取られる、住民税まで入れまして。こういう状態を放っておいたら、日本の企業は、本社をアメリカへ移してしまう危険が十分出てまいりました。それは船を見ればわかるんで、税金の安いところへみんな船籍を持っていっております。リベリアであるとか、ギリシアであるとか、毎年、毎年、そういう五二パーセント台というような高い法人税を取られるというような形になったら、必ずや本社を動かしてしまうでしょう。

 これはアメリカだけではない。イギリスもあるいはフランスも、ドイツも、相当な減税を今やろうとしておるわけであります。

 こういう内外の情勢を見ますと、日本経済の将来を開いていくためにも、国民のこの鬱屈した減税の要求におこたえしていくためにも、今やわれわれがやらなければいかんのではないか。そういうふうにしみじみ反省させられまして、安逸をむさぼることは許されないという使命感に、私は圧倒されるのであります。

 しかし、この税制改革というものは、決して増収を目的にやるものじゃない。増税を目的にやるものじゃない。これは議会でもよくいってきたところでありまして、言い換えれば、減税を目的とすると−−言い換えれば、シャウプ税制というのは、昭和二十四、五年に行われましたけれども、それ以来三十七年たっておって、そのころの日本は、一次産業が二六パーセントの生産をもっていた。今は三パーセントであります。三次産業が、あの頃は四〇パーセントぐらいであったのが、今は六〇パーセントであります。こういうふうにして、日本の経済自体も大転換をいたしまして、サービスとかあるいはその他の第三次産業へグングン伸びてきているというこの構造変化、そういうような面から、サラ リーマンが非常に増えまして、今、税金を払っているサラリーマンが、三千六百万です。

 これらのサラリーマンの皆様方の、この重い税金をなんとかしろという声に、今やこたえないというと、これは税のゆがみ、ひずみがあまりにも大き過ぎてきておる。ここで法人税あるいは所得税の税体系を直して、そして正常な形にして、長続きのする形にして、そして二十一世紀に備えよう、それがわれわれの考えておるところなのでございます。したがって増収を目的というよりも、ゆがみ、ひずみを直す、そして将来に、長い間、日本経済が外国経済に負けないような基礎を今つくっていくと、そういうところにあるということを是非お考え願いたいと思うのであります。

 そして、よくいわれますことは、今度は、約四兆五千億円にのぼる減税をやります。所得税、住民税、法人税で。これをやるために、どっかからお金を持ってくるかという相談になりまして、これは野党と自民党と意見の違うところであります。野党のほうは、グリーンカードを復活せよとか、富裕税をやれとか、あるいは不公平税制、もっと思いきって手を入れて、医師課税とか法人税の留保金をもっと出せとか、いろいろな案が出ております。

 自民党は、そういう考え方によらないで、やはり世界の大勢を見て、世界と同じレベルでいけると、そういう面から見ますと、一つは優遇税制の問題があります。利子優遇税制の問題が。外国から常に批判されておりますのは、日本の利子優遇税制で、日本は貯蓄が多くなって、それがお金がどんどん、どんどんたまって、外国との均衡を失しておる。この利子優遇税制というものに手をつけない限り、日本のこの黒字はもっとたまっていくだろう。それでこれをなんとかしなさいというふうに、私も、シュルツさんのそういう意見を直接聞いたこともありますし、外国はみんなそういうことをいってきておる。

 そういう面からすると、国内的にみても、これは一種の不公平税制になっておる。例えばお金持ちの人は、よくいわれているように、相当口数を持って、利子が無税の優遇税制の恩恵を受けておる。大体一家族四人であるとしても、今まで三千六百万くらいまでやれるわけです、優遇税制を。ところが、優遇税制を受けているところの利子がどれくらいあるかといえば、約十三兆円。総預貯金の約七割が優遇税制を受けておる。それでよくいわれておりますように、相当数が匿名を使って、そして不正をしているんではないかという疑いがある。

 社会党の改正案を見ますと、銀行預金そのほかの「悪用分」と書いてある。これで七千数百億円の増収を図っている。ここから引っぱり出すと社会党の案に書いてあります。「郵便貯金の悪用分が二千八百億円」とも書いてありました。ともかく、社会党の案ですらも、そういうふうに不正を認めておるでしょう、「悪用分」と書いてあるんですから。そういうようなところで、十三兆円のものが、この税金がかかっていない。

 ところが、日本の法人課税金額は、対象がいくらであるかといえば、大体二十七兆円に税金がかかってくる。十三兆円は法人の全課税所得の半分にあたるような大きなものです。個人の事業所得を考えれば、八兆円ぐらいです。そういう面を考えると、十三兆という大きな、ここが全然手つかずでこのままいっていいかと。グリーンカードというものをやろうとしてそれで直そうとしたんですが、これはやめたわけです。そういう面からも、ここで手を入れようと。しかしお困りの方は、今まで通り面倒見させていただこうと約千五百万人から二千万人の弱い方々が除外される。

 これによりましても、これはおそらくお金持ちで口数をうんと持っている人が被害を受ける。そういう形になります。今までは無税でいったのが、今度は二〇パーセント全部かかるわけですから。しかし、考えようによっては、もしそういう不正をしている人がいたら、これで全部のぞかれずにすむと。二〇パーセント源泉利子を払うのなら、そのままにしててくれるなら、そっちのほうがええやと、そういう声もあるということを、私は聞いております。

 そういうようなやり方で、ものを正常化していくということが一つです。

 もう一つは、薄く広く、皆さんにお願いをして、そしてできるだけ公平に、薄く広く、税金を負担していただくと。ただし、それが弱い国民が重圧を受けてはいけない。間接税という形になるというと、これが大型になるというと、逆進性が強くなって、そして非常に弱い人に重くなってくる。それを避けよう。そういうようなわけで相当な例外をつくりまして、そして困っている人については、最大限の配慮をした、そういう間接税のやり方にしたわけであります。

 今まで見ますと、物品税がかかっている、酒の税金がかかっている、ガソリン税がかかっている、間接税というのはいくらでもあるわけです。それらを整理する必要がある。自動車が如きは、十八・五パーセントとか、あるいは二三パーセントかかっているのを、今度は五パーセントにしよう。しかしいっぺんに五パーセントにするのはまずいから、中二階をおいて、一一パーセントにしよう。こうすると大型車は、大体十五万円ぐらい税金が安くなる。あるいはカラーテレビにしても写真機にいたしましても、そういうふうに物品税がかかっているものについて、大体五パーセントにほとんど全部しちまう。過渡期的には過源期措置を認める。これで物品税体系のゆがみを直す。よくいわれている通り、パチンコは税金がかかっているが、今あれだけ売れているファミコンにはかかっていないとか、あるいは普通のスキーはかからないけれども、水上スキーにはかかっていると。あるいは桐の箪笥はかからんけど、欅の箪笥はかかっているとか、いろいろそういう不公平があるわけです。そういうものをこの際、みんな公平なものに直していこうと。そういう物品税の改正もかねて、今度は、薄く広くという形に直すと。

 それから売上税。今いった、そういう体系にしながらも、困っている人やその他については十分配慮した体系にしよう。そういう考えでできておるわけであります。

 これでよくいわれますことは、それは、「中曽根は大型間接税、やらないといったじゃないか」といわれることでありますが、私は、国会でその問題の質問がうんと出ました時に、政府として統一見解を出しておる。それは、よくいわれますように、多段階で、普遍的、網羅的、包括的で、縦横十文字に投網をかけたような形で、大型の消費税を取ることはしません。これが定義です。大型間接税という定議は、こういう定義です。そういうふうに政府として統一見解を出しておる。これは矢野書記長にも、大内書記長にも、正式にそういう見解を述べておる。これが私らがいう、この大型間接税という内容なんです。

 ですから、選挙の時にも、私は党員が反対し、あるいは国民が反対するような大型間接税と称するものはやりませんと。そういうことを申し上げた。それが、前からいっているそれが、定義になっているからであります。大型間接税と称するということをいっておるわけです。

 そんなこといったって、国民の一人一人にはよくわからんかよと、そういわれるでしょう。それはその通り。国民の皆さんは、そんな細かいことまでは知っているわけがない。それで、今度、自民党税調におきましては、まず第一に、思い切った例外をうんとつくろう。大型でなくそう。そういうわけで、一億円以下の事業には税金を取らない。納税義務者にしない。これで八七パーセントの事業が例外になる。小売に至っては、九〇パーセント以上がもう対象ではなくなる。大体、デパートとかスーパーは対象になりますけれども、普通の商店街の方々は、おそらく九〇パーセント以上、小売はかからないという形になるんです。

 よく、豆腐屋さんとか八百屋さんが、「ああ、売上税大変だ、俺は反対だ」というけども、「あんた、かからないんですよ。一億円も売ってないでしょう」というと、「あ、そうか。俺んとこはかからないのか」と、そういう方が割合に多い。そういう感情的な、アレルギーでパッと出てきている情勢も、非常に多いんです。ですから、冷静に一つ一つ話していただければ、一つ一つ解決していく。それが拡大されていくという形に、今なりつつあるわけであります。

 それから対象品目を、生活必需品を全部というぐらい−−口に入るものはもう取らない。食物、あるいは飲むもの。そういうものは取らない。あるいは住宅、あるいは薬、医者、あるいは教育の関係、社会福祉の関係、それから一般の交通、輸送、こういうものは取らない。それから住居も取らない。建設関係も、住宅を建てるというような場合。こういうふうにして、思い切ってはずしたために、消費者物価を取る時の項目がありますね。そのうちの六五パーセントというものは、税の対象にならない。消費者物価を取るための、今の各要素の三五パーセントが税の対象になる。そういう形になっておる。

 そういう意味において、その対象の品物にいたしましても、納めるほうの義務者にいたしましても、これだけの思い切った例外をつくったわけです。私は、そういうような例外をよく見定めていただきますならば、大部分の反対論というものは消えていくだろう。あとは技術論になってくる。やり方をどうするかという話になってくるんではないかと、そう思うんです。

 また、売上税については売上高に五パーセントの税がかかると思っておられる。そうではないのです。つまり、仕入れに含まれてきた五パーセントの税を引いて残った分が納める税額なのです。簡単にいえば粗利の五パーセントなのです。

 第二番目の質問は、じゃ増税じゃないかという質問です。これは四兆六千億円の減税をやり、四兆五千億円の増税をやって、プラス・マイナス・ゼロにする。これは私は前から申し上げて、レベニュー・ニュートラルの税制改革をやります。プラス・マイナス・ゼロにいたします。そういう約束をそのままやっておるわけで、全体としては増税ではありませんね。その中で、特にサラリーマン(夫婦子二人)の二、三百万から九百万ぐらいを重点的に減らすということを、意識的にやってもらったんです。今までの税金は、十五段階ありました。今度は六段階に減らしちゃう。しかも、六段階の中でも、二百万から四百万台が一段階で一〇パーセントです。四百万台から八百八十八万までが二段階で、これが一五パーセントです。この二つにしちまった。今までは、二百万からその上の九百万ぐらいまでに、確か四段階か五、六段階くらいあったはずです。ですから、給料が上がると、税金がガサッと入ってくる。累進税率になっているから。それで重税感が絶えない。今度は二つにしちまおうと。そういうわけで、給料は上がっても税率は上がりません。そういう安定感を与える。特に五十を中心にして、前は四十五、後ろは五十五。この年が高等学校へ子供が入るとか、あるいは塾の費用がうんといるとか、そういういちばん苦しんでいる世代ですから、ここを重点的に安くしよう、そういう税制の改革をお願いしたわけです。

 例で申し上げますと、二十五から二十九まで二万七千円減税になる。四十から四十四までは六万一千円。四十五から四十九になると、十万八千円。五十から五十四は、十六万五千円。それから五十五から五十九が、十万六千円。定年過ぎた人は、我慢してもらって、六十から六十四までは三万三千円ですが、六十五を越すと十一万五千円。また、すなわち老後のために、思い切った減税をやる。そういうようなやり方で、五十を中心にして、十万から十六万の減税層をつくり、六十五を越して、また十一万という減税層をつくる。こういうやり方で、夫婦と子供二人の、今いちばん働き盛りの人達に、思い切った減税をやると、そういうふうにこれはつくってあるのであります。

 そういうようなことで、プラス・マイナス・ゼロにはなっているけれども、それらの所得層等を中心にしまして、これは明らかに減税になっておるのであります。細かいことはいろいろ申し上げません。大事なポイントだけを申し上げたいと思うんです。

 特に六十二年度、ことしはどうであるかというと、郵便貯金そのほかの利子課税がつくのは十月一日からで、売上税は来年の一月からです。そこから税金がかかる。それで、所得税や法人税の減税は四月一日からはじまる。だから、法案が通れば、四月一日から、月給袋から、税金は六万とか十万とか、年間数えれば安くなる。そういう形に引かれていくんです。減税先行になります。

 じゃ、その穴をどうして埋めているかというと、本年度分は、約七千億円穴があくわけですから、その分は、賞与引当金に対する課税をやる。それから土地の問題です。土地の問題について、登録税を強化する。それから株がうんと儲かっているから、株について、少し税金を重くする。厳しくする。例えば今は、皆さん御存じのように、一年に二十万株以内、五十回だけ株の売買を同じ人が認められている。これを三十回に減らす。十二万株に減らす。そういうふうな形で、株の取り引き等に対する重課というものは多少出てきている。

 それからただいま申し上げましたような土地、それと賞与金の引当課税、これも三年か四年で、これを税金をいただくというそういう形にして、それで七千数百億円入れて、所得税、法人税の減税を先行させておる。

 これを見ますと、六十二年度に限りましては、減税が先にいきますから、ですから、景気はこれを上昇させる力を持たせるという形になります。そういうようなおもんぱかり{前6文字ママ}を党の税調でやっていただいて、六十二年度については、今のようなことです。これで、だんだん、だんだん加速度がついてまいりますならば、私は六十三年度は景気はかなり上昇する。売上税というのは景気のマイナス要因であると、そういう議論もあります。確かに一部そういう原因も私はあると思います。あると思いますけれども、やっぱり景気というものは、人心の動きとかもののはずみで動いていくわけでありますから、今年の下半期からグーッと出てくれば、来年度というものは、世界的に見ましても、上昇していく。そういう大きなサイクルが大事なんです、サイクルが。そのサイクルにはずみをつけるということが、生きた経済政策であると、そう私達は考えておるわけであります。

 やっぱり一番大事なのは、今いった内需の問題と、為替の安定の問題なんですね。それと失業対策は、ことしのいちばん大きな政策である。そう考えておるわけであります。

 それから金持ち優遇ではないかという議論があります。これは絶対金持ち優遇ではございません。第一、利子課税でいちばん被害を受けるのは、優遇特権を受けている、うんとの口数を持っている人ですからね。これがいちばんガサッとやられるほうでしょう。それで、身体障害者とか母子家庭とかあるいは弱い老人、こういう方々はそのまま認められている、そういう形になります。

 今度のような改革をいたしましても、国際的に見ますと、日本は課税最低限が、つまり、税金を納めなくてもいい限度は、二百五十九万(夫婦子二人)になります。二百五十九万までの収入については、所得税はかからない。これに対して、イギリスはどうであるかというと八十五万からかかる。西独は百四十九万、米国は二百六万、フランスが日本と同じで二百五十九万。ですから日本とフランスというものは、課税最低限を非常に高くしていて、なるたけ課税しないですむという配慮を、今でもしておるわけであります。

 それじゃ、お金持ちの累進課税のほうはどうなっているか。最高税率はどうなっているかというと、日本が六五パーセント、改正して。英国は六〇パーセント、フランスが五八パーセント、西ドイツが五六パーセント、アメリカ三八パーセント。ですから日本はまだ、世界中いちばん重い累進課税の体系になっておるわけです。法人課税にいたしましても、実効税率を見ますというと、いちばん安いのは、英国です。これが三五パーセント、その次は米国で、実効税率になると、地方税を入れて四〇パーセント。その次にフランスが四五パーセント、ドイツが五六・五パーセント。日本が今度は直して四九・九パーセント、約五〇パーセントです。これを見ますというと、法人課税もまだ高いんです。そういう意味において、しかし、今までの五二・九パーセントでしたか、それをここまで、四九パーセント台まで下げる、そういう努力をした。それでもまだ高いんです。こういう情勢を見ますと、決して金持ち優遇という形にはなっていないのであります。細かい数字を申し上げて恐縮でございますが、一つ一つあたってみて、そして自信を持っていただきたいと思うのであります。

 その次は、行政改革をもっとやったらどうか。もっとやって、それでお金を出したらどうか、これはもっともな議論です。ところが、昭和五十八年からことしの予算まで、五回予算を組みましたけれども、もう御存じのように、地方に対する交付金等、それから国債費、これは上がっていく。これを除いた一般歳出経費、これは昭和五十八年から今日まで、三十二兆五千億円から三十二兆六千億円、この間をいっているのであって、むしろことしは、五十八年が三十二兆六千億円であったのが、今度は三十二兆五千億円台になって、減っているんです。つまり、一般歳出経費というものは、伸びないで我慢さしてきているわけです。この間に、人口は増え、そして老人の対策費はうんといる、医療費もどんどん上がってくる、それをおさえている。ベースアップも、毎年、毎年、人事院勧告をのんでいるけれども、余計にお金を予算で特に積んでいるわけじゃない。各省が節約して、それを出さしているわけです。そして、五年間やりました結果、どういう結果になっているかといいますと、大体において、五年間で節約した額が、十兆二千億円です。この十兆二千億円どこから出したというと、補助金の削減が約九千億円です、この間。それからベースアップによるものが一兆円です。一兆円我慢さして、各省の節約でやってきているわけです。

 それから食管の経費が、九千億円から五千億台に減らしている、これもカットしている。そういうような努力をして、この間には、健康保険の改正をやる、年金の改正をやる、あるいは老人保健{前2文字ママ}の改正をやる、あるいはさらに、生活保護費についても、分担割合をかえる。そういうような制度の改革をギリギリ、ギリギリやってきたわけです。その結果、食管会計に至りましても、売買格差というようなものは、七・二パーセントから〇・四パーセントに下がってきている、売買格差が。それぐらい農林省の皆さんも努力していただいて、約四千億円というものをカットしてきておる。

 こういうふうにして、その上、人間をどれぐらい純減したかというと、二万九十人です、五十八年から今年度まで。二万九十人のネットの純減を公務員についてやってきておるのであります。

 これはギリギリの努力です。これ以上、まだやるべきものはあるかもしれません。しかし、これ以上やっても、そう大きな金額はもう出ない。もう五年もこれだけ我慢さしたら。ですから例えば、防衛庁見れば、グリーン車に乗れる陸の将官というのは二十人くらいしかいないという話です。あるいは各省の課長以下が外国出張する時には、航空運賃を節約するために、団体旅行券を買っていく、そういう努力まで、今各省もしてきておるわけです。そういうことを見ますと、行政改革によってこれだけ締めてきたら、あまりもう期待はできない。そういうところにきておるのであります。

 そういうようないろんな結果を見まして、やはり今のような考え方で、これだけの大きな時代にあたって、われわれが国民の欲している減税を断行しようと思ったら、今のような配慮をもって、弱い人達をおもんばかりながら、新しい税の体系に入っていかざるを得ない、そのように考えるのであります。

 しからば、野党の皆さんがなにをいっているか考えてみますと、私も詳細に調べてみた、野党のパンフレットや本を読んでみて、そうしますと、重大な二つの問題が入っておる。野党も、大体四兆五千億か五兆円の減税をやろうといっておる。ところが、その財源をなんで得るかというと、見逃すことができない二つのものがある。社会党の案を見るというと、一つは富裕税であり、もう一つはグリーンカードなんです。しかし、グリーンカードというのは、あの法律を通しても、これでやったら中小企業はみんなのぞかれちゃうと。そしてこれは背番号制で、国家統制力のもとになる、というのでやめたわけでしょう。もしグリーンカードのようなものを強行してやったならば、みつかったものは三五パーセントの源泉徴収、さらには総合課税にもっていかれる。そういう形ならば、これは春日一幸君がいちばん強くいっているところですが、これが土地に流れ、外国に流れ、あるいはモノに流れていくという危険が出てくる。そういうところで、グリーンカード制はやめようというので、やめたばかり。それをまた復活しようというんですから、これはおそらく中小企業者をはじめ、国民の皆さんは反対でしょう。

 今度は、税額について控除を売上税ですることにしました。それについて、整理番号がいる。そういう意味で、整理番号をつけようとしても、これは国民背番号だという声が一部に出ました。これはそんなものじゃない。全部につけるんじゃない。関係者の会社の整理番号をつけるというだけであります。

 そういうようなところから見ましても、グリーンカード制というものは、公明党も、これを復活しようとしているわけです。

 もう一つは富裕税です。社会党の案によりますというと、三億円以上の土地、建物、財産について、一パーセントから三パーセントの累進税を取ろうというんです。ただし、百坪以内の住宅地は別だと。しかしこれをやるというと、もう横山町から御徒町、渋谷から、東京都内の、相当なとこの商店は、地価が高いから三億円以上になる。これを毎年毎年取られるんですからね。減税の財源で埋めるんだから、減税やっている間は、その税金は消えるはずはない。こんな富裕税を取られて、商売やれるか。儲けにかけようというのじゃないですよ。そこに住んでいる、財産を持っているというので、一種の財産税ですよ、利益がなくとも毎年取られる。こういうものを、そのまま毎年毎年取るような形で、はたして中小企業がやっていけるだろうか。おそらく、大都会の名だたる街の商店街は、軒並みこれに引っかかるんだろうと、今思います。こんなおそろしい税金が、社会党の案に入っておる。売上税とどっちがいいだろうか、今のような配慮をした。これを比べていただきたい。

 それから民社党は富裕税を取ろう。民社党の場合は、一億円から取ろうという。これももっとひどいですね、社会党案よりも。そういうところを考えてみると、じゃ、比較してみてください。野党と一緒になって売上税に反対していらっしゃる方がおられるが、それも結構だけれども、じゃ一緒になってやっているのができれら{前4文字ママ}、なにができますかといえば、あんた方がもっと嫌うものが出てくるじゃないですか。そういうことを是非説得していただきたいと、そう思っておるのであります。

これから、地方選挙がありますから、この地方選挙その他のやり方その他については、党も最大関心を持ちまして、注意深くやっていくつもりです。地方選挙をおやりになる皆さんの妨害にならんように、むしろプラスになるように、いろいろわれわれは議会その他においても言動していくつもりであります。絶対、落選させない。そういうつもりで、われわれは責任を持ってやっていくつもりです。まあ、そのためには、まず第一に、いちばん大事なことは、予算を通すことです。予算を成立させて、景気を回復させなければいかんということです。これが暫定予算にでも、もし万一なったらどうなるかといえば、暫定予算には、原則として公共事業費は入らないでしょう。ごく必要最小限の維持だけが入るだけですよ、運営費だけが、公共事業費は入らない。それじゃその間、公共事業は途切れちまうじゃないですか。だから契約ができない。われわれは、予算が通ったら、総合的な景気政策を、また、もう一回打ち出そうと思っている。当然、下期の公共事業を前に繰り上げるということが出てくるでしょう。今までみんな繰り上げてきているんですから、ことしだって繰り上げなければ、間があいちまう。そういうことも考えて、総合政策をいろんな面でやろうとしておるわけです。

 それにはやっぱりなんといっても、予算を早く成立させるということが、景気回復の最大のポイントになるのであります。ですから、われわれは、どんなことがあっても、今の予算を早く成立させなければならない。その上に立って、今年の経済全般を、この予算の基礎の上に立って、どう運営していくかという方策をつくって、皆さん方と一緒になって景気回復に邁進したいと、そう考えておるところなのでございます。

 いろいろ申し上げましたけれども、ここで皆さんに特にお願い申し上げたいのは、私は、内閣総理大臣にしていただき、自民党総裁にしていただきまして、不束な私に対しまして、党員の皆さんが、本当に献身的に御協力していただきまして、心から御礼を申し上げる次第です。その中曽根が、こういうような皆さんの嫌がると思われるような税の改革に入ってきたということは、今の状況を見まして、一部の党員の皆さんには申し訳ないと思うのであります。

 しかし、つらつら考えてみますというと、政治家や政党というものには、時代の流れの中の宿命を背負ってきておるんです。その宿命に甘んじて、挑戦する時には挑戦しなければならんのが、政治家の運命だと私は考えておる。

 古い話では、小村寿太郎が、日露戦争の時に、あの必死の談判をやって、日露戦争の後始末をしてきたけれども、国民はそれに不満だというので、焼討ちをもって報いた。暴動をもって報いた例があります。その時に、あの時の元老、重臣は、小村に危害が及ばないように、新橋の駅で、みんなで取り巻いて帰ったといわれておる。

 戦後においても、吉田首相は、アメリカとの平和条約、これをやる時に、アメリカその他その部分条約だ、全面講和でなければ戦争になるというので大反対が起きた。これは今時の反対ではないです。あの頃は、そういう大反対の中にも、吉田さんは、今ここでこの内閣がやらなければ日本の運命は開かれんというので、吉田さんは必死の願いを込めておやりになった。安保条約が如きは、自分一人でサインしてきているんです、ほかの全権は入れないで。

 岸さんだって同じです。その安保条約を延長する時には、あれだけの安保騒動が起こった。しかし、あれで頑張っていただいたために、あの安保の改正後、日本の国連がこれだけ開けたんじゃないですか。アメリカとの関係もうまくいって。

 だから、戦後のわれわれの先輩のあり方を見ても、歴史的な宿命を背負ってきておる。前のお二人、私は尊敬してやみません。これはしかし外交問題です。今度はじめて内政問題で、今のように、この時にやらなければどうなるかという立場にきたんです。だから、これは私なんかどうなってもいいんです。しかし国家のほうが大事です。われわれの国民が大事なのであります。

 そういう信念に立って、あえて火中の栗を拾っても、これはやらせてください。私らも、本当に身命を賭して、この税制改革を軌道に乗せて、今の政治家としての責任を果たしたいのであります。このことを衷心からお願い申し上げまして、御挨拶を終わります。どうぞよろしくお願いいたします。

<質問に答えて>

 売上税については、できるだけ簡素化しろと。いちばん中小企業の皆さんがおそれているのは、会社の経営や商店の経営、中をのぞきこまれることがいちばんこわいんだと。実際、私の家が商人ですから、そういうことはよくわかるんです。ですから、大蔵省に対しましても、そのへんはよく考えろと。そして公正公平に行われればいいんだから、大体人間を信用して、そうしてできるだけ簡単なやり方を取りなさいと、そういうことをいいまして、そのためにあまり税務署の人が増えるとよくないと。大体、行政改革の理想にも反するというわけで、大蔵省に対しましては増員を認めないということを厳命いたしまして、それで国鉄から大蔵省も引き受けることになっておるんです。その国鉄から引き受ける分の六百人だけは認めた。それ以上は認めないんだ。こういうような税金をやるについて、ある国では、一万人増やしたとか、二万人増やしたとか、いろいろ噂がありますけれども、わが国に関する限りは、これは納税者を信用してやると、そういう制限でやろうと。

 ですから、特別の書類やなにかつくらんでもええ。納品書でも領収書でも、みんなそれで代用してもらって、それも税務署へもっていく必要はない、自分の家へ置いておけばよろしい。そういうような形で国鉄からくる六百人だけで、もうそれ以上は増やさない。

 あとは、物品税をやっている人をこっちへ向けるとか、あるいはほかの局にいっている人をこっちに向けるとか、そういうことでやれと。そういうふうにこっちの上のほうからもおさえつけておるわけであります。

 そのほか、政省令の問題。

 これは、私はきのうは、新聞記者の質問がありましたから、お答えしましたけれども、とにかく国会を開いて、そして野党の皆さんの声、あるいは国民や業界の皆さんの声をよく聞いて、国会の議論によく反映さしてもらって、そしてこの法律は、これはかえるわけにはいかん。なぜかといえば、予算の中に、これだけ組み込まれておるわけですから、法律を直すということになれば、予算を撤回しなければならん。そんなことはできません。したがって、早く予算を成立させ、そうして法律もやって、そしてこれを実行する上について、いろんな問題やなにかがある。問題は実行する上の問題が多いんです、商店やなにかにしてみれば。その問題は、政令とか省令とか大蔵省の達しとか、そういう問題だから、それは十分考えて、そして最終的に党と相談をして納得のいくようにやりましょうと、そういうことを申し上げておるのでございます。

 そのほか、PRの問題その他の問題について、おっしゃる通りでありまして、なにしろ去年の十二月に予算をつくり、そしてこの要綱を決めたわけです。それから法律づくりがはじまる。これは法制局、一睡もしないぐらい正月も返上してやってくれたわけでございます。

 それで、なかなか手が回らなかった面があります。しかし、もう法律が出ましたから、大蔵省もあるいは法制局もわれわれも、手がだんだんあいてきたから、まあ、これからです。われわれが本当に逆攻勢に出るのは。

 これだけの大法案というものは、ある程度時間が要りますね。そうすると、今までの国会の−−これは、皆さん方、国会対策あるいは議運の仕事をおやりになっていることはわかるでしょうけど、これだけの大法案がかかってから終わるまでに、どれぐらい、どういう形で流れていくか、ぼんの先も見ておる。そうすると、まず、初盤、中盤、終盤とあるわけです、碁と同じようなわけで。初盤は、こっちは宣伝戦で負けましたね。こっちはそれだけ忙しかったから手が回らなかった点もあるんです。しかし、われわれが誠意を込めて、そして、一つ一つ関係業界に説得していけば、私は必ず理解が得られると確信しております。なぜなら、内容はそんな悪いんじゃないんですから。恐怖心が先に立っている。感情的な反対が非常に多いんですから。われわれが本当に誠意を込めて、これはこうです、これはこうです。このためにこうやっているんです。あなた方に悪いようにするはずないじゃないですか。あなた方の御世話でわれわれは当選してきたんじゃないですか。そういうことで誠意を込めてやれば、必ずこの期間の間に、私は説明できるし、理解してもらえると、確信しておる。

 緒戦は、宣伝戦は大負けですけれども、これからモリモリやりますからね、ひとつ、よろしくお願いいたします。