データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ロペス・ポルティーリョ・メキシコ大統領夫妻主催晩餐会における大平正芳内閣総理大臣スピーチ

[場所] メキシコ市
[年月日] 1980年5月2日
[出典] 外交青書25号,371ー373頁.
[備考] 
[全文]

 エクセレンティシモ・セニョール・プレシデンテ・ポルティーリョ及び令夫人御列席のみなさま

 ただいまは貴大統領閣下より心温まる歓迎の御言葉をいただき,感謝にたえません。

 このたび私は,貴大統領閣下の御招待により,活力あふれる太陽の国,メキシコを訪問して,貴国首脳と親しく率直な意見交換を行う機会をあたえられました。

ロペス・ポルティーリョ大統領閣下

 5年ぶりに貴国を訪れて,私が最も感銘いたしましたことは,町行く人々の顔が明るく,活気と喜びに満ちていることであります。また貴国がめざましい発展の息吹にあふれていることであります。世界の各国が諸々の困難な制約をかかえ呻吟しているとき,貴国はよくこれを克服し,すぐれた成長と社会の安定をつづけておられます。私は,これは貴大統領の英邁な御指導と貴国民のすぐれた活力と結束の賜物であると信ずるものであります。

 さらに貴大統領は,現在世界の最も緊急かつ重大な課題となっているエネルギー問題の解決について,極めて示唆に富む見解を明らかにされました。わが国としても,この世界エネルギー計画をもととして,エネルギー問題の解決策を追求することに心からの賛意を表明いたした次第であります。

 このように貴国は,その総合開発計画に基づく自らの前進を記録しつつ,国際社会の中で新しい地歩を築かれつつあります。このたび貴国を訪問し,その発展ぶりを目のあたりに見て,私は,貴大統領閣下をはじめ貴国民が,新時代を創造しようとされている熱意を痛いほど強く感じるものであります。みなさまの努力は必ず豊かな実りを結ぶことと確信いたします。

ロペス・ポルティーリョ大統領閣下

 思うに,日本,メキシコの両国は,言語・文化・歴史・伝統において,大きい違いがあるとはいえ,ともに,その基盤をなす固有の文明の上に,西洋文化をとり入れ近代国家として成長し,現代の国際社会に意義ある貢献を行うべく努力しつつある国家であります。また,両国は,国際関係においては,平和に徹し,いかなる紛争の解決も平和的手段で解決することを国是とする点で共通しております。

 このような両国間の共通性は,両国間に友好的で実り多い協力を可能としてきました。両国は,単に二国間の関係においてのみならず国連等多国間の場においても,友好の関係を促進してまいりました。

 そして,1978年秋,貴大統領閣下はわが国を訪問され,「日本とメキシコはそれぞれが持てる力をもって相手方の繁栄に貢献しうるという意味において相互補完関係にあり,これを基盤として両国は総合的かつ実り多い関係を探究すべきである」と強調されました。日本とメキシコの関係は,これを契機として,より幅広い分野で飛躍的な発展をとげることを約束されたものであります。

 すなわち,5年前に比べて,両国間の貿易量は2倍以上に増え,投資も増加の傾向を示しております。また本年度から,メキシコ原油がはじめてわが国に供給される運びとなりました。この場を借りて改めて貴大統領閣下の御英断に深甚な謝意を表明いたしたいと存じます。

 メキシコの経済開発に対する日本の協力も進展してきました。特にラサロ・カルデナスの三大鉄鋼プロジェクトは貴国の基幹産業開発という重要な役割を担っております。これらのプロジェクトに対し,わが国は最も誠実に協力することをここに明らかにしたいと思います。

 さらに,貴国が重視されている工業港プロジェクト,鉄道電化プロジェクト等に対しても今後いかなる協力をなし得るか検討してまいる所存であります。これらの開発にあたって,貴国は従来の中央高原部集中から太平洋岸をも含む臨海地帯の開発にも意を用いておられると聞いております。太平洋岸の開発が進められていくことはわが国をはじめアジア諸国との関係を強化していくという姿勢の表われであると,心強く思う次第であります。

 わが国としましては,長期的視野に立って今後とも両国間の各種分野での協力関係を育てあげていきたいと願っております。

ロペス・ポルティーリョ大統領閣下

 日本とメキシコの関係は,このように大きく発展し,これに伴って,両国間の交流も深まってまいりました。国と国との真の友好関係は,国民間の相互理解によって支えられるものであります。日本,メキシコ両国民相互間の交流は,近年急速に進展して参りましたが,まだまだこれで満足しうる状態であるとは申せません。日本国民はより深くメキシコを知らねばなりませんし,また,メキシコ国民にもより一層日本を理解してもらいたいと思います。

 このような観点から私は両国民間の交流をより一層推進するよう努力することを約束したいと思います。

 更に,私は,両国間の文化の交流を特に重視したいと思います。つい2週間前,貴大統領閣下令夫人自らメキシコ市の管弦楽団を率いて訪日され,東京,大阪,名古屋において開かれた演奏会は日本国民から絶賛を博しました。私は貴国がいかに文化交流に情熱を注がれているかを知り,深く感動いたしました。これを機に,両国間の文化交流がより本格的に前進することを,私は心から願っております。

 私といたしましては,貴国訪問の機会に,両国国民間の相互理解,友好関係のなお一層の増進を祈念して両国間の芸術・学術等文化面における交流を促進するためのメキシコ側官民の企画を助成する目的をもって「日墨友好基金」を設立することを提案いたします。そして,その設立のためわが国より資金の拠出を行う方針であることをここに明らかにいたしたいと思います。私は,この基金が効果的な成果を挙げるために十分活用されるよう期待してやみません。

ロペス・ポルティーリョ大統領閣下

 メキシコ沿岸を洗う海流は,赤道地帯を西へむかい,黒潮となってわが国の岸辺に打ち寄せ,再び貴国の岸辺に還流して行きます。私は,この太平洋の海流の循環を思うとき,一つの運命的な必然を感ぜざるをえません。

 すなわち,太古から,この海流は,人を運び,物を運び,知識や文化を運びました。

 そして今日,この大洋は,再び両民族を結ぶ絆として益々重要性を増しつつあります。この大洋の両端において日本とメキシコという二つの国が新しい時代を迎えようとしています。

 メキシコと日本は共に活力あふれる可能性の国であります。太平洋もまた,多くの可能性を秘めた海域であります。両国がその可能性を結び合わせれば,必ずや太平洋全域,ひいては世界の,平和と繁栄に大きく資するでありましょう。

 日墨新時代,21世紀にむけて,これを豊かに実りあるものに構築することは,われわれに課された重大な責務であります。この責務を果たすため,私は及ぶ限りの努力を惜しまないことを,ここに誓います。

セニョーラス・イ・セニョーレス

 私は皆様とともにメキシコ合衆国の繁栄と,ホセ・ロペス・ポルティーリョ大統領閣下および令夫人の御多幸及び日墨新時代の確立を祈念して杯をあげたいと思います。