データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] MDGsフォローアップ会合開会式における松本外務大臣発言

[場所] 東京
[年月日] 2011年6月2日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

1 冒頭

 本日は,ミレニアム開発目標(MDGs)フォローアップ会合に出席するため,世界各国からお集まりいただいたことに,心からお礼申し上げます。

 また,東日本大震災以来,160近い国や地域,40以上の国際機関,そして企業やNGOを始めとする市民社会から,多大な支援の申し出をいただいたことに対し,改めて深く感謝申し上げます。

 今回,予定どおり本会合を開催することにしたのは,国際社会から示された連帯に応えるためにも,日本が引き続き国際社会の平和と安定のために積極的な役割を果たしていくという意思を示したいと考えたからです。

 そして,MDGs達成に向けた「菅コミットメント」を始め,既に表明した国際的コミットメントを誠実に実現させていく決意であることを,まず皆様にお伝えしたいと思います。

 福島第一原子力発電所の事故についても一言申し上げます。この原発事故により,皆様に多大な御心配をおかけしたことは率直にお詫びしなければなりません。政府としては東京電力とともに,今後約半年から9か月かけて,原子炉を計画的に安定させていく方針です。また,原発事故への対応については,国際社会に対して,今後とも最大限の透明性をもって,迅速かつ十分な情報提供を続けていきます。そして,国際社会における原子力安全に関する議論に参画し,主導的な役割を果たしていきたいと思います。

2 MDGs達成への取組

 今回の震災は,戦後最悪の自然災害であり,復興は決して容易ではありません。しかし,世界には,貧困や疾病などにより,同じように困難に直面している人たちがいます。

 私たちは,震災に際して世界中からの支援に支えられ,国際社会における連帯の重要性を痛感しました。だからこそ, MDGs達成のためにも,国際社会の「助け合い」の精神が不可欠であることを強調したいと思います。

 そして,2015年までのMDGs達成に必要なのは,この連帯の気持ちを具体的な成果に繋げるための指針や効果的な手法です。

3 人間の安全保障を重視した社会づくり

 私は,貧困や疾病,自然災害といった試練を克服するためには,人に優しく,同時に力強い社会をつくることが不可欠であると考えます。

 被災地でもっとも深刻な影響を受けたのは,子どもや高齢者などです。未だに多くの子どもたちが避難所で不自由な生活を余議なくされています。また,病院が被災したことにより,高齢者の医療にも支障が生じました。震災後の復旧は進みつつありますが,このような社会的に弱い立場にある人達が救われない限り,真の復興はあり得ません。

 これは,MDGsについても同様です。全体としてMDGsが達成されたとしても,弱い人たちが取り残されるような社会は,安定し得ません。持続可能な形でMDGsを達成するためには,格差を是正し,弱い人たちに配慮した「優しい社会」をつくることが必要です。

 同時に,自然災害にも負けない,強靱な社会を築くことも重要です。被災地では若者たちが率先して高齢者や身体の不自由な方を助け,掃除や食事の準備など,様々なボランティア活動に従事しました。強靱な社会とは,このように,規律や団結力をもって,人々が支え合うことのできる社会ではないでしょうか。

 MDGsを達成するためにも,このような強靱で「力強い社会」が不可欠です。そのためには,人々の能力強化を通じて,社会の自助能力を高めることが重要です。

 人に優しく,同時に力強い社会を実現する鍵は,人間の安全保障という考え方にあります。人間の安全保障は,人間一人ひとり,特に脆弱な人々に配慮する優しさと,個人やコミュニティの能力強化を通じた強靭さを重視する考え方です。我が国は人間の安全保障の考え方に基づき,優しく,そして力強い社会づくりを支援していきます。

4 真に効果的な手法の共有

 人間の安全保障の考え方をMDGs達成に繋げるためには,国際社会が効果的なアプローチを共有することが必要です。

 このため,日本は昨年のMDGs国連首脳会合において,母子保健分野における「EMBRACE」(エンブレイス),教育分野における「スクール・フォー・オール」という支援モデルを提唱しました。

 「EMBRACE」(エンブレイス)は,妊産婦の定期健診や,適切な病院での新生児の手当て,病院へのアクセス改善,ワクチン接種など,産前から産後までの切れ目のない手当てを確保するものです。MDGs達成に貢献するため,現在ガーナにおいて,その成果を実証するための実施研究を検討しています。

 一方の「スクール・フォー・オール」は,学校・コミュニティ・行政が一体となり,教師の質,学校運営,女子や障害児への取組など,包括的な学習環境の改善を目指すものです。既にセネガルにおいて,住民参加型の学校運営改善プロジェクトを実施するなど,具体的な成果が上がっています。

 途上国がこうしたモデルを導入し,国際社会が一体となり,理想的な母子保健や教育支援に取り組むことを,改めて呼びかけたいと思います。

 これらの取組に加え,改めて喫緊の課題となっている食料安全保障に関し,バリューチェーン・アプローチの有用性を強調いたします。農産物の生産段階のみならず,貯蔵・加工・流通段階までの過程を包括的に捉える手法を通じて,日本は食料安全保障の確保に貢献していきます。

5 幅広いステーク・ホルダーとの連携

 しかし,伝統的なドナー国の力だけでは,MDGsを達成することはできません。途上国自身の取組は言うまでもなく,高い経済成長を遂げている新興国各国の役割は非常に重要です。

 また,企業や市民社会の知見を活用することも不可欠です。政府としては,MDGs達成に向けた官民連携を推進したいと考えており,そのための新たな枠組みを立ち上げます。

 本日は,国際機関,新興国や企業,市民社会の代表にも出席いただいております。幅広い関係者の間で,有意義な意見交換が行われ,MDGs達成に向けた有益な示唆が得られることを願いつつ,私の挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。