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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] UNHCReセンター設立10周年記念シンポジウム 〜「アジア太平洋地域における緊急事態への備えと対応の強化に向けて」〜 岡田外務大臣による開会の辞

[場所] 国連大学
[年月日] 2010年6月10日
[出典] 外務省
[備考] 香川中東アフリカ局参事官代読
[全文]

 本日は,外務省及びUNHCRが主催し,JICAが御後援のシンポジウムに御参加いただき,誠にありがとうございます。ホームズ人道問題担当国連事務次長,緒方JICA理事長をはじめ,国際機関,NGO,メディア,政府関係者等,この分野での経験豊富な方々に多数お集まりいただきましたことに,心より感謝いたします。

(eセンター設立10周年への祝意)

 eセンター(国際人道援助緊急事態対応訓練地域センター)は,2000年8月に,国連の人間の安全保障基金を通じた我が国の支援により,UNHCR駐日事務所内に設立されました。世界各地で増加の一途をたどっている紛争や災害による緊急事態に対し,より効率的・効果的に人道支援を行うため,eセンターは設立以来緊急事態対応の訓練を提供し,極めて高く評価されてきました。その結果,活動期間は設立当初に予定されていた2年半を大幅に超え,また,我が国も支援を継続した他,豪州も支援を開始し,本年,設立10周年を迎えるに至りました。心より祝意を表します。

(eセンターへの評価と我が国の支援)

 eセンターは,アジア太平洋地域を中心に,人道支援従事者に対し安全管理・危機管理に関する基礎知識と実践的な訓練を提供するとともに,関係者のネットワーク構築に大きく寄与しています。テロ等の危険が存在する国で勤務する外務省職員も毎年訓練を受けさせていただいています。また,JICAやNGO関係者等現場で活躍する皆様も危険地で活動する上で不可欠な知識・経験を学んでおり,eセンターの取組が我が国の人道支援活動の能力を強化したといっても過言ではありません。皆様ご存じのとおり,我が国の経済は厳しい状況にあります。しかし,eセンターが果たしてきた有益な役割を認識し,今後とも可能な限りの支援を行ってまいりたいと考えています。

(アジア太平洋地域の特徴と我が国の対応)

 私は三月にハイチを訪問し,その被害の大きさと被災者の苦悩を目の当たりにすると同時に,被災地における迅速な人道支援活動の重要性を改めて強く認識しました。本年は,チリや中国青海省における大地震等,その他にも多数の自然災害が発生しております。アジア太平洋地域は,世界でも最も自然災害の多い地域です。1978年から2007年の約30年間で,世界の災害被災者の約89%,災害死者数の約59%をアジアが占めています。さらに,アジア太平洋地域は,アフガニスタン,パキスタン,スリランカ,東ティモール等,治安情勢が不安定で,かつ,人道支援を必要とする国を多数抱えております。我が国は,アジアの一員として,こういった国々への支援にも一層努力してまいります。

(緊急事態への国際社会としての対応)

 緊急事態において迅速かつ効果的な支援を行うためには,国際社会による協調が不可欠です。この点,本日御参加のホームズ国連事務次長率いるOCHA(国連人道問題調整部)は,国連人道支援活動の調整を行い,国際社会の人道支援の根幹を成す大変重要な役割を果たしています。このような調整によって,難民,国内避難民,そして被災者に,少しでも早く必要な支援が届けられるよう,OCHAには一層の役割を期待しています。

(MDGs関連国連首脳会合)

 本年9月には,MDGs関連国連首脳会合が開催されます。MDGs達成年である2015年まで残された期間はわずかです。幅広い国際世論がこの点を明確に認識し,国際社会全体が目標達成への政治的意思を共有する必要があります。人道問題の発生・拡大はMDGs達成に向けた成果を逆行させかねず,この観点からも人道危機への迅速な対応が不可欠です。

(人間の安全保障)

 我が国は,自然災害や感染症,難民問題等の地球規模の課題に効果的に対処するための概念として,人間の安全保障の推進に努めています。国連においても,OCHAの下に設置されている人間の安全保障ユニットが中心となって,ホームズ国連事務次長の御指導のもと,国連の場における概念普及や人間の安全保障基金を通じた支援を行っています。

 本年は,4月に人間の安全保障に関する国連事務総長報告が発表され,5月には人間の安全保障に関する公式討論が国連総会で初めて開催されるなど,国際社会における人間の安全保障の普及が大きく進展しました。今後も我が国は,OCHAと共に人間の安全保障の推進に努めてまいります。

(人道スペースの縮小)

 近年,いわゆる「人道スペースの縮小」が人道支援関係者にとって大きな問題となっております。人々の苦痛を和らげ,命を救うという人道支援の必要性に迫られる一方で,人道支援要員の安全も確保されなければなりません。これは,大変大きなジレンマであり,それぞれの国,状況に応じて適切な判断と対応を行うことが求められます。アジア太平洋地域が直面しているのも,まさにこの問題であり,その意味でも,アジア太平洋地域に焦点を当て開催されます本シンポジウムは,時宜を得たものと言えます。

(結び)

 最後に,講演者及びパネリストの皆様と御列席の皆様により,忌憚のない活発な議論が行われることを期待します。その成果が,本日のシンポジウムのタイトルでもあります「アジア太平洋地域における緊急事態への備えと対応の強化」につながることを祈念し,私の挨拶とさせていただきます。

※香川中東アフリカ局参事官が代読しました。