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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第3回FEALAC外相会合・全体会合における麻生外務大臣スピーチ

[場所] 
[年月日] 2007年8月22日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

 アモリン外務大臣、ありがとうございます。

 また、ここに地域調整国としての素晴らしい働きをされたブラジルと韓国に感謝の意を表します。

 ご列席の皆様、私は皆様方と共にここにおりますことを大変嬉しく思います。

 私はこの会合に向かう途中、自問しておりました。東アジア・ラテンアメリカフォーラム(FEALAC)とはいかなるものであろうかと。

 私の見方はこうです。FEALACは、いわば大洋にかかる偉大な橋に十分成り得ると。今後、FEALACが我々を更に密に結びつけ、太平洋がまるで池のようになることを思い描くことができます。

 この橋は太平洋の両岸の間で物が頻繁に行き交うハイウェイのようにもなることでしょう。

 既に早速成果が現れております。

 両地域間の貿易額は、1998年に530億ドルであったのが、現在は1830億ドルと3.5倍にも増えました。

 皆様、したがいまして、FEALACは多くの雇用を生みだすこともできるのです。今般ドミニカ共和国の加盟を得て、FEALACは益々強固なものとなるでしょう。

 我が国は、ドミニカ共和国のFEALAC加盟を歓迎します。

 しかし、FEALACのこの初期の成功は、目覚めよと呼ぶ声であったとも私は思うのです。

 なぜなら、我々が一体となれば更に成功を収めることができる、という現実に我々全てが目覚めたからであります。

 現在の東アジアの貿易に占める中南米向けの割合は3%、たった3%しかありません。中南米側から見ますと、これに対応する数値はほんの9.6%です。

 これらの数値は、決して我々の経済を真に反映したものではありません。

 皆様、FEALACが歩むべき道のりは、未だ長いのです。

 今日この日から、東アジアと中南米は、望み得る最良の組み合わせとなり得るということを常に心に留めておきましょう。

 我々が、WIN‐WINの関係にあることは明らかです。東アジアは科学技術に優れておりますが、エネルギーを欲しており、他方、成長を強く望む中南米は、天然資源が極めて豊富です。

 我々の大きな潜在能力を解き放つ鍵は、我々の連結、コネクティビティを強めることだと思います。

 うまく連結さえできれば、FEALAC加盟国が一つのネットワークとして繋がるのです。

 そしてこのネットワーク内においては、一方が成長したときは、いつでも他方はその恩恵を被るのです。いわゆる「ネットワークの外部性」という現象であります。

 更に申し上げるならば、連結の高まったFEALACは、世界全体にとり成長の原動力となり得ます。こう申しますのは、中南米諸国はヨーロッパと既に強い絆を築いている訳ですから、FEALACは両半球を繋ぐことさえできるという訳です。

 さて、ここに中米諸国の役割が重要となってきます。

 中米のそれぞれの国は比較的小さなものですが、この地域において二つの大洋が出会うのです。その連結は、我々皆にとって価値があります。ここで「我々」というのは、全世界のことです。

 両大洋を繋ぐ運河は、水路であれ陸路であれ、これを拡幅しなければなりません。いかなるボトルネックも、港であれ橋であれ道路であれ、拡げなければいけません。

 こうした試みに我々が成功するなら、FEALACのネットワークは更に強固なものとなるでしょう。

 我が国政府は、まさにこのことを青写真として心に留め、エルサルバドルとホンジュラスと共に成すべき仕事をしたのです。

 両国を繋ぐ橋の建設作業は現在進行中です。

 日・中米友好橋が完成すれば、いわゆるドライカナルとパンアメリカンハイウェイ両方の重要な一部を構成することになります。

 我が国政府は、エルサルバドルにおけますラ・ウニオン港の開発支援に誇りをもっています。

 また、私はパナマ運河拡張計画に日本の企業が然るべき役割を果たすことを望んでいます。

 同様に、私はIIRSA、すなわち、南米インフラ統合イニシアティブに大きな関心を有しています。

 IIRSAは東アジアと南米の内陸部を一層密に繋いでくれるでしょう。

 それでは、皆様、FEALACにおいて次に何をするべきかについて、私の提案をお聞きください。

 第一に、FEALACはベストプラクティスを共有する自己学習組織へと進化すべきということです。

 例えば、東アジアにおいて労働力がどう分担されているかということを挙げましょう。東アジアにおける分業は、従来の意味での水平分業や垂直分業ということではありません。

 企業内の、すなわち、製造過程の各段階の間での分業です。

 例えば、パソコン1台を製造するのに、小部品やコンポーネントを多くの国から調達して行う、そういうことです。

 中南米の企業もこうしたやり方から何らかのインスピレーションを得ることができるかもしれません。

 私としては、ECLAC(エクラック;ラテン・アメリカ・カリブ経済委員会)や、ESCAP(エスカップ;アジア太平洋経済社会委員会)といった機関が大きな力となってくれるのではないか、これら機関に、次回外相会議に向けて一つのロードマップの作成をお願いしたいと考えています。すなわち、中南米と東アジアがお互いに何を学ぶべきかを明らかにしてもらうのです。

 第二に、最も重要な連結を強めるために、何ができるかであります。

 最も重要なことの一つに、FEALAC加盟国の企業家の連結を強めることがございます。

 皆様、お国に戻って国民の皆様に太平洋の反対側で仕事のパートナーが得られると話してみてください。顔と顔を向かい合わせることは常に重要です。

 FEALAC加盟国の企業家たちはもっと交流すべきです。

 IDB‐米州開発銀行やADB‐アジア開発銀行は民間部門を取り込んでいくのに最も経験が豊富ですので、我々が何をすべきかについて示唆を与えてくれると思います。

 第三に、我々は我々自身の問題だけではなく、世界の問題やさらに母なる自然について気にかけていかなければなりません。

 FEALACは世界経済の力強い牽引者であることから、WTO交渉や国連改革を強力に推し進めていく重大な責任があります。

 WTO議長が最近発出したガイドラインに基づき、作業が続けられるべきです。

 そして、世界の現実をよりよく反映するため、安保理改革なしに国連改革の完了はありません。

 今、ブラジルの地を踏みながら、私は、我々FEALAC加盟国が皆、母なる自然を大切にしているということを常に意識しています。

 我々は今、気候変動問題に対処するため、京都議定書後の2013年以降の枠組に取り組んでおります。

 熱帯雨林を保護し、清潔な水を守り、温室効果ガスの排出を減らすため、我々は皆、どうやって危機に対処するかについてアイディアを出すことにおいて創造的にならなければなりません。

 FEALACが今後とも知識や経験を集めるのに適した場であり続けるよう望みます。

 日本では、安倍総理が世界の排出量を2050年までに、現在の量から50%削減するという提案を行いました。

 「美しい星50」と名付けられたこのイニシャティブは、全ての、「全ての」というところを強調したい訳ですが、主要な排出国が係わった効果的なものを目指しております。

 開発途上国の多くに、このイニシアティブは追求の価値有りとご理解頂けることを確信しておりますが、同時に彼らが成長も達成しなければならないと考えていることを私は承知しています。日本の提案は両方の目的の追求を可能にするものなのです。

 これら二つの課題に良いバランスを生み出すよう努める国々に対し、我が国政府は当然ながら協力を行う所存です。

 最後に、我が国政府はアルゼンチンと共に、地域調整国として時を無駄にすることなく、次回外相会議の日本開催の準備を進めることを申し述べます。

 私は、FEALACほど勇気づけられる発展を見せているものを他に存じません。

 FEALACをより成功裡なものとするため、また偉大なるFEALAC加盟国の国民がより緊密になるよう、日本とアルゼンチンの両国は懸命に働いていくことをお約束します。

 ご静聴ありがとうございました。