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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 中東和平に関する国際メディア・セミナーにおける麻生外務大臣演説

[場所] 国連大学
[年月日] 2007年6月26日
[出典] 外務省
[備考] 10時20分頃〜
[全文]

 赤阪国連広報担当事務次長、ヒンケル国際連合大学学長、御列席の皆様、

 本日、国連総会決議に則り、日本政府、国連広報局及び国連大学の共催により、イスラエル、パレスチナをはじめ、各国から多くの方々の出席をいただいて、中東和平に関する国際メディア・セミナーを開催できましたことを、私共としては大変うれしく思います。

 また、この機会に、中東和平にご関心のある方々にお集まり頂きましたことに、心より厚く御礼申し上げます。

 パレスチナは、今、大きな困難に直面しております。3月に成立した挙国一致内閣は、ハマスのガザ制圧によって、3ヶ月で瓦解、パレスチナは、今、分裂状況ということになりました。

 パレスチナ人が一致団結して、和平に向けて前進して行かなければならないこの大事なとき、正直、私共にとって大変残念な気持ちでおります。

 パレスチナ人同士の争い・衝突により、ガザ地区の人道状況が悪化していることを、日本としても、大変に憂慮しています。したがって、今回のセミナーに、ガザ地区からの参加予定者であった方々の多くが参加をできなくなったことに関しましても、誠に残念です。

 日本は、西岸とガザが一体となったパレスチナが、イスラエルとの共存共栄を目指していくことを強く望んでおります。

 この観点から、日本は、アッバース大統領の和平に向けた努力を強く支持いたします。また、全ての関係者に対し、更なる事態悪化を回避するために、アッバース大統領の取組に協力するよう強く要請するものであります。我が国は、そのための支援を惜しまないことを、ここに改めて申し上げたいと思います。

 日本としては、アッバース大統領の和平努力を支えるために、先般の日パレスチナ閣僚級政治協議において表明しましたとおり、大統領府を通じた直接支援を検討しています。

 昨25日、エジプトのシャルム・エル・シェイクにおいて、オルメルト・イスラエル首相とアッバース大統領との間で首脳会談が開催され、成果を得たと報告を受けております。我が国は、今後の和平プロセスの進展に強く期待するとともに、両首脳の和平努力を引き続き支援して参ります。

 私は、今年2月に行った政策スピーチ「私の考える中東政策」において、今後の中東政策を進める上での指針を明らかにしております。

 その中でも述べましたが、中東地域は、今、重大な岐路に立っていると思っています。今の危機を乗り越え安定に向かうか、混乱が更なる混乱を呼ぶのか。

 混迷を深める現状を考えれば、政治的安定や治安状況の改善なくして経済的発展も望めないと思います。

 日本としては、中東地域が、中長期的な安定を向えるための一つのチャンス・契機を作り出すものとして、ヨルダン川西岸からヨルダンを経て、湾岸諸国に繋がる、「平和と繁栄の回廊」を作っていきたいと考えております。

 過日、チリの外務大臣と夕食をともにしたときに、チリではパレスチナ系とイスラエル系チリ人の大きなコミュニティが2つあり、双方が大変仲良く、最も力のあるコミュニティが力を合わせてチリの社会発展に貢献している、イスラム教徒とユダヤ教徒がうまくやっている、という話を聞きました。

 この地域における暴力の連鎖の最大の理由は、宗教や民族対立ではなく、「将来に対する絶望」だと思います。チリの例を聞いてそう思う。パレスチナでは国民の約30%かた40%が失業者です。アブ・アムロ外務大臣によれば、50%弱が失業者で、二人に一人は将来に希望が持てないでいます。また、治安を理由に移動が制限されています。将来への希望もなく、職業もなく、若者に限らず自暴自棄に陥りやすい状況があるのです。これはパレスチナに限ったことではありません。

 そこで、日本は、政治や治安の安定を図る上で、経済発展の基礎作りこそが有益だと考えました。日本も60年前、戦争に敗れた直後に同じようなものでした。そして、イスラエル、パレスチナ、ヨルダン、それぞれの代表の方に、日本を含めた四者で協力しようとして、次のような提案をしました。

 イスラエルは、1948年の建国当初、農業団地(キブツ)を作り、そこに共同社会を作って農産物の輸出を始め、国家としての体裁を整えました。同じようなことが、パレスチナでも出来ないはずがないではないか。気候、風土はほぼ同じで、農業は進んだコンピューター技術が要るわけでなく、成功するはずです。

 そこで、パレスチナの人々に対して、日本は、農業生産を支援し、それを加工する農産物加工団地を一緒に建設すると。

 そして、ヨルダンの人々に対して、農産物は作っただけではなく、売らなければならず、それを湾岸諸国に販売する、その他の海外にも販売して収益を得るには、ヨルダン経由で輸出するので、ヨルダンにも協力して欲しいと。

 そして、イスラエルの人々にも、農産物加工団地の設置・運営や治安の面で協力して欲しい。

 そうすれば、トマトやオレンジ、オリーブなどが作られ、日本が手伝ってアラブ諸国や、日本にだって輸出されるだろうとお話ししました。

 時間をかけて話をしました。信頼関係がないと難しいのですが、最後は日本の提案に同意しました。そして、3月には、ペレス・イスラエル副首相、エラカートPLO交渉局長、カスラウィ・ヨルダン国王特別顧問が東京に来られて、日本を含む四者で会議を行い、以上のやり方について合意しました。

 その合意に基づいて、ちょうど明27日、第一回の実務レベルの四者協議が、死海のほとりで開催されます。イスラエル、パレスチナ、ヨルダンのどの国からも、今の緊迫した情勢ではありますが、是非協議を開催したいとの要望が寄せられました。この種の提案では、向こうのやる気が大事なことです。

 各国からの期待の高さに、我々としてもやりがいを感じています。そして、改めて、日本としては、「平和と繁栄の回廊」構想を着実に進めて参りたいとの決意をしております。

 結果は、しばらく先になります。しかし、この「平和と繁栄の回廊」構想が進展し、パレスチナの将来に対する希望と所得、さらに三者の間に共同プロジェクトの成功による信頼が生まれ、パレスチナの地が、「自由と繁栄の弧」の強固な一角へと変わっていく夢と希望を我々は持っております。

 最後に、本セミナーの開催に尽力された赤阪国連広報担当事務次長を始めとする関係者のご努力に、感謝します。

 国際社会が、中東和平問題に関する関心を高める上で、国連が行うメディアを通じたこうした取組を高く評価しています。

 また、本日のセミナーに参加された、パレスチナとイスラエルの方々との間で、対話が促進され、そして、中東和平の実現に向けた日本人の願いが、当事者の方々に届くことを希望してやみません。

 ありがとうございました。