データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] イラクの安定化に関する周辺国拡大外相会合における麻生外務大臣ステートメント

[場所] エジプト(シャルム・エル・シェイク)
[年月日] 2007年5月4日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

マーリキー・イラク首相閣下

アブルゲイト・エジプト外相

ご列席の皆様

 はじめに、イラクの安定化に関する初の閣僚級国際会議開催を歓迎するとともに、開催に向けたエジプト政府のイニシアチブ及びマーリキー首相を始めとするイラク政府の意欲を高く評価します。イラクの安定化は現在の国際社会が直面する喫緊の課題の一つであり、イラク政府が治安対策に懸命に取り組んでいる中で開催される今次会合は時宜を得たものです。

ご列席の皆様

 イラクの復興は国際社会の安定に貢献し我が国の利益にも直結する課題であるとの認識の下、我が国はイラクの安定化のために、これまでイラクを積極的に支援してきました。マドリッド会合での50億ドルのプレッジの着実な実施、60億ドル相当の債務削減、人材育成の他、人的な協力としてサマーワでの陸上自衛隊による支援、航空自衛隊による輸送支援協力を行ってきています。また、追加的支援として本年2月、基礎的生活分野(BHN)、治安、人材育成等の緊急を要する人道復興支援案件に対し、国際機関を通じ総額1億450万ドルの支援を行うことを決定しました。この中には、イラクの難民・国内避難民対策としての1,350万ドルを含みます。円借款については、これまでに10案件約21億ドルをイラク側に意図表明済みです。

 イラクの治安は依然厳しい状況が続いていますが、マーリキー首相のリーダーシップの下、イラク政府が治安対策に主体的に取り組んでいることを高く評価します。我が国は、マーリキー首相を全面的に支持していることを改めて表明いたします。米国をはじめとする国際社会の支援の下、マーリキー首相の努力が早期に奏功することを期待します。

ご列席の皆様

 我が国は、イラクの安定化のためには、治安対策の成功とともにイラクの国民融和促進が不可欠であると考えています。このような認識の下、我が国としても可能な支援をすべきとの観点から、3月、ハキーム国民融和担当大臣を団長に13名の国民議会議員等有力者を招聘し「国民融和セミナー」を開催しました。日本滞在中、一行は、世界における平和構築の成功例を通じ、イラクの安定のために国際社会の経験をどのように活用するか等につき学ぶとともに、広島の原爆記念館を訪問し、我が国の第2次世界大戦後の復興や民主化の経験を共有し、イラク一行から高い評価がありました。最近訪日されたマーリキー首相及びハーシミー副大統領も国民融和の重要性を十分に認識し、そのために努力する強い決意を示されたことを心強く感じています。

 イラクの安定化のためには域外諸国の支援も重要ですが、周辺国の協力が不可欠です。今般、安倍総理はエジプトの他、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、カタールを訪問し、各国首脳とイラク情勢につき活発な意見交換を行い、その際イラクの安定化に向けた協力を働きかけました。また、イラン、シリアについても地域の安定に建設的な役割を果たすことが重要であり、こうした国々もともに取り組んでいくことが重要と考えています。我が国としては、イラクに対して最大級の支援を行ってきた国の一つとして、今後ともこれらの国々と協力していきたいと考えています。その観点から今回のような対話の枠組みは極めて有益であり、今後も継続していくことを強く希望します。

ご列席の皆様

 昨日国際社会による支持が表明されたイラク・コンパクトは、政治、治安、経済の各分野で今後の行程を規定した包括的なものですが、今後は、イラク政府の責任とリーダーシップの下、コンパクトが着実に実施に移されることが重要です。かかるイラク政府の取組に対し、我が国として支援を惜しむことはありません。

 イラク政府・国民が、国際社会の支援を得て早期に治安の安定と国民融和を達成し、イラク国民がここシャルム・エル・シェイクの海のように澄み渡る雰囲気の中で生活できる日が一刻も早く来ることを期待して私の挨拶とさせていただきます。ご静聴ありがとうございました。