データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第14回南アジア地域協力連合(SAARC)首脳会議における麻生外務大臣ステートメント

[場所] インド(ニューデリー)
[年月日] 2007年4月3日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

マンモハン・シン議長、

SAARC各加盟国代表の皆様、

ご参集の皆様、

 今次サミットの開会おめでとうございます。議長としてご指導なさったインドの首相マンモハン・シンさんに、まずは敬意を表したいと思います。

 オブザーバー国として今や日本がSAARCの一員となったことを、大変喜ばしく存じます。我が政府は新しい政策を打ち出しておりまして、「自由と繁栄の弧」をつくるというものでありますが、SAARCとの協力はこの政策によく沿うものであります。ユーラシア大陸の外周で今、たくさんの国が歴史的変化を遂げています。新たなフロンティア、または一つの弧というものが、ここに現れてまいりました。それは成長の地域であり、かつてなく安定した場所であって、普遍的価値を重んじる一帯です。そして南アジアこそは、「弧」における主柱をなすものであります。かかる歴史的転換を通じて、日本はいつも、共に走ってまいる伴走者でなくてはなりません。

 例を挙げますなら、ネパールとブータンで、我が国は今後とも民主化を支援してまいりましょう。アフガニスタンでは、日本人は長年にわたり、アフガン国民の建国を助けてまいりました。アフガニスタンが今やSAARCに加わりましたことを、私は喜びとしたいと思います。皆さんには、自由と民主主義を重んじる長い伝統がおありです。SAARCと日本は一緒になって、弧を強くするため、すなわち世界を良くするために、たくさんのことをなし得るのです。

 伴走者であるからには、互いをよく知り合わねばなりません。若者同士の交流を促すことが、カギになります。ここにご報告申し上げますが、まさにその目的のため、我が政府は日本・SAARC特別基金に、七百万ドルの追加出資をしたところです。これからは、日本とSAARCを結びつける橋は必ずやもっと幅の広いものとなることでしょう。

 日本と南アジアの友好の歴史には、つとに豊かなものがあります。例えば私の祖父・吉田茂は、今は亡きスリランカの元大統領、J・R・ジャヤワルダナさんのことを大変よく覚えておりました。1951年の9月、各国がサンフランシスコに集まり対日講和条約に署名した折のことです。ジャヤワルダナさんはこう言って、日本側首席代表だった吉田茂の琴線に触れたのでした。「憎しみは憎しみによって止まず。愛のみよくこれを去り得るものなり」。これには日本で多くの人が心を動かされたものです。

 日本経済の奇跡的発展などはまだその影すら見えぬ時代、まさしくこの地の人々から、日本は多くの助けを得たものでした。鉄鉱石や綿花を、インドとパキスタンが供給してくれたのであります。

 お返しというわけでもないでしょうが、私が誇りとするのは、「ダショー」西岡京治(けいじ)という故人であります。ブータン農業発展のため、生涯を賭し尽くした人でありました。

 また、日本はモルディブの首都マレに防波堤を作るのに協力しました。2004年の暮れ、インド洋を津波が揺るがした時も、マレには被害があまりありませんでした。後に私ども、モルディブ政府から貢献を称える「グリーン・リーフ」賞をいただいております。ここにお約束いたします。日本はこれまでの知識や経験を用いつつ、防災というSAARCに共通の課題に関しさらなる貢献をいたしてまいります。

皆様、

 私はいま、ある歴史的ドラマの生まれ出ずる瞬間に立ち会っているという気がいたしております。思い出してもみてください。三百年前には、南アジアだけで世界経済の四分の一を生み出しておりました。ですから生起しつつあるのは、ある地域の勃興などではありません。偉大なるカムバックというべきもので、SAARCこそはそんなドラマに似つかわしい存在です。

 この先は、コネクティビティ(連結性)がカギを握ります。日本が支援し作ったバングラデシュの橋は、河川によって分断されていた地域を結びつけ、同国の社会・経済発展に寄与いたしました。コネクティビティのないところ、ネットワークは生まれません。SAARCはその潜在力を開花させられぬことになるわけです。今やSAARCの指導者の方々は、ビジョンと勇気をもって、各国を経済的にも、精神的にも近づけつつあります。私は皆様に敬意を表したいと思います。私自身のお約束です。日本政府はこの先、SAARCとのさらなる協力のもと、地域のコネクティビティ向上のため、SAARCにとり優先度の高い事業を支えていく所存です。

皆様、

 我々共通の目的に向かって、日本とSAARCは既に大きく踏み出しました。ともにもっと働いてまいりましょう。一人で見る夢は所詮夢だが、一緒に見ると夢は現実になると言うではありませんか。日本は皆様のかたわらに常にあり、われわれ共通の夢が現実となるよう、もてる力を尽くしてまいります。

ありがとうございました。