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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第43回日米財界人会議における麻生外務大臣スピーチ

[場所] 東京
[年月日] 2006年11月13日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

ケイテン、氏家のお二方を始めご参席の皆さま、

皆さまに本日お話しできますことは、このうえない光栄であります。

わたくし、皆さまと同じ金型からできていると申しましょうか。経営者として鍛えてもらったのは、はるか昔のアフリカ時代です。その頃はマシンガンの弾をよけつつ、ダイヤモンドを掘るという暮らしでありました。厳しい決断が必要だったのは、実家の炭鉱を閉じねばならんと決めた時であります。けだしこのような経験を通じまして、難局に当たる術(すべ)の一つや二つ、わたくしは学べたのではないか、と。

でありますからして、皆さん方のお働きに、すなわちめまぐるしく変わる現実というものに事業を適応させていこうとなさるご努力に、敬意を表するものです。それから日米の双方で、おのおのの協議会を意味あるものにしようとなさる、たゆみのないご努力にも賞賛を惜しみません。

協議会の意味について申せば、実は今ほどその意味を増したことはないというのが、わたくしの強く信じるところであります。と申しますのには三つの理由があります。

第一に、日本と米国には、お互い大切に思う価値というものがあります。その価値が世の中に広がっていくよう、両国は一緒になってしっかり働かねばなりません。

考えてもみてください。米国経済が4%の成長を4年続けますと、ただそれだけで、中国全体に匹敵する規模の経済が新たに生まれます。日本にしましても、2.5%成長しますと、毎年毎年シンガポールが1国分できますし、4年続きますと、タイとインドネシアを合わせた分が付け加わると、こういうことになります。アジア太平洋地域において、米国と日本はまあそのくらい、いわば巨人であります。

だとするならば、両国はともに汗をかかねばなりません。法の支配、知的財産権の尊重、グッド・ガバナンスというもの。これらが伸び行くアジアで根づくよう、とりわけ、成長最も著しい中国できちんと根を張るよう、われわれ一緒に働かねばならぬと思います。

第二に、日本と米国はともに、技術開発の最前線にある、ということがあります。

早い話が、ボーイング787、例のドリームライナーと言われる新型機をつくるプロジェクトです。787は構造材を炭素とか、先進複合素材でこしらえる初の商用機でありますが、東レを始めとする我が国の企業を巻き込まないでは、もとより羽ばたけないプロジェクトでありました。

新技術、イノベーション、それから生産性の向上ということが、急速な高齢化が進む日本においてとりわけカギを握ります。「老い」つつあるかもしらん。が、「伸び」もすることができるというのが、日本なのであります。日本とは、高度成長期とはまったく別方向ではありますが、まさにこのことを世界の後続世代に向け実証してみせる実験場なのでありまして、わたくしの言う「ソート・リーダー」なのであります。

これは実に偉大な実験でありまして、ご参集企業各社には、成功へ導くよう、リード役を務めていただくべく期待がかかります。

第三に、日米の同盟関係をご覧いただきますならば、今日くらい強固な時代はありませんでした。

わたくしの指導のもと、我が外交はその活動範囲を広げました。日米の力を合わせた協力は、アフガニスタンや中東湾岸地域で新たな勢いを獲得し、双方の重視する民主主義の同輩各国、なかんずくNATOなどへの傾斜をもたらしました。

でありますからこそ、米日経済協議会(USJBC)が2006年版ポリシー・ステートメントにおいて、あえて日米経済連携協定(EPA)に関し述べたところをわたくしは深刻に受け止めております。

ただし、たいがいの自由貿易協定、すなわち新聞で見出しになる類のFTAなどは、日米を前にしては青ざめねばなりません。日本と米国の間には、あれやこれや、経済関係の統合が広範に進んでおります。二国間協定として、つとにいろいろと、かっちり制度になっているからです。

にもかかわらず、米日経済協議会は、いま日米両政府に呼びかけておられる。その点、わたくしはきちんと認識しております。すなわち呼びかけによりますと、経済のさらなる統合ということに、安全保障に対すると同等の関心を払うことによって、二国間関係の経済と安保をいっそう均衡の取れたものとせよ、とそうおっしゃる。

日米関係とは、最も強靭な二国間関係であります。それを維持していくため、強固な経済の連携が何より重要であるという点、わたくしの見方はこれに変わるところはありません。

皆さま、本日わたくしはまず、われわれの経済はいずれも強大なのだから、おのおの大切に考える価値が広がるよう、頑張らねばならぬと申し上げました。次に、技術開発において何がともにできるかという点を取り上げました。そして第三に、二国間の安全保障関係を、経済統合のさらなる拡大によって裏打ちするということがどうすればできるのか、考えるべきだと申しました。

以上のことを、わたくしは日本経済に対する新たな自信とともに申し上げております。長いことスランプが続きましたが、終わりを告げました。日本企業はいまや、厳しさを増した競争を潜り抜けつつあります。この間に「企業再生」「事業再生」が図られ、我が国企業は若返りました。東証上場企業中、株式時価総額にして上位50社の優良各社で社長が何歳かを見てみますと、この6年で4歳若くなっております。

しかしながら、競争というもの、もっと取り入れていかねばなりません。そのためわたくしども、海外からの直接投資を重視すべしと申し上げます。直接投資がもたらしますのは、もとより資本のみではありません。ダイナミズムというものをくれます。たいがい競争を刺激します。

競争、大いに結構じゃありませんか。競争こそは皆さんを強くします。誰より皆さん方自身、そのことをご存知のはずです。なおまた直接投資について、有難いことに安倍晋三総理はわたくしとまったく同様に見ておられます。

結びとして申しますならば、いまや日米は、共通の価値によってかつてないほど堅牢に結ばれております。それゆえ歩調を合わせ、両国は民主主義と自由市場経済の守り手となり、働かねばなりません。

協議会の課題はいよいよもって重大であります。それに取り組もうとなさっておられる皆さま。皆さまの情熱と勇気に対し、今一度頭を垂れたいと存じます。