データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第60回国連総会における町村信孝外務大臣演説『新しい国連と日本』

[場所] ニューヨーク
[年月日] 2005年9月17日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

議長、

御列席の皆様、

 何よりもまず、ハリケーン・カトリーナによる災禍に遭われた方々に重ねて心からのお見舞いの言葉を申し上げます。

 議長におかれては、第60回国連総会議長への選出につき、お祝いを申し上げます。また、議長の前任であるジャン・ピン議長閣下の卓越した指導力に対し高い敬意を表します。

議長、

 国連の過去60年間の歴史は、平和で繁栄した公正な世界を目指した歩みでした。また、この時期の我が国の歩みは、まさしく、平和を愛する国家として名誉ある地位を得るための努力であったと言えます。二度と戦争への道を歩まないとの決意の下、我が国は、国連と協力して、国際の平和と安定をこれまでも追求してきており、そして今後とも追求していきます。

 我が国は実効的かつ効率的な国連を必要としており、首脳会合の成果文書を強く支持します。そのために、この成果文書に表明された首脳のコミットメントを、最大限の緊要性をもって行動に移さねばなりません。我が国はこの取組において労をいといません。

議長、

 新しい国連は、平和構築に関するより良い能力を備えている必要があります。我々は、提唱されている平和構築委員会がこの目的の実現に資することを期待します。そのため、我が国として、その経験と持てる力を最大限利用して、引き続き建設的な役割を果たしていきます。

 ガザ地区において、イスラエルの撤退後の復興への取組は極めて重要です。我が国は、ロードマップの再開につながることを強く期待し、本年初め以来、1億1千万ドル以上の支援を実施しました。

 イラク復興信託基金への最大の拠出国として、我が国は、国際社会をイラク復興に向けて一致団結させるために、力を注いできました。我が国の自衛隊による人道復興支援とODA(政府開発援助)は、車の両輪として、イラクが平和で繁栄した国に発展していくことに寄与しています。日本は対イラクODA総額50億ドルをプレッジしており、そのうちの無償資金協力の約15億ドルについては既に実施済みです。

 我が国は、UNAMA(アフガニスタン支援ミッション)とともに、DDR(武装解除、動員解除及び社会復帰)のためのアフガニスタンの取組を支援していく上で、主導的役割を果たしてきました。その成果として、約6万3千人の元兵士が2006年6月までに社会復帰プログラムを了する予定です。我が国の自衛隊の艦船は、インド洋において、テロとの闘いを行っている国々を支援する活動に従事しています。治安面での支援を含め、我が国は2006年3月末までに総額10億ドルに上る支援を行うことを表明しています。

 紛争による災禍から復旧するために闘っている社会において、正義を確立することは極めて重要です。法の支配を確立する上で、我が国は、カンボジア政府と協力して、クメール・ルージュのメンバーを裁くための裁判所の設立に主導的役割を果たしており、我が国は、かかる裁判所の設立に2千万ドル以上を貢献してきています。

議長、

 広島と長崎が筆舌しがたい核兵器による破壊の恐怖を経験してから60回目の夏が過ぎました。我が国は、全ての加盟国に対し、核兵器の無い平和な世界を実現するために決意を新たにするよう再び訴えかけます。

 この目的のため、我が国は、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効の要請を含む、軍縮・不拡散体制を強化するための具体的なアジェンダを設定する総会決議案を再び提出します。この点において、2005年NPT運用検討会議が、実質的な事項に関するコンセンサスの文書を採択できずに閉会したこと、また、成果文書で軍縮・不拡散が合意されなかったことは大変遺憾です。

 北朝鮮の核問題は、北東アジアの平和と安定への直接的な脅威であるばかりではなく、NPTを基礎とする国際的な核不拡散体制への深刻な挑戦です。我が国は、六者会合を通じて核問題を平和的に解決することにコミットしており、北京における今般の会合にて、北朝鮮がすべての核兵器及び核計画を迅速かつ検証可能な形で廃棄することを受け入れるよう強く期待します。我が国は、核問題が、ミサイル問題及び拉致問題とともに、日朝平壌宣言に従って包括的に解決されるよう、最大限の努力を行っていく考えです。

 イランの核問題に関し、我が国は、本問題が外交的手段による交渉を通じて解決されるべきであると考えます。この目的に向け、我が国は、イランに対し、同国がウラン転換活動の完全停止を含む、累次のIAEA理事会決議のすべての要求事項を誠実に履行し、EU3との交渉に復帰するよう強く促します。

 近年、我々は、テロ行為により引き起こされた数限りない悲劇を目の当たりにしてきました。この一環として、我が国は、テロ対処能力の向上が必要な国々に対し、支援を継続してきています。国際的な法的枠組みを強化するため、我が国は、加盟国に対し、新たに採択された核テロ防止条約を含むテロ防止関連条約及び議定書を締結するよう要請します。

議長、

 開発は平和と安定の基盤となるものです。新しい国連は、開発推進のための効果的な組織でなければなりません。我が国は、世界全体から援助を得て第二次世界大戦の荒廃からの復興を成し遂げ、他のどの国よりも、オーナーシップとパートナーシップ、経済成長を通じた貧困削減、そして開発の促進における人間の安全保障の重要性を実証する立場にあります。

 個人の保護と能力強化を中心とした人間の安全保障の概念は、自由と尊厳のために努力している世界において重要なアプローチを提供します。この概念は、人権の保護に関しても重要な視点を提供します。私は、成果文書において首脳が約束したとおり、総会においてこの概念について今後議論が行われることを心待ちにしています。

 被援助国としての、そして半世紀以上にわたる供与国としての経験に基づき、我が国は、世界の開発において影響を与える強い意欲を有しており、過去10年間にわたって世界全体のODAの5分の1を供与してきました。我が国は、MDGs(ミレニアム開発目標)の達成に向けた支援を継続する決意です。この目的に向けて、我が国はODA事業量を今後5年間で100億ドル積み増す考えです。

 ミレニアム開発目標を達成するためには、アフリカの問題に取り組むことが極めて重要です。小泉総理大臣がアジア・アフリカ首脳会議において表明したように、我が国は今後3年間でアフリカ向けODAを倍増し、2008年に第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)を開催します。平和と安定をもたらすアフリカ自身の取組を支援する努力の中で、我が国は、スーダン、コンゴ民主共和国、シエラレオネ、ブルンジ、リベリアといった国々における平和の定着のために力を注いできました。スーダンにおいては、我が国はUNMIS(国連スーダンミッション)を通じた人的貢献に加えて、コミットした1億ドルの支援額の半分以上の資金援助の実施を既に決定しました。更には、感染症によってもたらされるアフリカ及びその他の地域の人道的危機に対処するために、我が国は、世界エイズ・結核・マラリア対策基金に当面5億ドルを拠出します。我が国は、「保健と開発」に関するイニシアティブに今後5年間で50億ドルの支援を行うことを発表しました。また、我が国は、アフリカにおける『忘れられた危機』に対処してきており、今後とも同問題に焦点をあてていきます。

議長、

 国連の歴史において、今日ほど実効的、効率的、かつ信頼性のある国連が求められている時はありません。国連の信頼性がまさに問われています。

 安全保障理事会の基本構造は、依然として1945年の世界を反映させたものになっています。したがって、安全保障理事会の改革は、国連全体の刷新を達成するため、引き続き鍵であり続けています。第59回国連総会において圧倒的多数の加盟国(計166カ国)が安保理改革の必要性に言及しているという事実は、改革の差し迫った必要性を示す証左です。

 先の第59回国連総会の会期中に、国連の60年間の歴史において初めて安全保障理事会の構成を根本的に変革することを求める決議案が提出されました。我が国は、この改革の促進を主導してきていることに誇りを持っています。今次首脳会合に参加した多くの指導者が、改革への支持を表明したことも、心強いものであります。

 私は、国際の平和に向けた我が国の取組の道程そのものが自ら語るものであり、そうした我が国の道程は、改革された安全保障理事会の常任理事国として我が国がより大きな役割を果たすための基礎となるべきものであると信じています。私は、議長閣下に対し、我が国が貴議長のリーダーシップの下で改革を実現するために最大限の努力を続けていくことを確約します。そして、私は加盟国に対し、今次総会において早期に決定に到るよう求めます。

 新しい国連には、強い高潔さを備えた、効率的で実効性のある事務局が必要です。我が国は、石油・食糧交換プログラムを巡る欠陥を含む一連の事件を深く憂慮しています。国連システムの運営及び管理は、加盟国及びその市民に対して、透明性があり、かつ、説明責任を果たすものでなければなりません。この点で我が国は、国連の活動に対するより包括的な業績評価の促進及び実施に取り組んでいく考えです。

 旧敵国条項に関し、私は、首脳がこの死文化している旧敵国条項を可能な限り早期に削除することを成果文書において決意したことを歓迎します。

 包括的な見直しは、より衡平かつ公正な分担率の構造に関して合意を達成するためにも必要です。我が国は、来年末までに合意される分担率交渉に積極的に参画していく考えです。来るべき交渉において、我が国は、分担率において、国連加盟国の地位と責任が適切に考慮されることが確保されるよう最大限の努力を行っていく考えです。

議長、

 我々は、国連を刷新するという任務に着手したのです。我々の前には成し遂げるべき課題が山積しています。私はこの議場に列席されている全ての代表団の方々に、国連総会のこの記念すべき会期中に、未完の任務を達成するために労を惜しまぬことを求めます。

 ありがとうございました。