データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第5回WTO閣僚会議における川口外務大臣演説

[場所] カンクン
[年月日] 2003年9月11日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

 メキシコ大統領 ビセンテ・フォックス閣下、デルべス議長閣下、スパチャイWTO事務局長、アナン国連事務総長閣下、カスティーヨ一般理議長、加盟各国大臣閣下、代表団の方々、並びにここにお集まりの皆様。

 フォックス大統領およびメキシコの人々に対し、この重要な会議を主催頂いたことに感謝致します。また、スパチャイ事務局長、カスティーヨ大使及びWTO事務局がこの会議の準備に大いに尽力されていることに対し感謝の意を表したいと思います。

 この機会を借りて、日本政府及び日本国民を代表して、アンナ・リンド・スウェーデン外務大臣閣下の悲しむべき御逝去について、ご遺族、スウェーデン政府及び国民の皆様に対し深く哀悼の意を表します。我々は、京都会議において環境大臣として果たされた主導的役割を含め、世界の平和と繁栄に大きく貢献した、最も優れた同僚の一人を失いました。

 議長、今日9月11日は、おぞましいテロ攻撃から2年を迎える日です。テロ攻撃の犠牲者の皆様、その御家族の皆様、そしてテロ攻撃を受けた米国国民に対し、改めて哀悼の意を表します。世界経済を発展させ、特に途上国の人々の生活を改善するために、ドーハにおいてこのラウンドを立ち上げた際、正に我々の心の中に9月11日の出来事があったことを申し上げたいと思います。我々はこのことを決して忘れてはなりません。

日本がドーハラウンドに付する重要性

 日本は、ドーハにおいて開発アジェンダを開始するため尽力しました。貿易の拡大は、過去半世紀の世界経済の急速な成長の背景にある主要な牽引力です。これは、特に近年における開発途上経済について当てはまります。この文脈において、ルールに基づく多角的貿易体制を体現する世界貿易機関(WTO)は、極めて効果的な機関であることを証明してきました。WTOが効果的かつ持続的に我々の利益に資するためには、変化しつつある世界経済の現実を踏まえて、WTOの運営の在り方を改善しつづけることが我々の責務です。

 WTOは、貿易自由化の利益が、途上国も含め全ての国により共有されることを確保する一連のルールを提供します。それはまた、最も強い国が必ずしも利益を刈り取ることを保証されず、より公平な利益の分配が保証される、ルールに基づく体制を形成しています。この世界貿易の機関(WTO)は我々に、多様な加盟国を統合し、また、地域貿易協定の拡大を通じた世界貿易の細分化の罠に我々が陥ることを防止する、共通の土台を提供します。ドーハ開発アジェンダを通じて我々が達成すべきは、世界貿易を均衡の取れた形で拡大するため、この体制を強化することです。

日本にとっての優先事項

 私は、この会議において焦点を当てることの必要な三つの主要分野に触れたいと思います。まず農業について。農業が、途上国が発展するための重要な機会であることを我々は十分に理解しています。この関連で我々は、日本が最大の食糧純輸入国であり、2000年には約350億ドルの食糧を輸入し、その約半分は途上国からの、ものであることを誇りとするものです。この4月には、後発開発途上国(LDC)からの農林水産品の無税無枠の対象を約200品目増加しました。その結果、LDCからの輸入額全体の83%が無税無枠となっています。しかしながら同時に、農業の多面的機能の保全といった、人々の非貿易的関心事項に対応することは、政府の責任です。大きな人口をかかえる日本のような国は、すでに危険なほど低い食料自給率をこれ以上低下させることを受け入れることはできません。我々は、特に途上国の関心品目のための農業貿易の拡大と、多様な農業の共存を確保するため、必要な改革を継続したいとする希望との間の正しいバランスを取る必要があります。それは簡単ではありません。しかし、我々は、関税の上限設定の考え方など、輸入国に課せられている過重な負担に特に鑑みて、現時点では未だ得られていない、正しいバランスを見出すため、議長文書案に関して作業を始めることが可能です。

 非農産品市場アクセスについては、重要な市場アクセスの改善につながる野心的なモダリティが、世界貿易の拡大の鍵です。より自由化した国がより早く成長してきたことは実証済みです。しかし、この分野においてもバランスの取れた方法でこれを行う必要があります。最大の結果を達成するためには、全ての加盟国にとり、機微な問題や適応上の困難に対応するため、柔軟性が必要です。これは、バランスを取る問題です。当然のことながら、一国の経済をより効率的にするための改革を推進し、それを阻害することのないよう、柔軟性の範囲は限定されるべきです。

 シンガポール・イシューについては、新しいルールは、途上加盟国を含め、我々全てに資するものです。我々の目的は、グローバリゼーションの利益を最大化し、その負の影響を最小化することです。それは、規律あるグローバリゼーションは、規律のないそれよりもはるかによいものであるからです。我々は、途上加盟国のどのような懸念も解消する用意があります。我々は、そのようなルールは、開発のための十分な政策的余地を与えるべきであることをよく認識しています。我々は、必要なキャパシティ・ビルディングと技術支援を提供する用意があります。ここにおいても鍵となるのは、新しい課題への対応と途上加盟国の懸念への対処との正しいバランスを見いだすことです。

ドーハ・ラウンドにとってのカンクン会議の重要性

 結語として、我々がこの会議をどのように見ているかについて一言述べたいと思います。WTOは設立以来、世界の貿易体制を力による体制から、ルールに基づく体制へと変化させました。我々はこの場において、WTOが引き続き効果的に機能するように、正しい政治的判断を下し、事務当局が作業を継続するための明確な指針を与える必要があります。優れた、効率的な、ルールに基づく体制は我々全て、特に途上加盟国の利益となることを疑いを容れません。

 議長、私は閣下および全ての加盟国とともに会議の成功に向けて懸命に取り組む決意です。ともに努力しましょう。