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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 川口外務大臣演説,日本外交の課題−日本の安全確保と国際社会の秩序づくりに向けて−

[場所] 東京(日本記者クラブ)
[年月日] 2003年8月27日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

ご列席の皆様、

 私は、外務大臣への就任後間もない昨年3月に、ここ日本記者クラブで政策スピーチを行う機会を頂き、川口外交のスタイルとして、「強く」、「温かく」、「わかり易い」外交を目指すと申し上げました。

 外務大臣への就任以来、私は、そのようなスタイルを念頭に様々な課題に取り組んできました。小泉総理から外務省改革にしっかり取り組むようにとのご指示を頂いたことを踏まえ、まず、「わかり易い」外交を目指し、国民の皆様の理解と支持を得て、積極的に外交を推進できるよう、外務省改革に邁進してきました。同時に、外の世界ではテロとの闘い、イラク情勢、北朝鮮情勢など日本を取り巻く国際環境が大きく変化する中、私は外務大臣就任以来今まで1年7ヶ月にわたり日本外交の舵取りに全力で取り組んできました。

 本日は、この1年半の取組について振り返った上で、今後の日本外交の課題について、私の考えを申し述べたいと思います。

(「わかり易い」外交の実践)

 外交を行うに際しては、国民の理解と支持が不可欠であります。外交という業務の性格上、当然の制約はありますが、可能な限り外交が国民に開かれたものでなければならないし、「わかり易い」外交を進める必要があります。外務省改革の基本にあるのは、そのような考えです。

 私は、その実践として、外務省タウンミーティングを開催することとし、これまで開催された全ての会合に私自身が出席しました。そこで国民各層から貴重なご意見を頂き、また、私より様々な外交課題に対する日本の取組を参加者の皆さんに直接説明してまいりました。

 また、私は、NGOや国民との新しい関係の構築にも取り組みました。NGOとの関係を専任で担当する大使を任命したほか、NGOとの相互理解を深めることが重要ですので、若手職員がNGOで研修する制度を導入しました。既に約50名が研修を終了し、そこでの経験を活かしつつ、外務省における勤務に励んでいます。また、これは新しい取組ですが、外務省の業務の中で国民と最も接点の多い領事サービスについては、領事シニアボランティア制度を導入しました。この制度は、まずはスタートとして10人の定員で始めたのですが、581人もの方々から応募を頂きました。その応募者の中には、民間企業の海外駐在員をなさっている方や学校の教員をなさっている方、NGOで既にボランティア活動の実績を積まれている方もおられました。こうしたボランティア精神と実務経験が豊富な方々のご協力を十分に頂きながら、サービスの向上に取り組む予定です。

 さらに、本省幹部や大使・総領事といったポストに、積極的に省外の有能な人材を登用するよう努めました。これまで既に20名以上の方々に国内外でご活躍頂いています。その中では、そこにおられる高島外務報道官や、後で触れますが、軍縮外交で活躍しておられる上智大学の猪口大使、ワシントンの在米大使館で公使をされている阿川さん、阿川さんは多くの本を書いておられますが、これらの方々のように、民間での経験を活かして活躍されている方もおられます。

 このような取組に加え、省員の意識改革や外務省の機能強化のための改革は着実に進展しています。機構面での改革に関しては、来年の夏から、より能動的・戦略的な外交を実施するための新しい機構に移行すべく、現在準備を急いでいます。外務省は、霞ヶ関のモデルとなる改革を行っていくとの意識をもって、今後とも全省員一丸となって改革を推進してまいります。

(変化する国際環境)

 一方で、この1年半は、日本を取り巻く国際環境の変化への対応に迫られた時期でもありました。北朝鮮情勢やイラク情勢への対応において、国際社会の主要な一員として貢献することが求められました。これらの課題は、いずれも日本国民の安全と繁栄をいかに守っていくかという課題に辿り着くテーマです。私は、外務省員とともにそれぞれの課題に対する答を真剣に模索してきました。

(北朝鮮情勢)

 今日、北京で六者協議が開催されます。午前10時からの予定ですが5分遅れで始まったと聞いております。北朝鮮情勢は国民の関心が最も高い外交課題です。これは、核兵器開発やミサイルの開発・拡散が、日本自身の安全保障にとって、また、国際社会全体にとっても重大な脅威となっているとの認識が共有されたことに加え、私を含め、国民のほとんど全員と言っても良いと思いますが、北朝鮮による拉致問題に強い憤りを覚えているからにほかなりません。日本を含む国際社会としては、核兵器開発や拉致問題といった諸懸案を平和的な手段で包括的に解決するということを目指しています。また、麻薬の密輸やドル紙幣の偽造といった犯罪行為に対して厳格な法執行を行うことも必要でしょう。

 日本は、これまで米国及び韓国と緊密に連携しながら、さらには中国、ロシアや関係国際機関とも協力しながら、北朝鮮に対して強く働きかけを行ってまいりました。また、G8やアセアン地域フォーラム(ARF)、アジア欧州会合(ASEM)などの多国間協議の場においても、これら諸懸案の解決に向けて、各国の理解・支持を得るよう努力してまいりました。北朝鮮は、こうした国際社会の懸念に対して誠実に対応しなければなりません。

 今まさに、北京で北朝鮮と日本、米国、韓国、中国、ロシアの六者による協議が行われているところです。先程申しましたとおり六者協議は始まったばかりですが、こうした様々な機会を通じて、国際社会が北朝鮮に対し一致して強く働きかけることが重要です。日本としては、拉致問題を始めとする諸懸案の平和的、包括的な解決に向けて、引き続き関係の国々・機関と緊密に連携していく考えです。

(イラク情勢)

 イラクに対する軍事行動をめぐりましては、主要国間で意見が一致いたしませんでしたが、今日では、民主的で平和を志向するイラクが誕生することをみんなが望んでいます。国連安保理では、イラクの戦後復興に関する決議1483や、国連イラク支援ミッション(UNAMI)の設立を決定する決議1500が採択されまして、今や各国はこれらの決議を踏まえて自らの支援のあり方を検討、実施しています。

 日本は原油供給の約9割を中東地域に依存しています。この中東地域の安定は、日本にとって死活的に重要です。また、中東地域の安定は、国際社会全体の平和と繁栄を実現する上でも不可欠です。こうした点も踏まえて、現在、日本は、米英や国際機関と協力してイラクに対する人道復興支援を積極的に行っています。さらに、イラクの国家再建への努力に対して、国力にふさわしい貢献を行うため、先般、自衛隊部隊の派遣を可能とするイラク人道復興支援特別措置法を成立させたところです。

 19日にバグダッド国連本部の爆破事件がありました。私はこれに対し、強い憤りを覚えます。このテロ行為は、イラクに平和と復興をもたらすために尽力している国連に対する攻撃であり、また、復興に向けた努力を続けるイラク国民に対する重大な犯罪だと思います。デメロ国連事務総長特別代表を始めテロによって犠牲となった方々に心から哀悼の意を表するとともに、負傷された方々の一日も早い回復をお祈りします。私たちはテロに屈することなく、イラク復興のため、国連加盟国として責任ある役割を果たしていかなければならないと信じています。

 また、同じ19日には、エルサレムで自爆テロ事件が起きました。この事件を契機に、現在、イスラエルとパレスチナの和平プロセスが危機に瀕していると思います。中東和平プロセスの進展は、イラクの復興はもとより、中東地域全体の平和と安定の鍵となる課題です。日本としては、パレスチナ自治政府に対して、過激派による暴力と断固として戦って、過激派の取り締まりのために最大限の努力を行うことを求めています。この点について一昨日、私はパレスチナのシャアス外務長官とも電話で話をしています。また、イスラエル政府に対しては、最大限の自制を求めます。そして、両当事者に対し、和平の進展に向け「ロードマップ」に沿った取組を継続することを強く求めたいと思います。今、イスラエルのシャローム外相がお見えになっており、私は昨日会談しましたが、その旨をお伝えしました。

(今後の日本外交の課題)

 以上、北朝鮮とイラク問題、中東和平への取組について簡単に振り返ってきました。私は、このような経験を通じ、自らの安全と繁栄を確保するためには、日本が国際社会全体の平和と繁栄を実現するために貢献することが不可欠であると考えております。そのためには、日本は、国際社会の新しい秩序やルール作りに積極的に取り組んでいくことが必要だと考えます。従いまして、日本が特に積極的に取り組むべき課題として、3つ、即ち、「テロとの闘いと大量破壊兵器の拡散防止」、「『平和の定着』」、「国連改革」の論点に絞って、お話ししたいと思います。

(テロとの闘い)

 まず、テロとの闘いと大量破壊兵器の拡散防止ですが、ジャカルタ、バグダッドやエルサレムでのテロ事件に見られるように、テロは最近も頻発しており、国際情勢に大きな否定的影響を与えていることから、私はこの問題を大変深刻に捉えています。テロはいつ、どこで発生するか分かりません。インドネシアのバリ島での事件におきましては実際に邦人の犠牲者も発生しており、日本人も絶対安全という訳ではありません。

 日本もテロ防止関連条約を締結し、関連国内法の整備に努めています。また、インドネシアを含めアジア地域の安定に資するべく、テロ対処能力の十分でない国々に対する支援を積極的に行っています。

 また、アフガニスタンの内外では、テロリストの掃討作戦が続いています。日本は、2001年11月にテロ対策特別措置法を成立させまして、米英軍をはじめとする艦船に対する燃料補給を行っています。次の国会では、11月1日に期限切れを迎えるテロ対策特措法の延長について審議をお願いする予定です。

(大量破壊兵器等の拡散防止:包括的核実験禁止条約(CTBT))

 また、テロとの闘いとの関連で、大量破壊兵器の拡散防止も改めて大きな課題となっています。大量破壊兵器やその運搬手段である弾道ミサイルの拡散を防止するためには、不拡散に関するルールを作り、その適用範囲を広げ、それが実際に守られるように努力していくことが必要です。

 日本は、現実的・漸進的なアプローチに基づいて、大量破壊兵器の無い平和で安全な世界の実現を目指すべきとの観点から、包括的核実験禁止条約(CTBT)を、核兵器不拡散条約(NPT)を中核とする核不拡散・軍縮体制の柱と位置付け、CTBTの早期発効に向けて積極的に取り組んできました。この9月3〜5日にウィーンで開催される第3回CTBT発効促進会議には私も出席する予定です。

(弾道ミサイルの拡散防止)

 さらに、大量破壊兵器が弾道ミサイルに搭載され、遠隔の地へ運搬されることとなれば、その脅威の及ぶ地域が広がり、脅威が一層高まるため、弾道ミサイルの拡散防止も重要です。しかし、大量破壊兵器自体とは異なり、弾道ミサイルについては、その製造・保有や移転を規制する国際約束が存在しません。輸出管理を通じて国際的な協調行動をとるためのミサイル技術管理レジーム(MTCR)があるのみでした。MTCRでの取組にもかかわらず、最近でもパキスタンやイランが弾道ミサイル発射実験を行うなど、世界的なミサイルの拡散傾向は続いています。

 このような状況を踏まえまして、日本は、弾道ミサイルについてのルール作りの第一歩として、昨年11月の「弾道ミサイルの拡散に立ち向かうためのハーグ行動規範」の立ち上げのために尽力致しました。

 ハーグ行動規範は法的な拘束力のある国際約束ではなく、弾道ミサイルの拡散を防止・抑制する上で尊重されるべき原則を示す政治的な文書ですが、今まで規制のなかった弾道ミサイルの活動に関して新たな国際的なルールを作ったという意味において、大きな意義をもっています。今後、日本としては、いまだ限られているアジアからの参加国の数を拡大していくよう更に努力していくつもりです。

(拡散安全保障イニシアティブ(PSI))

 大量破壊兵器の拡散防止のためには、ルールを作るだけではなくて、その抜け道をふさいだり、ルールの実施を確保するための協力も必要です。それは、大量破壊兵器やその関連物資を拡散しようとする行為を、国際協力を通じて阻止するということです。米国は、大量破壊兵器やミサイルが拡散することを実際に防止するため、拡散安全保障イニシアティブ(PSI)を提案しています。PSIは、大量破壊兵器とその関連物資の拡散を阻止するために、国際法や各国の国内法令の範囲内において、参加国が共同していかなる措置をとり得るかについて検討するものです。日本としても、このイニシアティブを強く支持し、積極的に貢献していく考えです。

(アジアでの取組)

 アジア地域では、貿易の中継地となっているのみならず、近年の経済発展によって大量破壊兵器に転用可能な汎用品を創り出す能力や技術を獲得しつつある国があります。しかし、これら多くの国は十分な輸出管理体制を整備するには至っておらず、アジア地域における拡散防止の取組は遅れています。

 7月にバリ島で開催されたアジア欧州会合(ASEM)第5回外相会合で、日本は、「大量破壊兵器と弾道ミサイルの拡散防止に関する政治宣言」を提案し、各国の懸念に可能な限り配慮して調整して、宣言をとりまとめることができました。今まで、アジア諸国との間ではこうした合意がなかったことから、大量破壊兵器の拡散防止について共通の認識を打ち立てることができたという点で、この宣言は意味のある第一歩であると考えます。

(イランの核問題)

 また、昨年末、イランが秘密裡に大規模かつ高度な原子力施設を建設していることが判明し、イランの核問題への懸念が高まっています。

 重要なことは、イランがIAEAと完全に協力し、IAEA保障措置の追加議定書を即時・無条件に締結し、これを完全に履行することにより、国際社会の懸念を自ら払拭することです。そのためには、日本を含む国際社会による積極的な働きかけが必要であり、イランと友好的な関係を持つ日本の役割はますます重要になってくると考えています。私も10日程前であったと思いますが、電話でハラズィ外相にお伝えし、また、明日、東京でお会いすることとなっていますので、この点につきお話するつもりです。

(小型武器)

 大量破壊兵器とともに忘れてはならないのは、拳銃や機関銃、携帯ミサイルといった小型武器です。小型武器は、女性や子供を中心に、毎年50万人を越える犠牲者を出しています。よって、事実上の大量破壊兵器とも称されている訳です。日本は小型武器の問題に率先して取り組んできました。本年7月に開催された国連小型武器中間会合では、先程述べました猪口軍縮代表部大使が議長を務め、2006年の第2回国連小型武器会議に向けて、小型武器の非合法な拡散の防止や不法・余剰武器の回収・破壊事業の促進に向けて、今後の取組に大きな弾みをつけることに成功しました。猪口大使は、外務省改革の一環として民間から登用した大使であり、研究者として培われた経験を外交の現場でいかんなく発揮されていらっしゃることを、私は心強く思います。

(「平和の定着」)

 次に、今後の日本外交の第2の課題として、「平和の定着」について触れたいと思います。私は、外務大臣に就任して最初の訪問国であるアフガニスタンで「平和の定着」という考え方を提唱しました。この考え方は、長年にわたる紛争に終わりを告げた国が再び紛争と国家破綻の悪循環に陥らないように、一時的に得られた平和を定着させるため、紛争が終結する前の段階からODAを活用するなどの取組を通じて、和平プロセスや国造りを支援するというものです。

 私は、アフガニスタンを訪問した時に、机も椅子もなく、窓ガラスもない教室で、笑顔を絶やさないで、目を輝かせて一生懸命に授業を受ける少女達に会いました。その光景を目にしたとき、私は、ここにいる少女達が安全で幸せに暮らしていけるような国にアフガニスタンを維持していかなければならない、そのためにも、アフガニスタンを再び紛争状態に後戻りさせてはならないと強く思いました。つい先日、日本の援助によって、カブールに女子校の建物が完成しました。これまでタリバーン支配下では学校にも行けなかった女の子が「こんなにきれいな教室で勉強できるなんて夢のようだ」と喜んでいたそうです。今年9月までには日本の協力で合わせて8つの女子校が完成する予定です。また、日本は、アフガニスタンの復興に向けて、元兵士の社会復帰支援を行うというような様々な取組を行っています。

(「人間の安全保障」)

 こうした「平和の定着」の実現に向けた取組を行うに当たっては、紛争・災害や感染症といった人間に対する直接的な脅威に対処するため、人間一人一人がどうしたら安全に豊かな生活を送ることができるかに着目して取り組むという「人間の安全保障」の視点も極めて重要です。

 「人間の安全保障」につきましては、その考え方を具体化するため、緒方貞子前国連難民高等弁務官を共同議長の一人として、人間の安全保障委員会が設置され、本年5月にアナン国連事務総長にその報告書が提出されました。日本としては、報告書の成果も踏まえ、ODAを活用し、「人間の安全保障」を具体的に実現するために取り組んでいきます。

(ODAの戦略的活用)

 「平和の定着」を実現していく上で、日本にとってODAは引き続き重要な外交手段です。しかし、近年の厳しい経済・財政状況がございまして、ODA予算は過去6年で27%減ったという大変厳しい状況に直面しています。

 日本のODAは、日本人が思っている以上に海外で高く評価されています。私はこのあいだカンボジアに行きましたけれども、カンボジアやラオスでは、日本への感謝の気持ちを表すため、日本の援助でできた橋や道路が記念切手やお札の絵柄に使われています。また、アフガニスタンやイラクにおける復旧・復興支援などに見られるように、ODAの「需要」は増大しています。日本が限られたODA予算で自らの安全と繁栄を確保するという目的を最大限達成しようとすれば、国民の理解と幅広い参加を頂いた上で、ODAをこれまで以上に戦略的に活用していくということが不可欠であります。

 私は、そのため、就任以来、ODAタウンミーティングやパブリック・コメントを通じて様々な意見を広く伺いODA改革に取り組みまして、ODA大綱の見直しが最後の段階にありますが、精力的に取り組んでいます。

 今週末にも閣議決定される予定であるODA大綱では、ODAの目的を、国際社会の平和と発展に貢献し、それを通じて日本の安全と繁栄の確保に役立てることであると明確にしました。また、重点分野として、平和の構築や「人間の安全保障」の要素も盛り込むほか、NGOをはじめとする援助関係者との連携や国民参加のODAを推進することも明記しています。政府としては、新しいODA大綱に基づき、開発途上国の貧困削減や持続的成長の実現、地球的規模問題の克服、平和の構築などに貢献していく方針です。このようにODAを戦略的に活用していくことは、我が国が国際社会の秩序やルールづくりに積極的な役割を果たしていく上で極めて重要です。

(TICAD III )

 9月の終わりに東京で第3回アフリカ開発会議(TICAD III )を行います。ここでも「平和の定着」は重要な論点の1つとなります。TICADは、冷戦後、国際社会から忘れられかけていたアフリカの開発問題への関心を呼び戻すため、1993年、10年前に日本が第1回会議を東京で開催して以来続いている日本独自のイニシアティブです。近年、アフリカ諸国が自らの手でアフリカの開発を進めようとする前向きな動きが見られており、日本をはじめとする国際社会は、この動きを支援することが必要です。

(国際平和協力)

 また、「平和の定着」のためには、国連平和維持活動(PKO)も重要な役割を果たしています。私は、日本の憲法の制約を踏まえつつも、国際社会の平和構築に向けた国連のPKOの活動に対して積極的に参加し、自らの強い決意を具体的な行動で示すべきだと考えています。日本は、東ティモールやゴラン高原への要員派遣をはじめとして、国連PKOではG8の中でトップクラスの人的貢献を行っており、1992年に国際平和協力法が成立して以来、この10年間で国連PKOに延べ約4,600人の派遣実績を誇っています。

 また、日本は、「9・11」以降、国際社会の安定のために、迅速な人道救援活動の実施に努めるとともに、テロ対策特措法、イラク特措法といった、自衛隊部隊の派遣を可能とする法律を整備するなど、国連PKO以外の分野での国際の安全と平和を求める活動にも着実に取り組んでいます。

 イラク特措法をめぐる国会での議論の中には、事態が起きる度に特別措置法を整備するのでは、適切なタイミングで日本が貢献を行うことが難しいという問題意識から、国際平和協力に関する一般法を制定すべきではないかというご意見も伺いました。

 昨年12月に発表された国際平和協力懇談会の報告書では、この点も含め様々な具体的提言が盛り込まれています。政府は、こうした提言も踏まえ、今後の日本の国際平和協力のあり方につき、日本は国際社会においていかなる役割を果たすべきか、という能動的な発想から検討を進めていく考えです。

 また、報告書の提言にもあるとおり、国際平和協力に求められる人材をいかに育成していくかも今後の課題の1つです。私は、アフガニスタンを訪問した際、現場で奮闘するNGOの方々を始めとする日本人関係者の姿に感銘を受けました。国際協力を形にしていくのはこういった人達の存在です。政府は、人材育成の方法を幅広く検討し、具体的に実施可能な行動計画を作成するため、近く「人材育成検討会」を開催する予定です。

(国連改革:安保理改革)

 以上述べてきた外交課題に対し国際社会が一層効果的に対処するためには、国連がその機能を強化することが必要です。今後の日本外交の第3の課題は国連改革への取組です。

 国連は、イラクに対する軍事行動の際には、主要国間の立場の違いからその役割を十分に果たすことができませんでした。しかし、国連は、国際的な取組に対して、法的・政治的な正統性を付与することができる最も普遍的な、そして中心的な枠組みであることに変わりはありません。そのような国連を強化し、効果的になるよう改革を行い、改革された国連において日本が然るべき役割を果たすことは日本外交にとって極めて重要です。

 なかでも安保理の機能を強化する必要性は、今や加盟国の総意となっています。国連の信頼性が傷付いている今こそ、これを改革の好機と捉え、安保理の改革実現に向け、全加盟国が真剣な努力を行うべきです。日本は、これまで加盟国で最多の8回非常任理事国を務めております。このほか、国連の内外において様々な貢献や協力を行っています。安保理改革が実現する暁には、日本は常任理事国として一層の責任を果たす決意をもっています。

(国連改革:財政改革)

 国連の重要性がますます高まる一方で、活用できる資源には限りがあります。国連の活動を支えていくためには、資源配分の見直しなど、国連財政の一層の合理化・効率化が不可欠です。また、各国による着実な分担金の支払いも必要です。国内では、国連予算の約2割を支払っている日本がイラク問題に関する安保理の議論に直接参加できなかったこともあって、当面日本が常任理事国入りできない以上、分担金を真面目に払い続ける必要はないという意見も耳にします。

 私は、日本が国連憲章上の義務である分担金の支払いを誠実に行っているからこそ、財政改革に関する日本の発言力が維持できていると考えます。しかし、国連財政を一層効率的かつ透明なものとし、また各国の分担率をより均衡のとれたものにすることは国連改革の中でも緊急の課題です。日本は、2000年の分担率交渉において約1%の分担率の引き下げを実現しました。分担率の算定方式の次回交渉は2006年に予定されていますので、日本は、現在の厳しい経済・財政状況等も踏まえて、より均衡のとれた分担率の実現を目指し、各国の理解を得るべく既に水面下の働きかけを行っています。

(国連改革:邦人職員の増強)

 また、国連事務局に勤務する邦人職員数は望ましい水準の三分の一程度に過ぎません。日本には即戦力として国際機関で活用できる、語学力・学位を持った優秀な人材がもっといると思います。こうした状況を改善するため、政府は、ハローワークや民間企業に協力を依頼したり、また、在外公館を通じて、情報提供の強化や優秀な人材の発掘に取り組んでいます。

 私は、近々、国内各層の参加を得て、国連改革に関する有識者懇談会を発足させ、安保理改革や財政改革、邦人職員の増強等の実現のために日本がとるべき施策について、来年の5月を目途に提言にまとめていただく予定です。このようなプロセスを通じて、政府のみならず、オールジャパンで国連改革に取り組んでいきたいと考えています。

(終わりに)

 最後に幾つか申し上げさせて頂きます。

 国際社会は引き続き多くの外交課題に直面しています。こうした諸課題に有効に取り組むに当たっては、軍事的、経済的、政治的に圧倒的な力を有する米国の存在を抜きにしては考えられません。同時に、複雑な要素が絡み合った諸課題を解決するためには、国際社会が協調することが不可欠です。

 国会での質疑の機会に、日本は日米同盟重視か、国際協調重視かという質問をよく受けますが、私は、日米同盟を重視すると同時に、国際協調も同じく重視することで、日本が自らの安全と繁栄を最大限確保することができると信じます。日本としては、今後とも、米国と緊密に連携・協調し、同時に、日米同盟関係が真にグローバルな「世界の中の日米同盟」として一層重要な役割を果たしていくことができるよう、米国と共に国際社会と協力して問題の解決に取り組む必要があります。

 本日、私が申し上げました今後の日本外交の課題の中には、短期的には実現が困難なものもございますけれども、日本の国益を確保するためにはいずれも必要なものだと考えます。政府としては、国際社会において日本が果たすべき役割について引き続き、国民の皆様の知恵も頂きながら、外交を推進していきたいと考えます。

 ご静聴ありがとうございました。