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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] スリランカ復興開発に関する東京会議における川口外務大臣スピーチ

[場所] 東京
[年月日] 2003年6月9日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

ラニル・ウィクラマシンハ・スリランカ首相閣下、

東京会議共同議長の皆様、

各国政府並びに国際機関の代表者の皆様、

ご列席の皆様、

 本日、ご列席の皆様をお迎えして、「スリランカ復興開発に関する東京会議」を開催できることを、大変光栄に思います。

 本年1月、私はスリランカを訪問しました。滞在中、旧紛争地域である北部を訪れ、荒廃した街や多数の弾丸の跡が残る家々を目の当たりにし、過去20年間、内戦に苦しんだ住民の悲しみを肌で感じました。同時に私は、ノールウェーの優れたfacilitationの下で和平プロセスが進む中、住民の中に将来への期待と希望が生まれつつあることも実感しました。そして、スリランカに永続的な平和をもたらすためには、国際社会が、このような人々の希望を積極的に後押ししなければならないと確信しました。

(スリランカにおける「平和の定着」への貢献)

 ご列席の皆様

 わが国は、アジアの一員としてスリランカと伝統的に深い友好関係を有しております。そしてわが国は、最大支援国として、スリランカの社会経済開発に積極的に貢献してきており、1960年代半ばより、これまでに累計30億ドル以上の支援を実施し、現在、国際社会からのスリランカに対する援助全体の約半分に達しております。わが国のスリランカ和平プロセスへの支援は、このように密接な友好協力関係を背景としています。

 わが国は、現在、「平和の定着」イニシアティブを推進しております。これは、宗教・民族に起因する紛争が頻発するなか、紛争解決のための外交努力から復興開発に至るまでのシームレスな取り組みを進めようとするものです。このアプローチは、既に東チモールやアフガニスタンにおいて実績を挙げており、今回のスリランカの和平プロセスへの積極的な関与もその一環であります。明石政府代表は、昨年10月以降、4度にわたりスリランカを訪問し、政府要人やLTTE上層部と会談を行うとともに、北・東部や南部の各地を訪問し、現地事情を具に視察する等、活発に活動しています。また、昨年12月のウィクラマシンハ首相の訪日、1月の私のスリランカ訪問など、両国間の要人往来も活発化しました。また、日本政府は、本年3月、第6回スリランカ和平交渉を箱根において開催しました。更に、先月開催されたG8外相会合において、私からG8としてスリランカ民族紛争の解決に向けた前向きな動きを支持することの重要性を指摘しました。そしてこの度、「スリランカ復興開発に関する東京会議」を主催する運びとなりました。

 ご列席の皆様

 今回の会議にLTTEが欠席したことは大変残念であります。しかし、もしこの会議が予定通り開催されなかったとすれば、それは長年にわたり苦しんできたスリランカ国民に、取り返しのつかない損失を与えることになりかねません。本日ここに、多数の国、国際機関並びに、シビル・ソサエティ、民間部門の参加を得て、会議が予定通り開催されたことは大きな喜びです。東京会議の準備には、多くの方々が貢献されました。特に私は、スリランカ政府及びLTTEの両当事者と協力しつつ、北・東部復興開発に関するニーズ・アセスメントを実施された世界銀行、アジア開発銀行、国連システムに感謝の念を申し上げたいと思います。また、東京会議に向けてワシントンでセミナーを開催された米国政府、特に議長を務められたアーミテッジ国務副長官にも感謝の意を表します。

(今後の支援策の考え方)

 ご列席の皆様、

 国際社会は、スリランカの人々の和平達成に向けた自助努力を後押しするために、スリランカの人々の支援を強化すべきです。一方、和平交渉の当事者は、国際社会の支援を得るためには、和平の進展に向けて真摯に取り組むことが不可欠だということを認識する必要があります。わが国は、このような考えの下、「北東部復興開発に関するニーズ・アセスメント」、「リゲイニング・スリランカ(スリランカ開発計画)」及びこの二つの文書を結び付ける「連結文書」についての検討を踏まえ、和平の進展状況を十分見極めながら、向こう3年間で最大10億ドルまでの支援を行っていく用意があることを表明いたします。この意図表明は、スリランカ和平を支援するために、わが国として成し得る最大限の措置を取りまとめたものです。なお、スリランカ側においては、わが国を含む国際社会からの支援の円滑な実施が確保されるよう、受入能力の強化に向けた努力を進めることが必要です。この観点から、先程、ウィクラマシンハ首相が表明したイニシアティブを歓迎します。

 今後、わが国と国際社会による対スリランカ支援の実施に当たっては、次のような諸点に留意することが必要であると考えます。

 第一に、国際社会による支援が和平プロセスを促進するものになるためには支援の実施を和平プロセスの進展と相互に関連づけることが重要であり、両当事者は国際社会からの支援を当然視すべきではありません。今後、国際社会としては、和平プロセスの進展を緊密にモニターする必要があり、わが国としては、他の共同議長国およびドナー国と協力しつつ、このための作業に積極的に貢献する用意があります。

 第二に、和平プロセス進展のためには、地域・民族の区別なく、スリランカ国民全体があまねく平和の配当を享受することが重要です。そのため国際社会が支援を実施するに際しては、地域間、共同体間のバランスに充分な配慮を払うことが必要です。

 第三に、激しい内戦で荒廃した北・東部への緊急人道支援の実施は急務です。すでにわが国は、国内避難民救済、この6月に着工されるキリノッチ病院改修、及び、わが国NGOによる北部地域巡回診療プロジェクト等2500万ドル以上の支援を行っており、引き続きこのような支援を進めます。また、人道・復興支援の前提となる地雷除去のための支援も積極的に実施してきており、今後出来る限り早期にスリランカが対人地雷禁止条約(オタワ条約)を締結することを期待します。

 第四に、スリランカ全体の国造りや経済社会開発を視野に入れて、中長期的な支援を着実に実施することも重要です。このような観点から、わが国は、本年3月、地方農村部において小規模なインフラを整備するプロジェクト等に対し、2.8億ドルの円借款供与を決定しましたが、引き続きこのような支援を実施します。支援に当たっては、環境・社会面への配慮がなされていることを確認します。

 第五に、政府や国際機関の力だけで効果的な支援を行うことは出来ません。シビルソサエティや民間セクターとの緊密な連携が極めて重要であります。今回、この東京会議にこれらの代表者の参加が得られたことは、重要な成果だと思います。

 ご列席の皆様

 これまで6回にわたる和平交渉では、いくつかの重要な進展が見られました。しかし、永続的な和平を達成するためには、まだまだ多くの課題が残されています。わが国は、本日の会議に欠席しているLTTEが早急に和平プロセスに復帰し、両当事者の最大限の努力によって和平プロセスが実質的に進展することを強く期待します。

(結び)

 ご列席の皆様

 スリランカは、インド洋に浮かぶ美しく可能性に満ちた国です。しかし、過去20年間にわたる内戦により、多くの住民の血と涙が流されました。私は、スリランカの両当事者による真剣で主体的な努力と、国際社会による力強い一致した支援が結びつくことによって、近い将来、永続的な和平が達成され、スリランカが「インド洋の宝石」として光り輝く日が来るものと信じております。それは、平和的な交渉により、民族紛争を解決し、テロに終止符を打った例として、国際社会が長く記憶にとどめるモデルともなるでしょう。

 ご静聴有り難うございました。