データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第2回民主主義閣僚級会合における川口外務大臣スピーチ

[場所] 
[年月日] 2002年11月11日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

ご列席の皆様、

 本日、私がソウル市を訪れました理由は明白です。と言いますのは、崔成泓(チェ・ソンホン)外交通商部長官が昨晩の夕食会で述べられたように、韓国が民主化の素晴らしい例を示しているからです。韓国はごく短期間のうちに目覚しい経済発展を遂げたばかりでなく、強固な民主主義を築きました。

 皆さんは、行政手続きを簡略化し、より透明性のある政府を作りだすためにソウル特別市が取っている措置をお聞き及びでしょうか。この措置は「民事処理オンライン公開システム(Online Procedures Enhancement for Civil Applications)」と呼ばれるものですが、通称「OPEN」という名で知られています。このシステムは、ソウル特別市による事務サービスや許認可に関する様々な情報を提供するものです。これにより、申請者は申請の処理状況をインターネット上で追っていくことができます。このような透明性の確保のための具体的措置は、まさに良い統治を強化するものであると考えます。

ご列席の皆様

 透明性、責任、参加というのは、民主主義の3つの重要な柱です。しかし、これらの要素は個人の人材育成(エンパワーメント)なくして達成することはできません。日本では元来、「国づくりは人づくりから始まる」と言われます。民主主義が機能するためには、個人の能力を高めるための不断の努力によって、エンパワー(人材育成)された市民及び市民社会を育てなければなりません。このため、我が国は、数世紀にわたって、教育に重点的に投資し、民主主義の担い手となる市民を育成するために教育プロジェクトを支援してきました。最近の例としては、アフガニスタンにおいてUNICEF(国連児童基金)を通じて成功裡に実施した「バック・トゥー・スクール キャンペーン」があります。

 しかし、エンパワー(人材育成)された市民は、「法の支配」なくして、政治過程に参加することはできません。従って、この必要不可欠な法の支配を実現し強化することがきわめて重要です。この考え方から、例えば我が国は、カンボディアやベトナムにおける法整備や司法分野の人材育成支援を実施しています。

 更に、世界で民主主義を促進していくためには、人間一人一人の尊厳を脅かす深刻な問題に取り組むために具体的な措置を取らなければなりません。紛争、犯罪、文盲、伝染病、ジェンダーの平等の否定、居住の不足、飢餓といった問題がこれにあたります。こうした問題は、いずれも人々を単なる生存のレベルに押し下げるものです。従来の「国家の安全保障」の考え方では、こうした問題に適切に対処することができないため、我が国は「人間の安全保障」の考え方を提唱しました。これは生存や生活や尊厳に対する脅威から個人を守り、個人の潜在的能力を引き出すため人間個人に着目した考え方です。この考え方に基づいて、わが国は「人間の安全保障基金」を通じて様々なプロジェクトを実施してきました。

ご列席の皆様、

 今日の国際社会における急速なグローバル化の進展は、民主主義に新たな機会と挑戦を生み出しています。はじめにご紹介したソウル市のOPEN制度に見られるように、近年、目覚しいIT技術の革新は市民の政治参加を促進してきています。この新しい機会をとらえて、我が国は、九州・沖縄サミットの際に、全世界の人がこの現代の技術から裨益できるように、デジタル・ディバイドの解消についての議論を積極的に行いました。

 他方、わたしたちは、昨年NYで、今年バリ島そしてフィリピンで、忌まわしいテロを経験しました。テロは民主主義に対する重大な挑戦です。わたしたちは、民主主義国の代表として、テロに対して断固として反対し、テロと闘う決意を世界に対して示さなければなりません。

 テロが民主主義に対する外からの脅威である一方、腐敗は、民主主義への内からの脅威です。腐敗とは、即ち、ガバナンスに責任を負う者がそれぞれのオーナーシップ及び責任を放棄することです。このため、現在、国連腐敗対策条約交渉が積極的に進められています。また、韓国政府が「腐敗に立ち向かう第三回グローバル・フォーラム」を来年開催することを歓迎します。

ご列席の皆様、

 わたしたちは、マウスを一回クリックすることによって、数十億米ドルもの資金が動く世界に生きています。機会と富を手に入れた人々がいる一方で、生まれながらに戦争と貧困の中に生きている人々もいます。こうした不均衡は世界のガバナンスのシステムの欠陥から生じている面もあります。一国のレベルで民主主義について議論することは十分でありません。グローバル化によりもたらされた否定的な面を意識し、よりよい世界を構築するための方策を模索しなければなりません。

ご列席の皆様、

 急速なグローバル化の進展が呈する挑戦に直面して、わたしたちは民主主義の将来を楽観視することはできません。しかし、同時に過度に悲観する必要もありません。この会合が将来における民主主義の新しい可能性を切り開くものになることを心から希望します。

 この会合がすべての参加者の大いなる叡知を共有する機会となることを祈念しつつ、乾杯させて頂きます。

 韓国語で、コンベ!