データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ASEAN+3(日中韓)外相会議における田中外務大臣ステートメント

[場所] ハノイ(ベトナム)
[年月日] 2001年7月24日
[出典] 外交青書45号,274−275頁.
[備考] 
[全文]

1.ASEAN+3における協力の原則

 ASEAN+3協力が進展していることを歓迎します。域内の諸国は夫々困難な問題を抱えていても、お互い共通する面を見いだし、一層の協力の増進につなげるために、このASEAN+3の場を活用していくべきと考えます。その際、ASEAN+3の対話と協力は、域外国に対して透明性を維持し、グローバルなシステムと整合的・補完的であるという意味で「開かれた」ものであることが必要です。

 ASEAN+3の枠組で、首脳会議の下に、外相会議の他、蔵相、経済閣僚、労働大臣の会議が発足し、農林大臣の会議も予定されるなど、広がりをもって発展しています。これらの会合が具体的成果を産んでいくように期待します。様々な会合がASEAN+3の枠組で行われている中で、全体を把握し、必要な際には調整することは、外相会合プロセスの課題と考えます。

 我が国としては、ASEAN+3での対話と協力の強化に引き続き貢献していく考えです。

2.地域情勢・国際情勢

(1)アジア経済(特に日本経済)

 97年の金融危機後、急速に回復を遂げたとはいえ、アジア経済の先行きは厳しく、各国における改革の継続により力強い発展を成し遂げることを期待しています。

 我が国は、「構造改革なくして景気回復なし」との考えの下、聖域なき構造改革に取り組んでいます。具体的には、「骨太の方針」に基づき、2、3年以内に不良債権問題を抜本的に解決するとともに、構造改革プログラムをパッケージとして実施致します。こうした改革努力により我が国経済が回復することで、アジア全体の経済成長に貢献したいと考えます。

 ジェノヴァ・サミットにおいても、小泉総理より、こうした改革の推進により、日本経済は必ずやその持てる力を取り戻し、世界経済における責任も果たせると考える点を強調されました。その結果、各国首脳から力強い支持を得たところです。

  我が国は、各国への直接投資を通じて、アジア諸国の産業育成・雇用促進に協力してきました。こうした協力を続けるため、各国の更なる投資環境改善に期待しています。

(2)中国のWTO加盟

 中国のWTO加盟実現への目途が立ったことを歓迎しています。中国を含めた東アジア域内の貿易投資が国際的ルールに則り、着実に拡大するよう協力していきたいと思います。

(3)国連改革

 国連について一言申し述べます。韓国の韓(ハン)大臣が次期国連総会議長に就任されるところ、アジア諸国としても、安保理改革を含め韓大臣を盛り立てていきたいと考えます。

(4)インドネシア情勢

 民主的かつ透明性のあるやり方で、新しい大統領がインドネシア国民の代表によって選ばれたことを歓迎します。インドネシアの安定は、アジア太平洋地域の安定にとって重要であると認識しており、我が国としては、同国の改革努力に対する支援を継続する考えです。

 我が国はインドネシアの領土の一体性を支持しており、 アチェ、イリアン・ジャヤ等の地方における問題については、インドネシア政府が人権状況に最大限配慮しつつ、平和的に解決することを強く期待しています。

(5)朝鮮半島情勢

 朝鮮半島を巡っては、昨年6月の歴史的な南北首脳会談の開催以降、南北対話が進展し、北朝鮮と欧州諸国との間で外交関係が開設される等、前向きな流れが見られます。

 今後とも、こうした前向きな動きが継続し、安全保障上の懸念や人道・人権上の問題が払拭されることを期待しています。

 我が国としても、引き続き、金大中大統領の包容政策を支持しつつ、韓米両国との緊密な連携の下、日朝国交正常化交渉にねばり強く取り組んでいく考えです。

 先般のジェノヴァ・サミットにおいても、各国の賛同を得て、以上のような我が国の考え方を反映した明快なメッセージが発出されました。

3.「東アジアにおける協力に関する共同声明」の実施状況のレビュー

(1)総論

 99年の首脳会議で採択された「共同声明」は、今後の地域協力の方向性を示すものであり、我が国としてもその具体化に積極的に取り組んでいます。また、「共同声明」に含まれる全ての分野において着実に協力を進めることが重要です。

 更に、現在ASEANが積極的に取り組んでいる「ASEAN統合イニシアティブ(IAI)」の重要性を認識しつつ、この場では、特にITとメコン河流域開発に絞って我が国の取り組みを紹介いたします。

(2)IT

 ITについては、e−ASEAN枠組合意などのASEANの努力を高く評価しており、我が国としてもASEANの取り組みを踏まえて、ASEANとの協力を発展させたいと考えています。

 我が国は、「IT包括的協力策」を、アジアに重点を置きつつ具体化してきています。各種協議の結果を踏まえ、具体的プロジェクトが動き始めています。

 また、「東アジアIT協力会議」を本年9月に岡山で開催します。各国の積極的な参加と協力をお願いします。

(3)メコン河流域開発

 メコン河流域開発は、ASEAN新旧加盟国の格差是正を通じてASEANの統合強化にも資するものとして、今後とも積極的に支援していきたいと考えています。

 ただ、既存の多くの組織・枠組みを整理・合理化し、新たな旗艦プロジェクトの選択・形成するため、関係国間での議論を進める必要があります。

 その観点から、我が国は、先週政府ミッションをADB(アジア開発銀行)と共同で流域国に派遣し、密度の濃い協議を行いました。このミッションの結果を踏まえ、環境にも配慮しつつ、持続的な開発を進めるために、如何なる協力を行っていくかにつき、今後具体的に検討を進めたいと考えています。

(4)その他(国境を跨ぐ問題等)

 ASEAN+3の枠組でも、海賊、麻薬、人の密輸、環境、エイズ等の国境を越える問題に取り組み、着実に成果を出していきたいと考えます。

 また、中長期的なアジアの繁栄と安定のためには、アジアのエネルギー安全保障の強化が一層重要となります。ASEAN+3各国としてもこの問題に積極的に取り組んで行くことが必要であると考えます。