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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] アフリカに関する安保理閣僚級会合における高村外務大臣演説

[場所] ニューヨーク
[年月日] 1998年9月24日
[出典] 外交青書42号,216−219頁.
[備考] 
[全文]

議長、

事務総長、

御列席の皆様、

 私はまず、本日の議長であるスウェーデンのイェルムーヴァレン(Hjelm-Wallen)外相に対し、本日の会合の開催につき、日本国政府を代表して謝意を表明いたします。本日、閣下の采配の下で、こうして国際社会がアフリカの問題につき再び集中的な討議の機会を得たことは、極めて有意義なことであると考えます。

(1.アフリカ問題の緊急性)

議長、

 今日、世界は、経済生活におけるグローバリゼーションと環境、人権などの社会生活における世界の一体化の状況の中で、政治、経済、社会の分野において生起する問題に対して地球コミュニティの立場から取り組まなければならないという、人類にとって全く新たな時代に入ろうとしています。このときに当たり、国連加盟国の4分の1を超える国々を擁し、人口比でも世界の13.1%を占めるアフリカが、21世紀の世界とって{前5文字ママ}どの様な役割を果たす存在になるのかは、21世紀の戸口に立つ国連にとって喫緊の問題であります。安保理が取り扱う案件の7割をアフリカにおける紛争が占め、96年にはアフリカの53カ国のうち14カ国が紛争の影響を受け、800万人以上の難民を生み出しているという状況は、地球全体の平和と繁栄を実現する上で放置することのできない状況と申せましょう。アフリカ問題に取り組むことは、国際社会にとっての緊急の課題なのであります。

(2.国連は何をなすべきか)

議長、

 1年前に安保理が閣僚レベルで会合を開いたのは、まさにこのような緊急性と重要性を見通したからに他なりません。安保理の付託を受けた事務総長が、アフリカにおける紛争の原因を分析した上で、紛争を予防し解決するための方策、そして永続的平和と持続可能な開発の方策について広範な勧告を行ったことを受けて、我々は、アフリカに対する自らのコミットメントを宣明し、事務総長報告で提起された諸問題に対して安保理として、また国連全体としてどう取り組むべきかについて、改めて閣僚レベルで真剣な議論をする機会をもつことになりました。

 アフリカにおける紛争予防と開発問題は密接不可分に結びついております。この様な見地から、私は、本日我々が発出すべき議長声明の中で、安保理が、アフリカにおける武力衝突に対する対症療法ではなくて、紛争の根本原因に立ち返って分析を行い、紛争を予防し紛争後の経済社会を開発するために政治、経済、社会の各分野にわたる包括的なアプローチでこのアフリカの状況に取り組むとの決意を明らかにすることの重要性を強調したいと思います。同時に、このアフリカ問題に対する対処は長いプロセスであり、本日の安保理会合は一つの節目に他なりません。

 アフリカ諸国が自らのイニシアティヴに基づいて、まず第一に、紛争の根本原因である経済社会問題の解決に努めること、第二に、不幸にして紛争が発生するに至ったときは、早期に政治的な和平プロセスを取り進めること、そして第三に、紛争後の社会の再統合及び経済発展の基盤の整備に従事することが不可欠であります。そしてこのようなアフリカ諸国の努力に対して、これを実効あるものにするための枠組みを作り上げることについて国際社会全体として、精神的にも物質的にもパートナーとして協力することが求められているのであります。そして、今日我々に期待されているのは、国連、就中、安保理としてそのような息の長い取り組みのための必要な戦略的枠組みの内容を構成すべき具体的提言を行うことに他なりません。

(3.わが国の貢献)

議長、

 私は、必ずやアフリカには明るい未来が来るものと信じております。既にわが国は、只今述べた問題意識と、そしてアフリカの将来に対する楽観的な見方に基づいて、1990年代の初めから紛争と開発の不可分性を念頭においた「新しい開発戦略」を推進すべくイニシアティヴをとって参りました。因みにわが国は、1993年に東京で第一回の「アフリカ開発東京国際会議(TICAD)」を開いて以来、1994年バンドン、1997年バンコクと2回アジア・アフリカ・フォーラムを開いて新開発戦略に基づいて再々協力の具体化を図り、又象牙海岸、ジンバブエ、ブルキナファソなどにおいて新開発戦略のアフリカにおける応用のためアフリカ諸国及び他のドナー国の協力を取りまとめるなどの努力を払って来ております。そしてわが国は、これらの成果を踏まえて、本年10月には「第二回アフリカ開発東京国際会議(TICADII)」を開催することとしています。

 更に最近では、アフリカを念頭に置いた紛争予防の包括的な戦略を作成するべく1月に東京で「紛争予防戦略に関する東京国際会議」を開催しました。

 具体的には、紛争予防の分野では、1月の東京会議は、紛争予防戦略のコンセプトが国連、地域機関、加盟国、そして市民社会の全てを包含した形で策定されるべきこと、経済社会開発と国民の福利が紛争予防の前提であるとの認識に立って貧困の撲滅や人権尊重を伴う民主主義の建設に向けた努力の重要性が強調されるべきことなど、七つの政策提言をまとめました。更に、東京会議の報告書は、当面の措置として、国連と地域機関がアフリカ諸国の紛争予防能力特に早期警戒能力を向上すること、紛争地域への小火器の流入蓄積の問題を効果的にモニタリングすべきことなど、六点を勧告しています。

 TICADIIでは、今や約20カ国のアフリカ諸国が年率5%以上の経済成長を達成しているという事実を踏まえて、新しい開発戦略をアフリカに適用するための具体的な行動計画の採択が予定されています。TICADIIで提案される行動計画に於いては、社会開発、経済開発と並んで、開発の基礎である安定を確保するための紛争予防と紛争後の復興の問題の重要性が指摘され、そのために取られるべき措置として、紛争中の緊急援助から復興支援への移行確保、難民の安全確保等を掲げております。また、動員解除後の戦闘員及び難民に対する職業訓練と社会への再統合の問題の他、特にアフリカに於いて紛争前及び紛争後の社会安定にとって最も大きな阻害要因の一つとなっている小火器の問題についてその違法な移転の制限等に向けた行動を国際社会として確認することを予定しています。

 わが国としては、このような開発・紛争問題に対する「新しい戦略」の内容をアフリカ各国が具体的な形でそれぞれのナショナル・プランとして構築し、これを実施に移していくことが大切だと考えます。そのためにわが国は、当該国政府、他のドナー及び国連とも力を合わせてモデル・ケースとなる国々の自発的意見に基づいてその具体化を進めたいと考えております。こうしたわが国のアフリカヘの協力は、本日我々が安保理で審議しているアフリカの紛争・開発問題に対する包括的戦略の一環をなすものと位置づけられるものです。わが国自身のイニシアティヴは、このような戦略を実際に動かしていくための触媒としての役割を目指すものであり、それによってアフリカ諸国と国際社会、国連の各機関との戦略的かつ継続的なパートナーシップが具体化されることを希望しています。

(4.結語)

議長、

 わが国は、このようなアフリカ問題に対する現状の認識に基づき、国連における取り組みが包括的に行われるよう努めるとともに、国連を中心とする国際社会の取り組みにおける触媒として機能したいと考えています。志を同じくする国々と力を合わせ、共通の目標に向かって努力していく考えです。

 最後に、御列席の中国代表のお許しを得て、中国の紀元前の高名な思想家孟子の格言を御紹介したく思います。彼は、「天の時は地の利にしかず、地の利は人の和にしかず」と述べました。その意味するところを我々が直面するアフリカの課題との関連で解釈すれば、今こそ、アフリカ諸国を含む全ての加盟国、アフリカの地域機関、そして国連システム全体が、具体的な前進を図るために力を結集すべきであるということになりましょう。国際社会が団結し、アフリカの平和と開発という歴史的な挑戦にともに取り組むことを呼びかけさせていただき、私の発言を終えたいと思います。

 有り難うございました。