データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 対人地雷全面禁止条約署名会議における小渕外務大臣演説

[場所] オタワ
[年月日] 1997年12月3日
[出典] 外交青書41号,249−251頁.
[備考] 
[全文]

(序)

 議長、ご列席の皆様、

 本日、日本政府を代表して対人地雷全面禁止条約の署名式においてご挨拶を行う機会を得ましたことは、私にとり大きな喜びであります。この条約の作成に大きな役割を果たしてこられたカナダ政府、関係諸国、国際機関、さらに、NGOを含む関係者の皆様に対し、深甚なる敬意を表します。

 世界各地で埋設された対人地雷の犠牲者は1日当たり70人近くにのぼると言います。そのうち5人に1人は15歳未満の児童であります。私は、つい2週間ほど前、ヴァンクーヴァーにおいて、アックスワージー外相より対人地雷から解放される子供をモチーフにしたバッジを頂きました。私が、9月に外務大臣に就任して以来、この問題を最優先課題の1つとして真剣に取り組んできましたのもこのバッジに込められたのと同じ切実な思いからでありました。

 私は、21世紀に私たちの子孫が地雷の脅威に晒されない世界に住めるよう、普遍的かつ実効的な条約の作成と地雷除去活動・犠牲者支援を車の両輪とする、包括的アプローチによる取り組みが不可欠であることを強く訴えたいと思います。

(対人地雷の条約による禁止)

 議長、

 我が国は、対人地雷の規制の面において、本年6月特定通常兵器条約の地雷等に関する改正議定書を率先して締結するなど積極的に取り組んで参りました。オタワ条約は、画期的な条約でありますが、この条約への署名は、我が国自身の防衛に密接に関わる問題であることから、容易ならざる決断でありました。しかし、地雷廃絶に積極的に取り組む我が国に相応しい姿として、署名という大局的な決断を行った次第であります。

(ポスト・オタワ・プロセス)

 議長、

 我が国としては、できるだけ多くの国がこの条約に署名することを期待しています。同時に、ポスト・オタワ・プロセスにおいて普遍的かつ実効的な対人地雷の禁止を目指す必要があります。このため、ジュネーヴ軍縮会議において、早期に条約交渉を開始すべきであり、まずは輸出の禁止を取り上げるとのアプローチを真剣に検討していきたいと考えます。

 なお、対人地雷の問題と同様の取組みが求められる問題として、自動小銃等の小火器の問題があります。我が国は、この問題の解決のために積極的に取り組んでいく考えであり、このため、明年の然るべき時期に、小火器に関する国際専門家会合を東京で主催する考えです。

(今後の対人地雷除去及び犠牲者支援への取り組み)

 議長、

 我が国は、本年3月、「対人地雷に関する東京会議」を主催いたしました。この会議では、除去活動、技術開発、犠牲者支援の3分野についてのガイドラインが合意されました。

 このガイドライン実践のため、我が国は、今後5年間を目処に100億円規模の支援を行うことを決定いたしました。これにより、地雷除去関連機材や技術の供与、義肢製作や職業訓練等についての技術協力、医療やリハビリテーション等にかかわる施設や機材の供与等を行う方針です。

 私は、一両日前、東京で民生技術により開発中の地雷探知装置を視察しました。この関連で、我が国政府は武器の輸出に関し極めて厳格な管理を行ってきたところですが、今後、人道的な対人地雷除去活動に必要な機材・技術に関しては、地雷被埋設国等への供与を可能とする決定を行いました。

 明年5月にはカンボディアで地雷被埋設国の経験を共有するための会議が開催されます。我が国は、カンボディア地雷対策センターの経験は、他の被埋設国にとり貴重なノウハウを提供するものと考え、この会議を積極的に支援する以降{前2文字ママ}であります。

 また、明年1月31日と2月1日、昨年に引き続き、「第2回NGO東京会議」が開催されますが、草の根の立場からきめ細かい国際協力が展開されることを期待したいと思います。

(結語)

 議長、

 私は、先日国際地雷禁止キャンペーン(ICBL)のトゥン・チャンナレットさんにお会いしました。来年2月の長野冬季五輪の聖火リレー最終走者の一人として、クリス・ムーンさんが参加されると聞いております。これらの方々のように対人地雷の犠牲となった多くの人々が、逆境を乗り越えて力強く生き抜いておられることに思いを致すたびに、私は対人地雷問題への取組みの決意を新たにしております。

 この条約への署名は、地雷による犠牲者ゼロへの国際的な取り組みにとって重要な一歩ではありますが、新たな出発点でなければなりません。このような思いから、私は、我が国政府の取り組みを「犠牲者ゼロ・プログラム」("Zero Victim" Program)」と名付けることとし、多くの関心国と手を携えて、21世紀のできるだけ早期に「犠牲者ゼロ」の目標を実現できるよう積極的な活動を展開していく決意であります。

 このポスターは、中曾根元総理が描かれたものです。世界各国の首脳の中で絵筆をもって「犠牲者ゼロ」の想いを表現した人は他にないかもしれません。永年にわたって選挙区の大ライバルであった氏の作品でありますが、テーマの普遍性と芸術性に鑑み、紹介申し上げる次第であります。

 ご静聴ありがとうございました。