データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第2回日伯閣僚協議会に於ける園田外務大臣のスピーチ

[場所] ブラジリア
[年月日] 1979年8月16日
[出典] 外交青書24号,365−368頁.
[備考] 
[全文]

ラミーロ・サライバ・ゲレイロ外務大臣閣下,

御出席の閣僚各位,

 本日ここに第2回日伯閣僚協議会が開催される運びになりましたことを大変喜ばしく思います。

 日本側出席者を代表致しまして,今回の会議開催の準備にあたられたブラジル政府関係者の御努力に対し深甚なる感謝の意を表したいと思います。

 私共は,ブラジルとの関係の重要性にかんがみ,かねてから,この閣僚協議会の開催を望んでおりましたが,1970年代から1980年代への転機ともいうべきこの時期に開催される運びとなりましたことは,まことに意義深いことと思います。私は今回の閣僚協議会においては,来るべき80年代を展望して,中・長期的視野から,日本とブラジルとの間の協調関係の基本的方向についてともに考えたいと思います。ここで特に申し上げたいことは,我々が目指すべき今後の日伯関係は,世界的視野にたつたものでなくてはならないということであります。

 フィゲイレード大統領閣下が,日,伯,墨を3本の柱として,アジアとラ米を結び世界の繁栄に貢献し,その中に我等の繁栄を見出すことを考えておられると聞きますが,私は全く同感であり敬意を表します。

 私は今回の閣僚協議会においては,こうした考え方を踏まえて新しい日伯関係の基礎をきずくべく,率直な意見交換が行われることを希望致します。

 さて私は,主として経済面におけるわが国外交の基本的立場を御説明するとともに,日本とブラジルとの経済関係全般について概観致したいと思います。

 わが国は,戦後一貫して,平和に徹し,国際社会全体の平和と繁栄の中に自らの平和と繁栄を求めることを基本政策として参りました。

 わが国経済は今や自由世界において米国に次ぐ規模にまで成長致しましたが,他方,世界経済に占めるわが国の比重が高まるに伴い,わが国の国際的責任と各国のわが国に対する期待もそれだけ高まつてきております。

 この様な認識に立つて,私はわが国の経済力とその国際政治に占める地位にふさわしい責任と役割を,国際社会において,より積極的に果して行くことを外交の基本方針と致しております。

 この様な考え方のもとに,わが国は貿易面においては,保護主義を回避し開放貿易体制を強化すべく,東京ラウンド交渉の妥結に最大限の努力を払つて参りました。

 また,本年5月,マニラで開催された第5回国連貿易開発会議においては大平総理自らが出席され,南北問題の解決のための国際的努力に対して積極的な役割を果しました。

 更に6月の東京サミットにおいてはエネルギー問題,インフレ,南北問題など世界経済が直面する諸問題に対して前向きな対応策を見出すべく,最大の努力を払つたところであります。

 これら,世界経済上の諸問題の多くは,長期的な見地からの対応策を必要としておりますが,わが国としては今後とも,これらの問題を解決するための国際的努力に積極的に参加して行く考えであります。

 80年代の大きな課題である南北問題は,わが国のとくに重視している問題であります。さして遠くない昔に近代化を開始したわが国は,開発途上国の願望と意欲に強い共感を覚えております。経済の発展と自立を達成したいとの開発途上国の期待に協力し,新しい時代を作ることは,我が国の責務であり,資本・技術の移転あるいはその他の開発途上国の自助努力にできる限りの協力を今後とも行つていく考えであります。

 そのためわが国は1980年までの3年間に政府開発援助を倍増することとしており,援助の分野としては,国造りの基礎としての人造りへの協力,及び世界の食糧問題の重要性に鑑み食糧増産への協力を特に重視していく方針であります。

 同時に,私は,開発途上国自身の意欲と主体的な努力が重要であること,及び,開発途上国もその経済力の拡大に応じて,世界経済の運営について相応の役割と責任を果す必要があることをここで強調致したいと思います。

議長

 わが国と中南米諸国との関係に目を転じますと,私は先ず,地球上で最も隔つた関係にあるにもかかわらず,両者間に伝統的に極めて友好的な関係が培われてきていることを喜ぶものであります。良く言われることでありますが,広大なフロンティアと豊富な資源に恵まれ,いわば無限の発展の可能性を有する中南米諸国と,資源に乏しく狭小な領土の上に高度の近代工業を築き上げてきたわが国とは,経済的に相補完しつつお互いの繁栄と発展を確保しうる,いわばお互いに「頼りがいのある友人」の関係にあります。私は今後ともかかる関係をできるだけ円滑かつ健全な形で発展させて行くことこそ,日本と中南米の関係において最も重要なことであると確信しております。

 幸い日本とブラジルとの間では,1976年のガイゼル大統領の訪日を始めとして官民の各種レベルにおいて益々緊密化しつつある人的交流を背景として,協力関係が概ね順調に発展しつつあります。

 ブラジルが中南米の中では最先進国であるところから,先程申し上げた日本と開発途上国,あるいは日本と中南米諸国一般との間の関係を,我々二国間の関係にそのままあてはめることは必ずしも適当ではないかと思われますが,私は,今後ともできるだけ多くのかつ高いレベルの人物交流を通じ両国間の協力関係を更に強化したいと思つております。

 日本とブラジルの貿易関係については,関係大臣より詳しい説明があると思いますので,詳細には立ち入りませんが,私としては,重要なことは両者が相互理解と信頼の上に立ち,貿易関係をできるだけ安定しかつ調和した形で拡大させて行くことであり,このために,わが国はブラジル側の輸出努力に対してできる限りの協力を行う用意のあることをこの際申し上げておきたいと思います。

 なお,わが国の一次産品輸入については,景気の動向に左右されるところも大きいと思われますが,わが国の経済情勢については関係大臣より説明があることと思います。

 投資については,私は,めざましい工業化を遂げつつあるブラジルとの経済関係の基盤を強化するとの観点から最も重要であると考えており,政府としても民間のイニシアティヴを基本にしつつ投資関係の健全な発展のために側面的な協力を惜しまない考えであります。

 投資関係の発展のためには,受入れ国側の投資基盤の整備が重要であることはいうまでもありません。私はこの関連で今後ともわが国の進出企業がより円滑な活動を通じてブラジル経済の発展に貢献することができるよう,従来よりブラジル政府の伝統とされて来た外資無差別政策がより強固な形で今後とられるよう祈念してやみません。

 次に経済協力について申し上げます。

 わが国の対ブラジル経済協力は60年から78年までの支出純額の累計で48.8億ドルに達しました。そのうち政府開発援助は9,400万ドルであります。

 政府直接借款については,1976年のガイゼル前大統領の訪日を機にプライア・モーレ港建設プロジェクトに対し総額1億ドルの資金協力を行うことが決定されましたが,未だに具体化するに至つておりませんので,できるだけ早く具体化の目途がつくことを期待したいと思います。

 国際協力事業団のブラジルに対する技術協力の実績について見ますと,ブラジル研修員の受入は1978年度末累計766名,わが国よりの専門家派遣575名と中南米の中で最大の実績を記録しており,将来更に増大することが期待されております。わが国としては,実務担当官レベルでの会合等を通じ,こうした技術協力を効率的に進めるため,更に努力を払う用意があります。

 なお,技術協力に関連して,ブラジル側が重視している科学技術面での協力についても,わが国の技術協力の基本的な枠組の中でブラジルが望んでいるエネルギー,医療,農業等々の分野での協力を積極的に進めて行く用意があることを申し上げておきたいと思います。

 最後に経済協力の大型案件でありますが,両国当事者の熱心な努力の結果,セラード農業開発プロジェクト,アマゾン・アルミ精錬プロジェクト,ツバロン製鉄所建設プロジェクト,鉄鉱石買付等,多くのプロジェクトがおおむね順調に進んでおりますが,中には当初の計画通り進捗していないものもあり,この点できるだけ当初の計画通り進捗するようブラジル政府の協力をお願いする次第であります。

 これらの諸協力案件の詳細については後に各大臣より言及されることと思いますし,午後の会議でも新規協力案件を含めて討議されることになると考えますので,その機会に譲ることとします。

 なお,アマゾン地域における豊富な太陽エネルギーを活用してマンジョカを栽培し,生産したマンジョカからアルコールを抽出しようというプロジェクトが両国の関係者の間で進んでおります。このプロジェクトはエネルギー資源多様化の観点より有意義なプロジェクトと考えられますので,わが国としても関心をもつて計画の進展を見守つていることをお伝え致したいと思います。

 以上述べました如く,日本・ブラジル両国の経済関係は近年一段と緊密化しておりますが,両国はこのほか移住,文化等の分野でも太い絆によつて結ばれております。

 私は今回の閣僚協議会を契機として,日伯両国が世界の平和と繁栄に役立つパートナーとして,そして古い,長い友人から,「お互いに頼り甲斐のある親類」へと,両国の結びつきが益々深まるよう希望するものであります。

 ありがとうございました。