データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第4回日豪閣僚委員会における鳩山外務大臣基調演説

[場所] 東京
[年月日] 1977年1月17日
[出典] 外交青書21号,48−52頁.
[備考] 
[全文]

 日豪閣僚委員会を開催するにあたり,遠路わが国においでいただいた豪州政府の閣僚,随員の皆様に対し,心より歓迎の意を表したいと思う。

 本委員会は今回で第4回目を数えるわけであるが,わが方としては,昨年末組閣された新内閣の最初の外交行事であり,又,昨年6月日豪間に友好協力基本条約が署名されて以来はじめての会議である。この会議は日豪協力という基本的枠組みの中で,その時々の問題を常に新鮮な態度と心構えで討議する場であり,その意味でいわば日豪間の進化しつつあるパートナーシップを象徴するものともいえよう。今回のこの会議を通じて両国がより一層相互理解を深め,協調の精神をもつて両国の直面する諸問題に対処するならば,日豪両国関係のみならず,アジア・太平洋地域全体の平和と繁栄にも寄与しうるものであり,すこぶる意義深い会合となるものと確信する。

1.国際政治情勢

(1)1970年代前半は,激動の時代であつたが,その後徐々に動揺からの脱却が図られつつあるやにうかがわれる。昨年は国際政治上比較的波乱の少ない年であつたが,米国始め幾つかの主要国において政権の交代が行われ,今後世界が新しい指導層の下に安定と協調に向つて前進することが期待される。

(2)アジア・太平洋地域においては安定と自立への模索が特に顕著である。指導者の交代を経た中国,戦後の復興に専念しつつあるインドシナ諸国,地域的連帯性の強化を通じて自助努力を推進しつつあるASEAN諸国等の動向とこれら諸国間相互の関係は,特に注目に値しよう。

 この間南太平洋ではパプア・ニューギニアの独立があり,ANZUS諸国とこれら新興独立国との間に域内協力の積極化の動きも見られる。

(3)これら最近の国際政治の変化を通じて指摘しうる特徴は,第一に国際政治の多元化,複雑化である。いまや2大陣営対立の時代と異り,各国は,対外関係において多方面に目を配りキメの細かい施策を講じていかなければならない。第2の特徴は,経済問題の比重が高まりいわゆる経済問題の政治化の傾向が高まつてきていることである。このような趨勢の中において日豪両国は,アジア・太平洋地域における安定勢力かつ経済的先進国として大きな責任を有するものであり,この自覚の上に立つて相互の協力を進めると共に,この地域における開発途上国に対する援助と協力の面でも今後一層協調していかなければならないと考える。

2.内外経済問題

 世界経済は,1973年の石油危機を契機として大きく変容し,嘗て経験したことのない高率のインフレ,深刻な不況と国際収支難という三重苦に直面するようになつた。

 この背景には各国間の相互依存性の深まりや石油価格の大幅上昇による産油国への購買力の移転とこれに伴う世界的な国際収支の不均衡等の問題を指摘できよう。

 世界経済は,このように大きな問題に直面したが,1975年央前後より回復を始め,インフレ率の低下・生産の回復と世界貿易の拡大が見られた。しかしながらこの回復過程においても失業率は,依然として高い上に先進国の間にも物価の鎮静化や国際収支の動向には国によつて跛行性がみられ一部西欧諸通貨に動揺がみられた。また76年夏以降は景気回復のペースも鈍つてきている。このほか南北問題も世界経済の中で引続き大きな問題となつており,今日世界経済は,これら諸問題に対して新たな対応を迫られている。

 このように問題は,世界的規模のものであり,かつ構造的側面を有するため,国際的な協力の必要性は,従来にも増して増大してきている。このための努力は,各種の国際機構,国際会議を通じて鋭意進められてきており,かかる認識と努力があつてこそ世界経済はその直面した問題の大きさにもかかわらず縮小均衡を避け,回復を続けてくることができたものと考える。ところで,1976年央から先進国経済の回復ペースが鈍化してきている上に,非産油開発途上国及び多くの先進国が未だ大きな国際収支赤字やインフレに悩まされている状況下にあつて,今回原油価格が引上げられたことは,これらの国に一層大きな負担を加えるものであり,諸問題解決のため各国間の協議や協力の必要性は一層増大していると考える。

 次に,以上のような国際経済情勢の中で,わが国経済がいかなる状況にあるかについては,第2議題の討議の場で詳細に説明することと致したい。

3.日豪経済関係

(1)貿易関係

(イ)現状

 続いて日豪貿易関係につき申し述べたい。日豪関係の中核は貿易関係にある。日豪貿易は,1960年から1975年の15年間に往復5億米ドルから,59億米ドルへと実に12倍の急速な拡大を示し,豪州にとつてわが国は,第1位の貿易相手国,また,わが国にとつて豪州は,米国に次ぐ主要貿易相手国の1つとなつており,かかる日豪貿易は,両国の経済的相互補完性を背景として今後も一層の拡大が期待される。

 このように深くかつ広い日豪間の相互依存関係にあつては,局部的あるいは短期的な摩擦は避け得ないことであるし,むしろ両国関係が緊密化しているからこそこういつた摩擦が生ずるのだともいえよう。これらの摩擦や問題に対して,日豪双方の執るべき姿勢は,第1に相互理解を深めることであり,第2に長期的見地に立ちつつ互譲を図ることであり,第3に局部的,短期的な問題によつて基本的・長期的な日豪間の全般関係を悪化せしめぬよう配慮することであろう。政府としてはかかる姿勢に立ちつつ問題の解決を図るため,その性質に応じ冷静に対処するに留まらず,日豪両国の民間関係者においても,同様の姿勢をもつてその時々に起り得べき問題を解決して行くようエンカレッジしたいと考える。

(ロ)豪州による輸入制限措置

 豪州政府は,国内産業保護の観点より工業製品の輸入に対し制限措置を採つているが,昨年11月の豪ドル切下げに伴つて一部の産品について関税引下げ及び数量制限の撤発を公表した。わが国としてはかかる貿易障壁撤廃の措置を高く評価するものであるが,しかし,わが国工業製品の中には今なお貴国の輸入制限措置の対象となつているものが多く,またかかる制限がかなり長期に及んでいるものもある。日豪貿易は,わが国の大幅入超であり,昨年は入超幅は,30億ドルに及んでいる。わが国は,必ずしも2国間貿易のバランスを求めるものではないが,かかる日豪貿易の不均衡にもかんがみ,貴国のイニシアティブによつて輸入制限措置が早期に撤廃されることを強く希望するものである。

(ハ)砂糖長期契約

 次に局部的な問題の一例として砂糖に関する民間長期契約の問題についてふれたい。1974年12月の契約締結後,国際砂糖価格が暴落したため,契約価格は極めて割高なものとなつており,このため,現在,わが国の砂糖業界は危機的状況に直面している。

 本問題は,基本的には,民間ベースで解決すべきものであるが,わが国政府としては,事態の重要性にかんがみ,豪側においても政府を含む関係者が,事情を十分理解され,長期的かつ安定的な日豪砂糖取引きの確保という観点から,双方の当事者が均衡のとれた利益を享受できるよう本問題に対処されることを希望する。

(ニ)牛肉

 わが国の牛肉の輸入割当について,貴国が関心を有しておられることは,わが国としても十分承知しているところである。

 わが国は,牛肉については,今後とも需要の増加が見込まれるのに対し,生産の急速な増加は,困難であり,不足分は輸入に依存せざるをえない事情にある。従つて,今後とも国内の牛肉生産に悪影響を及ぼさないよう十分注意し,主要供給国たる貴国側の事情にも配慮しつつ,できる限り安定的な輸入を行うよう努めていく所存である。

(2)漁業関係

 従来から本邦漁船は,豪州近海で操業実績を有し,豪州諸港に補給目的のため入港してきていると同時に,日本側関係業界は,豪州漁業の発達のため漁業協力を行つている。

 わが国漁船の入港期間について,貴国は,昨年11月わが国からの漁業協力をも考慮の上これを約2カ月間暫定延長するとの意向を示され,このラインに沿つて取りあえず延長が行われているが,わが方としては,日本側業界が誠実に漁業協力を行つてきていることにかんがみ,今月中に入港期間を更に2カ年間延長する取極が成立することを強く希望する。

 また将来新海洋秩序が導入された後も,日豪両国が相互理解,相互利益の観点より漁業分野での協力を継続していくことを期待している。

(3)資源・産業・投資関係

 次に資源,産業及び投資の分野における日豪関係につき申し述べたい。

(イ)鉱物・エネルギー資源

 わが国は,鉄鉱石・原料炭を始め,ボーキサイト,塩,亜鉛,液化石油ガス等の重要資源の供給を貴国に仰いでおり,また,ウランの供給についても貴国に大きな期待を抱いている。かかる意味で貴国政府が外資の必要性を基本的に認識され現実的外資政策,及び,前向きの資源開発政策を採つておられることを歓迎するものである。

 わが国としては,今後ともわが国経済と密接に結びついている貴国の資源開発を側面から促進し,ひいては貴国からの資源供給を将来にわたつて安定的かつ経済的に得たいと希望している。就中わが国にとつて大きな関心品目である鉄鉱石,原料炭についてはその開発が遅滞なく推進され,将来にわたつてその安定的供給が行われるよう貴国政府の格段の御配慮を得たいと考える。

 ウランについては,フォックス委員会第2次報告書の発表が俟たれるが,貴国政府がウランの開発・輸出政策を早急に決定されることを希望する。また日豪両国間にはウラン濃縮工場の建設可能性に関する共同研究が進められているが,わが国としては,これが相互の利益となる形で結実することを期待する。

(ロ)豪州産業政策

 資源政策,輸入政策と密接な関係を有するものとして,わが国としては貴国の産業政策に対しても大きな関心を抱いている。特に最近は自動車産業,造船業等のあり方をめぐつて貴国内でも種々の議論が行われていると承知しているが,貴国政府としては1975年10月に発表されたジャクソン委員会報告をふまえ産業政策に関する白書を近く発表される予定の由であり,わが国としては,両国経済関係の一層の拡大のためにも現実的かつ合理的考慮に基づいた政策が早急に発表されることを期待している。

(ハ)豪州労使関係

 わが国経済に種々の影響を与えている例として貴国の労使関係がある。例えば羊毛等豪州輸出産業におけるストライキは,わが国の繊維業界を初め諸産業に大きな不安と損失をもたらした。更にはANL船の対日発注に関連し豪造船業関係労働組合が直接関係のないわが国の船舶に対して運航を妨害する等の事件が続発している。わが国関係業界は,安定した取引関係の維持を強く希望しており,貴国におけるこのような労使関係より生ずる問題に懸念を抱いている。貴国政府当局の事情は十分理解しているが,わが国としては安定した日豪経済関係を維持するとの観点より適切な配慮が払われることを希求している。

4.結び

 日豪関係は,両国の経済的相互補完性を基礎として,経済的分野において極めて緊密化しており,今後は,可能な分野においていわゆる水平分業も図られることとなろう。両国の関係は,かかる経済面の緊密化に伴ない,政治,社会,文化等幅広い分野においても密接化の方向に向かつている。特に文化面においては,日豪両国間の相互理解を促進し,両国関係を一層強化するための手段として,各種の交流がすすめられてきているが,就中昨年の文化協定の批准,貴国における豪日財団の発足等は,今後文化交流をすすめる上で重要な基礎となるものであり,わが国としても一層の力を傾けてゆきたいと考えている。

 この日豪関係を更に太い絆によつて発展させていくためには両国官民がその時々に起る摩擦を乗り越え,力を合わせて努力する必要がある。昨年6月に署名された日豪友好協力基本条約は,将来の日豪関係を築くための礎石となるものであり,わが方は,本条約について今次国会の承認を求めることとしている。

 また今後の日豪関係は,これまでの単なる2国間関係の枠に止まらず,アジア・太平洋地域というより広汎なコンテクストにおける日豪関係との観点から眺める必要があろうかと思う。即ちこれからの両国関係は,単に日豪両国の利益と繁栄を目ざすものでなく,アジア・太平洋地域諸国の繁栄と福祉のために責任ある役割を果すものとなるべきであり,わが国としては,貴国との友好協力関係を核として,域内諸国を含めた多数国間の友好協力関係樹立のために努力してまいりたいと考える。