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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第96代 第2次安倍晋三内閣(平成24.12.26〜平成26.12.24)
[国会回次] 第183回(常会)
[演説者] 甘利明内閣府特命担当大臣(経済財政政策担当)
[演説種別] 経済演説
[衆議院演説年月日] 2013/02/28
[参議院演説年月日] 2013/02/28
[全文]

 経済財政政策を担当する内閣府特命担当大臣として、その所信を申し述べます。

 第二次安倍内閣は、まずは、強い経済を取り戻すことを最大の使命としてまいります。

 日本経済は、長年にわたりデフレに苦しめられ、幾度もその克服に挑戦しては、はね返されてきました。そこで、安倍内閣では、従来の考え方にとらわれない大胆な手法であらゆる政策資源を投入し、現在、デフレ脱却への光明が見え始めております。

 強い経済の再生なくして、財政の再建も、持続可能な社会保障制度の構築もありません。

 長引くデフレから早期に脱却し、雇用と所得の増加を伴う景気回復を実現するとともに、イノベーションや新しい事業の創出により、成長力を強化していくことが必要です。

 そのため、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の三本の矢を一体として実行してまいります。

 また、これを推進する体制として、日本経済再生本部を創設し、経済財政諮問会議を再起動しました。これら二つの組織が司令塔となり、総理のリーダーシップのもと、府省の壁を越えて、迅速かつ着実に政策を実行していきます。

 こうした基本姿勢のもと、以下、今後の重点課題を申し述べます。

 我が国の景気は、昨年夏以降、世界経済の減速等を背景として輸出や生産が減少するなど、弱い動きとなり、底割れが懸念される状況でありました。

 こうした状況を打破して、自律的な成長に向かうためには、まず、第一の矢として、大胆な金融政策を行うことが重要です。

 本年一月、デフレからの早期脱却と物価安定のもとでの持続的な経済成長の実現に向けて、政府及び日本銀行は、政策連携を強化し、それぞれの責任において実行すべき内容を盛り込んだ共同声明をまとめました。

 デフレ予想を払拭し、消費者物価の前年比上昇率で二%の物価安定目標を日本銀行においてできるだけ早期に実現するよう、大胆な金融緩和を推進することを強く期待いたします。

 デフレが継続するもとでは、財政政策の民間経済への波及効果も、成長戦略による経済活性化効果も、限定的なものになります。その意味でも、金融政策は極めて重要です。

 金融政策を含むマクロ経済政策運営の状況、そのもとでの物価安定の目標に照らした物価の現状と今後の見通し、雇用情勢を含む経済財政状況、経済構造改革の取り組み状況などについては、経済財政諮問会議において、定期的に検証を行います。

 第二の矢である機動的な財政政策としては、国費十・三兆円程度、事業規模二十・二兆円程度の、日本経済再生に向けた緊急経済対策を取りまとめました。

 この緊急経済対策については、早期の実行及び効果発現に全力を挙げ、各施策が国民生活の向上につながっているか、しっかりとフォローアップを行います。

 また、平成二十五年度予算は、緊急経済対策に伴う平成二十四年度補正予算と一体的なものとして、いわゆる十五カ月予算として編成されており、これらを切れ目なく実行し、景気の底割れの回避と、デフレからの早期脱却及び成長力の強化を図ります。

 さらに、景気回復を働く人の所得の増大につなげていくという好循環を生み出すことが必要です。

 このため、政府、経済界、労働界が一致協力して対応する必要があり、平成二十五年度税制改正において、企業による給与等支給の増加を促進する措置を創設するとともに、経済界に対して、業績が改善している企業においては報酬の引き上げを行うなどの取り組みを要請したところであります。

 また、雇用問題が喫緊の課題である若者、女性が成長の果実を最大限享受するとともに、その活躍を積極的に推進することで成長を押し上げていくことが重要であり、若者・女性活躍推進フォーラムを開催し、若者や女性の声を幅広く伺いつつ、効果的な取り組みを進めてまいります。

 これらを踏まえ、本日閣議決定した政府経済見通しでは、世界経済の緩やかな回復が期待される中で、着実な需要の発現と雇用創出が見込まれることから、平成二十五年度の国内総生産の実質成長率を二・五%程度、名目成長率を二・七%程度と見込んでおります。

 第三の矢は、民間投資を喚起する成長戦略です。

 日本経済の回復を自律的な成長につなげていくためには、民間企業の投資と消費を拡大させることが必要であり、日本経済再生本部のもとに設置をした産業競争力会議において、各界の有識者の知見を集めながら、年央をめどに新たな成長戦略を取りまとめます。

 日本は、少子高齢化や人口減少、公共インフラの老朽化、エネルギー・環境制約など、世界に先行して、深刻かつ難しい課題に直面しています。他の国に先んじてこれらの諸課題に挑戦し解決することにより、処方箋を示し、世界に対して貢献をしてまいります。

 成長戦略の策定に当たっては、課題解決のため、将来のあるべき社会像を戦略目標として特定します。その上で、目標実現のために、コア技術への研究開発集中投資、規制改革、関連する投資の促進などの政策資源を一気通貫で投入するためのロードマップを策定し、民間投資を促してまいります。

 また、立地競争力強化と雇用の拡大による所得増加、海外の成長の日本への取り込みを図るための国際戦略の策定に取り組んでまいります。

 以上のような観点から成長戦略を取りまとめることとしておりますが、成長戦略を成功に導き、活力ある民間投資の誘発につなげていく鍵は、政府が成長戦略にコミットし、着実に実行し、結果を出していくということです。

 会議で出てきた喫緊の課題については、戦略の取りまとめを待つことなく、日本経済再生本部において、総理の強力なリーダーシップのもと、直ちに実行に移してまいります。

 以上のように、三本の矢の取り組みを進める中、最近は、デフレ予想が緩和される兆しが見られ、月例経済報告で二カ月連続で景気判断を上方修正いたしましたように、実体経済も変わりつつあります。こうした好ましい変化を、適切な政策対応により、確実な景気回復につなげてまいります。

 これらの施策とあわせて、中長期的に持続可能な財政構造の構築を目指し、取り組んでいく必要があります。

 平成二十五年度予算については、財政健全化目標を踏まえ、国債に対する信認を確保するため公債発行額をできる限り抑制したところ、四年ぶりに、税収が公債金を上回る状態を回復いたしました。しかし、同年度の国、地方のプライマリーバランスは、依然大きな赤字となる見込みであります。

 国債に対する信認が揺らげば、長期金利の上昇や、国債費の増加による政策の自由度の低下など、さまざまな要因を通じて、経済、財政、国民生活に重大な影響が生じかねません。

 二〇一五年度までに国、地方のプライマリーバランスの赤字の対国内総生産比を二〇一〇年度の水準から半減し、二〇二〇年度までに黒字化するとの財政健全化目標の実現を目指します。

 今後、経済財政諮問会議において、年央の骨太方針の取りまとめに向け、日本経済再生のための政策のあり方とともに、中長期の財政健全化を実現するための取り組みのあり方や経済再生との両立を実現するための道筋について検討を進めます。

 少子高齢化が進展する中で、暮らしの安心を確保していくためには、安定財源を確保しながら、受益と負担の均衡がとれた持続可能な社会保障制度を構築することが不可欠であり、社会保障・税一体改革を着実に推進してまいります。

 社会保障制度改革推進法に基づき、社会保障制度改革国民会議で、設置期限である本年八月までに結論を得るため、精力的に議論をするなど、改革のさらなる具体化に向け、取り組みを進めてまいります。

 第二次安倍内閣が発足をして、二カ月余りたちました。この間、三本の矢を中心に、矢継ぎ早に政策を打ち出してまいりました。先般、ダボス会議に安倍総理の名代として出席をし、世界から注目をされていたアベノミクスについて説明をしたところ、国際的にも高い評価を得ました。

 今後とも、成長していく明るい未来を目指し、安倍総理のリーダーシップのもと、緊張感を持って迅速かつ着実に施策を実行することにより、国民の皆様とともに、強い日本を取り戻してまいりたいと考えております。

 国民の皆様と議員各位の御理解と御協力をよろしくお願い申し上げます。(拍手)