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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第93代鳩山内閣(平成21.09.16〜現在)
[国会回次] 第174回(常会)
[演説者] 管直人内閣府特命担当大臣(経済財政政策担当)
[演説種別] 経済演説
[議院演説年月日] 2010/1/29
[参議院演説年月日] 2010/1/29
[全文]

 経済財政政策を担当する内閣府特命大臣として、所信を申し述べます。

 我々は、ことしを日本経済の大きな節目の年にしなければなりません。

 翻ってみると、我が国の経済規模が自由世界で第二位と認識されたのは、昭和四十三年、鳩山総理や私どもの世代がまだ学生だったころであり、当時だれもが誇らしげな気持ちを持って、伸び行く日本に大きな可能性を見出したことを覚えております。

 そして、約四十年たったことし、我が国はGDP第二位の地位を中国に譲る可能性もあります。かつての高度成長の時期を経て、少子高齢化やグローバル化の進展など経済社会構造は大きく変化しました。九〇年代初頭のバブル崩壊以降、日本経済は、総じて見れば力強さに欠け、長期の低迷を余儀なくされたこともあり、将来の成長に対する悲観的な見方も見受けられます。

 しかし、我々はそうした悲観論には立ちません。日本は、多くの勤勉な国民を有しており、環境を初めさまざまな分野で世界に誇り得る強みを持っています。そうした潜在力の発揮を図る成長戦略を推進することにより、日本経済は新たな成長を実現することができると考えます。

 一方、我々は単純な楽観論にもくみしません。これまでの間、多くの成長戦略が策定されてきましたが、我が国経済を持続的な成長経路に復帰させることはできず、国の債務が積み上がることになりました。鳩山内閣においては、政権発足以来、経済財政政策の大改革に取り組んできたところであり、政治の強力なリーダーシップのもとで、既成概念にとらわれることなく、課題の克服に取り組むことによって、初めて成果を上げることができるものと確信しています。

 経済の現状については、景気は最悪期を脱し、持ち直してきているものの、自律性に乏しく、失業率は高水準にあるなど、依然として厳しい状況にあります。また、景気実感に近い名目成長率のマイナスが続いております。今後は、海外経済の改善などを背景に、景気の持ち直し傾向が続くことが期待されますが、その一方で、雇用情勢の一層の悪化や海外景気の下振れ懸念、デフレの影響など、景気を下押しするリスクが存在しております。

 こうした状況のもと、当面の課題と中長期の課題への取り組みについて、以下、順次申し述べてまいります。

 まず、我が国経済の当面の課題は、雇用を確保しつつ、確実な景気回復とデフレの克服を図ることです。

 このため、昨年十二月に、雇用、環境、景気を主な柱とする、事業費二十四兆円程度、国費七兆円程度の、明日の安心と成長のための緊急経済対策を取りまとめました。本経済対策は、活用できる財源を最大限に活用し、有効性を十分に吟味し、策定したものです。

 現下の厳しい経済雇用情勢への緊急対応と、将来につながる成長への布石を打つとの視点に基づき、雇用調整助成金の要件緩和や住宅版エコポイント制度の創設など、緊急性が高く、経済、雇用への効果や二酸化炭素削減効果において即効性の高い施策を最優先いたしました。また、制度、規制等のルールの変更や国民一人一人の積極的な参加により、できる限り財政に依存せず、知恵を生かし、国民潜在力が発揮されることを重視し、幼保一体化を含めた保育分野や環境・エネルギー分野の改革などを進めることとしております。

 経済対策は、着実に実行されて初めて効果を発揮することは言うまでもありません。このため、本経済対策の効果的、効率的な執行を図る観点から、PDCA、すなわちプラン・ドゥー・チェック・アクションのサイクルに立脚した施策の進捗管理を徹底する体制をつくりました。本体制のもとで、必要な取り組みを迅速かつ着実に実行することで、暮らしの再建、低炭素社会への転換、医療等の生活の安心確保、地方の活力の回復などを実現してまいります。

 また、本経済対策に伴う平成二十一年度第二次補正予算並びに平成二十二年度予算を一体として執行することなどにより、切れ目のない経済財政運営を行ってまいります。

 さらに、今後の経済財政運営に当たっては、国民の暮らしに直結する名目の経済指標を重視するとともに、デフレの克服に向けて、日本銀行と一体となって強力かつ総合的な取り組みを行ってまいります。

 日本銀行に対しては、こうした政府の取り組みと整合的なものとなるよう、政府と緊密な情報交換、連携を保ちつつ、適切かつ機動的な金融政策の運営によって経済を下支えするよう期待します。

 これらを踏まえ、先般閣議決定した政府経済見通しでは、平成二十二年度の我が国経済は、実質経済成長率が一・四%程度と三年ぶりのプラス成長となり、名目経済成長率も〇・四%程度のプラスに転じるものと見込んでおります。

 厳しい経済情勢の中、特に雇用の確保は喫緊の課題であり、国民生活の安心の基盤であります。緊急経済対策においても、雇用対策は重要な柱であり、新卒者支援の強化、貧困・困窮者支援の強化、雇用創造の拡充等の施策を着実に実施してまいります。

 このうち、この春以降、厳しい求人情勢が見込まれる新卒予定の学生生徒への支援については、求人、求職、内定関連情報の公表前倒しや、経済団体等に対する新規学校卒業者の採用に関する要請等を行ってまいりました。今後とも、学生生徒の就職支援を強化し、第二のロストジェネレーションをつくらないよう取り組んでまいります。

 また、求職中の方や居住、生活にお困りの方を支援するため、自治体の協力のもと、全国でのワンストップ・サービス・デイの実施や年末年始の生活総合相談等の取り組みを進めてまいりました。私も、これらの現場を視察し、厳しい雇用情勢を実感するとともに、支援策が十分な効果を上げるよう努めてまいりました。

 これらの取り組みを踏まえ、非正規労働者等への職業訓練や、その間の生活保障を行うトランポリン型の第二のセーフティーネットの構築を進めてまいります。

 こうした当面の課題への取り組みと同時に、中長期の課題に対しても取り組みを進めていく必要があります。すなわち、持続的な経済成長を実現する成長戦略を推進するとともに、財政健全化を図るための具体策と道筋を明確にすることです。

 我が国経済を持続的な成長経路へと移行させるため、昨年末、中長期的な経済成長の姿を示した「新成長戦略(基本方針) 輝きのある日本へ」を取りまとめました。

 本基本方針は、環境や健康分野における我が国の強みの発揮、観光やアジアとの連携強化などフロンティアの開拓、成長を支えるプラットホームとしての科学・技術や雇用・人材の強化を通じて、輝きある日本の実現を目指すものです。

 この策定に当たっては、過去の成長戦略が必ずしも効果を上げなかった理由を踏まえ、政治の強力なリーダーシップ、経済政策の明確なビジョン、そして経済政策の方向性の転換を重視しました。新成長戦略は、従来の公共事業や財政支出頼みのいわば第一の道でも、行き過ぎた市場原理主義に基づく第二の道でもない、新たに需要と雇用をつくり出すという第三の道の考え方に立っています。

 本基本方針では、グリーンイノベーション、ライフイノベーション、アジア、観光・地域、科学・技術、雇用・人材の六つの戦略分野を柱に掲げ、二〇二〇年までに達成すべき目標と主な施策の方向性を明確にしています。また、地球温暖化対策、少子高齢化対策という国民生活の課題に正面から向き合い、世界に先駆けて課題を解決する課題解決型国家を目指します。アジアの一員として、アジア全体の活力ある発展を促し、アジアとともに生きる国を実現します。

 新成長戦略の実現に向けて求められることは、財政に過度に依存することなく、市場創造型のルールの改善と支援のベストミックスを追求していくことです。

 また、本基本方針には、二〇二〇年度までの平均で、名目三%、実質二%を上回る成長、二〇二〇年度における名目国内総生産を六百五十兆円程度にすることを目指すこと、失業率については中期的に三%台への低下を目指すことを明記しました。これは、このような目標に向けて政策を確実に実行していくとの決意を表明したものであります。

 今後、本基本方針に沿って、施策の追加、具体化を行い、政府として、本年六月を目途に新成長戦略を策定いたします。その際には、本年中に実行に移すべき事項、今後四年間程度で実施すべき事項、二〇二〇年までに実施すべき成果目標を明示した工程表をあわせて策定することとしております。加えて、各政策の達成状況を評価、検証してまいります。

 鳩山内閣は、過去のしがらみにとらわれることなく、利害団体の既得権や省庁の縦割りの弊害にメスを入れ、真に必要なものへの選択と集中を実現し、これまで実現されなかった国民のニーズにこたえてまいります。

 また、未来に向けて、国民が安心して生活できる社会保障の整備と新たな経済成長への投資を行うために、財政の健全化は不可欠の前提です。

 そのため、平成二十二年度予算においては、歳出を質的に大きく変え、また国債発行を市場の理解が得られるよう約四十四兆円に抑えました。今後は、国家戦略担当大臣を中心に、慎重な経済見通しに基づく中長期的な財政規律のあり方を含む財政運営戦略を策定するとともに、中期財政フレームを本年前半に策定し、実質的な複数年度予算編成を実現してまいります。国と地方の財政関係についても整合性を確保し、全体として財政の持続可能性の確立を図ってまいります。

 戦後これまで幾多の困難を克服してきた我が国が、現在の困難を克服する力を有していることは間違いありません。これまで欠けていたもの、そして今必要とされているのは、政治的リーダーシップであります。経済危機の中での鳩山政権の誕生は、過去の呪縛を断ち切り、真に国民のための経済の実現に向けてかじを切る、大きなチャンスでもあります。試練に直面している今こそ、経世済民の原点に立ち戻り、経済財政政策を大転換し、生活の安心と真の豊かさを取り戻すべく、以上申し上げた政策を全力で進めてまいります。

 国民の皆様、議員各位の御理解と御協力をお願いし、所信の表明といたします。