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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第86代第2次森内閣(平成12.7.4〜平成13.4.26)
[国会回次] 第151回(常会)
[演説者] 麻生太郎経済財政政策担当大臣
[演説種別] 経済演説
[衆議院演説年月日] 2001/1/31
[参議院演説年月日] 2001/1/31
[全文]

 経済財政政策担当大臣として、我が国経済の課題と政策運営の基本的考え方について、その所信を申し述べます。

 まず初めに、去る一月六日、今回の中央省庁再編の眼目の一つである経済財政諮問会議が発足したことを御報告申し上げます。この諮問会議は、経済財政政策にかかわる各閣僚に加え、経済の現場の実態や経済に対する深い洞察力を有する有識者を構成員とし、内閣総理大臣を議長として、日本経済全般の運営基本方針、予算編成の基本方針及び財政運営の基本を初めとする経済財政政策に関する重要事項について調査審議し、具体的な建議を行うことなどを主な任務といたしております。政治が責任を持って政策決定をリードし、国民に明確なメッセージを伝え、的確な政策運営を通じて国民の期待にこたえるためには、諮問会議において包括的かつ実質的な検討を行い、その成果を上げていくことが重要であります。私は、この目的のために全力を挙げて取り組んでまいる覚悟であります。

 諮問会議にとっての第一の課題は、経済を着実な自律的回復軌道に乗せることであります。このため、現状及び今後の見通しを含めた的確な景気判断が必要であり、それを前提に財政金融政策など経済財政運営のあり方について検討を行っていかなければなりません。また、予算編成に当たりましては、歳出の重点分野、景気との関連など、経済運営の基本的考え方について検討を行い、もって効果的な経済財政政策の実施に寄与することが重要であります。

 第二の課題は、財政も含め経済社会全体をどのような理念に基づきどのような社会に構築していくのか、すなわち、経済社会の構造改革をどう進めていくかということであると考えております。その際、重要なことは、日本経済の潜在的な発展可能性を十分に開花させるための施策と、国民が将来に安心感を持てる経済社会の実現を目指した制度の確立であります。

 その検討に当たっては、国、地方の役割分担、社会保障制度、社会資本整備や税制などさまざまな制度的課題について、中長期的な経済社会全体の姿を描いた上で、マクロ経済のバランスを観点に加え、整合的に検討を進めていくことが必要であります。

 当面、具体的には、中長期的な経済財政の運営に関する議論を進めていく中で、経済や財政に与える影響の大きい社会保障制度の問題など制度的諸課題に関する改革の方向性について取りまとめていかなければならないと考えております。

 これまでの経済運営を振り返ると、我が国経済は、御承知のとおり、平成十年秋にはデフレスパイラルに陥りかねない危機的状況にありました。幸い、同年十一月に決定した緊急経済対策により危機的状況からの脱却には成功し、その後、平成十一年十一月に決定した経済新生対策の推進を通じ、景気回復の一段の推進と経済社会構造の改革の実現に努めてまいりました。さらに、昨年十月、急激な公需の落ち込みを回避し、我が国経済を自律的回復軌道に確実に乗せるとともに、二十一世紀にふさわしい経済社会の構築を目指し、日本新生のための新発展政策を決定し、現在、これを強力に推進しているところであります。

 現在、景気は企業収益や設備投資など企業部門を中心に緩やかな改善を続けております。しかしながら、雇用情勢は改善がおくれており、個人消費もおおむね横ばいで推移するなど、厳しい状況を今なお脱し切れておりません。また、米国経済の減速、株価の下落など、景気の先行きに警戒すべき要素が出てきております。

 政府としては、このような景気の現状認識に立ち、引き続き景気回復に軸足を置いた経済財政運営を行い、日本経済の自律的回復を軌道に乗せていくことを第一の重要課題として取り組んでまいります。

 また同時に、二十一世紀を迎え、情報化、高齢化、グローバル化などが急速に進展する中で、情報通信技術による産業・社会構造の変革、いわゆるIT革命の推進を初めとして、我が国経済を新しい時代にふさわしい構造に改革し、新たなる発展へと飛躍させる取り組みが急務であると認識をいたしております。

 以上のような基本的考え方を踏まえ、政府としては、平成十三年度において、以下に申し上げる三項目を重点項目として経済運営を行ってまいります。

 まず第一は、自律的な景気回復の実現であります。

 日本経済を自律的回復軌道に確実に乗せるため、日本新生のための新発展政策の着実かつ円滑な実施を図るとともに、平成十三年度においては、公共事業は前年度当初予算と同程度の規模を確保し、地方財政にも配慮して、その適切な執行を図ります。また、税制面においては、住宅減税等の措置を講じます。

 また、日本銀行に対しましても、経済の自律的回復を確実なものとするため、金融・為替市場の動向も注意しつつ、豊富で弾力的な資金供給を行うなど、適切かつ機動的に金融政策を運用されるよう要請いたします。

 第二は、時代を先取りした経済構造改革を推進し、中長期的な経済成長力の向上を目指すことであります。

 景気を自律的な回復軌道に乗せ、再び力強い日本経済を創出するためには、短期的な対策のみならず、我が国経済社会の構造改革を大胆に推進していかなければなりません。その際、IT革命の飛躍的推進、環境問題への対応、少子高齢化対策、都市基盤、生活基盤の整備、産業新生のための事業環境整備などに重点を置いてまいります。

 IT革命の飛躍的推進については、光ファイバーなど超高速ネットワーク網の整備及びその競争政策、電子商取引ルールなどへの新たな環境整備、電子政府の実現、人材の育成強化、以上四つを重点分野として集中的に取り組んでまいります。

 環境問題への対応については、循環型社会形成の推進、地球温暖化対策、有害化学物質対策に取り組むとともに、地球環境との調和を促進してまいります。

 少子高齢化対策につきましては、総合的、包括的に社会保障制度改革に取り組むとともに、公共空間などのバリアフリー化、高齢者雇用の促進や仕事と子育ての両立を可能にするための就労環境整備、預かり保育サービスの充実などに取り組みます。

 都市基盤、生活基盤の整備につきましては、交通渋滞の解消や快適かつ活力ある都市空間の創出を図るとともに、生活基盤充実、防災対策に取り組みます。

 産業新生のための事業環境整備につきましては、企業法制などの整備、企業組織再編に係る税制の整備、創造的技術革新のための基盤整備、中小企業対策、金融システムの安定化、金融市場の活性化、債権流動化の促進などに取り組みます。

 平成十三年度の経済運営の基本的態度の第三は、世界経済の持続的発展への貢献であります。

 世界経済の持続的発展のためには、多角的貿易体制の維持強化は不可欠であります。この観点から、本年中に各国の幅広い関心にこたえる形でWTO新ラウンドを立ち上げるべく、我が国としては引き続き努力してまいります。また、APEC、ASEANプラス3などのアジア太平洋地域における地域協力の枠組みの構築を一層図ってまいるところです。さらに、現在、日本とシンガポールとの間で経済連携協定交渉が進められておりますが、WTO協定に整合的な地域貿易協定は、多角的貿易体制の枠組みの中での世界的な自由化やルールづくりを加速させる触媒として、その役割を果たし得るものと考えております。

 なお、先般発足いたしました米国のブッシュ新政権との間では、アジア太平洋地域のみならず、世界の平和と繁栄を確保していくための経済面における協力のあり方につき、緊密な対話を通じた協力を行ってまいりたいと考えております。

 以上の三つの重点項目を達成することにより、平成十三年度については、個人消費、設備投資などの民需を中心とした経済成長を続ける姿が定着し、自律的回復軌道をたどるものと考えております。この結果、平成十三年度の実質経済成長率は一・七%程度になるものと見通しております。

 さて、日本経済の潜在可能性を開花させる施策として、また、経済の構造改革を推進する起爆剤として、IT革命の持つ意味は極めて大きいと考えております。IT革命の推進は、森内閣発足当初から、日本新生の最も重要な柱として位置づけられてまいりました。今回の景気回復局面においても、ITは、実際に極めて大きな役割を果たしております。現在、インターネットの国民全般への普及、利用の促進などを目的とし、インターネット博覧会、インパクを開催いたしておりますが、今後、政府といたしましては、先般決定したe—Japan戦略を踏まえ、五年以内に世界最先端のIT国家になることを目指し、政府が迅速かつ重点的に実施すべき施策などを定める重点計画を三月末を目途に策定することといたしております。また、本年度末までに策定予定の新たな規制改革推進三カ年計画においては、IT革命推進などのための規制改革を積極的に推進することといたしております。

 国民がITを利用し、そのメリットを十分に享受するためには、電子商取引などに対する消費者の信頼の確立が極めて重要であります。このため、個人情報の保護に関する基本法制の整備を初め、消費者保護の推進に努めてまいる所存であります。また、本年四月に施行される消費者契約法の実効性確保にも取り組んでまいります。さらに、IT革命、構造改革の推進を通じて我が国の高コスト構造を是正するとともに、ボランティア活動を初めとするNPOの活動を促進することにより、国民が生活の豊かさをより一層実感できるような経済社会の実現に努めてまいります。

 現在、我が国が求められている変革の方向性は、官から民へ、あるいは行政による規制、保護から市場メカニズム、自己責任原則へというものであると認識いたしております。このような中で、政治に求められていることは、政治が責任を持って政策決定をリードし、国民に将来に対する明確なメッセージを伝え、的確な政策運営を通じ国民の期待にこたえていくことであります。民間の英知を生かしつつ政治主導で経済財政の政策運営を担う経済財政諮問会議は、その実現のため最も重要な役割を担うものであります。

 バブル崩壊後の我が国経済は、その対応、対策に取り組んでまいりました。二十一世紀を迎えた今、現状と今後の見通しを含めた的確な情勢認識をもとに、将来を見据えた効果的な経済財政運営を実現し、我が国の進むべき方向とビジョンを示していくことが必要であると考えます。

 幸い、我々日本人には、明治維新や戦後の例は言うに及ばず、オイルショックや急激な円高など、国家が非常事態に陥るなどの国難に直面するとき、その困難を乗り切れる強い精神とすぐれた能力があります。今日、日本が置かれている現状を正しく認識し、この能力を十分発揮できる環境さえ構築されれば、現状の困難は必ずや乗り越えられるものと確信をいたしております。

 昔より、絶望は愚者の結論と言われます。二十一世紀という新しい時代の幕あけに当たり、私は、やればできると日本の将来に希望を持ち、経済財政運営に万全を期する決意であります。国民の皆様、また議員各位の御理解と御協力を切にお願いを申し上げる次第です。