データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 国連50周年記念宣言

[場所] ニューヨーク
[年月日] 1995年10月24日
[出典] 外交青書39号,235−240頁.
[備考] 仮訳
[全文]

 国連は、50年前に第2次大戦によってもたらされた苦しみの中から生まれた。国連憲章に記されている「戦争の惨害から将来の世代を救う」という決意は、50年前と同様に、今日においても極めて重要である。他の側面と同様、この面において憲章は人類の共通の価値と抱負を表現している。

 国連は、紛争、人道的危機及び激しい変化という試練を受けてきたが、その試練を生きながらえ、地球的規模の紛争の再発を防ぐのに重要な役割を果たし、世界中の人々にとって大いなる成果をあげてきた。国連は、現代における国家間の関係の構造そのものを形作るのに貢献した。非植民地化の過程とアパルトヘイトの根絶を通じ、何億もの人々が民族自決の基本的権利の行使を保障されてきた。

 冷戦終焉後の今日、そして世紀末が近づく中で、われわれは、平和、開発、民主主義及び協力のための新しい機会を創らなければならない。今日の世界における変化の速度及びその度合いから判断すると、将来が極めて複雑で課題の多いものとなること及び国連に対する期待が急激に増大することが予想される。

 この歴史的機会における我々の決意は明らかである。国連50周年の記念は、国連が、人類、特に苦しみ、極めて恵まれない人々に対してより一層の奉仕ができるように取り組み直す機会としてとらえられなければならない。これが現代の実用的かつ道義的な課題である。この目的のための我々の義務は憲章に見いだすことが出来る。その必要性は人類の現状から明らかである。

 国連50周年の機会に、われわれ、国連の加盟国及びオブザーバーは世界の人々を代表して、

 − 国連憲章の目的及び原則並びに右目的及び原則へのコミットメントを再確認する。

 − 国連を可能にし、国連の仕事をし、その理想に奉仕したすべての男女に対し、特に国連に奉仕する間に自らの命を捧げた人々に対し、感謝の意を示す。

 − 将来の国連は、平和、開発、平等及び正義そして世界の人々の間の理解を促進する上で、新たなる活力をもってそして効果的に機能することを固く決意する。

 − 国連がその名において設立されたすべての人々に対し、効果的に奉仕できるように21世紀に向けて国連を整備し、資金を提供し、組織する。

これらのコミットメントを実行するに当たり、平和、開発、平等、正義、そして国連機構に関して、次に掲げるものが将来の協力における指針となろう。

平和

1.これらの課題に応え、かつ地球的規模の平和、安全、安定を確保するための行動も、人々の経済的社会的要求が取り上げられない限り、無駄に終わることを認識しつつ、われわれは、

 − 国連憲章に従い、紛争の平和的解決の方法と手段を促進し、紛争予防、予防外交、平和維持、平和構築における国連の能力を強化する。

 − 全く武器が存在しない世界の実現に対する我々の共同のコミットメントを追求するため、軍備管理、軍備制限、軍縮、全ての核兵器及び生物化学兵器や他の形態の特に過度に危険な、あるいは無差別兵器を含む他の大量破壊兵器の不拡散のための国連、地域別、国別の取り組みを強く支持する。

 − 植民地乃至その他の形態での外国による支配または外国の占領下にある人々の特殊な状況をも考慮しつつ、すべての人々の民族自決権を再確認し続ける。また、人々が、奪うことのできない権利たる民族自決権を実現するため、国連憲章に従いつつ、合法的な行動をとる権利を有することを認識する。このことは、独立主権国家が同権の原則及び民族自決の原則に従い、従ってその領土に属している全ての人々を何らの区別もなく代表する政府を有している場合、その国家の領土保全または政治的一体性を、全体としてあるいは部分的に分割し、または損なうようないかなる行動をも認めたり奨励したりするものと解釈されるべきではない。

 − あらゆる形態をとったテロ、国際的組織犯罪、武器の不正な貿易や違法な麻薬の生産、消費や売買による国家や人々に対する脅威に打ち勝つために共同で行動する。

 − 国際の平和と安定を維持するために、地域的取極あるいは機関と国連の間の話し合いと協力を強化する。

開発

2.人類の福祉及び、国際の平和、安全と安定のためには、ダイナミックで活気があり、自由で衡平な国際経済環境が不可欠である。国連組織は、この目的に、より大がかりにかつより効果的に取り組まなければならない。

3.国連は経済・社会の発展を促進する上で重要な役割を果たし、何年もの間、世界中の男女、子供の生命を救う支援を提供してきた。しかし、国連憲章に盛り込まれている、すべての加盟国は一層高い生活水準、完全雇用並びに経済的及び社会的に進歩及び発展の条件を達成するために、国連と協力して、共同及び個別の行動をとるという誓いは十分に守られてきていない。

4.過去の努力にもかかわらず、先進国と途上国との格差は今もって受け入れられない程大きいことが認識されなければならない。経済が移行期にある国に特有な、民主化と市場経済化という2つの側面における移行に関する問題も認識されるべきである。それに加え、世界経済のグローバル化と相互依存の加速、すべての国が、こうした傾向による利益の最大化及び否定的効果の最小化を確保するための政策手段を講じることを必要としている。

5.最大の関心事項は、世界の人口57億人の5分の1が絶対的貧困状態で暮らしていることである。すべての国が、国際協力の強化を含め、特別の手段をとることが、この問題及び関連問題に取り組むために必要とされている。

6.こうした事実及び状況に対応して、国連は過去5年の間、特定のテーマに特化した多くの地球的規模の会合を開催してきた。これらの会合から、とりわけ、経済発展、社会開発及び環境保護が、持続可能な開発という全ての人々のためにより高い質の生活を達成しようという我々の努力の枠組みにおける、相互依存的かつ相互に強化しあう構成部分であるというコンセンサスが現れてきている。こういうコンセンサスの核には、人間が開発の中心的主体であり、人々がこういった持続可能な開発に向けてのわれわれの行動及び関心の中心になければならないという認識がある。

7.この文脈において、われわれは、民主主義、開発及び開発の権利を含んだ人権及び基本的自由の尊重は相互依存的で相互に強化しあうものであることを再確認する。

8.われわれが開発のための国際経済協力に関して行ったコミットメントを実行するにあたり、持続的な経済成長、社会開発、環境保護及び社会正義を培うため、われわれは、

 − 開放された、公平で、ルールに基づいた、予測可能な、無差別な多角的貿易システム及び投資、技術・知識の移転のための枠組み、開発、金融や債務の分野における協力の強化を、開発のために極めて重要な条件として促進する。

 − すべての国にとってグローバル化の過程からの利益を増大させるため、そして最貧国及びアフリカの国々が世界経済から疎外されることを避け、世界経済への統合を促進するために、国内的及び国際的行動に特に留意する。

 − 開発のための国連システムの実効性及び効率性を向上し、国際経済協力の関連分野すべてにおいてその役割を強化する。

 − 相互利益及び真の相互依存に基づいた開発のための国際協力を促進しやすい政治的経済的環境を確保するため、全ての国家の間で対話とパートナーシップを活性化する。一方で、各国が究極的には自らの開発に責任を持つことを認識し、こうした開発に資する国際環境を国際社会が作らなければならないことを再確認する。

 − 人類の倫理的、社会的、政治的、経済的な急務として、貧困の撲滅、並びに完全雇用及び社会の統合に向けた、断固たる国内的、国際的行動を通じて社会開発を促進する。

 − 女性が権利を得て、完全かつ平等に社会参加することが、開発を達成するためのあらゆる努力を行う上で重要であることを認識する。

 − 環境を維持することが開発プロセスの中心的部分を構成することを認識しつつ、持続可能ではない生産消費パターンを減少、除去し、かつ将来の世代が自らのニーズを満たす能力を低下させることなく、現在の世代のニーズに応じた適当な人口政策を促進する。

 − 自然災害の減少、主要な技術的・人為的災害、災害救援活動、災害後の復興及び人道的援助における協力を強化し、これによって、影響を受ける国がそうした状況に対応できる能力を向上させる。

平等

9.われわれは、人間の尊厳と価値及び男女の同権が国連憲章によって確認されていることをここに繰り返し述べるとともに、すべての人権は普遍的で不可欠で相互に依存し、かつ相互に関連していることを再確認する。

10.各国及び地域の特殊性と様々な歴史的、文化的、宗教的背景の重要性は念頭に置かなければならない一方で、政治・経済・文化システムの如何を問わず、疑いを挟む余地なく普遍的な性格を有しているすべての人権や基本的自由を推進かつ擁護するのは、すべての国の義務である。人権問題の考慮に際し、その普遍性、客観性及び無選別性を確保することもすべての国にとって重要である。

11.従って、われわれは、

 − すべての人類に固有の、すべての人権及び基本的自由を促進かつ保護する。

 − 政治的、市民的、経済的、社会的、文化的生活のすべての領域において女性が対等なパートナーとして完全にかつ平等に参加し、すべての女性にとってすべての人権及び基本的自由が完全に実現されることが確保されるように法律、政策、計画を強化する。

 − 子供の権利を促進かつ擁護する。

 − 若者、身体障害者、老人、移民労働者を含む、特に虐待乃至見過ごされやすい人々の人権が擁護されることを確保する。

 − 先住民の人権を支持し擁護する。

 − 難民や避難民の権利の保護を確保する。

 − 民族、人種、その他の側面においてマイノリティに属する人々の人権が保護され、これらの人々が経済的社会的発展を追求し、そのアイデンティティ、伝統、社会組織の形態、文化的宗教的価値観を尊重しながら生活できるようにする。

正義

12.国連憲章は、国際法の促進と発展のため、持続的な枠組みを提供してきた。国家間の関係が正義の原則、主権平等、普遍的に認知されている国際法の原則及び法の支配の尊重に基づくことを確保するため、国際法の促進及び発展を継続する必要がある。こうした行動は、技術・交通・情報・資源関連分野、国際金融市場において起こりつつある展開及び人道及び難民支援分野における国連の作業が益々複雑になっていることを考慮すべきである。

13.我々は、以下を行うことを決意する。

 − 国家の主権平等と領土保全の原則を完全に遵守し、全ての国家間で正義を築き、維持する。

 − 国際法の完全な尊重及び履行を促進する。

 − 国際紛争を平和的手段によって解決する。

 − 国際条約の出来る限り多くの国による批准を奨励するとともに、それらの条約から生じる義務の遵守を確保する。

 − 国際人道法を尊重し履行すること促進する。

 − 経済的・社会的進歩を促進するものを含め、開発分野における国際法の漸進的発展を促進する。

 − 人権と基本的自由に関する国際法を尊重し履行することを促進し、国際的な人権に関する条約の批准または加入を奨励する。

 − 国際法の成文化と漸進的発達を促進する。

国連機構

14.将来の課題及び世界中の諸国民の国連に対して抱く期待に効果的に対応できるようにするためには、国連自身が改革され現代化されることが不可欠である。国連加盟国の普遍的機関である総会の作業は再活性化されるべきである。安保理は、とりわけ、その能力と実効性を強化し、代表性を向上し、作業効率と透明性を改善するように、拡大されるべきであり、また引き続き作業方法が見直されるべきである。また未だに主要な問題につき重要な相違点が残っているため、これらの点につき更に深い検討が必要である。経社理は、現代においては、すべての人々の福祉及び生活水準に関する義務として割り当てられたものを効果的に実施出来るように、その役割が強化されるべきである。将来の国連が、国連がその名において設立されたすべての人々に十分奉仕することを確保するためには、国連システムの中におけるこうした変革及びその他の変革が行われるべきである。

15.その機能を効果的に果たすために、国連には十分な資源が必要である。加盟国は国連の支出分担義務を、総会によって割り当てられた通りに、完全にそして遅滞なく果たさなければならない。この割り当ては加盟国によって合意され、かつ公平なものとみなされる基準によるものでなければならない。

16.国連システムの事務局は、割り当てられた資源を管理し執行する上での効率性及び実効性を相当程度向上させる必要がある。加盟国の側においても、国連システムの改革を追求し、その責任をとるものである。

17.我々は、非政府組織、多国間金融機関、地域機関及び市民社会におけるすべての行動主体を含め、国際社会の関係するすべての行動主体の支持があれば、我々の共通の作業はより成功をおさめるであろうことを認識している。我々は、適切な場合には、そのような支持が得られることを歓迎し、促進していく。