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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 全ての種類の森林の経営,保全及び持続可能な開発に関する世界的合意のための法的拘束力のない権威ある原則声明(A/CONF.151/6/Rev.1of 13 June 1992)

[場所] 
[年月日] 1992年6月14日
[出典] 外交青書36号,434‐439頁
[備考] 外務省仮訳
[全文]

I.前文

(a)森林問題は、持続可能な基礎の上に立った社会・経済発展への権利を含む環境と開発の全ての問題及び機会と関連する。

(b)この諸原則の目的は森林の経営、保全、持続可能な開発に貢献し、森林の多様かつ補完的な機能及び利用を可能とすることである。

(c)森林の問題及び機会は、伝統的利用を含む森林の多様な機能及び利用、利用が抑制あるいは制限される際にありうる経済・社会的問題、及び持続可能な森林経営がもた{前2字ママ}開発の潜在力を考慮しつつ、環境と開発の総合的文脈の中で全体的かつ均衡のとれた方法で検討されるべきである。

(d)この諸原則は、森林に関する最初の世界的合意を反映するものである。この諸原則の迅速な実施を拘束するに際し、各国は森林問題に関する更なる国際協力との関係で、同原則の適切さを常に評価していくことを決定する。

(e)この諸原則は、南方、北方、亜熱帯、温帯、亜熱帯及び熱帯を含む全ての地理的区域・気候区分内にある天然及び人工の森林に適用されるべきである。

(f)全ての種類の森林は、人類の必要を充足させる資源と環境的価値を供給する現在及び潜在的な能力の基礎である複雑で固有の生態学的プロセスを有しており、従って、その健全な経営と保全は森林の存する国家の関心事であり、地域社会と環境全体にとって価格を有する。

(g)森林は経済発展及び全ての形態の生命の維持にとって必要不可欠なものである。

(h)森林の経営、保全及び持続可能な開発の責任は多くの国において連邦・中央政府・州・地域・地方自治体に分割されていることを認識しつつ、各々の国は、その憲法及び/あるいは法律に従い、政府の適切なレベルでこの諸原則を追求すべきである。

II.原則/要素

1.

(a)各国は国連憲章と国際法の原則により、自国の環境政策に沿った資源の開発を行う主権を有し、その管轄権の及ぶ範囲の活動が他の国家や管轄権外の地域の環境への被害を与えない責任を有する。

(b)森林保全と持続可能な開発に関連する利益の達成のための合意された全ての増加費用は一層の国際協力を必要とし、国際社会によって衡平に分担されるべきである。

2.

(a)国家はその開発の必要及び社会・経済発展の水準に従い、また、持続可能な開発及び法制度に合致した国家政策に基づき、森林を利用、経営、開発する主権的かつ不可侵の権利を有し、それは総合的社会経済開発計画の下で合理的な土地利用政策に基づき林地を他の用途へ転用することを含む。

(b)森林資源及び林地は、現在及び将来の世代の人々の社会的、経済的、生態学的、文化的、精神的な必要を満たすため持続的に経営されるべきである。これらの必要は、木材、木製品、水、食料、医薬品、燃料、住居、雇用、余暇、野生生物の生息地、景観の多様性、炭素の吸収源・貯蔵源のような森林の財及びサービス及びその他の林産物に対するものである。森林の全ての多様な価値を維持するため、森林を大気汚染を含む汚染、火災、害虫、病気による有害な影響から保護するための適切な措置がとられるべきである。

(c)森林と森林の生態系に関する時宜を得た正確かつ信頼し得る情報の提供は一般の人々の理解と見識ある政策決定に必要不可欠であり、確保されるべきである。

(d)政府は国の森林政策の策定、実施、発展に際して、地域社会、先住民、産業界、労働界、NGO、個人、森林居住者及び女性を含む関心を有する者の参加を促進し、機会を提供すべきである。

3.

(a)国の政策と戦略は森林と林地の経営、保全、持続可能な開発のための制度とプログラムの強化発展を含む、一層の努力のための枠組みを提供すべきである。

(b)国際的な制度的取決めは、適宜、既存の機関及びメカニズムを基礎として、森林分野の国際協力を促すべきである。

(c)森林と林地に関連する環境保護と社会・経済発展の全ての側面は統合され、包括的なものであるべきである。

4.特に、脆弱な生態系、流域、淡水資源を保護する役割や生物多様性及び生物資源の宝庫及びバイオテクノロジー生産物のための遺伝物質の源泉としての役割及び光合成を通じて、地方、国、地域、地球レベルの生態学的プロセス及びバランスを維持するのに果たす全ての種類の森林の極めて重要な役割が認識されるべきである。

5.

(a)国の森林政策は、先住民とその共同体、その他の共同体及び森林居住者の独自性、文化及び権利を認識し適切に支援すべきである。これらのグループが森林利用に経済的利害関係を有し、経済活動を行い、適正な水準の生計及び厚生、文化的独自性、社会的組織を達成・維持するための適切な条件が、特に、森林の持続可能な経営のインセンティブとして機能するような土地所有制度を通じて、促進されるべきである。

(b)森林の経営、保全、持続可能な開発の全ての側面における女性の十全な参加が積極的に推進されるべきである。

6.

(a)全ての種類の森林は、特に途上国において、再生可能な生物エネルギー資源の提供を通じてエネルギー需要を満たす重要な役割を果たしており、家庭及び産業用燃料材の需要は持続可能な森林の経営と造林及び再造林を通じて満たされるべきである。この目的のため、燃料用及び産業用木材供給のため郷土樹種及び導入樹種の植林が寄与する潜在力が認識されるべきである。

(b)国の政策及び計画は、森林の保全、経営及び持続可能な開発と林産物の生産、消費、再利用及び/あるいは最終処分に関連する全ての側面との間に関係が存在する場合には、その関係を考慮すべきである。

(c)森林資源の経営、保全及び持続可能な開発にかかる決定は、実行可能な範囲において、森林の財とサービスの経済的・非経済的価値及び環境的費用と便益の包括的な評価に支援されるべきである。そのような評価の手法の開発と改良が促進されるべきである。

(d)再生可能なエネルギー及び工業原料の持続可能かつ環境上健全な源泉としての人工林及び恒常的農産物の役割が認識され、増進され、促進されるべきである。生態学的プロセスの維持、一次林/原生林への圧力の相殺及び地域住民の適切な関与の下での地域の雇用と開発に対する人工林及び恒常的農作物の貢献が認識され増進されるべきである。

(e)天然林も財とサービスの源泉であり、その保全、持続可能な経営及び利用が促進されるべきである。

7.

(a)全ての国において森林の持続可能かつ環境上健全な経営に資する支援的国際経済環境を促進する努力がなされるべきであり、そのような努力には、とりわけ持続可能な生産消費パターンの促進、貧困の撲滅と食糧確保が含まれる。

(c)相当量の森林面積を有し、天然林の保護区域を含む森林の保全プログラムを策定する途上国に対して特定の資金が供与されるべきである。この資金は、とりわけ、経済的社会的な代替活動を刺激するような経済部門に向けられるべきである。

8.

(a)世界の緑化のための努力がなされるべきである。全ての国、特に先進国は、適宜、再造林・造林及び森林保全のため、積極的かつ透明性のある行動を起こすべきである。

(b)森林面積と森林生産性を維持、増加するための努力が、非生産的な、劣化した、あるいは森林が消失した土地における樹木や森林の再生、再造林、再造成及び、現存する森林資源の経営を通じて、環境的、経済的、社会的に健全な方法でなされるべきである。

(c)特に途上国における森林の経営、保全、持続可能な開発を目的とした国の政策と計画の実施は、適宜、民間分野を含む、国際的な資金的・技術的協力によって支援されるべきである。

(d)森林の持続可能な経営及び利用は、国の開発政策と優先順位に従い、また、国の環境上健全なガイドラインに基づいて行われるべきである。そのようなガイドラインの策定に際しては、関連する国際的に合意された手法と基準が、適当な場合であって、かつ、適用可能ならば、考慮されるべきである。

(e)森林経営は、生態系のバランスと持続可能な生産性を維持するため、隣接する地域の管理と統合されたものであるべきである。

(f)森林の経営、保全、持続可能な開発のための国の政策及び/あるいは法制は、一次林/原生林と国家的重要性を持った文化的、精神的、歴史的、宗教的その他独自の価値を持った森林を含む生態学上活性が保たれるような代表的かつ独自の森林の保護を含むものであるべきである。

(g)遺伝物質を含む生物資源へのアクセスは、森林保有国の主権的権利、及びそれらの資源からもたらされるバイオテクノロジー生産物からの利益と技術の相互に合意された条件での共有に対する然るべき配慮とともに行われるべきである。

(h)国の政策は、諸活動が重要な森林資源に重大な悪影響を及ぼす恐れがあり、かつ、そのような活動が権限のある国の当局の決定の対象となる場合には、環境影響評価の実施を担保すべきである。

9.

(a)とりわけ先進国への資源の純移転によって状況が悪化している場合の対外債務への取組みの重要性、及び林産物、特に加工林産物に対する市場アクセスの改善を通じて少なくとも森林の再生に必要な価値を実現する問題を考慮しつつ、途上国が自らの森林資源の経営、保全、持続可能な開発を強化するための努力が国際社会によって支援されるべきである。この関連で、市場経済への移行過程にある諸国に対しても特別の注意が払われるべきである。

(b)森林資源の保全及び持続可能な利用を達成するための努力に障害となる諸問題及び、森林及びその資源に経済・社会的に依存している地域住民、とりわけ都市貧困層、農山村貧困層にとって代替的な選択肢が欠けていることに起因する諸問題についての政府及び国際社会による取り組みが行われるべきである。

(c)全ての種類の森林に関する国の政策形成は、森林部門以外の影響要因によって森林の生態系及び資源に加えられる圧力及び需要を考慮すべきであり、これらの圧力及び需要に対処するための横断的手段が探究されるべきである。

10.

 造林、再造林及び森林減少・森林及び土地の劣化の抑止等を通じ途上国がその森林資源を持続的に経営、保全、開発することを可能とするために、新規かつ追加的な資金が途上国に供与されるべきである。

11.

 特に途上国が内在能力を向上させ、森林資源をよりよく経営、保全、開発することを可能とするため、アジェンダ21の関連規定に従いつつ、相互に合意された、譲許的で特恵的な条件によるものを含む、有利な条件で、環境上健全な技術とそれに対応するノウハウへのアクセス及び移転が、適宜、促進され、助長され、資金を供与されるべきである。

12.

(a)関連する生物学的、物理的、社会的、経済的要因、技術開発及びその森林の持続可能な経営、保全、開発の分野への適用を考慮に入れつつ国の機関によって行われる科学的研究、森林の資源調査及び評価は、国際協力を含む効果的な方法により強化されるべきである。この関連で、持続可能な形で収穫される非木質生産物に関する調査・開発にも注意が向けられるべきである。

(b)森林及び森林経営の教育、訓練、科学、技術、経済学、人類学、及び社会的側面に関する国家的、そして適当な場合における、地域的及び国際的な制度的能力は森林の保全と持続可能な開発にとって必要不可欠であり、強化されるべきである。

(c)森林及び森林経営に関する調査研究と開発の結果についての国際的情報交換が、民間部門を含む教育訓練機関を最大限活用しつつ、適宜、強化、拡大されるべきである。

(d)森林の保全と持続可能な開発に関する適切な地元における能力及び地域の知識が制度的財政的支援を通じて、関係する地域社会の人々の協力のもとに、認識、尊重、記録、発展され、また、適宜、諸プログラムの実施に取り入れられるべきである。従って、地元における知見の利用から生じる利益はそのような人々と衡平に分かち合われるべきである。

13.

(a)林産物の貿易は、国際貿易法規及び諸慣行と合致し非差別的かつ多国間で合意された規律及び手続きに基づくべきである。これに関連して、林産物の開かれた自由な国際貿易が促進されるべきである。

(b)生産国が再生可能な森林資源をよりよく保全、経営することを可能とするため、付加価値の高い林産物に対する関税障壁及びよりよい市場アクセスと価格の提供に対する障害の削減または撤廃、及びそれら産品の地元における加工が奨励されるべきである。

(c)森林の保全と持続可能な開発を達成するため、市場の力学とメカニズムへの環境的費用と便益の算入が国内的にも国際的にも奨励されるべきである。

(d)森林の保全と持続可能な開発の政策は、経済・貿易、その他関連政策と統合されるべきである。

(e)森林の劣化につながり得るような財政政策、貿易、産業、運輸、その他の政策及び慣行は、避けられるべきである。森林の経営、保全及び持続可能な開発を目的とする適切な諸政策が、適切な場合にはインセンティヴを含めて、奨励されるべきである。

14.

 長期的な持続可能な森林経営を達成するため、木材及び他の林産物の国際貿易を制阻かつ/あるいは禁止するための、国際的な義務や取決めと両立しない一方的措置は除去又は回避されるべきである。

15.

 汚染物質、特に酸性降下物の原因となるものを含む大気汚染物質は、森林生態系の健全性にとって、地方的、国家的、地域的、地球的レベルで有害があるので規制されるべきである。