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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] カンボジア和平協定(「カンボディア紛争の包括的な政治解決に関する協定」及び「カンボディアの主権,独立,領土の保全及び不可侵,中立並びに国家統一に関する協定」)

[場所] フランス,パリ
[年月日] 1991年10月23日(署名)
[出典] 条約集(多数国間),平成3年,外務省編集,471,477‐524頁.
[備考] 
[全文]

平成 三年 十月二十三日 パリで作成

平成 三年 十月二十三日 効力発生

平成 三年 十月二十二日 署名の閣議決定

平成 三年 十月二十三日 署名

平成 三年 十二月十三日 告示

(外務省告示第六二四号)

平成 三年 十月二十三日 我が国について効力発生

I カンボディア紛争の包括的な政治解決に関する協定

 カンボディアに関するパリ会議の参加国、すなわちオーストラリア、ブルネイ・ダルサラーム国、カンボディア、カナダ、中華人民共和国、フランス共和国、インド共和国、インドネシア共和国、日本国、ラオス人民民主共和国、マレイシア、フィリピン共和国、シンガポール共和国、タイ王国、ソヴィエト社会主義共和国連邦、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国、アメリカ合衆国、ヴィエトナム社会主義共和国及びユーゴースラヴィア社会主義連邦共和国は、

 国際連合事務総長の出席の下に、

 カンボディアの主権、独立、領土の保全及び不可侵、中立並びに国家の統一を維持し、保持し及び防衛するため、

 カンボディアの平和を回復し及び維持し、国内の和解を促進し並びに自由かつ公正な選挙を通じてカンボディアの国民が自決の権利を行使することを確保することを希望し、

 カンボディア紛争の包括的な政治解決のみが、公正かつ持続的なものであり並びに地域及び国際の平和及び安全に貢献することを確信し、

 カンボディア紛争を解決する基礎としてカンボディアの各派によって全体として受け入れられ、その後千九百九十年九月二十日の国際連合安全保障理事会決議第六百六十八号(千九百九十年)及び千九百九十年十月十五日の国際連合総会決議第四十五/三号により全会一致で承認された千九百九十年八月二十八日の枠組み文書を歓迎し、

 暫定期間において国家の主権及び統一を具現し並びにカンボディアを対外的に代表する、唯一の合法的な機関であり、かつ、カンボディアにおける唯一の権威の源泉であるカンボディアの最高国民評議会が千九百九十年九月十日にジャカルタにおいて発足したことに留意し、

 千九百九十一年七月十七日に北京においてノロドム・シハヌーク殿下が最高国民評議会の議長として全会一致で選出されたことを歓迎し、

 国際連合が強化された役割を担うためには、文民部門及び軍事部門から成り、カンボディアの国家の主権を全面的に尊重して行動する国際連合力ンボディア暫定機構(UNTAC)の設立が必要であることを認識し、

 千九百九十年九月九日及び十日にジャカルタで、千九百九十年十二月二十一日から二十三日までパリで、千九百九十一年六月二十四日から二十六日までパタヤで、千九百九十一年七月十六日及び十七日に北京で並びに千九百九十一年八月二十六日から二十九日までパタヤで開催された会合並びに千九百九十一年六月四日から六日までジャカルタで及び千九百九十一年九月十九日にニュー・ヨークで開催された会合の終了に当たり行われた声明に留意し、

 千九百九十一年十月十六日のカンボディアに関する国際連合安全保障理事会決議第七百十七号(千九百九十一年)を歓迎し、

 カンボディアの悲劇的な近年の歴史にかんがみ、人権を擁護し並びに過去の政策及び慣行の再現を防止することを確保するための特別な措置が必要であることを認識して、

 次のとおり協定した。

第一部 暫定期間における措置

第一節 暫定期間

第一条

 この協定の適用上、暫定期間は、この協定の効力の発生によって開始し、国際連合が組織し及び認証する自由かつ公正な選挙によって選出された憲法制定議会が憲法を承認し及び立法議会に移行し並びにその後に新たな政府が設立された時に終了する。

第二節 国際連合カンボディア暫定機構

第二条

1 署名国は、国際連合安全保障埋事会に対し、文民部門及び軍事部門から成り、国際連合事務総長の直接の指揮の下に置かれる国際連合カンボディア暫定機構(以下「UNTAC」という。)を設立するよう勧誘する。このため、同事務総長は、自己に代わって行動する持別代表を任命する。

2 署名国は、更に、国際連合安全保障理事会に対し、この協定に定める権限をUNTACに与え及びその遂行につき国際連合事務総長が提出する定期的な報告により常に検討を行うよう勧誘する。

第三節 最高国民評議会

第三条

 最高国民評議会(以下「SNC」という。)は、暫定期間においてカンボディアの主権、独立及び国家の統一を具現する、唯一の合法的な機関であり、かつ、唯一の権威の源泉である。

第四条

 SNCの構成員は、新たな合法的な政府を形成するための基礎として、国際連合が組織し及び管理する自由かつ公正な選挙を実施することを約束する。

第五条

 SNCは、暫定期間において、カンボディアを対外的に代表し、国際連合、その専門機関並びに他の国際機関及び国際会議においてカンボディアの議席を占める。

第六条

 SNCは、附属書一に定めるところにより、この協定の実施を確保するために必要なすべての権限を国際連合に委任する。

自由かつ公正な総選挙に資する中立的な政治環境を確保するため、選挙の結果に直接に影響を及ぼし得る行政上の機関、団体及び事務所は、国際連合の直接の監督又は管理の下に置かれる。これに関連して、外務、国防、財務、公安及び情報については、特別の考慮を払う。これらの事項の重要性にかんがみ、UNTACは、当該事項について責任を有する機関の厳正な中立を確保するために必要な管理を実施することを必要とする。国際連合は、SNCと協議の上、カンボディアにおける正常な日常生活を確保するため、活動を続けることができる機関、団体及び事務所を指定する。

第七条

 SNC、UNTAC及び現存する行政機構の間の関係は、附属書一に規定する。

第四節 外国の軍隊の撤退及びその検証

第八条

 この協定の効力発生の後直ちに、カンボディアに残留しているすべての外国の軍隊、軍事顧問及び軍の要員は、その武器、弾薬及び装備とともに、カンボディアから撤退し、また、同国に復帰してはならない。撤退すること及び復帰しないことについては、附属書二の規定に従って、UNTACの検証に従う。

第五節 停戦及び外部からの軍事援助の停止

第九条

 停戦は、この協定の効力が発生する時に効力を生ずる。すべての軍隊は、直ちに戦闘を停止し、また、すべての敵対行為並びにその支配する領域を拡大し又は新たな戦闘に導くおそれのあるいかなる配備、移動又は行動も慎む。署名国は、国際連合安全保障理事会に対し、UNTACの軍事部門がこの条に定める過程を監督し、監視し及び検証することができるようになるまでの間、この過程を支援するためのあっせんを行うよう国際連合事務総長に要請するよう勧誘する。

第十条

 この協定の効力発生の時に、カンボディアのすベての派に対する外部からのすべての軍事援助は、直ちに停止する。

第十一条

 暫定期間における軍事に関する措置は、治安状況を安定させ及び紛争当事者間の信頼を醸成することにより、この協定の目的を強化し及び戦闘状態に回帰する危険を回避することを目的とする。UNTACによる停戦の監督、監視及び検証並びに暫定期間における外国の軍隊の撤退の検証並びにすベてのカンボディアの軍隊及びその武器の再編成、収容及び最終的な処理を含む関連措置に関する詳細な規定は、附属書一のC節及び附属書二に定める。

第二部 選挙

第十二条

 カンボディア国民は、憲法制定議会の自由かつ公正な選挙により、カンボディアの将来の政治体制を決定する権利を有する。憲法制定議会は、第二十三条の規定に基づきカンボディアの新たな憲法を起草し、及び承認し、並びに立法議会に移行する。立法議会は、新たなカンボディア政府を設立する。この選挙は、国際連合の主催の下に、中立的な政治環境において、かつ、カンボディアの国家の主権を全面的に尊重して実施する。

第十三条

 UNTACは、附属書一のD節及び附属書三の規定に基づき、前条に定める選挙の組織及び管理について責任を負う。

第十四条

 すべての署名国は、第十二条に定める選挙が国際連合によって自由かつ公正であると認証されたときは、当該選挙の結果を尊重することを約束する。

第三部 人権

第十五条

1 カンボディア国内のすべての者並びにすベてのカンボディアの難民及び避難民は、世界人権宣言その他関連する人権に関する国際文書にうたわれた権利及び自由を享有する。

2 この目的のため、

(a)カンボディアは、次のことを約束する。

 カンボディアにおける人権及び基本的自由の尊重及び遵守を確保すること。

 カンボディア市民が人権及び基本的自由を促進し及び擁護する活動を行う権利を支持すること。

 過去の政策及び慣行の再現が許されないことを確保するための効果的な措置をとること。

 関連する人権に関する国際文書に従うこと。

(b)この協定の他の署名国は、特に人権の侵害の再発を防止するため、関連する国際文書及び国際連合総会の関連決議にうたわれた人権及び基本的自由がカンボディアにおいて尊重され及び遵守されることを促進し及び奨励することを約束する。

第十六条

 UNTACは、暫定期間において、附属書一のE節の規定に基づき、人権の尊重を確保する環境を助長することについての責任を負う。

第十七条

 国際連合人権委員会は、暫定期間の終了後、必要な場合には同委員会及び国際連合総会に対して調査結果を毎年報告する特別報告者を任命するこを含め、カンボディアにおける人権の状況を引き続き密接に監視するものとする。

第四部 国際保障

第十八条

 別個の協定に定めるところにより、カンボディアは、その主権、独立、領土の保全及び不可侵、中立並びに国家の統一を維持し、保持し及び防衛することを約束し、また、他の署名国は、これらを承認し及び尊重することを約束する。

第五部 難民及び避難民

第十九条

 この協定の効力発生の後、カンボディアの難民及び避難民の自発的な帰還及び調和のとれた社会復帰に資する政治的、経済的及び社会的条件をカンボディアにおいて醸成するため、あらゆる努力を払う。

第二十条

1 カンボディアの国外に居住するカンボディアの難民及び避難民は、安全のうちに、尊厳をもって、かつ、いかなる種類の脅迫又は強制も受けることなくカンボディアに帰還し及び生活する権利を有する。

2 署名国は、国際連合事務総長に対し、包括的な政治解決の不可分の一部として、また、 同事務総長の特別代表の全般的な権限の下に、附属書四に規定する難民及び避難民の帰還に関する指針及び原則に従いカンボディアの難民及び避難民が安全のうちに、かつ、尊厳をもって帰還することを促進するよう要請する。

第六部 捕虜及び被抑留者の解放

第二十一条

 すベての捕虜及び被抑留者の解放は、赤十字国際委員会(ICRC)が国際連合事務総長の特別代表と協力して行う指導の下に、必要な場合には他の適当な国際人道機関及び署名国の援助を得て、できる限り早期に完了する。

第二十二条

 「被抑留者」とは、捕虜ではない者で、いずれかの方法により軍事的又は政治的闘争に貢献したためその貢献を理由にいずれかの派によって逮捕され又は抑留されたものをいう。

第七部 カンボディアの新たな憲法の諸原則

第二十三条

 カンボディアの新たな憲法に織り込まれる基本原則(人権及び基本的自由並びにカンボディアの中立の地位に関するものを含む。)は、附属書五に規定する。

第八部 復旧及び復興

第二十四条

 署名国は、別個の宣言に規定するところにより、国際社会に対し、カンボディアの復旧及び復興のための経済的及び財政的支援を提供するよう要請する。

第九部 最終規定

第二十五条

 署名国は、誠実に、かつ、協力の精神に基づいて、この協定の実施に関する紛争を平和的手段により解決する。

第二十六条

 署名国は、他の国、国際機関及び他の団体に対し、この協定の実施及びUNTACの任務の遂行に協力し並びにこれらを援助するよう要請する。

第二十七条

 署名国は、国際連合による任務の遂行を確保するため、国際連合に対し、特権及び免除の付与並びに自国の領域内及び当該領域を通過する移動及び通信の自由を容易にすることを含む全面的な協力を行う。UNTACは、その任務を遂行するに当たり、カンボディアに隣接するすべての国の主権を十分に尊重する。

第二十八条

1 署名国は、この協定において負うすべての義務を誠実に履行し、また、国際連合に対し、UNTACがその任務の遂行に当たり必要とする情報の提供を含む全面的な協力を行う。

2 SNCの構成員がカンボディアを代表して行う署名は、カンボディアのすべての派及び軍隊に対して、この協定の規定を義務づける。

第二十九条

 カンボディアに関するパリ会議の二人の共同議長は、この協定の違反が生じた場合又はそのおそれがある場合には、国際連合安全保障理事会の権限を害することなく、また、国際連合事務総長の要請に基づき、この協定に定める義務を尊重することを確保するための適当な措置をとるため、カンボディアに関するパリ会議の参加国との協議を含む適当な協議を直ちに行う。

第三十条

 この協定は、署名した時に効力を生ずる。

第三十一条

 この協定は、すべての国による加入のために開放しておく。加入書は、フランス共和国政府及びインドネシア共和国政府に寄託する。この協定に加入する国については.その加入書が寄託された日に効力を生ずる。加入国は、署名国と同一の義務を負う。

第三十二条

 中国語、英語、フランス語、クメール語及びロシア語をひとしく正文とするこの協定の原本は、フランス共和国政府及びインドネシア共和国政府に寄託するものとし、これらの政府は、その認証謄本をカンボディアに関するパリ会議に参加した他の国の政府及び国際連合事務総長に送付する。

 以上の証拠として、下名の全権委員は、正当に委任を受けてこの協定に署名した。

 千九百九十一年十月二十三日にパリで作成した。

(なお、署名国はオーストラリア、ブルネイ、カンボディア、カナダ、中国、フランス、インド、インドネシア、日本、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ソ連、英国、米国、ベトナム、ユーゴ)

附属書一 UNTACの権限

A節 一般手続

1 UNTACは、協定第六条の規定に基づき、自由かつ公正な選挙の組織及び管理並びにカンボディアの行政の当該選挙に関連した側面に関する権限を含め、この協定の実施を確保するために必要な権限を行使する。

2 次の仕組みは、この協定の実施に関し国際連合事務総長の特別代表と最高国民評議会(SNC)との間に生じ得るすべての問題を解決するために用いる。

(a)SNCは、UNTACに助言を与え、UNTACは、SNCの構成員の間に意見の一致があり、かつ、この協定の目的に合致する場合には、その助言に従う。

(b)SNCの議長であるノロドム・シハヌーク殿下のあらゆる努力にもかかわらずSNCの構成員の間に意見の一致が得られない場合には、当該議長は、SNCにおいて表明された意見を十分に考慮して、UNTACにいかなる助言を与えるかを決定する権限を有する。UNTACは、この協定の目的に合致する場合には、その助言に従う。

(c)カンボディアの主権の正当な代表であるSNCの議長であるノロドム・シハヌーク殿下が理由のいかんを問わず(b)の決定を行うことができない状況にある場合には、当該議長の決定権は、国際連合事務総長の特別代表に移転する。当該特別代表は、SNCにおいて表明された意見を十分に考慮して、最終決定を行う。

(d)この協定によりSNCに与えられた協定の実施に関する権限は、意見の一致により、又は、意見の一致が得られない場合には(b)に規定する手続に従い、SNCの議長が行使する。カンボディアの主権の正当な代表であるSNCの議長であるノロドム・シハヌーク殿下が理由のいかんを問わずこのような権限を行使することができない状況にある場合には、当該議長の権限は、国際連合事務総長の特別代表に移転し、当該特別代表が必要な措置をとる。

(e)すべての場合において、国際連合事務総長の特別代表は、SNCの助言又は行動がこの協定に合致しているかどうかを決定する。

3 国際連合事務総長の特別代表又はその代理は、SNCの会合及びSNCが設立するすべての補助機関の会合に出席し、UNTACが行う決定に関するすべての必要な情報をSNCの構成員に提供する。

B節 一般行政

1 協定第六条の規定に基づき、外務、国防、財務、公安及び情報の分野において活動するすべての行政上の機関、団体及び事務所は、UNTACの直接の管理の下に置かれ、UNTACは、厳格な中立を確保するために必要な管理を行う。これに関し、国際連合事務総長の特別代表は、必要な事項を決定し、これらの行政上の機関、団体及び事務所に対して指示を出すことができる。この指示は、カンボディアのすべての派に出すことができるものとし、また、カンボディアのすべての派を拘束する。

2 国際連合事務総長の特別代表は、協定第六条の規定に基づき、SNCと協議の上、他のいずれの行政上の機関、団体及び事務所が選挙の結果に直接影響を及ぼし得るかを決定する。これらの行政上の機関、団体及び事務所は、UNTACの直接の監督又は管理の下に置かれ、UNTACのすべての指導に従う。

3 国際連合事務総長の特別代表は、協定第六条の規定に基づき、SNCと協議の上、いずれの行政上の機関、団体及び事務所がカンボディアにおける正常な日常生活を確保するため引き続き活動することができるかを認定する。ただし、当該機関、団体及び事務所は、必要な場合には、UNTACが必要と認める監督の下に置かれる。

4 国際連合事務総長の特別代表の権限には、協定第六条の規定に基づいて、次の事項についての権限を含む。

(a)カンボディアのすべての派の行政上の機関、団体及び事務所内においてあらゆる行政上の活動及び情報に無制限に接することができる国際連合の職員を配置すること。

(b)(a)の行政上の機関、団体及び事務所の職員の配置換え又は解任を要求すること。

5 (a)国際連合事務総長の特別代表は、付属書二第一条3に規定する情報に基づき、カンボディアの各派と協議の後、カンボディアにおける法の執行に必要な警察を決定する。カンボディアのすべての派は、これに関し、当該特別代表が行う決定に従うことを約束する。

(b)すべての警察は、法律及び秩序が効果的かつ公平に維持されること並びに人権及び基本的自由が十分に擁護されることを確保するため、UNTACの監督及び管理の下に活動する。UNTACは、SNCと協議の上、このような目的の達成を確保するために必要な範囲内で、カンボディアの全地域にわたって他の法の執行及び司法上の手続を監督する。

6 UNTACは、国際連合事務総長の特別代表が必要と認める場合には、SNCと協議の上、カンボディアにおける現行の行政組織による活動であってこの包括的な政治解決の目的に合致せず又は反するものに関する苦情及び申立ての調査を行う。UNTACは、また、自己の職権によりこのような調査を行う権限を与えられる。UNTACは、必要な場合には、適当な是正措置をとる。

C節 軍事的機能

1 UNTACは、附属書二の規定に従い、次の措置を含む外国の軍隊の撤退、停戦及び関連する措置を監督し、監視し、及び検証する。

(a)あらゆる種類の外国の軍隊、軍事顧問及び軍の要員並びにその武器、弾薬及び装備がカンボディアから撤退すること及びカンボディアヘ復帰しないことの検証

(b)隣接国の政府の領域内又はその周辺においてこの協定の実施を脅かすおそれのあるあらゆる動向に関する隣接国の政府との連絡

(c)カンボディアのすべての派に対する外部からの軍事援助の停止の監視

(d)カンボディアの全地域にわたる武器及び軍事補給品の貯蔵場所の探索並びに没収

(e)地雷の除去の援助並びに地雷の除去に係る訓練計画及び地雷に関する意識向上に係る計画のカンボディア人の間における実施

2 UNTACは、附属書二の規定に従い、合意される運営日程表に基づき、すべての軍隊を再編成し及び特に指定された収容のための地域に再配置することを監督する。

3 UNTACは、軍隊が収容のための地域に入った時に、附属書二に規定する軍備の管理及び縮小の手続を開始する。

4 UNTACは、附属書二の規定に従い、各派の軍隊を動員解除する段階的な過程に関し必要な措置をとる。

5 UNTACは、必要な場合には、すべての捕虜及び被抑留者の解放に関して、赤十字国際委員会を援助する。

D節 選挙

1 UNTACは、この節及び付属書三の規定に従い、協定第二部に規定する選挙を組織し、及び管理する。

2 UNTACは、選挙の過程の組織及び管理に関して、SNCと協議することができる。

3 選挙の過程に関する責任を遂行するに当たって、UNTACの具体的な権限には、次のものを含む。

(a)SNCと協議の上、カンボディアにおける自由かつ公正な選挙の実施に必要な法令、手続及び行政上の措置の制度を確立すること(人権の尊重と両立する方法による選挙への参加について規定し並びに選挙人の選好に影響を及ぼす強制及び金銭的な勧誘を禁止する選挙法及び実施規則の採用を含む。)。

(b)SNCと協議の上、この協定の目的を損なうおそれのある現行の法令の規定を停止し及び廃止すること。

(c)選挙の過程を支援するため選挙のすべての側面に関する選挙人の教育計画を立案し及び実施すること。

(d)有権者が登録の機会を有することを確保するため、選挙の過程の第一段階として選挙人登録制度を立案し及び実施し並びにその後、検証を受けた選挙人登録名簿を準備すること。

(e)政党及び候補者名簿の登録制度を立案し及び実施すること。

(f)選挙に参加するすべての政党が新聞、テレビ、ラジオ等の媒体を公正に利用することを確保すること。

(g)カンボディア人の選挙、政治運動及び投票手続への参加を監視し及び促進するための措置を採用し及び実施すること。

(h)登録された選挙人が投票の機会を有することを確保するため、投票制度を立案し及び実施すること。

(i)SNCと協議の上、選挙運動及び投票の監視を希望する外国人の監視員の立合いについて便宜を与えるための調整された措置を講ずること。

(j)投票及び集計のための全般的な指示を行うこと。

(k)選挙の不正行為に関する苦情を認定し及び調査し並びに適当な是正措置をとること。

(l)選挙が自由かつ公正であったかどうかを決定し、自由かつ公正であったと決定された場合には、正当に選出された者の名簿を認証すること。

4 UNTACは、この節の規定に基づく責任を遂行するに当たり、選挙の過程において不正がないことを確保する上でUNTACを援助する保障制度を確立する。この制度には、カンボディア人の代表が登録及び投票手続を監視するための措置並びに苦情の聴取及び決定のためのUNTACの手続を含む。

5 選挙の過程の諸段階の日程表は、2に定めるところに従い、SNCと協議の上、UNTACが決定する。選挙の過程の期間は、選挙人の登録の開始から九箇月を超えない。

6 UNTACは、選挙の過程を組織し及び管理するに当たり、採用される制度及び手続が完全に公平であること並びに運用上の措置ができる限り行政的に簡素かつ効率的であることを確保するためのあらゆる努力を払う。

E節 人権

 UNTACは、協定第十六条の規定に従い、次の措置をとる。

(a)人権の尊重及び人権に対する理解を促進するための人権に関する教育計画の開発及び実施

(b)暫定期間における全般的な人権の監視

(c)人権に関する苦情の調査及び適当な場合には是正措置

附属書二 撤退、停戦及び関連する措置

第一条 停戦

1 カンボディアのすべての派(以下「各派」という。)は、陸上、水上及び空中における包括的な停戦を遵守することを合意する。この停戦は、二の段階において実施する。第一の段階においては、停戦は、国際連合事務総長のあっせんによる援助を得て遵守する。できる限り早期に開始される第二の段階においては、UNTACが停戦を監督し、監視し及び検証する。UNTACの軍事部門の司令官は、各派と協議の上、第二の段階が開始される正確な日時を決定する。この日は、第二の段階の実施の少なくとも四週間前に定める。

2 各派は、この協定に署名したときは、停戦を遵守することを約束し、並びに各派の軍隊に対し、第二の段階が開始されるまでの間、直ちに戦闘を停止すること、すべての敵対行為を慎むこと及び各派の軍隊が支配する領域を拡大し又は戦闘の再開に導くおそれのあるいかなる配備、移動又は行動も慎むことを命ずることを約束する。「軍隊」には、すべての正規軍、州の軍隊、郡の軍隊、準軍隊及び他の補助的な軍隊を含むことを合意する。第一の段階において、国際連合事務総長は、停戦の遵守において各派を援助するため、各派に対しあっせんを行う。各派は、同事務総長又はその代理がこの点に関して行うあっせんの実施に協力することを約束する。

3 各派は、この協定の署名の後直ちに国際連合に対し次の情報を提供することを合意する。

(a)各派の軍隊の総兵力、編成、カンボディア内外における配備の正確な数及び位置。軍隊の配備については、占領しているかいないかにかかわらず、すべての部隊の陣地(拠点、補給基地及び補給経路を含む。)を地図に標示する。

(b)各派の軍隊が保有する武器、弾薬及び装備の包括的な目録並びにこれらの武器、弾薬及び装備が配備されている正確な位置

(c)各派の地雷原の詳細な記録(設置された地雷の種類及び特徴を含む。)及び各派が使用したブービートラップについての情報並びに他の派が設置した地雷原又は使用したブービートラップに関し各派が有しているあらゆる情報

(d)各派の警察軍の総兵力、編成、配備の正確な数及び位置並びにその武器、弾薬及び装備の包括的な目録及びこれらの武器、弾薬及び装備が配備されている正確な位置

4 UNTACの軍事部門の司令官は、カンボディアに到着の後直ちに、かつ、第二の段階の開始の四週間前までに、各派と協議の上、第三条の規定に従い、各派の軍隊の再編成及び収容のための、並びにその武器、弾薬及び装備の貯蔵のためのUNTACの計画を売成する。この計画には、再編成及び収容のための地域の指定及び合意された日程表を含む。収容のための地域は、大隊又はこれよりも大きい規模で設定する。

5 各派は、第二の段階の開始の少なくとも二週間前に、合意された第二の段階の開始の日時、各派の軍隊の再編成及び収容のための計画並びにその武器、弾薬及び装備の貯蔵のための計画並びに特に各派の軍隊が出頭すべき再編成のための地域の正確な位置につき可能なあらゆる連絡手段を用いて各派の軍隊に通報するための措置をとることを合意する。その通報は、第二段階の開始の後も四週間継続して行う。

6 各派は、厳格に停戦を遵守し、陸上、水上及び空中におけるいかなる敵対行為も再開しない。各派の軍隊の司令官は、その指揮の下にあるすべての部隊が、指定された再編成のための地域に移動するまでの間、それぞれの位置に留まり並びにすべての敵対行為及びその部隊の支配する領域を拡大し又は戦闘の再開に導くおそれのあるいかなる配備、移動又は行動も慎むことを確保する。

第二条 連絡制度及び混合軍事作業部会

 混合軍事作業部会(MMWG)は、停戦の遵守において生じ得るあらゆる問題を解決することを目的として、設置する。同作業部会は、カンボディアにおける国際連合の最も先任の軍事将校又はその代理が議長を務める。各派は、准将又はこれと同等の階級の将校をMMWGで任務を遂行するため指名することを合意する。同作業部会の構成、活動方法及び会合の場所は、国際連合の最も先任の軍事将校が各派と協議の上、決定する。現場における実際的な問題の解決のため、同様の連絡体制を軍事指揮下のより低い位においても設ける。

第三条 各派の軍隊の再編成及び収容並びにその武器、弾薬及び装備の貯蔵

1 指定された収容のための地域にまだ至っていない各派のすべての軍隊は、第一条4に規定する運営日程表に従い、UNTACの軍事部門が設定し及び運営する再編成のための地域に出頭する。この再編成のための地域は、第二の段階の開始の日の一週間前までに設定され、運営可能な状態になる。各派は、そのすべての軍隊が武器、弾薬及び装備とともに、第二の段階の開始の後二週間以内に再編成のための地域に出頭するために準備することを合意する。再編成のための地域に出頭したすべての軍の要員は、その後、その武器、弾薬及び装備とともに、指定された収容のための地域にUNTACの軍事部門の要員によって護送される。各派は、軍の要員が十分安全に、かつ、いかなる妨害を受けることもなく、再編成のための地域に出頭することができることを確保することを合意する。

2 UNTACは、第一条3の規定に従って提供される情報に基づき、再編成及び収容の過程が第一条4の計画に従って完了したことを確認する。UNTACは、これらの過程を第二の段階の開始の後四週間以内に完了するよう努める。UNTACの軍事部門の司令官は、すべての軍隊の再編成及び収容のための地域への移動がそれぞれ完了した時に、その旨を四の各派に通報する。

3 各派は、その軍隊が指定された収容のための地域へ入った時に各派の指揮官がその軍の要員に対しその要員の武器、弾薬及び装備をUNTACの管理の下に貯蔵するため直ちにUNTACに引き渡すことを指示することを合意する。

4 UNTACは、各派の所有するすべての武器、弾薬及び装備がその管理の下に置かれたことを検証するため、UNTACに引き渡された武器、弾薬及び装備を第一条3(b)の目録と照合する。

第四条 収容期間における軍隊への再補給

 UNTACの軍事部門は、再編成及び収容の過程において、各派のすべての軍隊への再補給を監督する。このような再補給は、食糧、水、衣類、医薬品等の非殺生的な性格の品目及び医療の提供に限定する。

第五条 各派の軍隊並びにその武器、弾薬及び装備の最終的な処理

1 包括的な政治解決の目的を強化し、戦争の再発の危険を最小のものにし、治安状況を安定させ及び紛争当事者間の信頼を醸成するため、各派は、その軍隊の少なくとも七十パーセントの動員解除を段階的な、かつ、均衡のとれた過程において実施することを合意する。この過程は、第一条の規定により提出される情報に基づき、及び各派と協議の上UNTACが作成する詳細な計画に従って実施する。この過程は、選挙のための登録の過程の終了の前に、かつ、国際連合事務総長の特別代表により決定される日に完了するものとする。

2 カンボディアの各派は、選挙の前又は直後にその残留するすべての軍隊を動員解除すること並びに完全な動員解除が得られない場合には、協定第十二条の規定に基づいて成立する新たに選出される政府がこれらの軍隊の一部又は全部を新国軍に編入することに関して行ういかなる決定も尊重しかつこの決定に従うことを約束する。lの動員解除が完了したときは、カンボディアの各派及び国際連合事務総長の特別代表は、収容のための地域に残留する軍隊の最終的な処理について、次のいずれの措置を適用するかを決定するために再検討することを約束する。

(a)各派が、収容のための地域に残留するすべての又は一部の軍隊の動員解除をなるベく選挙の前又は直後に行うことを合意する場合には、当該特別代表は、各派と協議の上、動員解除を行うための日程表を作成する。

(b)選挙の前又は直後における残余のすべての軍隊の全面的な動員解除が不可能な場合には、各派は、収容のための地域に残留するそのすべての軍隊を新国軍に編入することを考慮するため、協定第十二条の規定に基づいて成立する新たに選出される政府に当該軍隊を提供することを約束する。各派は、更に、新国軍に編入されない軍隊を当該特別代表が作成する計画に従って直ちに動員解除することを合意する。残留する軍隊並びにすべての武器、弾薬及び装備の最終的な処理に関し、UNTACは、カンボディアから撤退する時に、暫定期間において果たしてきた自己の責任を新たに選出される政府へ秩序ある方法で移転することを確保するために必要な権限を保持する。

3 UNTACは、必要に応じ、選挙の前に動員解除された軍隊の市民生活への復帰を援助する。

4 (a)UNTACは、暫定期間において、各派のすべての武器、弾薬及び装備を管理し、及び警備する。

(b)UNTACは、収容された軍隊が1の規定に従って動員解除される時に、これと並行して、収容のための地域内の場所に貯蔵された武器、弾薬及び装備の削減を行う。収容のための地域内に残留している軍隊については、その武器、弾薬及び装備は、国際連合事務総長の特別代表の明確な許可に基づく場合にのみ利用する。

(c)2(a)の規定に従い更に軍隊の動員解除が行われる場合には、収容のための地域内に貯蔵された武器、弾薬及び装備について、相応の削減を行う。

(d)すべての武器、弾薬及び装備の最終的な処理は、協定第十二条の規定に基づき自由かつ公正な選挙により成立する政府が決定する。

第六条 すべての種類の外国の軍隊がカンボディアから撤退すること及び復帰しないことの検証

1 UNTACは、停戦の第二の段階の開始の二週間前までに、外国の軍隊の撤退に関し、文書による詳細な情報の提供を受ける。この情報には、次の要素を含む。

(a)外国の軍隊の総兵力並びにその編成及び配備

(b)外国の軍隊の保有する武器、弾薬及び装備の包括的な目録並びにこれらの正確な位置

(c)カンボディアからの撤退の経路、国境の通過点及び出発の時間を含む撤退計画(既に実施されたものであるか今後実施されるものでああるかを問わない。)

2 UNTACは、1の規定に従って提供された情報に基づき、適当と認める方法により調査を行う。情報を提供する派は、UNTACの調査員に随行する人員を提供することを要請される。

3 UNTACは、外国の軍隊の存在を確認したときは、直ちに軍事部門の要員を当該外国の軍隊に配備し、当該外国の軍隊がカンボディアの領域から撤退するまで随行させる。UNTACは、また、すべての種類の外国の軍隊の撤退を検証すること及びその復帰しないことを確保するため、撤退の経路、国境の通過点及び飛行場に検問地点を設置する。

4 第二条に規定する混合軍事作業部会(MMWG)は、lから3までに規定するUNTACの任務の遂行を援助する。

第七条 カンボディアの各派に対する外部からの軍事援助の停止

1 各派は、この協定の署名の時から、外部からのいかなる軍事援助(外部の供給源からの武器、弾薬及び軍用装備を含む。)も獲得せず又は求めないことを約束する。

2 その領域がカンボディアに隣接する署名国、すなわちラオス人民民主共和国、タイ王国及びヴィエトナム社会主義共和国の政府は、次のことを約束する。

(a)カンボディアの各派に対するいずれかの形による軍事援助の供与を目的とし、領土、領海及び領空を含む自国の領域が使用されることを防止すること。これらの国の領域を通じての食糧、水、衣類、医薬品等の品目の再補給については、認める。ただし、cの規定を害することなく、UNTACがカンボディアに到着した時にその監督に従う。

(b)停戦の第二の段階の開始の後四週間以内に、UNTACの軍事部門の司令官に対し、カンボディアの各派のいかなる軍隊、武器、弾薬及び軍用装備も自国の領域に存在しないことについて書面による確認を行うこと。

(c)包括的な政治解決の規定に反する活動が自国の領域において行われている旨の苦情についてUNTACが自国の主権を十分に尊重しつつ調査するに当たり、UNTACを援助するため、停戦の第二の段階の開始の後四週間以内に、UNTACの連絡将校を自国の首都に受け入れること及び大佐又はこれと同等の階級の将校を指名すること。

3 UNTACがカンボディアの各派に対する外部からの援助の停止を監視することができるようにするため、各派は、各派に対し行われてきた武器、弾薬及び軍用装備を含む軍事援助の供給の経路及び手段に関し入手可能なすべての情報をこの協定の署名の後UNTACに提供することを合意する。UNTACは、停戦の第二の段階の開始の後直ちに、次の実際的な措置をとる。

(a)カンボディア側の国境沿いの経路及び選定された地点並びにカンボディア国内の飛行場に検問地点を設置する。

(b)カンボディアの沿岸及び内水路を巡視する。

(c)各派に対する武器の供給の申立てを調査し及び巡視を行うため、カンボディア国内の戦略拠点において移動調査隊を維持する。

第八条 武器及び軍事補給品の貯蔵場所

1 各派は、カンボディアの全地域にわたって治安状態を安定させ、信頼を醸成し並びに武器及び軍事補給品を削減するため、UNTACの軍事部門の司令官に対し、当該司令官が決定する日の前にカンボディアの全地域にわたって知られている又は疑いがあるとされる武器及び軍事補給品の貯蔵場所に関し各派が有するすべての情報(標示された地図を含む。)を提供することを合意する。

2 UNTACの軍事部門の司令官は、受領した情報に基づき、1の日の後、各報告を調査するための検証団を配備し、及び発見された各貯蔵場所を破壊する。

第九条 不発弾薬類

1 UNTACの軍事部門は、カンボディアに到着の後直ちに、最初の措置として、知られているすべての地雷原が明確に標示されることを確保する。

2 各派は、第三条の規定に従い再編成及び収容の過程が完了した後、地雷除去隊を提供することを合意する。この地雷除去隊は、UNTACが、残留する不発弾薬類を除去し、無力化し又は非活性化することを援助するため、UNTACの軍事部門の要員の監督及び管理の下に、収容のための地域を離れる。除去し、無力化し又は非活性化することができない地雷又は物体は、UNTACの軍事部門が考案する方法に従って明確に標示する。

3 UNTACは、

(a)爆発物を認識し及び回避するための大衆に対する教育計画を実施する。

(b)不発弾薬類を処理するためのカンボディア人の志願者を訓練する。

(c)カンボディア人の志願者に対する緊急の応急医療訓練を提供する。

第十条 違反の調査

1 UNTACは、第二の段階の開始の後、この附属書の規定又は関連する規定のいずれかを遵守しない事例に関しいずれかの派からの情報又は苦情を受領したときは、適当と認める方法により調査を行う。この調査がいずれかの派による苦情に応じて行われる場合には、当該苦情を申し立てた派は、UNTACの調査員に随行する人員を提供することを要請される。このような調査の結果は、苦情を申し立てた派及びその対象となった派並びに必要な場合にはSNCに対して、UNTACが伝達する。

2 UNTACは、また、この附属書の規定又は関連する規定の違反が生じていると信じ又は疑う理由があるその他の場合に、自己の職権により調査を実施する。

第十一条 捕虜の解放

 UNTACの軍事部門は、捕虜の解放に関する赤十字国際委員会の任務の遂行に当たり、同委員会に対し必要な援助を提供する。

第十二条 カンボディアの避難民の帰還及び再定住

 UNTACの軍事部門は、協定第十九条及び第二十条の規定に基づいて実施されるカンボディアの難民及び避難民の帰還に必要な援助、特に、帰還経路、受入センター及び再定住のための地域からの地雷の除去並びに受入センターの防護に必要な援助を提供する。

附属書三 選挙

1 協定第十二条の憲法制定議会は、百二十人の議員から成る。憲法制定議会は、選挙の日から三箇月以内に、カンボディアの新たな憲法の起草及び採択の作業を完了し、並びにカンボディアの新たな政府を形成する立法議会に移行する。

2 協定第十二条の選挙は、カンボディアの全地域にわたって、州を基礎として、及び政党が提出する候補者の名簿に基づく比例代表制に従って行う。

3 この協定の署名の時点においてカンボディアの難民及び避難民である者を含むすべてのカンボディア人は、選挙の過程に参加する同等の権利、自由及び機会を有する。

4 登録の申請の時点において十八歳に達している者又は登録期間中に十八歳になる者であって、カンボディアにおいて出生し又はカンボディアにおいて出生した者の子であるものは、選挙において投票する資格を有する。

5 政党は、五千人の登録された選挙人の集団によって形成することができる。政党の綱領は、包括的な政治解決に関する協定の原則及び目的に合致したものでなければならない。

6 政党への加入は、憲法制定議会の選挙に立候補するために必要である。政党は、政党を代表して選挙に立候補する候補者の名簿を提示する。当該侯補者は、登録された選挙人とする。

7 政党及び候補者は、選挙に立候補するために登録される。UNTACは、政党及び候補者が選挙に参加する資格を有するための所定の基準を満たしていることを確認する。UNTACがSNCと協議の上で定める実施規則を遵守することは、当該参加のための条件となる。

8 投票は、秘密投票によって行い、身体障害者又は読み書きをすることができない者については、援助のための措置をとる。

9 言論、集会及び移動の自由は、完全に尊重する。登録されたすべての政党は、新聞、テレビ、ラジオ等の媒体を公平に利用することができる。

附属書四 カンボディアの難民及び避難民の帰還

第一部 序

1 包括的な政治解決の一部として、すべてのカンボディアの難民及び避難民の平和的な、かつ、秩序ある自発的な帰還を容易にするため、カンボディアの難民及び避難民並びに一時的な避難国及び出身国に対して、あらゆる援助が与えれることが必要である。また、一時的な避難国に対して、いかなる問題も残されないことが確保されなければならない。出身国は、自国民に対して責任を有し、条件が整うにしたがって、その帰還を受け入れる。

第二部 難民及び避難民の帰還を促進する条件

2 カンボディアの国家を再建する作業のためには、カンボディアのすべての人的資源及び天然資源の活用を必要とする。このため、カンボディア人が一時的な避難国及び出身国以外の国から自己の選択する場所に帰還することは、重要な寄与となる。

3 大量のカンボディアの難民及び避難民が他の国に避難先を求めることとなった条件が再び発生しないことを確保するため、あらゆる努力を払うものとする。もっとも、一部のカンボディアの難民及び避難民は、自発的に祖国に帰還することを希望し、また、帰還することができる。

4 帰還した難民及び避難民を含むすべてのカンボディア人が平和に、かつ、安全のうちに、いかなる種類の脅迫及び強制も受けることなく生活する権利を有することを承認して、すべてのカンボディア人の人権及び基本的自由を全面的に尊重しなければならない。これらの権利には、特に、カンボディア国内における移動の自由、居所及び職業の選択並びに財産についての権利を含む。

5 包括的な政治解決に基づき、カンボディアの難民及び避難民の帰還及び調和のとれた社会復帰を促進する政治的、経済的及び社会的条件を同時に醸成するため、あらゆる努力を払うものとする。

6 難民及び避難民が選挙に参加することを確保するため、関連するあらゆる政治的、人道的、兵站的{站にたんとルビ}、技術的及び社会経済的要因を考慮して、また、SNCの協力を得て、大量の帰還はできる限り速やかに開始し及び完了するものとする。

7 カンボディアの難民及び避難民の帰還は、自発的なものとし、また、その決定は、事実を十分に承知して行うものとする。カンボディア内の目的地の選択は、個人が行うものとする。家族の統合は、維持されなければならない。

第三部 運用上の要素

8 国際連合難民高等弁務官(UNHCR)事務所、ICRCその他関係する国際機関が自己の権限及び運用上の責任を遂行するに当たり不可欠の人口調査、身元調査、医療援助、食科配給その他の活動を実施するため、一時的な避難国及び出身国における国家の主権の原則を尊重して、また、一時的な避難国及び出身国と密接に協力して、これらの国際機関によるすべてのカンボディアの難民及び避難民に対する全面的な接触を確保するものとする。このような接触は、関係する国際機関がその伝統的な監視及び運用上の責任を遂行することができるように、カンボディアにおいても認めるものとする。

9 署名国は、包括的な政治解決の枠内において、国際連合事務総長がUNHCRに対しカンボディアの難民及び避難民の帰還及び救済を援助する政府間機関の間において主導的、かつ、調整的な役割を果たすことを委任したことに満足して留意する。署名国は、すべての非政府機関がカンボディアの難民及び避難民のための自己の活動をUNHCRの活動とできる限り調整するように注意する。

10 SNC、カンボディアの難民及び避難民が一時的な避難先を求めた国の政府並びに帰還及び社会復帰のための努力に貢献する国は、帰国者の帰還を密接に監視し及びその帰還を容易にすることを希望する。このため、一定の期間、暫定的な諮問機関を設置するものとする。UNHCR、ICRCその他の適当な機関は、UNTACとともに、全面的に参加する者として招請される。

11 適切に監視された短期間における帰還のための援助は、カンボディアに帰還する家族及び個人が社会において自己の生活及び生計を調和的に確立することができるように、公平に供与するものとする。この暫定的な措置は、段階的に終了し、より長期の期間において、復興計画がこれに代わる。

12 帰還のための活動の組織及び監視に責任を有する者は、難民及び避難民の移動のために安全な条件が醸成されることを確保することが必要である。これに関し、適当な国境の通過点及び経路が指定され並びに地雷その他の危険が除去されなければならない。

13 国際社会は、帰還のための活動の財政上の要請に対して寛大に貢献するものとする。

附属書五 カンボディアの新たな憲法の諸原則

1 憲法は、国の最高法規とする。憲法は、立法府による承認、国民投票及びこれらの双方を含む所定の手続によってのみ改正することができる。

2 カンボディアの悲劇的な近年の歴史は、人権の擁護を確保するための特別の措置を必要とする。したがって、憲法には、生命に対する権利、個人の自由、安全、移動の自由、宗教、集会及び結社(政党及び労働組合を含む。)の自由、適正な手続及び法の下の平等、財産の恣意的{恣にしとルビ}な剥奪{剥にはくとルビ}又は正当な補償のない私有財産の剥奪{剥にはくとルビ}からの保護並びに人種、民族、宗教及び性による差別からの自由を含む基本的権利の宣言を含む。憲法は、刑法の遡及的な適用を禁ずる。基本的人権に関する宣言は、世界人権宣言及びその他関連する国際文書の規定に合致したものとする。権利を害された個人は、法廷にこれらの基本的権利を裁定させ及び執行させる権利を有する。

3 憲法は、カンボディアの主権国家並びに独立及び中立国家としての地位並びにカンボディア国民の国家の統一を宣言する。

4 憲法は、カンボディアが多元主義に基づく自由民主主義体制をとる旨を規定する。憲法は、定期的かつ真正な選挙について規定する。憲法は、普通かつ平等の選挙権に基づき投票し及び選出される権利について規定する。憲法は、選挙の手続が選挙の過程を組織し及びこの過程に参加するための完全かつ公正な機会を提供することを条件として、秘密投票による投票について規定する。

5 憲法に規定する権利を執行する権能を与えられた独立の司法府を設立する。

6 憲法は、憲法制定議会の議員の三分の二以上の多数による議決で採択する。

II カンボディアの主権、独立、領土の保全及び不可侵、中立並びに国家の統一に関する協定

 オーストラリア、ブルネイ・ダルサラーム国、カンボディア、カナダ、中華人民共和国、フランス共和国、インド共和国、インドネシア共和国、日本国、ラオス人民民主共和国、マレイシア、フィリピン共和国、シンガポール共和国、タイ王国、ソヴィエト社会主義共和国連邦、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国、アメリカ合衆国、ヴィエトナム社会主義共和国及びユーゴースラヴィア社会主義連邦共和国は、

 国際連合事務総長の出席の下に、

 カンボディアのための包括的な政治解決が、東南アジアにおける平和及び安全の維持という長期的な目的のために不可欠であることを確信し、

 国際連合憲章及び国際法の他の規則に基づく自国の義務を想起し、

 国家の内政及び対外的な事項への不干渉及び不介入の原則を完全に遵守することが国際の平和及び安全の維持にとって最も重要であることを考慮し、

 外部からのいかなる形の干渉、破壊、強制又は脅威も受けることなく国民の意思に従い自国の政治、経済、文化及び社会制度を自由に決定する国家の奪い得ない権利を再確認し、

 国際連合憲章及び他の関連する国際文書に従い人権及び基本的自由が尊重され及び遵守されることを促進することを希望して、

 次のとおり協定した。

第一条

1 カンボディアは、その主権、独立、領土の保全及び不可侵、中立並びに国家の統一を維持し、保持し及び防衛することを厳粛に約束する。カンボディアの永世中立は、自由かつ公正な選挙の後に採択されるカンボディアの憲法において、宣言し、及びうたう。

2 この目的のため、カンボディアは、次のことを約束する。

(a)他の国の主権、独立並びに領土の保全及び不可侵を害するおそれのあるいかなる行動も慎むこと。

(b)自国の中立に反するいかなる軍事同盟又は他の軍事協定も他の国と締結することを慎むこと。ただし、カンボディアがその固有の権利である自衛権の行使並びに法律及び秩序の維持を可能にするために必要な軍用装備、武器、弾薬及び援助を得る権利を害するものではない。

(c)直接であるか間接であるかを問わず、他の国の内政へのいかなる形の干渉も慎むこと。

(d)自国の主権、独立、領土の保全及び不可侵、中立並びに国家の統一と両立しない条約及び協定を終了させること。

(e)武力による威嚇又は武力の行使は、いかなる国の領土保全若しくは政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎むこと。

(f)他の国との間のすべての紛争を平和的手段によって解決すること。

(g)他の国の主権、独立並びに領土の保全及び不可侵を害するため自国又は他の国の領域を利用することを慎むこと。

(h)包括的な政治解決の実施のための国際連合の許可に基づく場合を除くほか、いかなる形においても軍の要員を含む外国の軍隊の自国への導入又は駐留を許可することを慎むこと及び自国における外国の軍隊の基地、要塞{塞にさいとルビ}又は施設の設置又は維持を防止すること。

第二条

1 この協定の他の締約国は、カンボディアの主権、独立、領土の保全及び不可侵、中立並びに国家の統一をあらゆる方法で承認し及び尊重することを厳粛に約束する。

2 この目的のため、lの締約国は、次のことを約束する。

(a)カンボディアの中立に反するいかなる軍事同盟又は他の軍事協定もカンボディアと締結することを慎むこと。ただし、カンボディアがその固有の権利である自衛権の行使並びに法律及び秩序の維持を可能にするために必要な軍用装備、武器、弾薬及び援助を得る権利を害するものではない。

(b)直接であるか間接であるかを問わず、カンボディアの内政へのいかなる形の干渉も慎むこと。

(c)武力による威嚇又は武力の行使は、カンボディアの領土保全若しくは政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎むこと。

(d)カンボディアとの間のすべての紛争を平和的手段によって解決すること。

(e)カンボディアの主権、独立、領土の保全及び不可侵、中立並びに国家の統一を害するため自国又は他の国の領域を利用することを慎むこと。

(f)他の国の主権、独立並びに領土の保全及び不可侵を害するためカンボディアの領土を利用することを慎むこと。

(g)包括的な政治解決の実施のための国際連合の許可に基づく場合を除くほか、いかなる形においても軍の要員を含む外国の軍隊のカンボディアヘの導入又は駐留を慎むこと及びカンボディアにおける軍隊の基地、要塞{塞にさいとルビ}又は施設の設置又は維持を慎むこと。

第三条

1 カンボディア国内のすべての者は、世界人権宣言その他関連する人権に関する国際文書にうたわれた権利及び自由を享有する。

2 この目的のため、

(a)カンボディアは、次のことを約束する。

 カンボディアにおける人権及び基本的自由の尊重及び遵守を確保すること。

 カンボディア市民が人権及び基本的自由を促進し及び擁護する活動を行う権利を支持すること。

 過去の政策及び慣行の再現が許されないことを確保するための効果的な措置をとること。

 関連する人権に関する国際文書に従うこと。

(b)この協定の他の署名国は、特に人権の侵害の再発を防止するため、関連する国際文書にうたわれた人権及び基本的自由がカンボディアにおいて尊重され及び遵守されることを促進し及び奨励することを約束する。

3 国際連合人権委員会は、必要な場合には同委員会及び国際連合総会に対し調査結果を毎年報告する特別報告者を任命することを含め、カンボディアにおける人権の状況を引き続き密接に監視するものとする。

第四条

 この協定の締約国は、他のすべての国に対し、カンボディアの主権、独立、領土の保全及び不可侵、中立並びに国家の統一をあらゆる方法で承認し及び尊重すること並びにこれらの原則又はこの協定の他の規定に合致しないいかなる行動も慎むことを求める。

第五条

1 カンボディアの主権、独立、領土の保全及び不可侵、中立並びに国家の統一の侵害若しくはこの協定の他のいずれかの義務の違反が生じた場合又はそのおそれがある場合には、この協定の締約国は、これらの義務の尊重を確保するためのすべての適当な措置をとるために、かつ、いかなる侵害又は違反も平和的手段によって解決するために直ちに協議することを約束する。

2 1の措置には、特に、国際連合安全保障理事会に事案を付託すること又は国際連合憲章第三十三条に規定する紛争の平和的解決のための手段に訴えることを含めることができる。

3 この協定の締約国は、カンボディアに関するパリ会議の共同議長の援助も求めることができる。

4 カンボディアにおいて人権に対する重大な侵害が生じた場合には、この協定の締約国は、国際連合の関係する機関に対し、関連する国際文書に従い当該侵害の防止及び抑制のための他の適当な措置をとることを求める。

第六条

 この協定は、署名した時に効力を生ずる。

第七条

 この協定は、すべての国による加入のために開放しておく。加入書はフランス共和国政府及びインドネシア共和国政府に寄託する。この協定に加入する国については、その加入書が寄託された日に効力を生ずる。

第八条

 中国語、英語、フランス語、クメール語及びロシア語をひとしく正文とするこの協定の原本は、フランス共和国政府及びインドネシア共和国政府に寄託するものとし、これらの政府は、その認証謄本をカンボディアに関するパリ会議に参加した他の国の政府及び国際連合事務総長に送付する。

 以上の証拠として、下名の全権委員は、正当に委任を受けてこの協定に署名した。

 千九百九十一年十月二十三日にパリで作成した。