データベース『世界と日本』
日本政治・国際関係データベース
東京大学東洋文化研究所 田中明彦研究室

[文書名] プラザ合意,5カ国大蔵大臣・中央銀行総裁の発表

[場所] ニューヨーク
[年月日] 1985年9月22日
[出典] 第10回大蔵省国際金融局年報昭和61年版,282‐284頁.
[備考] 
[全文]

1.フランス、西独、日本、英国及び米国の大蔵大臣及び中央銀行総裁は本日、1985年9月22日、相互のサーベイランスを行う合意との関連で、また、韓国のソウルでの来たるべき会合におけるより広範な国際的討議の準備の一部として会合を持った。彼らは、これら各国の経済発展と政策を再検討し、経済見通し、対外収支及び為替レートに対するその合意を評価した。

2.1985年5月のボン・サミットにおいて、7主要先進工業国の首脳とEC委員長は持続的成長と高雇用に向けての宣言を発表した。同宣言において、参加者は、

「すべての国が享受し得る永続的な新たな繁栄をもたらすために我々が行うことのできる最大の貢献は、我々各国において個々に、及び協力し共同して、持続的成長及び雇用の拡大をもたらす政策を根気強く追求して行くことである。」と合意した。

3.大臣及び総裁は、着実なインフレなき成長軌道で彼らの国々の間の好ましい経済パフォーマンスの収斂を促進する努力において著しい進展が見られたとの見解である。さらに、彼らは、彼らの国々が経済の活力と反応力を回復しつつあるとの結論に達した。これらの進展の結果、彼らは、彼らの国々における持続的でよりバランスのとれた成長への確固たる基盤が築かれたものと自信を持っている。この持続的成長は、他の先進国の利益となり、また、開発途上国にとって輸出市場の拡大を確保するのに役立ち、かくして多額の債務を負った開発途上国の問題の解決に重要な貢献をするであろう。

4.彼らは、この好ましい経済パフォーマンスの収斂が彼らの国々によってとられた政策主導により、一層影響されてきたものと信ずる。さらに、彼らの各国は、好ましい収斂を強め、現在の成長の持続性を強化する一層の政策措置の実施を決意している。

5.大臣及び総裁は、今後の政策決意とともに、彼らの国々の間の基礎的経済条件の最近の変化が、為替市場に十分反映されていないとの見解である。

最近の経済発展と政策変化{前12文字下線}

6.大臣及び総裁は、彼らの国々全体としての実質成長は、1982年の−0.7%のマイナス成長に比し、本年は約3%となろう。この数字は、1984年より若干低いが、過去4年間のいかなるときよりも、バランスのとれた成長となろう。1983−84年の米国の特に急速な成長の後、今やその他の国々において国内成長が一層明白となりつつあると期待する。特に、民間投資が力を得ている。現在の成長は、財政再建の中で生じており、それは、短命の財政刺激には依存していない。成長の構成における変化の結果、彼らの国々における実質成長は、米国の成長が鈍化しても引き続き強いものと見込まれる。

7.現在の持続的成長は過去30年間に例を見ない現象である、インフレ低下の枠組みの中で生じている。インフレ率は、ほぼ過去20年間の最低であり、再燃する兆しはない。

8.最近数年間金利は著しく低下してきている。これは、歓迎すべき国内的効果を別にして、開発途上国の債務負担を軽減する上で特に有意義であった。

9.この成功したパフォーマンスはインフレ及びインフレ期待を軽減したマクロ経済政策、政府支出に対する継続的な警戒、市場の力と競争の一層の強調及び慎重な金融政策に重要度を与えたことの直接の結果である。

10.これらの経済発展の積極面にかかわらず対外ポジションには、潜在的な問題を提起する大きなインバランスがあるが、これは広範な要因を反映するものである。それらは、米国がその相対的に極めて高い成長期から経験したその対外ポジションの悪化、いくつかの主要開発途上国の経済困難及び調整努力の米国の経常収支に与えた特に大きな影響、いくつかの市場での貿易アクセスの困難、米ドルの上昇などである。これらの要因−相対的成長率、開発途上国の債務問題及び為替レートの展開−の相互作用が、主要先進国間の大きく、潜在的に不安定な対外インバランスに寄与した。特に、米国は、大きくかつ増大する経常収支赤字を、また、日本及びそれより少ない程度で西独は、大きくかつ増大する経常収支黒字を有する。

11.米国の経常収支赤字は、現在、他の要因とともに保護主義圧力に寄与しており、これに抵抗しない場合、世界経済に重大な損害を及ぼす相互破壊的報復へと導く恐れがある。その場合には、世界貿易は縮小し、実質成長率はマイナスともなり、失業がなお増大し、債務負担のある開発途上国は是非必要とする輸出稼得を確保できなくなろう。

政策意図{前4文字下線}

12.大蔵大臣及び総裁は、これら各国が主導的工業国としてその国際的責任及び義務を果たす強い決意であることを首肯した。彼らは、また、その個々の政策の相互の整合性を確保する特別の責任を持っている。大臣は、より広範にして強力なインフレなき国内成長と解放された市場を定着させることが、現在の成長がよりバランスのとれた形で継続することを確保する上で鍵となる要素であることに合意し、この目的に沿った政策を行う決意である。予算赤字が過大なる国々においては、その赤字を充分に削減するためのより一層の措置が緊急に要請される。

13.大臣及び総裁は、保護主義圧力に抵抗することが不可欠であることに、合意した。

14.大臣は、開発途上諸国がその不可欠な調整努力を継続する際、その輸出のため市場へのアクセスを提供することの重要性を認識し、これが、保護主義政策を回避すべき重要な追加的理由であるとみた。彼らは、9月末に予定されているガット準備会合を歓迎し、そこで、ガットの新ラウンドの検討事項及び方式について大まかな合意に達する希望を表明した。

15.これに関連して、彼らは債務状況に関するボン介在宣言での声明を想起し、再確認した。

「世界貿易の持続的成長、より低い金利、開放的市場及び個々のケースにふさわしい量及び条件での継続的な資金供与が、開発途上国による健全な成長の達成及びその経済的・財政的困難の克服を可能ならしめるために必要である。」

16.大臣は、持続的インフレなき成長を達成する上で進展を監視し、この目的を達成するため個々の及び協調しての努力を強化するであろうことに合意した。そのため、彼らは、添付されているこれら各国の政策意図声明を首肯した。

結論{前2文字下線}

17.大蔵大臣及び中央銀行総裁は、最近の経済発展及び政策変化が、付属声明に記述された特定の政策意図と結合する場合に、継続的かつよりバランスのとれた低インフレ成長の基礎となることに合意した。彼らは、これまでに生じた大きくかつ増大する対外インバランスを是正するための改善の重要性に合意した。これに関連し、彼らは、一層の市場開放措置が保護主義に抵抗する上で重要であることに留意した。

18.大蔵大臣及び総裁は、為替レートが対外インバランスを調整する上で役割を果たすべきであることに合意した。このために、為替レートは基本的経済条件をこれまで以上によりよく反映しなければならない。彼らは、合意された政策行動が、ファンダメンタルズを一層改善するよう実施され強化されるべきであり、ファンダメンタルズの現状及び見通しの変化を考慮すると、主要非ドル通貨の対ドル・レートのある程度の一層の秩序ある上昇が望ましいと信じている。彼らは、そうすることが有用であるときには、これを促進するようより密接に協力する用意がある。

 フランス政府{前6文字下線}は、インフレを抑制し、所得の伸びを鈍化させ、対外収支を引き続き改善してゆくことを目的とする政策を行う考えである。また、構造調整と近代化を早める努力をさらに強化し、かくして雇用を創出する成長の基礎とする。

 したがって以下を決意する。

1.精力的にインフレ緩和を追求する。

2.インフレ鈍化を整合する、通貨供給増加目標値の達成を確保する。

3.政府借入れ需要を減らしつつ税負担を軽減するため、公共支出を斬新的に抑制する。

4.企業部門における改善された金融情勢によって可能とされる、投資の回復を促進する。

5.金利により大きな役割を与えるよう、金融仲介コストを軽減し、金融調節において金融部門における競争を増加させるため、金融市場の自由化・近代化に向けてさらに措置を講じる。

6.教育及び訓練の分野で、革新的かつ積極的政策を講じ、また、社会的パートナー間で労働組織に関して建設的話し合いを促進することによって、雇用の創出を促進する。

7.保護主義に抵抗する。

 ドイツ連邦共和国政府{前10文字下線}は、ドイツ経済が既に国内需要主導による成長が比重を高めつつあり、それに基づく着実な経済の回復過程にあることに留意し、安定した物価と低い金利水準の中で、継続的、強力かつ雇用創出する成長のために必要な条件を強化することにより達成される前進を維持・拡大するための政策を引き続き実施する。

 特に、ドイツ連邦共和国政府は、次の明白な意図をもって政策を実施する。

1.財政政策の優先目標は、民間主導及び生産的投資を促進し、物価安定を維持することである。

2.このため、連邦政府は堅実な支出抑制を維持することにより、経済における公共部門のシェアを引き続き徐々に減らしてゆく。1986年及び1988年に実施される予定の減税は、連邦政府が中期的枠組みにおいて継続する税制改革及び減税の、現在進みつつある過程の一部を成す。

3.連邦政府は、市場の効率的機能を阻害する硬直性を引き続き除去する。また、経済成長が雇用に与えるプラスの効果を高めるため、労働市場に影響を与える政策、規制及び慣行の見直しを継続する。連邦政府及びドイツ・ブンデスバンクは厚みのある、かつ効率的な金融・資本市場への進展が継続するよう、枠組みを提供する。

4.連邦政府の財政政策及びドイツ・ブンデスバンクの金融政策は引き続き、国内需要が継続して増大するような安定的な環境を確保する。

5.連邦政府は、引き続き保護主義に抵抗する。

 日本政府{前4文字下線}は、日本経済が主として国内民間需要増加に支えられた自立的成長局面にあることに留意し、持続的インフレなき成長を確保し、外国製品の国内市場への十分なアクセスを提供し、また円の国際化と国内資本市場の自由化を行うことを意図した政策を引き続きとる。

 特に、日本政府は次の明白な意図を持つ政策を実施する。

1.保護主義に抵抗、並びに外国製品及びサービスに対する日本の国内市場の一層の開放のため7月30日に発表した行動計画の着実な実施。

2.強力な規制緩和措置の実施による民間活力の十分な活力。

3.円レートに適切な注意を払いつつ、金融政策を弾力的に運営。

4.円が日本経済の潜在力を十分反映するよう、金融・資本市場の自由化及び円の国際化の強力な実施。

5.財政政策は、引き続き、国の財政赤字の削減と、民間活力を発揮させるような環境づくりという二つの目標に焦点を合わせてゆく。その枠組みの中で、地方団体が個々の実情を勘案して1985年度中に追加投資を行おうとする場合には、所要の許可が適切に与えられよう。

6.内需刺激努力は、消費者金融及び住宅金融市場拡大措置により民間消費及び投資の増大に焦点を合わせる。

 英国政府{前4文字下線}は、英国経済が最近4年間にわたって生産と国内需要の着実な成長を遂げていることを認識しつつ、インフレを抑制し、生産と雇用の持続的成長を促進し、公共部門の規模を削減し、より競争的・革新的な、市場指向的民間部門を発展させ、規制を減らし、経済全体のインセンティブを増加し、外国為替規制のない、開放された貿易・資本市場の維持を目的とする政策を引き続き実施する。

 特に、英国政府は以下の意図を有する。

1.物価安定を一層進展させる金融政策の運営を行い、生産及び雇用を増加させる金融環境を与える。また、慎重な財政政策を伴う金融政策を維持する。

2.GDPに対する公共支出の割合を引き続き減らし、公共部門企業の重要部門を、さらに民間所有に移転する。

3.インセンティブを改善するために租税負担を軽減し、経済における資源の効率的利用を促進する。

4.賃金審議会の改革及び青少年の訓練の改善を含め、労働市場の効果的機能を改善するため、追加的措置を講ずる。また、金融市場を自由化し、競争を強化するための提案を実行する。

5.保護主義に抵抗する。

 米国政府{前4文字下線}は、着実な、インフレなき成長を確保し、経済における市場及び民間部門参加の役割を最大化し、政府部門の規模と役割を軽減し、開放市場を維持する政策を行う強い決意である。

 これらの目的を達成するため、米国政府は以下を行う。

1.財政赤字を縮小し、資源を民間部門の活用に供するために、GNPに対する政府支出の役割を減らす努力を続ける。

2.1986会計年度の赤字削減パッケージを十分に実施する。議会を通過し、大統領が承認した本パッケージは、1986会計年度の予算赤字をGNPの1%以上削減するのみならず、その後の年度における赤字の一層大きな削減のための基礎となるであろう。

3.貯蓄を促進し、新たな雇用インセンティブを生み出し、経済の効率性を高め、それによりインフレなき成長を促進する歳入中立的な税制改革を実施する。

4.持続的な成長と物価安定への継続的前進を促進する金融環境を与える金融政策を運営する。

5.保護主義的措置に抵抗する。