データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 両独間基本条約と関係文書(ドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国の関係の基礎に関する条約)

[場所] 
[年月日] 1972年12月21日(署名)
[出典] わが外交の近況(外交青書)17号,574‐578頁.
[備考] 外務省仮訳
[全文]

 両締約国は

 平和の維持に対する両国の責任を想起し、

 欧州における緊張緩和と安全保障に寄与することを志向し、

 欧州のすべての国家の国境の不可侵性と現存国境内における領土の保全と主権の尊重が平和の基本的条件であることを自覚し、

 従つて両ドイツ国家はその相互関係において武力による威嚇又は武力の行使を慎まなければならないことを認識し、

 歴史的な所与の事実から出発し、かつ民族の問題を含む基本的問題に対するドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国の見解の相違にも拘らず、

 両ドイツ国家の人間の福祉のためにドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国の協力のための前提条件を創らんとする願望に導かれ、

 以下の通り合意した。

第1条 ドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国は権利の平等の基盤の上に正常な善隣関係を樹立する。

第2条 ドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国は、国際連合憲章に定められた目標と原則、就中すべての主権平等、独立、自主性、領土保全の尊重、自決権、人権の擁護と非差別の原則に従う。

第3条 ドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国は国際連合憲章に従い相互の係争問題を平和的手段によつてのみ解決し、武力による威嚇又は武力の行使を行なわない。

 両国は両国間に現存する国境(Grenze)が、現在及び将来にわたつて不可侵であることを確認し、相互の領土保全を無制限に尊重する義務を負う。

第4条 ドイツ連邦共和国及びドイツ民主共和国は両国の何れの一方も他方を国際的に代表し、又は他方の名において行動しえないことを出発点とする。

第5条 ドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国は欧州諸国家間の平和的関係を促進し、欧州における安全保障と協力に寄与する。

 両国は関係諸国の安全により不利益の生じない限りにおいて欧州における兵力と軍備の削減のための努力を支持する。

 ドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国は、実効的な国際的管理の下での一般的かつ完全な軍縮を目標として、国際的安全保障に寄与するごとき軍備制限と軍縮への努力就中核兵器及びその他の大量破壊兵器の分野での努力を支持する。

第6条 ドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国は両国の各々の主権は自国の領域内に限定されるとの原則による。両国は、両国の各々の内政・外交に関する事項についての独立と自主性を尊重する。

第7条 ドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国は相互関係正常化の一環として実務的及び人道的問題を規整する用意があることを表明する。両国は本条約の基盤の上にかつ相互の利益のために経済、学術、技術、交通、法律、郵便通信、スポーツ、環境保護及びその他の分野での協力を発展せしめ促進する。細目は付属議定書にこれを定める。

第8条 ドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国は常駐代表部を交換する。代表部は相互の政府所在地に設置される。代表部の設置に関連する実務的問題は別途これを定める。

第9条 ドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国は、両国が以前に締約した、又は両国に関係する二国間及び多国間の国際的条約及び合意は本条約により影響を受けないことにつき見解を等しくする。

第10条 本条約は批准を必要とし、その旨の文書が交換された翌日に発効する。

以上の証拠として両締約国の全権代表はこの条約に署名調印した。

1972年12月21日にベルリンで、ドイツ語の正文2通を作成した。

関係文書(抄)

付属議定書

I 第3条に関し

 ドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国は両国政府の受任者からなる委員会を設置することに合意する。委員会は両国間に現存する国境(Grenze)の標示状況を検討し、必要な限りにおいて更新補完し、かつ境界線に関し必要な文書を作成する。委員会は境界線と関連するその他の問題、例えば水利経済、エネルギー供給及び損害防止の問題の規整に寄与する。

 委員会はこの条約の署名後作業を開始する。

II 第7条に関し

1 ドイツ連邦共和国及びドイツ民主共和国の間の交易は現行諸協定にもとづき行なわれる。

 ドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国は経済関係の継続的発展を促進し、現状に適さなくなつた規則を是正し、交易構造を改善する目標のもとに長期的協定を締結する。

2 ドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国は、相互の利益のために科学技術の分野での協力を促進し、そのために必要な条約を締結する意志を表明する。

3 1972年5月26日の条約(注:両独間一般交通条約)によつて開始された交通の分野における協力は拡大され深められる。

4 ドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国は法による問題の解決を要請する人々の利益のために、法律面での協力、就中民法及び刑法の領域での協力を可能な限り簡単かつ合目的的に規整する用意のあることを表明する。

5 ドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国は万国郵便連合の一般規則と国際電気通信条約の基礎の上に郵便・通信協定を締結することに合意する。両国はこの協定を万国郵便連合(UPU)及び国際電気通信連合(UIT)に通告する。

 現行の諸取極及び双方に有利な手続がこの協定にとり入れられる。

6 ドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国は保健衛生の分野における協力への関心を表明する。両国は医薬品の交換及び所与の可能性の枠内での特殊病院及び療養施設での治療もまた関係条約において規整されることに合意する。

7 ドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国は文化面での協力を発展させる意図を有する。両国はこの目的のために政府間協定締結に関する交渉を開始する。

8 ドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国は、この条約の署名後所管のスポーツ組織がスポーツ関係促進のために話合いを行なう場合、これを支援する。

9 環境保護の分野においては、夫々相手側に対する損害及び危険の回避に寄与するために、ドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国の間に取極を締結するものとする。

10 ドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国は、書籍、雑誌、ラジオ及びテレビ作品交換を目標とする交渉を行なう。

11 ドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国は関係者の利益のために非商業ベースの支払・清算関係を規整するための交渉を行なう。両国はその際、社会的観点から取極を早期に締結するよう優先的に配慮する。

議定書の但書

 財産問題に関して両者の法的立場が相違しているため、この条約では規整することはできなかつた。

議定書に関する声明

ドイツ連邦共和国声明

「国籍問題は本条約では規整されなかつた」

ドイツ民主共和国声明

「ドイツ民主共和国は、本条約が国籍問題の規整を容易にするものと考える」

国連加盟申請に関する書簡交換

コール次官宛バール次官書簡

 以下の通り通報する光栄を有する。

 ドイツ連邦共和国政府は、ドイツ民主共和国政府が同国の国内法に従い国際連合加盟に必要な手続を開始することをテーク・ノートした。

 両国政府は申請提出の時期につき相互に通報する。

バール次官宛コール次官書簡

 以下の通り通報する光栄を有する。

 ドイツ民主共和国政府は、ドイツ連邦共和国政府が同国の国内法に従い国際連合加盟に必要な手続を開始することをテーク・ノートした。

 両国政府は申請提出の時期につき相互に通報する。

国連加盟申請に関する付属声明

ドイツ連邦共和国の声明

 ドイツ連邦共和国政府は、連邦議会召集後、国際連合加盟申請提出のための国内法上の前提条件をつくるために必要な手続を開始する。

両国首席代表の声明

 相互通報は申請がほぼ同時期に提出されることを目的としている。

協定及び取極のベルリン(西)への適用

−署名の際における両国の声明−

 第7条に関する付属議定書に定める協定及び取極を、1972年9月3日の四カ国協定に則りベルリン(西)に適用することについてはその都度合意し得る旨の了解が存在する。

 在ドイツ民主共和国、ドイツ連邦共和国常駐代表部は四ケ国協定に則りベルリン(西)の利益を代表する。

 ドイツ民主共和国と(西ベルリン)市政府の間の取極は引続き効力を有する。

(四カ国共同声明)

1972年11月9日四カ国の首府にて発表

 アメリカ合衆国、フランス共和国、ソビエト社会主義共和国連邦及びグレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国政府は、以前連合国管理理事会の置かれていた建物において一連の会談を行なつたそれぞれの大使を代表として、ドイツ連邦共和国及びドイツ民主共和国が国際連合への加盟を申請する場合には、右申請を支持することに合意し、更にこれに関連して、本件加盟は四ケ国の権利及び責任、並びにこれに対応した四ケ国の関連諸取極、決定及び慣行に何等影響を与えるものではないことを確認する。

民族の一体性に関する東独政府宛西独政府書簡

(1972年12月21日付)

 本日行なわれたドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国の関係の基礎に関する条約の調印に関連してドイツ連邦共和国政府は以下の点を確認する光栄を有する。本条約は、ドイツ民族が自由な自決により再統一を実現できるような欧州の平和な状況の実現に貢献するというドイツ連邦共和国の政治的目標に背反するものではない。