データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ドイツとポーランドとの条約とその付属文書

[場所] ワルシャワ
[年月日] 1970年12月7日署名
[出典] わが外交の近況(外交青書)第15号,438‐442頁.
[備考] 
[全文]

1.ドイツ連邦共和国とポーランド人民共和国との間の相互関係正常化の基礎に関する条約

 ドイツ連邦共和国およびポーランド人民共和国は、

 ポーランドを最初の犠牲とし、欧州諸国民にはかり知れぬ苦悩をもたらした第二次世界大戦の終結後25年以上の歳月が流れたことを考慮し、

 この間両国には新たな世代が生育し、その平和な将来を保障すべきを考え、

 彼等の間に平和な共同生活と正常かつ友好な関係の発展のために永続的基礎をきずくことを希求し、

 欧州の平和と安全を確固たるものにせんと努力し、

 欧州のすべての国の国境の不可侵と領土保全および主権を現存国境において尊重することが平和の基礎的条件であることを自覚し、

 次のとおり合意した。

第1条

(1)ドイツ連邦共和国とポーランド人民共和国は、1945年8月2日のポツダム会議決議第9章に定められた、シュヴィネミュンデ西端バルト海岸に発しオーデル川に沿い、ラウジッツのナイセ川との合流点に至り、更にナイセ川に沿いチェッコスロヴァキア国境に至る現存国境線は、ポーランド人民共和国の西部国境を形成することを一致して確認する。

(2)両締約国はその現存国境の不可侵なることを現在および将来にわたつて保障し、その領土的保全を無条件に尊重する義務を相互に負うものとする。

(3)両締約国は相互にいかなる領土的主張も持たず、将来もこれを行なわぬことを宣言する。

第2条

(1)ドイツ連邦共和国およびポーランド人民共和国政府は、相互の関係において、また欧州および世界の安全保障の問題において、国連憲章の目的と原則に立脚するものとする。

(2)これに従い両締約国は、国連憲章第1条および第2条に従つてそのすべての紛争を平和的手段により解決し、欧州および国際的安全保障にかかる問題ならびに両国相互の関係において、武力による威嚇および武力の行使を慎むものとする。

第3条

(1)ドイツ連邦共和国およびポーランド人民共和国は、本条約がその確固たる基礎となる相互関係の完全な正常化と包括的な発展への措置を更に執るものとする。

(2)両締約国は経済、学術、科学技術、文化その他の領域における協力の拡大は両国相互の利益であることを一致して確認する。

第4条

 この条約は両締約国がかつて結んだ合意または両国に関する二国間または多国間の国際的合意に抵触するものではない。

第5条

 この条約は批准を要し、ボンで行なわれる批准書交換の日に効力を生じる。

2.ドイツ連邦共和国政府の1970年11月19日付西側3連合国あて口上書(在独英大使あての例)

 ドイツ連邦共和国外務省は、

 連合王国大使館に、ドイツ連邦共和国政府より連合王国政府あての本日付の口上書を次のとおり通達する光栄を有する。

 「ドイツ連邦共和国政府は、11月18日ワルシャワで仮署名されたドイツ連邦共和国とポーランド人民共和国との間の相互関係正常化の基礎に関する条約テキストを別添のとおり通達する光栄を有する。

 ドイツ連邦共和国政府とポーランド人民共和国政府との間の本条約に関する交渉の過程において、ドイツ連邦共和国政府より、ドイツ連邦共和国とポーランド人民共和国との間の条約は、既存の諸条約や諸取決に規定されているフランス共和国、グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国、ソヴィエト社会主義共和国連邦、及びアメリカ合衆国の権利及び義務に抵触せず、かつしえないことが明らかにされた。

 ドイツ連邦共和国政府はさらに、同政府はドイツ連邦共和国の名においてのみ行動しうる旨を言及した。

 フランス共和国政府、アメリカ合衆国政府は同文の口上書を受領した。」

 ドイツ連邦共和国外務省はこの機会に改めて、連合王国大使館に対し最高の敬意を表するものである。

 (同様の口上書が在独、フランス大使館、アメリカ大使館にも送付された。)

3.西側3連合国政府の1970年11月19日付ドイツ連邦共和国政府あて口上書(英国の例)

 英国大使館はドイツ連邦共和国外務省に敬意を表するとともに、外務大臣の訓令に基づき次の口上書を伝達する光栄を有する。

 「連合王国政府はドイツ連邦共和国政府に、1970年11月18日ワルシャワで仮署名されたドイツ連邦共和国政府とポーランド人民共和国との間の相互関係正常化の基礎に関する条約のテキストを付属した、次の内容の11月19日付の口上書を受領したことを通達する光栄を有する。

 (独外務省口上書テキスト)

 連合王国政府は本条約の仮署名に同意し、これをテイクノートする。

 本政府は、本条約は既存の諸条約や諸取決に規定されている4ヵ国の権利及び義務に抵触せず、かつし得ないとの見解を有する。」

 連合王国大使館はこの機会に改めてドイツ連邦共和国外務省に対し最高の敬意を表するものである。

 (同文口上書が、米、仏両国政府からも発出された)

4.ポーランド人民共和国政府のインフォメーション

(1)ポーランド政府は、1955年ポーランド赤十字に対し、ドイツ連邦共和国赤十字との間に家族合流に関する取決を締結するよう勧告し、右取決に基づき1959年までに約25万人がポーランドから出国した。また、1960年より1969年までの間に、通常の手続に従い、更に約15万人がポーランドから出国した。ポーランド政府は、家族合流に関し行動する際人道的理由を第一の基準とした。

 しかしながら本政府は、家族合流問題における同政府のポジティブな態度がポーランド国籍所有者を営利目的のために移民させることに利用されることには同意しなかつたし、現在も同意しない。

(2)今日まで、明らかにドイツ民族に属する人物及び近年においてもドイツ民族への所属意識が支配的であつた混血家族の構成員が、種々の理由から(たとえば出生地との緊密な結びつき)相当数ポーランドに残留している。ポーランド政府は、ドイツ民族への所属が明確であり、そのため両独のいずれか一方へ出国することを希望する者は、ポーランドの現行法令に従つてこれを行なうことができるとの見解を引き続きとつている。

 更に将来混血家族及び構成員が分散している家族のおかれた状況、ならびに家族関係の変化あるいは以前になされた決定の変更の結果として、ドイツ連邦共和国ないしドイツ民主共和国に居住する近親者と合流する希望を表明するポーランド国籍者があつた場合は、しかるべく考慮されるであろう。

(3)ポーランド当局は、ドイツ連邦共和国への入国申請の数に関してドイツ連邦共和国側が挙げている数字については、なんらこれに見合う資料を所有してない。

ポーランド当局の従来の調査によれば、場合によりポーランドからドイツ連邦共和国あるいはドイツ民主共和国への出国を正当化しうる如き理由を有しているものは、数万人存在する。

 従つてポーランド政府は、すでに提出された申請が根拠を有するものであるかを綿密に調査し、かつこれを可及的短時間に検討するために、然るべき規則を制定するであろう。

 ポーランド政府は、ポーランド赤十字に対し、ドイツ連邦共和国赤十字から、同社が所有する申請者のリストを受領し、これをポーランド当局の保持するリストと比較し綿密に検査する権限を与える。

(4)ポーランド赤十字とドイツ連邦共和国赤十字との協力は、これに必要なあらゆる形で促進緩和されるであろう。

 ポーランド赤十字には、上記リストに関するドイツ赤十字のコメントを受領し、かつポーランド当局が、提出された申請を検討した結果をドイツ赤十字に報告する権限が与えられる。ポーランド赤十字はさらに、ドイツ連邦共和国赤十字と協力して、本件活動から生じうることあるべき全ての実際的問題を考慮する権限を与えられる。

(5)家族の訪問に関連する人的交流について、ポーランド当局は、両国の関係正常化の基礎に関する条約発効後、他の西欧諸国に対すると同様の原則を援用する。