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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ドイツ連邦共和国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の条約とその付属文書

[場所] モスクワ
[年月日] 1970年8月12日署名
[出典] わが外交の近況(外交青書)第15号,435‐438頁.
[備考] 
[全文]

 締結当事国双方は、欧州及び世界における平和と安全の確保への努力のもとに、

 国連憲章の目標と原則に基づく国家間の平和協力関係が諸国民の念願及び国際平和の一般的利益に合致することを確信し、

 従来双方により取決められた措置、特に1955年9月13日の外交関係樹立に関する協定の締結が相互関係の発展及び確立のための新たにして重要なる措置のために有効なる前提条件を作り出したとの事実を評価し、

 経済関係及び科学、技術、文化関係を含む双方の協力関係を双方の利益のために改善し拡大せんとの決意を条約の形において表現することを希望し、

 下記のとおり合意した。

第1条

 ドイツ連邦共和国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は国際平和の維持及び緊張緩和の達成をその政策の重要な目標とみなすものとする。

 両締約国は、欧州情勢の正常化及びすべての欧州諸国間の平和的関係の発展の促進に対する努力を表明するとともに、右に際して同地域に存在する現実の状勢を出発点とするものとする。

第2条

 ドイツ連邦共和国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、その相互関係及び欧州並びに世界における安全保障の確保の問題においては、国連憲章の規定する目標及び原則に立脚するものとする。これに従い双方は、その係争問題を専ら平和的手段により解決するものとし、欧州の安全及び国際安全にかかわる問題及び双方の相互関係においては、国連憲章第2条に従い、武力による威嚇及び武力の行使は行なわないとの義務を負うものとする。

第3条

 前記の目標及び原則に基づきドイツ連邦共和国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、欧州における平和は、何人も現在国境を侵犯しない場合にのみ維持され得るとの認識において一致するものである。

 双方は、全欧州諸国の現存の国境のもとにおける領土保全を無条件に尊重する義務を負う。

 双方は何人に対しても何等の領土要求を現在及び将来にわたつても行なわないことを宣言する。

 双方は今日及び将来にわたつて、本条約の署名の日におけるポーランド人民共和国の西部国境をなすオーデル・ナイセ線及びドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国の国境を含む全欧州諸国の国境を不可侵とみなすものとする。

第4条

 ドイツ連邦共和国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の本条約は、双方により以前に締結された2国間及び多数国間の条約及び合意に抵触しないものとする。

第5条

 本条約は批准を要し、ボンで行なわれる批准書の交換の日に発効する。

 1970年8月12日モスクワにおいて、同様に効力を有するドイツ語及びロシア語の2つの正本を作成した。

 

独ソ条約付属文書

1 ソ連政府あてドイツ政府書簡(1970年8月13日発出)

 ドイツ連邦共和国政府は、本日行なわれたドイツ連邦共和国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の条約の署名に関連して、本条約がドイツ国民が自由なる自決権の行使の下にその一体性を再び実現し得るような欧州平和状態の達成に努力するというドイツ連邦共和国の政治目標をさまたげるものではないことを確認する光栄を有する。

2 西側3連合国への口上書(1970年8月7日3国在ソ大使館に手交)

 ドイツ連邦共和国大使館は、(アメリカ合衆国)大使館に敬意を表するとともに、本国政府の命により、下記口上書を手交し、かつその内容を可及的速かに貴国政府に伝達されるよう懇請する光栄を有する。

 「ドイツ連邦共和国政府は、ドイツ連邦共和国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の条約の署名を目前にひかえ、次のことを通達する光栄を有する。

 ドイツ連邦共和国外相は、交渉においてドイツ全体及びベルリンに関する4ヵ国の権利と義務に関する連邦政府の立場を説明した。平和条約による規整が未だ存在しないため、両当事国は、締結されるべき本条約がフランス共和国、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国、ソヴィエト社会主義共和国連邦、及びアメリカ合衆国の権利及び義務に抵触しないことを前提とした。

 ドイツ連邦共和国外相は右に関連しソ連外相に1970年8月6日、『4ヵ国の権利の問題はドイツ連邦共和国及びソヴィエト社会主義共和国連邦が締結する本条約とはいかなる関係も有せず、また条約に抵触するものではない』旨述べた。

 ソヴィエト社会主義共和国連邦外相は、右に関連し、『4ヵ国の権利の問題はドイツ連邦共和国との交渉の対象とはならなかつた。またソ連政府はこの問題が討議されるべきではないことを前提とした。さらに、ソヴィエト社会主義共和国連邦とドイツ連邦共和国が締結する本条約は4ヵ国の権利の問題に抵触するものではない。これが、本問題に関するソ連政府の見解である』旨述べた。」

 ドイツ連邦共和国大使館はこの機会を利用して、ここに重ねて(アメリカ合衆国)大使館に向かつて敬意を表する。

 (同様の口上書が在モスクワ・フランス大使館、イギリス大使館にも送付された。)

3 意図宣言

第1項:両締約国政府の間には、両国によつて締結された条約と、ドイツ連邦共和国が他の社会主義諸国と締結するこれに相応した諸協定(諸条約)、特にドイツ民主共和国、ポーランド人民共和国ならびにチェッコスロヴァキア社会主義共和国との間の諸協定(諸条約)は統一体をなすことについて合意が存する。

第2項:ドイツ連邦共和国政府は、ドイツ民主共和国政府との間に、双方が第3国とそれぞれ締結している他の諸協定と同様、諸国間に通常存在すると同様の拘束力をもつ協定を締結する用意があることを宣言する。

 ドイツ連邦共和国政府はこれに従い、ドイツ民主共和国との関係を、完全な平等、無差別及び独立と双方の相応する国境内における国内管轄事項における自主性の尊重の諸原則のもとに形成するものとする。

 ドイツ連邦共和国政府は、両国の何れも外国で他を代表し、または他の名において行動しえないことを意味する上記原則のもとに、ドイツ民主共和国とドイツ連邦共和国がそれぞれ第3国との関係を発展させるべきことを認める。

第3項:両締約国政府は、欧州における緊張緩和の動きの中で、かつ欧州諸国間、特にドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国との間の関係改善のため、ドイツ連邦共和国及びドイツ民主共和国の国連及びその専門機関への加盟を促進すべく、それぞれの地位に相応する措置を講ずるものとする。

第4項:両締約国政府間には、ミュンヘン協定の無効性と関連した問題は、ドイツ連邦共和国とチェッコスロヴァキア社会主義共和国との間の交渉において双方に納得のいく形で規整さるべきことにつき合意が存する。

第5項:両締約国政府は、両国間の経済、科学技術、文化及びその他の関係を双方の利益と欧州の平和の強化のために促進するものとする。

第6項:両締約国は欧州における安全保障と協力の強化問題に関する会議の計画を歓迎し、会議の準備と会議を成功裡に実施するために必要なあらゆる努力を行なうものとする。