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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日中韓三国間協力の促進に関する共同宣言

[場所] バリ
[年月日] 2003年10月7日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

 我々、日本国、中華人民共和国及び大韓民国の首脳は、2003年10月7日にインドネシアのバリで開催されたASEAN+3首脳会議の際に会談した。我々は、それぞれの二国間関係及び三国間協力の発展における前向きな進展を回顧し確認した。我々は、新世紀における三国間協力をさらに促進し、強化するため、以下の共同宣言を発出する。

I

 地理的な近接性、経済的な相互補完性、経済面での協力の発展及び人的交流の増加に伴い、三国は相互に経済・貿易の重要なパートナーとなり、地域の問題及び国際問題における協調と協力を間断なく強化してきている。

 日中韓協力は、三国の関係発展が満足できる勢いを有していることを示している。三国の首脳は、1999年以来、定期的に非公式会合を開催してきた。三国は、政府の各部門において、閣僚、政府高官及び事務レベル会合のための仕組みを創設してきた。三国は、経済・貿易、情報、環境保護、人材開発及び文化を始めとする優先分野において、実り多く効果的な協力を発展させてきた。

 三国は、アジア太平洋経済協力(APEC)及びアジア欧州会合(ASEM)を始めとする様々な形式の地域協力に参加し、積極的に支援してきた。三国は、ASEAN+3の枠組みの下での協力の重要な推進力として、東アジア・スタディグループ(EASG)最終報告において推薦された各プロジェクトの実施に積極的な役割を果たし、メコン地域協力を促進し、ASEAN統合イニシアティブ(IAI)に積極的に貢献してきた。

 このような背景を踏まえ、我々、三国の首脳は、日本、中国及び韓国の間には、三国間協力を推進するための堅固な基盤が築かれたことを確認した。我々は、三国間協力を発展・深化させることが、単に日中、中韓及び日韓の二国間関係の着実な発展を更に促進させることに資するのみならず、東アジア全体の平和、安定及び繁栄の実現に貢献するものであることを確信している。

II

 グローバル化と情報化時代の到来は、世界のすべての国々に多くの新たな挑戦のみならず、大いなる発展の機会をもたらした。日本、中国及び韓国は、アジア及び世界全体における重要な国として、地域の平和と安定を維持し、すべての国の共同発展を促進するための責任を共有する。三国間協力は、発展を後押しし、東アジア協力を強化し、地域的及び世界的規模で平和と繁栄を確保することを目指している。

 この目的のために、我々、三国の首脳は、以下の基本的見解を共有した:

1.三国間協力は、国連憲章の目的及び原則並びに国際関係を規律する普遍的に認められたその他の規範に従って進められる。

2.相互の信頼と尊重、平等と相互利益の基礎の上に、すべての者が勝者となる結果を確保することを目指して、三国は、経済関係と貿易、投資、金融、運輸、観光、政治、安全保障、文化、情報通信技術、科学技術及び環境保護を含む様々な分野において、幅広い未来志向の協力を強化する方途を探求する。

3.三国の政府は、三国間協力の主要な担い手になるほか、経済界、学界及び様々な非政府組織がそれぞれの役割を果たすことを奨励する。

4.三国間協力は、東アジア協力の欠くことのできない構成要素である。三国は、ASEAN+3を始めとする多様な形態の地域協力を通じて、協調関係の強化及びASEAN統合プロセスに対する支援を継続する。三国は、この地域の安定及び繁栄のために、北東アジアにおける経済協力と平和対話を促進する。

5.三国間協力は、透明性のある、開かれた、非排他的で、非差別的な方法で進められる。三国は、他の諸国との協力のために有しているそれぞれの機構を維持することによって、相互に発展するのために互いの経験から利益を得ていくよう努める。

III

 我々、日本、中国及び韓国の首脳は、三国間協力の本質的な進歩を促進するために、より容易なプロジェクトから着手し、徐々に協力の範囲と深さを拡大しつつ、以下の分野において、確固とした方法により、三国間協力を拡大し深化させていくことの必要性を強調した。

1.貿易及び投資における協力。三国は、この地域のすべての国々の成長可能性を最大化し、やがては共通の繁栄を達成するために、相互信頼と相互補完を特徴とする経済協力及び貿易を発展させる。三国は、また、貿易及び投資のために魅力的な環境を創り出すため、関連するWTO規則に整合的な形で、調整を強化するよう努める。

 三国は、市場アクセスを改善するため、及びアンチ・ダンピング規律の強化を始めとして、バランスのとれた形でルールを強化するために、ドーハ開発課題(DDA:ドーハラウンド)交渉を推し進めるよう共同で努力する。三国は、WTO規則の濫用及び恣意的適用を防止するよう努める。

 三国は、それぞれの関税当局及び運輸当局の間において貿易の円滑化に関する対話と協力を強化するとともに、既存の経路を通じて、品質監督、検査及び検疫を担当する当局間における交流と協力を継続する。三国は、また、関連するWTO協定に整合的な形で、貿易における「食の安全」及び動植物衛生の重要性を強調する。

 三国は、公衆の啓発、人材の交流、経験の共有及び法の執行の促進を通じ、知的財産権の保護と同分野における協力を強化する。

 三国は、それぞれの研究機関によって進められた自由貿易協定(FTA)の経済的影響に関する共同研究の進展を評価するとともに、時宜を得た方法で、将来における三国のより緊密な経済連携の方向性を探求する。

 三国は、北東アジアにおける貿易及び投資の円滑化並びに人的往来の促進のために、国際的な民間航空輸送の発展を目指して、航空当局間の既存の対話及び協力を促進する。

 三国は、対内外国直接投資(IFDI)がそれぞれの国内経済の増進にとって重要であることを認識し、IFDIの促進のためになされてきている様々な努力を歓迎する。三国は、投資家によって提起された個別の問題に対して公正に且つ透明性ある方法によって対応することを含め、IFDIの促進に向けて更に措置をとる意図を有することを確認する。このような観点から、三国は、三国間投資取決めのあり得べき形態に関する非公式な共同研究を立ち上げる。

 三国は、貿易紛争の可能性を最小化するために情報交換及び事前協議を強化するとともに、既存の二国間及び三国間の協議を最大限活用する。

2.情報通信技術(ICT)産業間の協力。三国は、ブロードバンド通信、移動通信及びe−ビジネスという優先分野における交流と協力を強化する。三国は、ハイテク通信の研究開発推進を継続し、新世代通信ネットワーク及び第三世代移動通信等の分野における交流を促進する。三国は、また、安全性を確保しつつ、すべての社会部門においてICTの適用を拡大する。同時に、三国は、アジア全体におけるブロードバンド・ネットワーク構築に積極的役割を果たすことを追求するとともに、インターネット産業の発展を加速し、アジアにおける情報の流通を促進する。

3.環境保護における協力。三国は、日中韓三ヶ国環境大臣会合(TEMM)を始めとする様々な枠組みの下で、黄砂及びそのモニタリングと早期警戒、酸性沈着のモニタリング、大気汚染、水及び海洋汚染並びに気候変動等の環境に関する共通の懸念への対処について協力を強化する。三国は、また、環境分野の産業及び技術の交流と協力を拡大し、水資源管理、森林保全、再植林及び生物多様性の保全について対話と協力を推進する。三国は、持続可能な発展を促進するため、地域及び地球規模の主要な環境問題に関する協議と協力を強化する。

4.災害の予防及び管理における協力。三国は、暴風、台風、洪水及び地震等の災害による被害の予防及び削減のために、協力と対話を促進する。

5.エネルギーにおける協力。三国は、エネルギー分野において、相互に利益となる協力を拡大し、地域的及び世界的なエネルギー安全保障を強化するために共に努力する。

6.金融協力。三国は、この地域における金融の安定を促進するために、経済政策に関する対話の強化を継続し、チェンマイ・イニシアティブを実施する。三国は、地域的な金融及び安定のメカニズムの創設と地域債券市場の発展の可能性を探求することを含め、将来の地域的な金融協力を深化させる。三国は、この地域における均衡のとれた経済発展とミレニアム発展目標を達成するために、国際金融機関における協力と協調を強化する。

7.科学技術における協力。三国は、共通に懸念する問題への対応力を強化し、新産業分野を拓くための新たな技術を前進させるため、ITER(国際熱核融合実験炉)プロジェクトを成功させることを含め、様々なレベルにおける科学技術協力を促進し、推進する。

8.観光における協力。三国は、適切な手段を通じて三国間の観光の拡大を促進することによって観光産業を一層活性化させるとともに、観光インフラ及び欧州又は北米の住民等三国以外の住民による三国への周遊ツアー等の分野で、観光当局及び観光産業の間の交流と協力を強化する。

9.漁業資源保全における協力。三国は、二国間又は三国間で、効果的な漁業管理を通じて、漁業資源の持続可能な利用とその保全を促進するために協力する。

IV

10.相互理解及び相互信頼を高め、未来におけるより良い三国間協力のために多様な交流の経路を拡大するという目的に向け、三国は、人と人との交流、文化、教育・人材育成、ニュース・メディア、公衆の健康及びスポーツといった様々な分野において協力を強化する。

 三国は、青年及び若手リーダーの間の接触を増進させるために、人的交流の奨励及び促進を継続する。三国は、また、有形及び無形の伝統的文化遺産、文化的多様性並びに文明間対話の保護及び発展を始めとする分野における協力を強化するために、文化交流及び文化協力を精力的に発展させる。

 三国は、教育分野における三国間協力を引き続き支援する。三国は、それぞれの高等教育機関の間の学生交流を拡大するための協力を強化し、互いの成績評価、学位及び単位の相互認定を促進し、三国間の語学教育と文化交流を奨励する。

 三国は、政府間で緊密に連絡しつつ、共同セミナーやその他の方式を通じて、それぞれのメディア団体間の意思疎通と協力を奨励する。

 三国は、三国間の姉妹都市提携やその他の方法により、地方自治体の間の交流と協力を拡大する。

 それぞれの国民の間の相互理解及び友好を増進するため、三国は、サッカーや卓球の試合を組織することを含め、それぞれのスポーツ界の間の多様な形式の交流及び協力を奨励する。

V

11.三国は、国際問題における協力を強化するとともに、世界の平和及び安定の維持における国連の中核的役割を引き続き支持する。三国は、国連の強化及び国連改革を含む国連に関連する諸問題に関する対話及び協議を促進する。

12.三国は、様々な形態のアジア地域協力を前進させるために、力を合わせて努力する。三国は、東アジア・スタディー・グループの最終報告書で示された施策の実施プロセスを前進させ、東アジア協力の方向に向けてASEAN+3協力を促進し、その過程で鍵となるASEANの役割を支持する。三国は、アセアン地域フォーラム(ARF)、アジア太平洋経済協力(APEC)及びアジア欧州会合(ASEM)といった枠組みにおいて協力を一層増進させる。

13.三国は、安全保障対話を強化し、三国の防衛当局者又は軍当局者の間の交流及び協力を推進する。

 三国は、関連する国際規範を遵守することの重要性を認識し、効果的な輸出管理を含む政治的、外交的及び行政的措置を通じて、国際レジームに基づきながら、大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散を防止し、抑制するとともに、軍縮における意見交換と協力を強化する。

 三国は、朝鮮半島が直面する核問題の対話を通じた平和的解決及び朝鮮半島の非核化に対するコミットメントを再確認するとともに、各々のすべての懸念に対処し、朝鮮半島の平和及び安定の維持のために共に努める。

14.三国は、重症急性呼吸器症候群(SARS)を含む感染症の予防における協力を強化するとともに、それぞれの関係当局の間の効果的な協力を通じて、犯罪及びテロ、海賊、人の密輸、麻薬取引及びその関連犯罪、マネーロンダリング、国際経済犯罪、サイバー犯罪並びにその他の国境を越える犯罪の撲滅における協力を強化する。

VI

 我々、日本、中国及び韓国の首脳は、効果的な三国間協力のためには幅広い様々な経路を持つことが不可欠であるという見解を共有した。そのために、我々は、三国首脳会合を継続して開催することを決定した。我々は、外交、経済・貿易、金融、環境保護、情報通信及び特許分野で現在行われている閣僚レベル会合が効果的に運営されることを支援し、他の分野でも同様の会合を開催するよう努力する。我々は、また、この共同宣言に記された協力活動及び現在進められている協力活動を研究し、企画し、調整し及びモニタリングするために、三者委員会を立上げることを決定した。同委員会は毎年の首脳会合に進捗報告書を提出する。

 (署名)

 小泉純一郎

 内閣総理大臣

 日本国

 (署名)

 温家宝

 国務院総理

 中華人民共和国

 (署名)

 盧武鉉

 大統領

 大韓民国

 2003年10月7日にインドネシアのバリで、英語により三通を作成した。