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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第14回日・ASEAN首脳会議 日・ASEAN共同宣言(バリ宣言)

[場所] バリ
[年月日] 2011年11月18日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

我々、日本及び東南アジア諸国連合(ASEAN)の加盟国首脳は、第14回日・ASEAN首脳会議のため、2011年11月18日、インドネシア・バリに参集し、「新千年期における躍動的で永続的な日本とASEANのためのパートナーシップのための東京宣言」に基づく我々の長期にわたる友情と戦略的パートナーシップを通じて、地域及び世界の平和、安定、繁栄及び発展のために達成された進展に深い満足の意をもって留意し、

ASEANがますます重要な役割を担っているアジア大洋州地域への重点のシフトと、2005年の東アジア首脳会議の設立及びロシアと米国へのメンバーシップの拡大を含む2003年の東京宣言以来のグローバルな政治経済環境における劇的な変化を認識し、

東京宣言以降の主要な進展の1つが、2008年のASEAN憲章の発効及びASEAN共同体ブループリント実施のロードマップに関するASEAN首脳宣言の採択による、より統合され、強靱で統一されたASEANの台頭であることを認識し、政治安全保障、経済及び社会文化の共同体という3つの柱を有する2015年のASEAN共同体構築の明確なビジョンを示し、

巨大な人口、経済成長及びアジア太平洋地域の一角としてのASEANの戦略的重要性により、地域協力を推進し地域のアーキテクチャーを構築する際のASEANの役割が増大していること、並びに、民主的価値、法の支配及び人間本位のアプローチに対するASEANの力強いコミットメントが、地域における安定要因としてのASEANの重要性を強化したことを認識し、

「心と心のふれあい」、相互の信頼と尊重及び1973年以来日本とASEANのパートナーシップを導いてきた諸原則に基づく日本とASEANの間の特別な紐帯と、地域の発展と安定に貢献してきたASEANの発展と統合を支援する日本の強力かつ継続的なコミットメントを評価し、

2015年までのASEAN共同体構築を実現するとのASEANの力強いコミットメント及びASEAN共同体構築プロセスへの日本の揺るぎない支援を改めて表明し、

日本とASEANがASEANの統合を支援し、地域の開発格差を是正すべく密接に取り組むことへのコミットメントを再確認し、また、貿易、投資、観光及び人的交流の強化を目的として、日本政府がASEAN連結性マスタープランの実施を支援することを再確認し、また、地域における連結性の深化と拡大が東アジア地域の中心としてのASEANの地位を強化し、より広い地域のパートナーとの間のより長期的で、より広範な連結性の潜在能力を引き出すことを通じて、ASEANの地位が更に強化されるであろうことを再確認し、

東アジアにおける新たな機会、並びに、金融危機、気候変動、自然災害の頻発、食料及びエネルギー安全保障、人口動態の変化、感染症の発生、国境を越える犯罪及びテロリズムといった地球規模の課題に対処するため、日・ASEANの密接なパートナーシップと協力が求められていることを認識し、

日本とASEANの戦略的パートナーシップを強化するに際し、経済的な相互依存及び共栄の可能性が増大していること並びに人的交流の促進が必要とされていることを再確認し、

日本とASEANを結ぶ海洋の平和と安定が地域の繁栄にとって必要不可欠であることを認識し、

日本とASEANが直面する、既に存在する課題及び新たに生じつつある課題に対処するに際して、両者が協働し、経験と知見を共有するとの決意を改めて表明し、

東日本大震災に苦しむ日本政府及び国民に対するASEANの共感、連帯及び支援並びに日本の早期の復旧・復興の取組のためにASEANが提供してきた支援にも改めて言及し、

2011年4月9日の日・ASEAN特別外相会議の開催に対する日本の感謝の意と、日本がASEAN共同体構築への揺るぎないコミットメントを再確認したことに留意し、

日本によるASEAN大使の任命及びジャカルタにおけるASEAN代表部の設立が、日本とASEANの対話のパートナーシップの強化により貢献することを認識し、

国際社会において、強く統合されたASEAN共同体が、地域内及び地域を超えて、平和と安定を維持し繁栄を促進するための東アジアにおける戦略的基盤として機能するであろうことを再確認し、

日本とASEAN各国がメンバーである地域における各種フォーラムの固有の特性及び貢献と、適切な範囲でそれらのフォーラム間の開放的、相互補完的かつ効率的なネットワークを通じて、個々の取組に相乗効果を持たせることの有用性に留意し、

変化する地域環境及びその巨大な潜在力によって、日本とASEANの戦略的パートナーシップの強化が求められていることを認識し、

地域の平和、安定及び繁栄を更に促進するため、特に以下の5つの戦略をここに承認した上で、以下を採択する。

戦略1:地域における政治及び安全保障協力の強化

戦略2:ASEAN共同体構築に向けた協力の強化

戦略3:日本とASEANの紐帯を強化するための双方の連結性の強化

戦略4:より災害に強靱な社会の構築

戦略5:地域の共通課題及び地球規模の課題への対処

I.政治及び安全保障協力

1.国連憲章及び関連する国際法の諸原則並びに東南アジア友好協力条約の諸原則と精神に基づいて協議及び共同活動を推進し、協力を強化する。

2.地域の平和と安定を維持し、地域のあらゆる紛争の国際法に沿った平和的な解決を促進し、地域の繁栄と安定のための共通のビジョン及び諸原則を醸成するために、全てのレベルにおける政治及び安全保障協力を引き続き拡大し、深化させる。

3.東アジアにおける地域協力の更なる強化及び開かれた透明性のある包摂的な地域のアーキテクチャーの構築に対するコミットメントを再確認し、日本は、ASEAN+3(APT)、東アジア首脳会議(EAS)、ASEAN地域フォーラム(ARF)、専門家会合を含む拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)その他の地域プロセスを含む発展する地域のアーキテクチャーにおける、ASEANの中心性に対する継続的な支援を再確認する。

4.1982年の海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)その他の関連する海洋に関する国際法を含む、普遍的に合意された国際法の諸原則に則って、航行の自由、航行の安全、円滑な商業活動及び紛争の平和的解決等の地域の海洋安全保障及び海洋の安全に関する日本とASEANの協力を促進し、深化させる。

5.「南シナ海における関係国の行動宣言」の履行のためのガイドラインが採択されたことを歓迎し、南シナ海及びその上空の平和、安定、自由の尊重及び航行の安全に更に寄与するべく、国際法を遵守しつつ、行動規範が策定されることを期待する。

6.ASEAN加盟国の輸出管理能力の強化並びに大量破壊兵器関連の資機材の不法移転及び不法取引への取組を含め、大量破壊兵器及びその運搬手段の軍縮並びに不拡散における協力を促進する。

7.国連小型武器行動計画に則って、小型武器の不法移転及び同武器の過剰な蓄積の問題に取り組むために協力する。

8.ASEANが主導する既存のメカニズムを通じて、テロリズム、人身取引及びその他の国境を越える犯罪等の非伝統的安全保障面の課題を予防し、これに立ち向かうための協力を強化する。

9.ジャカルタにおける在ASEAN日本常駐代表部、ASEAN各国における日本側外交団及び日本におけるASEAN各国の外交団を通じ、日本とASEANとの間の調整を強化する。

10.人権及び基本的な権利の促進と保護を目的として、人権に関し協力するとともに、人権に関するASEAN政府間委員会(AICHR)、ASEAN女性と子どもの権利の保護・促進委員会(ACWC)、さらに、適切な場合には、人権を扱うASEAN内の関連部局の取組を支援する。

11.必要に応じてバリ民主主義フォーラムその他のフォーラムを通じ、法の支配及び民主主義を促進するための対話及び協力を強化する。

12.二国間並びに拡大ASEAN国防相会議及びASEAN地域フォーラム等の多国間の枠組みを通じ、防衛・軍事面での協力及び交流を更に促進する。

II.経済分野での協力

13.必要なリソースを動員して日本とASEANとの間及びそれを超える連結性を実質的に強化すべく全面的に協力し、シームレスかつ安全な日本とASEANとの間の連結性を実現し、更に、貿易、投資、人的交流、観光を増大すべく、様々な政策手段を活用する。

14.ASEAN連結性マスタープラン並びに「東西・南部経済大動脈構想」及び「海洋ASEAN経済回廊構想」に沿った基幹プロジェクトの実施を通じて、ASEANの連結性向上を支援するとともに、ASEANを超える連結性を模索する将来的なビジョンである「ASEAN連結性プラス」についての検討を行う。

15.地域の経済成長の促進に必要な交通網を含む、インフラ開発についての協力を強化する。

16.2008年12月に発効した日・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)について引き続き円滑な実施に取り組み、また、最大限の活用を促進するとともに、サービス貿易及び投資についての交渉の終結に向けて取り組む。

17.「アジア・カーゴ・ハイウェイ構想」を実現するための協力を進めつつ、ASEAN加盟国と日本、さらにはそれを超えたより良いインターフェースを達成するため、ナショナル・シングル・ウィンドウ及びASEANシングル・ウィンドウの実現等、ASEAN加盟国全体の制度の調和及び連結性を強化する。

18.地域の貿易を促進するため、税関手続の簡素化及び可能な範囲における調和に向けて取り組む。

19.チェンマイ・イニシアチブのマルチ化(CMIM)等のイニシアティブを通じ、あり得べき経済・金融危機の発生の防止とそれに対する地域の回復力の強化のため、地域金融協力を強化する。

20.ASEANが日本及び世界にとってビジネス・投資を行う上で理想的な地域となるよう、政策・規制環境を構築することに加え、コンテンツの普及や革新的な産業の振興につながる次世代情報通信インフラの開発に関する中長期の計画を策定し行動することにより、ASEANスマートネットワーク等の情報通信技術(ICT)分野における協力を強化する。

21.ASEAN共同体構築のための取組を支援するに当たり、人材育成における協力を更に強化する。

22.ASEAN統合イニシアティブ(IAI)の実現並びに日・メコン首脳会議、日・BIMP-EAGA(ビンプ・東アセアン成長地域)協力及びASEANにおける他の関連プロセスを通じた開発格差の是正のためのサブリージョナルな開発に対する支援を強化し、地域統合を促進する。

23.地域における人々の生活及び食料安全保障にとり特に重要である水資源の持続的な活用に向け、気候変動の状況を考慮しつつ、既存のイニシアティブを活用した具体的な行動を発展させる協力を含め、水資源管理に関する日本とASEANとの協力を促進する。

24.ビジネスの機会を拡大し、地域の公平な経済発展を促進して開発格差を是正するため、ASEANの中小企業の能力向上のための協力を更に強化する。

25.エネルギー効率、省エネ及び原子力エネルギーの平和利用(原子力安全も含む)を促進しつつ、エネルギーインフラ、再生可能エネルギー源及び新エネルギー技術に関する協力を強化することにより、地域のエネルギー安全保障を増進させる。

26.「東アジア低炭素成長パートナーシップ構想」を活用しつつ、グリーン・テクノロジーの移転の促進及び環境インフラへの投資の促進により、環境保護・保全における協力を強化する。

27.ASEAN+3緊急米備蓄制度(APTERR)協定及びASEAN食料安全保障情報システム(AFSIS)の枠組みを活用しつつ、地域の安定及び食料安全保障の維持のための協力を強化する。

28.経済界との対話を通じて、また2012年の第18回日・ASEAN経済大臣会合までに「日・ASEAN10年の戦略的経済協力ロードマップ」を完成させ、繁栄した持続可能な社会というビジョンを実現することにより、ASEANのビジネス環境及び競争力を強化する。

29.国内通貨により国内市場を開拓する可能性を含む一連のイニシアティブを通じて、日本とASEANの協力を促進することにより、貿易及び対外直接投資のためのより大きな機会を創出し、ASEAN加盟国における生産能力を向上させ、地域内の貿易を拡大させる。

III.社会文化面での協力

30.ASEAN防災緊急対応協定(AADMER)の実施、特にASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)の強化を通じて、経験と教訓を共有し、訓練と能力開発を実施し、更に、特に「ASEAN防災ネットワーク構築構想」に関する日本のイニシアティブを通じて包括的な情報共有システムを構築し、緊急対応、人道支援及び災害救援の分野における地域協力を強化する。

31.日本の早期の復旧・復興に向けた協力を強化する。

32.教育研究機関、大学、職業訓練機関、企業関係者及び青少年交流等の日本とASEANの間の人的なネットワークの発展を含む、社会・文化的親和性における協力を更に深化させ、拡大する。この関係で、東日本大震災を受けた日本の復興に対する国際的な理解の増進を目的とする新しい青年交流プログラムの実施を検討するとの日本の意図を歓迎する。

33.日・ASEAN環境協力の枠組みにおいて日本と全ASEAN加盟国が合意したイニシアティブ及びプログラムの進展と実施を通じて、「共通に有しているが差異のある責任」の原則及び各国の能力に基づく気候変動、生物多様性の喪失、持続可能な水資源管理、持続可能な開発及び環境保護といった地球規模の課題に対処するため、共同の取組を推進する。

34.クリーン・テクノロジー及びグリーン・テクノロジーを含む技術移転の拡大を目的として、共同の研究開発活動を促進する。

35.将来世代の利益のために、文化的価値及び規範の保全を含め、有形及び無形の文化遺産を保存するための協力を強化することの重要性を強調する。

36.日本とASEANの戦略的パートナーシップの普及啓発と理解の増進を図るため、情報通信技術を活用しつつ、広報機関、メディア等の間での協力を促進する。

37.国境を越えた疫病の拡大を防ぐことに加え、流行する疫病の脅威が現れないよう対処すべく、域内で健康的な生活様式を推進し、日・ASEAN、ASEAN+3、EASといった関連する枠組みにおける協力を継続するため、保健システムの充実に向けた共同の取組を強化する。

38.包括的な福祉社会の促進や、高齢者や障害者といった社会的弱者に対する社会的セーフティー・ネットの充実に向けた協力を強化する。

IV.地域・国際情勢における協力

39.下記の分野における日本とASEANの政策対話と協力を引き続き強化する。

・国連改革プロセス

・軍縮・不拡散

・原子力の平和利用及び原子力安全

・国連平和維持活動

・朝鮮半島

・ミレニアム開発目標(MDGs)

・気候変動

・生物多様性

・食料安全保障及びエネルギー安全保障

・持続的な水資源管理

・国際保健

・東アジアにおける地域経済統合

・WTOドーハ開発アジェンダ

・G20及び国際金融機関を含む国際経済金融枠組み

40.日本とASEANの協力の目標と目的を達成するために、ASEAN+3首脳会議、東アジア首脳会議、拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)及びASEAN地域フォーラム(ARF)が、ASEAN共同体の3つの柱をカバーする各分野の協力の推進するために、重要なプロセスであることを認識する。

41.アジア協力対話(ACD)、アジア太平洋経済協力(APEC)、アジア欧州会合(ASEM)、東アジア・ラテンアメリカ協力(FEALAC)及びその他の関連するサブリージョナルな協力等の枠組みの下、更なる協力を推進する。

42.日本とASEANの協力の目標と目的を達成し、地域及び多国間のフォーラムにおける協力を補完し相乗効果を生むようにすべく、ASEAN共同体の3つの柱をカバーする各分野における協力を深化させ、拡大する。

V.この宣言の実施のための制度的及び資金的措置

43.日本とASEANは、付属の行動計画に基づき、この宣言の目的を実現するために具体的な活動と基幹プロジェクトを実施する。

44.日本とASEANは、この宣言及び行動計画の効果的な調整及び実施のための日・ASEAN統合基金(JAIF)の適時かつ効果的な活用を確保するため、緊密に取り組む。ASEANは、日本とASEANの協力を促進する重要な手段として機能してきたJAIFに対する日本の継続的な拠出を評価する。