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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第二ASEAN協和宣言(Declaration of ASEAN Concord II)

[場所] バリ
[年月日] 2003年10月7日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

I.前文(前4文字下線有り)

 ASEAN10ヶ国首脳は、

1.1976年にインドネシアのバリという歴史的な場所で採択されたASEAN協和宣言を想起し、地域におけるその全般的な進展に対し満足の意を表明した。

2.ASEAN10への拡大、地域経済統合の深化、東南アジア域外国の東南アジア友好協力条約(TAC)への加盟について特に留意し、

3.加盟国とその人々の福祉及び、ASEAN諸国間の協力のより一貫した明らかな道を達成するASEAN指針を更に強化する必要性のためにダイナミックで、弾力的でかつ一貫した地域連合としてASEANの業績を更に強固にする必要性を意識して、

4.ASEAN宣言(1967年、バンコク宣言)、東南アジア平和・自由・中立地帯(ZOPFAN、1971年、於クアラルンプール)、東南アジア友好協力条約(TAC、1976年、於バリ)、ASEAN協和宣言(1976年、於バリ)及び東南アジア非核兵器地帯条約(SEANWFZ、1995年、於バンコク)に明記された諸原則へのASEAN首脳のコミットメントを再確認し、

5.ASEAN協力の将来がASEANビジョン2020、ハノイ行動計画(1999−2004)とそれに続く行動計画、ASEAN統合イニシアティブ(IAI)及びASEAN統合ロードマップ(RIA)により導かれることを認識し、

6.ASEAN加盟国が地域の経済的・社会的安定を強化すること及び平和的で継続的な国家の発展を確保することの基本的な責任を共有すること、ASEANの人々の理念及び熱望に応じ国益を保護するために形式を問わず外国の干渉からASEANの安定と安全を確保することを決意すること、更に確認し、

7.ASEAN協力において、不干渉及びコンセンサスの原則を堅持することの基本的な重要性を再確認し、

8.ASEANはTACが国家間の関係に適用される一つの効果的な行動規範として十分機能することを構想していることを再び強調し、

9.持続的成長には、経済協力及び政治的連帯による相互利益に基づき、安定した政治環境が必要であることを認識し、

10.ASEAN経済の相互依存性及びASEAN地域の長期的な活性及び繁栄を確保するために「Prosper Thy Neighbour」政策をASEAN加盟国が採用する必要性を確認し、

11.公正で、発展の追求に寄与する、ルールに基づく多国間貿易システムの重要性を強調し、

12.ASEANが、パートナーシップ、ダイナミックな発展及び福祉社会の共同体として共に繋がれ、文化的多様性及び社会調和を支持することをコミットした東南アジア諸国の提携であることを再認識し、

II.総論(前4文字下線有り)

 上記に基づき、以下のことを宣言する。

1.ASEAN共同体は「政治・安全保障」、「経済」及び「社会・文化」という3つの柱による協力から構成される。これらは緊密に組み合わされ、永続的な平和、安定及び地域で共有された繁栄の目的のために相互に再強化するものである。

2.ASEANは引き続き加盟国間及びそれらの人々の間でより緊密なかつ互いに利益を受ける統合確保を継続し、ダイナミックかつ弾力的なASEAN共同体実現のために、地域の平和、安定、安全保障、開発と繁栄を促進する。

3.ASEANはそれぞれの加盟国内の新たなダイナミズムに適応し、連帯、地域の弾力性及び調和の環境の下で、ASEANの文化的多様性及び異なる経済レベルを公平な発展機会と繁栄に変える挑戦に緊急かつ効果的に取り組む。

4.政治問題を議論する協議慣習といった共通の価値、環境悪化、海上保安協力、防衛協力の強化といった共通の関心事項に関する情報共有の意思を促進し、社会政治的価値と原則を開発し、長年にわたる紛争を平和的手段で解決することを決意する。

5.TACは国家間を規律する重要な行動規範であり、地域の平和と安定促進のための外交ツールである。

6.ASEAN地域フォーラム(ARF)は引き続きアジア大洋州の政治・安全保障協力強化の主要なフォーラムであり、依然として同地域の平和と安定構築の要である。ASEANは、アジア大洋州地域の安全保障を更に確保するために、ARF内での協力の諸段階を進める役割を強化する。

7.大胆で、実践的で一体化した戦略を通じASEAN経済共同体実現のために、内部の経済統合及び世界経済とのリンケージを深化・拡大することにコミットする。

8.ASEANは様々な分野での協力の深化・拡大を通じた更なる相乗効果を引き出すために、ASEAN+3プロセスで既に得ているモメンタムを増強する。

9.ASEANは貿易・投資の強化及びIAIとRIAを通じ、既存のイニシアティブから生じる相互便益的な地域統合及び対話国とのそれらに向けた機会を強化する。

10.ASEANは引き続き社会福祉の共同体を育て、共通の地域同一性を促進する。

III.各論(前4文字下線有り)

 ダイナミックで、一貫し、弾力的で統合されたASEAN共同体の枠組み

 A.ASEAN安全保障共同体(前14文字下線有り)

1.ASEAN安全保障共同体(ASC)は、ASEAN諸国が相互に、また、世界において、公正で民主的な環境で平和に生存するために政治・安全保障協力のレベルを高めることを想定している。ASC加盟国は地域内の相違の解決については平和的手段のみを用い、互いに基本的にリンクしASEANの安全保障を、地理的な位置、共通ビジョン及び目的によって繋がれたものと見なしている。

2.ASCは、個々の外交政策を追求する加盟国の主権的権利を認め政治・経済・社会的な現実を考慮しつつ、軍事協定、軍事同盟又は共同外交政策よりも、ASEANビジョン2002に従った、幅広い政治的、経済的、社会及び文化的側面を有する包括的安全保障の原則に同意する。

3.ASEANは引き続き地域の連帯と協力を促進する。加盟国は国内問題について外部からの干渉を受けない権利を行使する。

4.ASCは、国連憲章及びその他の国際法を遵守するとともに、不干渉、国家・地域の弾力性、国家主権の尊重、コンセンサスによる意思決定、武力の威嚇・行使の放棄、紛争の平和的解決といったASEANの原則を堅持する。

5.海事問題は国境を越える問題であり、地域的、全体的、統合的、包括的に解決されなければならない。ASEAN加盟国間の海事協力は本共同体の進化に資するものである。

6.ZOPFAN、TAC、SEANWFZの既存の政治機構は、信頼醸成措置、予防外交及び紛争解決のアプローチの分野において引き続き重要な役割を果たす。

7.TAC理事会は、あらゆる差異、紛争を平和的に解決するASEANのコミットメントを反映しており、ASCの重要な構成要素となる。

8.ASCはより広いアジア太平洋地域における平和と安全保障秩序に貢献する。また、全てに心地よいペースで前に進むASEANの決意を反映する。この点に関し、ARFは引き続き地域の安全保障対話の主要なフォーラムである。

9.ASCは、ASEANの友人と対話国を地域の平和と安定の促進に積極的に関与させる観点から、外に開かれたものであり、ARFがASEANと対話国の協議と協力を促進することを期待する。

10.ASCは、テロ、麻薬取引、人の密輸及びその他の国境を越える犯罪に対応する国内及び地域の能力を強化するために、ASEAN内の既存の制度とメカニズムを十分活用する。大量破壊兵器のない東南アジア地域を確保する。ASEANがARFの主導的なフォースとしての能力と責任を示しうる。

11.ASCは、国際平和と安全の維持のために国連及びその他の地域・国際組織との協力強化を目指す。

12.ASEANは安全保障を高め、規範の設定、紛争予防、紛争解決及び紛争後の平和構築を含む本共同体のモダリティを確立する革新的な方法を探求する。

 B.ASEAN経済共同体(AEC)(前17文字下線有り)

1.AECは、2020年に財貨、サービス、投資、資本の自由な流れ、平等な経済開発と貧困・社会経済格差の削減が存在する安定し繁栄し競争的なASEAN経済地域を創造する「ASEANビジョン2002」の経済統合という最終目標を実現するものである。

2.AECは、明確な予定表と共に既存で新たなイニシアティブを通じ、経済統合を深化・拡大するためにASEAN加盟国間の利益の集合に基づく。

3.AECは、同地域の特色である多様性をビジネス補完の機会に転換し、ASEANをよりダイナミックで強い世界の供給系統の一部としつつ、単一市場及び生産基地としてASEANを構築する。ASEAN戦略は、ASEANの統合とASEAN経済の競争力強化から構成される。AECに向けて、ASEANは、とりわけ、ASEAN自由貿易地域(AFTA)、サービスに関するASEANフレームワーク合意(AFAS)及びASEAN投資地域(AIA)を含む既存の経済イニシアティブを強化する新たなメカニズムや措置を制度化する。優先分野の地域統合の加速、ビジネスマン、技能労働者及び才能のある人材の移動の容易化、いかなる経済紛争の迅速かつ法的に拘束力のある解決を確保する既存のASEAN紛争解決メカニズムの向上を含むASEANの制度的なメカニズムの強化。AECの実現に向けた第一歩に向けて、ASEANは、別添されたAECに関するハイレベルタスクフォースの提言を実施する。

4.AECは、ASEAN統合の深化・拡大が、IAIやRIAを通じたカンボジア、ラオス、ミャンマー及びベトナムの経済統合を加速し開発格差に取り組むために技術協力及び開発協力に伴われることを確認する。それにより、ASEAN統合の利益が共有され、ASEAN加盟国が一体化して前に進むことを可能にする。

5.十分に統合された経済共同体の実現には、自由化と協力措置の両方を導入することが必要である。他の分野で協力及び統合活動を強化する必要がある。これらは、とりわけ、人材育成、教育による資格の取得、マクロ経済及び金融政策に関するより緊密な協議、インフラ及び通信の強化、e−ASEAN通じた電子取引の発展、地域リソースを促進するために地域を越えた産業を統合すること、民間セクターの関与を強化することからなる。

 C.ASEAN社会・文化共同体(ASCC)(前21文字下線有り)

1.ASCCは、「ASEANビジョン2020」の目標設定と調和し、福祉社会の共同体としてパートナーシップで共に結ばれた東南アジアを構想する。

2.1976年ASEAN協和宣言の行動計画に沿って、ASCCは恵まれない人たちや農村人口の生活水準の引き上げを目的とした社会開発協力を促進し、女性、青年、コミュニティを含む社会の全てのセクターの積極的な関与を求める。

3.ASEANは、基礎・高等教育、訓練、科学技術開発、雇用対策及び社会的保護に投資することにより、その労働力が経済統合から恩恵を得ることを確保する。人材育成は雇用創出、貧困・社会経済格差の削減、公正な経済成長の{前1文字ママ}確保するための重要な戦略である。ASEANは地域の流動性、技能、職業単位・技能・技能水準の相互承認を促進する現在の努力を継続する。

4.ASEANはHIV/AIDSやSARSといった感染症予防と制御を含む公衆衛生の分野における協力を更に強化し、医薬品へのアクセス増加のための共同地域行動を支援する。共同体の安全保障は、貧困・疾病が抑制された、ASEANの人々に十分なヘルスケアが保証された時に強化されるものである。

5.ASCCは、ASEANの地域の一体性を促進しASEANの人々の意識を培う一方、ASEANの多様な文化遺産を保存するために、才能を育てASEANの学者、作家、芸術家、報道関係者の間の関係を促進する。

6.ASCCは、個々の加盟国が開発のポテンシャルを十分に実現し、ASEANの相互精神を強化するために、人口増加、失業及び環境悪化、地域の国境を越えた汚染並びに災害管理に関連した問題を解決するための協力を強化する。

 我々は、ASEAN共同体を現実とするための決意とコミットメントをASEANの人々にプレッジし、この目的の実現のために、関係閣僚に対しこの宣言を導入することを指示する。