データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 橋本総理のASEANとの首脳会議

[場所] 
[年月日] 1997年12月17日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

1.概要

橋本総理は、日本とASEANの首脳会議及び日本、中国、韓国及びASEANの首脳会議出席のため、12月14日より16日までマレイシアを訪問した。

2.ポイント

(1)日中韓・ASEAN首脳会議

日中韓・ASEAN首脳会議においては、通貨問題を中心とする地域の課題と将来につき、忌憚のない意見交換が行われた。

(イ)ASEANの最近の経済状況が、回復の目途がたたない状況で、経済困難がここ 数年続くかもしれないという見方が披露された。そのような状況を踏まえ、日本の役割に対する期待感がASEAN側より表明された。

(ロ)金融面では、マニラ・フレームワークの実施が中心となるべきことが確認 された。IMFのコンディショナリティについては、これが経済活動に与える影響につき疑問を呈する声もあった。

(ハ)ASEMに関し、ユーロ導入により統合を深める欧州と東アジアの対話の重要 性が確認され、経済問題を中心に議論を深めるべきとの意見も出された。

(2)日・ASEAN首脳会議

(イ)総理からは、我が国がASEANの経済困難に対し、これまでと変わらぬ支援を 行うと共に、特にASEANの産業構造の高度化と経済基盤の強化のための支援を強化していく姿勢とを明確化した。

(ロ)また、総理から、現在の我が国における問題に対処するための10兆円 の対策、経済構造改革等につき説明した。

(ハ)会議終了後、共同声明が採択された。総理より、人材育成・産業協力等の 強化、首脳間の対話や政治・安保対話の強化、国際社会が直面する諸課題への共同の取組等につき、包括的かつ具体的提案(別添の橋本イニシアティブ)がなされ、各国首脳より高い評価を得た。

特に、人材育成については、今後の発展の鍵となることが強調され、総理より表明した5年間で2万人の受入を内容とする「総合人材育成プログラム」への期待が表明された。また、ASEANとしても、人材育成につき具体的提案を行った。

3.評価

(1)21世紀の日・ASEAN協力を謳う首脳間の共同声明の発表

福田総理のASEAN訪問以来、20年ぶりの首脳間での共同声明の発表となったが、この間の日・ASEAN関係の成熟を反映した視野の広い内容となった。

政治面では、安全保障につき日・ASEAN間での協力の強化が確認され、また、日米安保体制を示唆する文言も言及された。

経済面では、現在の経済情勢の中、ASEANが内向きになることなく多角的自由貿易体制を推進する姿勢を見せ、構造改革の重要性を認めた点が評価される。

この他、南南協力や環境問題、国際テロリズム対策等についても、国の成熟度に応じたASEAN諸国の貢献の姿勢が示されたことも注目される。

(2)ASEANの持続的発展を支援する我が国の役割への期待に応えた協力

我が国より表明した具体的な協力、就中、通貨の安定に向けた支援、持続的経済発展を可能とする人材育成、産業構造の高度化等への協力は、現下の経済情勢の中、我が国の積極的な役割を期待する各国のニーズに合致し、高く評価された。特に人材育成については、ASEAN側の関心は予想を上回るものであり、具体的プログラムの実施への期待は極めて強いものであった。

(3)政治・安全保障対話や協力の強化の確認

日米中関係を安定的に維持していくとの我が国の考え方や地域の平和と安定のために我が国が果たしている役割への評価が示された。今後、地域・国際社会のパートナーとして政治・安全保障対話・交流の強化を行うこととなったことは、政治・安保面での協力が比較的十分でなかった現状に鑑み、重要な前進と評価される。