データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第4回ARF議長声明

[場所] クアラルンプール
[年月日] 1997年7月27日
[出典] 外交青書41号,303−307頁.
[備考] 
[全文]

1.第4回ARF閣僚会合は、1997年7月27日、マレーシアのスバング・ジャヤにて開催された。マレーシア外務大臣のアブドゥラ・バダウィ閣下が議長を務めた。

2.会合には全ARF参加国が出席した。ASEAN事務局長も出席した。各国代表団リストはANNEXAとして添付されている。

ARFプロセスの概観

3.閣僚は、ASEAN地域フォーラム(ARF)が地域の多国間安全保障対話及び協力にとり重要なフォーラムに発展したことに留意した。ARFプロセスは、共通の関心事項について益々率直な議論を可能にする一方、協力の習慣を奨励し建設的な行動のパターンを浸透させながら、全参加国に受け入れ可能なペースで進展してきた。同プロセスは、地域の平和と安定を維持するという参加国間のコミットメントを強化するとともに、透明性の増大を促進させ、相互の理解と信頼を向上させるのに積極的な役割を果たしてきた。閣僚は、地域の多様性を認識した上で、ARFプロセスによって採択された漸進的なアプローチの維持及びコンセンサスによる意思決定の重要性を再確認した。閣僚は、ARFが直面する将来の課題に取り組む上で強力な基盤が築かれたことに合意した。閣僚は、ランカウィでのARF−SOMの際行われた首席代表のみの非公式会合が、ARFの将来の方向性及び同プロセスの進展速度について率直かつ深みのある議論を可能としたことに留意した。閣僚は、また、国防当局及びその他政府関係者によって別途非公式な集まりがARF−SOM開催中の昼食時に持たれたことにより、ARFの関係者間の交流強化とネットワーク作りが奨励されたことに留意した。

主要討議事項

4.閣僚は、地域の平和と安全保障に関する広範囲の事項に関し議論した。この文脈の中で、閣僚は以下の点を強調した。

− アジア太平洋地域の全般的な安全保障環境は引き続き向上している。いくつかの課題は存在しているものの、同地域は、引き続き平和で安定している。経済発展が域内のすべての国にとって主要な関心事項となった。繁栄の広まりは、地域の政治的安定にとっての堅固な基盤を築いている。地域の経済的相互作用の拡大及び人的接触の増大は、アジア太平洋地域諸国にとっての強力なセイフティ・ネットとなっている。対話と協力を強調することは勢いを得つつあり、この傾向は平和と安全に寄与している。共同体意識及び共通の関心が形成されつつあることは、同地域の課題に取り組む上で多いに役立つだろう。

− 閣僚は、数年にわたり、数多くの信頼醸成のための取り決め及び合意が地域の安全保障に肯定的な影響を与えてきたことに留意した。閣僚は、ARF参加国が徐々にかつ漸進的に相互の信頼を深めるために、各国のニーズに合致し、各国の個別の状況に適用可能な二国間及び関係国間の措置を引き続き追求することを奨励した。

− 閣僚は、繁栄しかつ平和な国家共同体を促進する上で、ミャンマーの建設的関与のための努力を含め、東南アジア諸国が一層緊密に協力し、かつ相互支援を行っていることを賞賛した。これに関連し、地域の平和と安定を向上させる上でASEANが果たしている積極的な役割を歓迎した。ASEANメンバーの拡大はこうした目的に寄与するものである。

− 閣僚は、アジア太平洋地域の安定性を維持する上で、特に地域の主要国である中国、日本、ロシア及び米国の間で、良好な関係を発展させることが重要であることを強調した。閣僚は、ARFの成功のための全参加国の積極的、完全かつ平等な参加と協力を歓迎し、ASEAN諸国が引き続き主要な推進力となる義務を果たしていくことを認識した。

− 閣僚は、1997年3月のSEANWFZ条約(東南アジア非核兵器地帯条約)の発効を歓迎した。同条約は、地域の安全強化及び世界各地での非核兵器地帯創設に向けた東南アジア諸国の重要な努力の表れである。これに関連して、閣僚は、核兵器国の同条約議定書への加入を促進するために、条約締約国と核兵器国との間で現在行われている協議を歓迎した。

− 閣僚は、化学兵器の検証可能なグローバルな禁止をもたらす化学兵器禁止条約の発効を歓迎した。閣僚は、同条約をまだ批准していないすべての国に対し、同条約を批准するよう要請した。閣僚は、生物兵器禁止条約の遵守と検証を扱う議定書の作成につき、進展が得られることに対する希望を表明した。

− 閣僚は、対人用地雷の使用、生産、移転及び貯蔵を禁止する包括的条約についての交渉が、1997年12月にオタワでそのような条約を署名することを意図して、1997年9月にオスロで行われることに留意した。閣僚は、また、ジュネーブ軍縮会議が対人地雷問題の解決を見いだす努力として、対人地雷問題のための特別調整者を任命したことに留意した。閣僚は、犠牲者のリハビリとともに、地雷除去及び不発弾除去の努力を支持することに合意した。

− 閣僚は、核爆発実験を禁止し、ひいては国際的な平和と安全の向上のための重要な一歩となるCTBTが圧倒的多数で採択されたことを歓迎した。

− 閣僚は、国際社会が包括的な核不拡散という目的を達成するためには普遍的、包括的かつ無差別的な不拡散へのアプローチが緊急に必要であることを強調した。閣僚は、核兵器拡散防止にあらゆる面で引き続き貢献するという決意を再確認し、核兵器国に対し、核兵器廃絶という究極の目的を持って核軍縮に関する効果的な措置についての交渉を精力的に追求するよう促した。

− 閣僚は、第10回国連特別総会、即ち第1回国連軍縮特別総会の最終文書、及び厳格かつ効果的な国際的管理の下での全面完全軍縮の目的を考慮し、会議の目的と課題についてのコンセンサスが得られる場合には1999年に第4回国連軍縮特別総会を開催すること等を決定した1996年の国連総会決議A/Res/51/54の重要性を強調した。

− 南シナ海に関して、閣僚は、地域の平和と安定の維持のため、国際法、国連海洋法条約及び自己抑制、に沿った平和的方法により解決策を見いだそうとしている関係諸国の努力を評価した。閣僚は、また、南シナ海の潜在的な紛争の管理に関するワークショップの積極的な貢献に留意した。

− 閣僚は、カンボディアにおける最近の情勢について懸念を表明した。閣僚は、カンボディア王国のウン・フォット外相がカンボディアにおける政治的安定の回復を支援する上でASEANが果たす役割をカンボディアとして歓迎することを確認したことに留意した。閣僚は、本件についてのASEANのイニシアティブを支持した。

− 朝鮮半島における平和と安全の重要性に鑑み、閣僚は、恒久的な平和レジームが整うまでの間、1953年の休戦協定を維持する重要性を再確認した。閣僚は、北朝鮮の食糧不足が安全保障と人々の福祉に与える影響についての懸念を表明した。閣僚は、朝鮮半島における恒久的平和への道を開くよう提案された四者協議に関する最近の進展を歓迎した。閣僚は、また、1994年の合意された枠組みを実施する上で朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)によって得られた進展を歓迎し、ARFが引き続きKEDOを支持することを再確認した。

− 閣僚は、地域における核廃棄物の越境移動を議論した。閣僚は、そのような放射性廃棄物の輸送は、既存の国際安全基準及び規範に従うべきこと、並びに放射性廃棄物を適切な廃棄物処理貯蔵施設を持たない国に輸出することを禁ずるために国際社会が最大限の努力を行うべきことを強調した。

昨年以降(1996年7月−1997年7月)のトラック1、トラック2の活動報告

トラック1活動

5.閣僚は、以下のトラック1活動のそれぞれの共同議長による報告に対して感謝の意を表明した。すなわち、1997年2月19日−20日にウェリントンにて行われた災害救助に関するISM(Intersessional Meeting)、1997年3月6日−8日に北京にて行われた信頼醸成措置に関するISG(Intersessional Support Group)、1997年3月26日−28日にシンガポールにて行われた捜索・救難の調整及び協力に関するISM、1997年3月10日−14日にクアラルンプールにて行われた教官訓練に関する地域ワークショップ及び1997年4月7日−11日にパーマストーン・ノースにて行われた地雷除去に関するセミナーを含む平和維持活動に関するISMに関する共同議長の報告である。

5.1 災害救助に関するISM

 閣僚は、災害救助に関するISM第1回会合は、ARFにとり価値ある信頼醸成措置となるとともに、アジア太平洋地域における協力強化というより広い目的に寄与し得るものとなったと認識した。災害救助に関する本ISMを更に一年間継続することがARF発展に更に貢献するということに合意した。会合は、ANNEX.Bの災害救助に関するISMの第1回会合の提言リストを承認した。

5.2 信頼醸成措置に関するISG

 閣僚は、信頼醸成措置に関するISGにおいて、特に地域の安全保障環境及び安全保障認識、地域的な信頼醸成活動、防衛政策並びに安全保障の包括的性格についての率直かつ和やかな議論が行われたことに留意した。閣僚は、ARF参加国間の理解と信頼を深め、また地域の安定性を維持する上で、協議と対話の重要性を強調した。この文脈において、会合は、信頼醸成措置に関するISGがARFの議論を一歩前進させるものであったことを認識した。閣僚は、また、ARF参加国より提出された信頼醸成措置に関する文書をとりまとめるとの中国の申し出及び1997年10月6日から9日に国防大学または同等の機関の学長の会合を主催するとのフィリピンの申し出を歓迎した。閣僚は海洋の安全保障の可能な分野をはじめとして、ISGの作業のために提案された新たな要素に留意した。閣僚は、ANNEX.C.の提言リストを承認した。

5.3 捜索・救難の調整及び協力に関するISM

 閣僚は、捜索・救難に関する第2回ISMの報告、とくにANNEX.D.の捜索・救難の調整及び協力のための原則と目標のリストを承認した。

5.4 平和維持活動に関するISM

 閣僚は、ANNEX.E.の平和維持活動に関するISMの共同議長報告を承認した。閣僚は、また、PKOに関するISMの具体的提言を実施するために開催された教官訓練ワークショップ及び地雷除去セミナーの報告書に留意するとともに、ANNEX.F及びGの同ワークショップ及びセミナーの提言を、かかる活動はPKOに関するISMの正式な延長がなくとも継続可能だとの理解をもって、承認した。

トラック2活動

6.閣僚は、トラック2セミナーの議長により用意された書面による報告に留意した。すなわち、1996年11月にパリでフランス国際関係研究所とインドネシアの戦略国際研究センター(CSIS)の共催により開催された予防外交に関するトラック2セミナー、1996年12月にジャカルタでインドネシアCSIS、ドイツ科学・政治学財団、オーストラリア国立大学の共催により開催された不拡散に関するセミナーに関する報告であり、これらはそれぞれANNEX.H及びIにある通りである。

明年閣僚会合までの(1997年7月−1998年7月)活動計画

トラック1活動

7.災害救助に関するISMの提言の従い、閣僚は、同ISMが更に一年間、引き続きニュージーランドとタイにより共催されることに合意した。閣僚は、タイが1998年初旬に災害救助に関するISMを開催するとの申し出を歓迎した。同様に、閣僚は、信頼醸成措置に関するISGを1年間延長することに合意し、次回の信頼醸成措置に関するISGの次の共同議長国を努めるとのブルネイ及びオーストラリアの申し出を歓迎した。捜索・救難のISMに関し、閣僚は、シンガポールが、ARF参加国のために毎年捜索・救難訓練コースを開催し、また、1997年12月には捜索・救難の政策立案関係者及び関係者のための捜索・救難会議を開催するとの申し出を歓迎した。平和維持活動の分野に関しては、会合は、EUが1998年前期にアイルランドで平和維持活動訓練のアプローチに関するフォローアップのワークショップを開催するとの申し出を歓迎した。

8.種々のインターセッショナル活動の延長に合意するにあたり、閣僚は、各々のISM及びISGに対し、合意されたが現在のところ実施されていないすべての提案を包括的に見直すよう指示した。

トラック2活動

9.閣僚は、1997年9月9日〜11日にシンガポールでシンガポールの防衛・戦略研究所、国際問題研究所及び英国の国際戦略研究所が予防外交に関するトラック2セミナーを共催するという提案を歓迎した。

その他の課題

10.第4回ARFにおいては、麻薬密輸及び資金洗浄を含む経済犯罪のような国境横断的なその他の事項につき検討するとの第3回ARFの決定を想起し、閣僚は、現時点では、そのような事項はASEAN拡大外相会議に於いて取り扱われることがより適切であることに合意した。

11.閣僚は、多くの国々がARF参加に引き続き関心を示していることに留意した。これに関して、閣僚は、次回ARF−SOMにおいて、第3回ARFで合意された原則と規準に基づいて参加申請の検討を開始することに合意した。

ARFプロセスの将来の方向性

12.閣僚は、ARF全参加国の関心を考慮し、同時に、関連分野での活動の増加を通じプロセスを引き続き強化することを示しつつ、ARFプロセスの発展への段階的なアプローチとコンセンサスによる意思決定が維持されるべきことに合意した。

13.閣僚は、ARFプロセスの将来の方向性、及び、この関連で信頼醸成と予防外交との関係について有益な意見交換を行った。閣僚は、第2回ARFが、第1段階及び第2段階での項目が重複する場合、かかる事項は第1段階と並行して行いうることに合意したことを想起した。閣僚は、信頼醸成措置に関するISGに対し、信頼醸成措置に焦点を置きつつ、そのような事項及び右への取り組み方を明らかにするよう要請することに合意した。