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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第1回ワシントン核セキュリティ・サミット作業計画

[場所] ワシントン
[年月日] 2010年4月13日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

 この作業計画は、ワシントンにおける核セキュリティ・サミットのコミュニケを補強するものである。この作業計画は、参加国が、核物質の貯蔵、使用、輸送及び処分のすべての分野において、また、非国家主体による情報(核物質を悪意ある目的に使用するために必要であるもの)の獲得の防止に当たり、この作業計画の適用可能な部分を各々の国内法及び国際的な義務に従って自発的に実施するとの政治的コミットメントを構成するものである。

 核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約は核によるテロリズムの行為がもたらす脅威に取り組むための法的拘束力を有する重要な多数国間文書であること認識して、

1.同条約の締約国である参加国は、同条約の普遍化をできる限り速やかに達成するために協働する。

2.同条約の締約国である参加国は、適当な場合及び国からの要請がある場合には、国による同条約の実施を支援する。

3.同条約の締約国である参加国は、同条約第20条で求められるとおり、同条約の効果的な実施を確保する措置を検討するため、締約国間の議論を奨励する。

 核物質の防護に関する条約は平和的目的のために使用される核物質の防護を取り扱う唯一の多数国間の法的拘束力のある合意として重要であること及び2005年の同条約の改正はセキュリティを地球規模で強化する上で価値を有することを認識して、

1.同条約の締約国である参加国は、同条約の普遍的な遵守に向け、また、可能な場合には、同条約の改正の批准プロセスを促進し及び同改正の早期実施のために行動するよう協働する。

2.同条約の締約国である参加国は、すべての国に対し、同条約の改正が発効するまでの間、同改正の趣旨及び目的に従って行動するよう要請する。

3.同条約の締約国である参加国は、適当な場合及び国からの要請がある場合には、国による同条約及び同条約の改正の実施を支援する。

 非国家主体による大量破壊兵器、それらの運搬手段及び関連物資の獲得を防止するための国際連合安全保障理事会決議第1540号を、特に核物質に関係する場合に完全に実施すべき必要性に留意して、

1.参加国は、関連する国際連合決議に従い、かつ、国連グローバル・テロ対策戦略の枠組みの下で、決議第1540号に基づいて設置された安全保障理事会の委員会(以下「1540委員会」という。)と国との継続的な対話を支持し、この点に関する強化された国際協力を支持する。

2.参加国は、決議第1540号の完全な実施を促進するため、1540委員会の活動を支持する。

3.参加国は、決議第1540号で求められる完全なかつ時宜を得た報告の重要性を認識し、また、要請がある場合には技術的な支援又は援助を行うことなどにより、報告を行う他国と協働する。

4.参加国は、1540委員会による包括的な検討(任意の基金の設立に関する検討を含む。)の結果に留意し、1540委員会の活動に対する効果的かつ持続的な支援を確保することについて支持を表明する。

5.参加国は、決議第1540号パラグラフ3の(a)及び(b)に規定する事項のうち核セキュリティに関連するものに関し、参加国が国際原子力機関(以下「IAEA」という。)の核セキュリティ・シリーズ文書及び「核物質及び原子力施設の防護」(INFCIRC/225)の文書に規定する目的を達成することができることを確保するため、防護システムを評価し及び改善する重要性を認識する。

6.参加国は、可能な場合には、適切なメカニズム(利用可能な資源によりニーズを満たすという1540委員会の努力を含む。)を通じて要請する国に対し、技術上の援助を提供することが奨励される。

 核セキュリティを世界規模で促進するための国の努力を支援するIAEAの活動を歓迎し、要請がある場合には核セキュリティ・プログラムを通じて援助を提供し及び2010年から2013年までの核セキュリティ計画(2009年9月の理事会で承認され、総会で留意されたもの)を実施するというIAEAの業務を称賛し、並びに核セキュリティ及び核物質の計量を改善するための新たな技術を開発するIAEAのプログラムを歓迎し、

 IAEAは、核セキュリティ・シリーズの枠組みの下で、盗取、妨害破壊行為、許可されていないアクセス、不正取引その他の悪意を持った行為であって特に核物質及び関連施設を巻き込むものに対する予防、検知及び対応に関係する指針及び勧告を加盟国が作成することを促進しており、また、効果的な核セキュリティ措置を開発し及び実施する上での指針を提供していることを認識し、

 この作業計画の目的を追求することは、IAEAの任務又は責任を変更するものとは解されないことに留意して、

1.参加国は、IAEAの核セキュリティ・シリーズの文書は、核セキュリティの広範な局面において国を支援するための勧告及び指針を提供していることに留意する。また、IAEAのすべての加盟国ができる限り広範にそのプロセスに参加するよう奨励する。

2.参加国は、可能な場合は、核セキュリティ・シリーズが提供する指針を適宜完了させ及び実施するために積極的にIAEAと協働する。また、要請に応じ、他国がそのように行動することを支援する。

3.参加国は、核セキュリティ・シリーズの中で刊行されるINFCIRC/225の第5版を完成させるためのIAEAの努力を特に歓迎し及び支持する。

4.参加国は、核セキュリティを支える上での核物質の計量の重要性を認識し、「施設における核物質の計量システム」に関する技術指針文書の完成を期待する。

5.参加国は、適当な場合には、核セキュリティ・シリーズが定める関連する諸原則を原子力施設の計画、建設及び運転に含めるよう努める

6.参加国は、自国の核セキュリティ措置を実施するに当たり、外部脅威及び内部脅威に関する検討を含めるため、設計基礎脅威(以下「DBT」という。)の開発、利用及び維持に関するIAEAの実施ガイド(適当な場合に自国のDBTを作成するためのもの)を利用することを支持する。

7.参加国は、核セキュリティに関する国のニーズを核セキュリティの改善及び援助に関する総合的な計画に統合するため、要請に応じ、国による総合的な核セキュリティ支援計画の作成を援助するためのIAEAの努力を歓迎する。

8.参加国は、国際防護諮問サービス・ミッション(要請に応じ、民生用の核物質及び原子力施設の防護システムを検討するもの)などのIAEAの支援メカニズムの価値を認識する。

9.参加国は、IAEAのすべての加盟国に対し、可能な場合には、IAEAがこれらの重要な活動を実施することを可能とするために必要な支援を提供するよう求める。

 国際連合が核セキュリティを促進するために行っている貢献、並びに核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ、大量破壊兵器及び物質の拡散に対するG8グローバル・パートナーシップ等のイニシアティブ並びに二国間、多数国間及び非政府機関の活動がそれぞれの権限及び加盟国の範囲内で核セキュリティを促進するために行っている貢献に留意して、

1.参加国は、核セキュリティに関する協力のメカニズムが、相互補完的であり、互いを補強するものであり、効率的であり、関連するIAEAの活動と整合的であり、また、援助を要請した国において特定されたニーズに適切に合致するものであることを確保するため、適当な場合には、協働する。

2.参加国は、適当な場合には、核セキュリティの改善及び核によるテロリズムの防止を目的とした国際的なイニシアティブ及び任意の協力メカニズムへの広範な参加及びコミットメントを奨励する。

3.参加国は、G8グローバル・パートナーシップの参加国の中に、可能な場合には核セキュリティを向上させるための追加的なプログラムを実施する意図を有している国があること歓迎する。

 平和的目的のために原子力エネルギーを開発し及び利用する国の権利を認識し、自国の管轄の下にあるすべての核物質及び原子力施設の利用及び管理に関する各国の責任に留意し、高濃縮ウラン及び分離プルトニウムは特に機微であり特別な注意を要することを認識して、

1.参加国は、適当な場合には、核物質が保管されている国内のサイトを統合することを検討する。

2.参加国は、核物質の安全かつ確実な輸送(国内的及び国際的な輸送の両者を含む。)を確保するよう引き続き特別の注意を払う。

3.参加国は、適当な場合には、既に核物質を利用していない施設から核物質を安全に、確実に、かつ、時宜を得て除去し及び処分することを全国的な規模で検討する。

4.参加国は、核爆発装置における様々な使用形態の可能性を考慮し、分離プルトニウムの徹底した管理及び計量について引き続き特別の注意を払う。

5.参加国は、技術的及び経済的に実行可能な場合には、高濃縮ウランを燃料とする研究炉及び高濃縮ウランを使用するその他の原子力施設を、低濃縮ウランを利用する施設に転換することを適宜検討する。

6.参加国は、適当な場合には、炉の運転に高濃縮ウラン燃料を必要としない新たな技術又は医療用その他の目的による同位体の生産のために高濃縮ウラン・ターゲットを必要としない新たな技術の研究及び開発に協力し、並びに同位体の生産等の多様な商業的目的における低濃縮ウランその他の拡散抵抗性のある技術及び燃料の利用を奨励する。

7.参加国は、可能な場合には、核物質の徹底した管理、計量、統合及び転換のために援助を要請する国に対し、援助を提供する。

8.参加国は、放射線源のセキュリティにどのように対応するのが最善かについて検討し、適当な場合には今後の措置を検討する。

 効果的な核セキュリティ及び強固な国内規制能力を維持する責任を有していることに留意して、

1.参加国は、国内の核セキュリティに関する効果的な規制を設定し及び維持する。これには、適当と認めるときに、当該規制を定期的に見直し及び調整することを含める。

2.参加国は、国の特別な法的及び制度的な組織に合致する方法で、規制における独立性を最大限にすることを約束する。

3.参加国は、自国の原子力プログラムの現在のニーズ及び将来における拡大を考慮し、規制上の能力を構築し並びに十分に訓練されかつ検査された核セキュリティの専門的な人員及び十分な資金を確保することを約束する。

4.参加国は、国内の核セキュリティに関する規制の遵守の見直し及び遵守に係る取締りを優先事項として追求する

 原子力産業界(核セキュリティにおける民間部門を含む。)の役割を理解し、各国における基準の設定については政府が責任を有することを認識して、

1.参加国は、国内法令に従い、原子力産業界が強力な核セキュリティ文化及び組織としてのコミットメント(核セキュリティ上の強固なプラクティスを実施するとするコミットメントであり、このプラクティスには、核セキュリティの特性に関する定期的な訓練及び性能試験の実施を含む。)を促進し及び維持するよう、原子力産業界を指導する。

2.参加国は、国の要件に従い、技術的及び経済的に実行可能な場合には、原子力産業界における核セキュリティのベスト・プラクティスに関する情報交換を促進し、この点に関し、このような情報交換を支援するための関係機関を活用する。

3.参加国は、原子力事業者並びに建設及びエンジニアリングに係る企業に対し、適当な場合には、効果的な防護措置及びセキュリティ文化を考慮し並びにこれらを民生原子力施設の計画、建設及び運転に取り入れるよう奨励する。また、要請に応じ、このように行動している他国に技術上の支援を提供する。

 核セキュリティにおける人的側面の重要性、セキュリティ文化を向上させる必要性及び十分に訓練された技術的専門家を維持する必要性を強調して、

1.参加国は、適当な場合には、効果的なキャパシティ・ビルディング(核セキュリティ・プログラムにおける人的資源の開発を含む。)のため、国際機関、政府、産業界その他の利害関係者及び学術界との間における協力を促進する。

2.参加国は、ベスト・プラクティスを普及させ及び共有するため、キャパシティ・ビルディングのための核セキュリティ支援センターの創設及びこれらのセンターのネットワーク化を奨励し、並びにこの分野におけるIAEAの活動を支援する。

3.参加国は、国の十分な核セキュリティ能力の構築を奨励する。また、供給国及び技術供給者に対し、要請に応じ、かつ、国の特別な法的及び制度的な組織に合致する方法で、受領国におけるこれらの能力(教育及び訓練を通じた人的資源の開発を含む。)の構築を支援するよう奨励する。

4.参加国は、十分なセキュリティ基盤の設定及び維持に主要な役割を有するすべての利害関係者に対し、教育及び訓練並びに制度的なキャパシティ・ビルディングについて統一されたアプローチを取るよう奨励する

5.参加国は、核物質の不正な取得又は使用を防止するため、機微な情報の適切な管理を確保するための国内措置の実施を奨励し、また、適当な場合には、要請に応じ、キャパシティ・ビルディングに係る二国間及び多国間のプロジェクトを支持する。

 核の不正取引及び核によるテロリズムの行為又はこれらを試みる行為を検知し、防止し、抑制し、捜査し及び訴追するため、秘密の保護に関する規則を害することなく、正確かつ検証された情報を交換する価値を強調して、

1.参加国は、核の不正取引及び核によるテロリズムに係るあらゆる種類の事件を訴追する上で十分な権限を有することを確保するため、必要な場合には自国の刑事法を改善するよう努め、これらの犯罪を法の下で可能な限り訴追することを約束する。

2.参加国は、包括的かつ時宜を得た方法で、核セキュリティ、核によるテロリズム及び核の不正取引に関係する問題、挑戦、リスク及び解決に関する情報の共有を拡大するためのメカニズムを開発し及び適用するよう奨励される。

3.参加国は、核セキュリティ及び核の不正取引に関係する事件に関する緊急の関連情報を共有するための二国間及び多国間の協力を適当な場合には強化するための方法及びメカニズムを開発するよう奨励される。

 核検知及び核鑑識の分野におけるIAEA及び参加国の作業(不正に取引された核物資の検知及びこれへの対応並びに当該核物質の起源の特定に関連して国を支援することを目的とするもの)に留意し、情報に係る秘密の保護に関する規則を尊重する重要性を認識して、

1.参加国は、核の不正取引を防止し及びこれに対抗するため、自国の技術的能力(新たなかつ革新的な技術の適切な利用を含む。)を向上させるためのさらなる措置を、自国で、二国間で又は多国間でとることを検討する。

2.参加国は、核の不正取引に対抗するための国家間の協力(この分野におけるIAEAの関連する活動を含む。)を促進し及び奨励するため、核鑑識に関する国の能力を開発するために協働する方法(国内的なライブラリーの創設及び国際的なコンタクト・ポイントの目録の作成などのもの)を探求する。

3.参加国は、核の不正取引及び核によるテロリズムの行為を防止するため、地方の、国内の及び国際的な税関及び法執行機関の間における広範な協力を強化する方法(合同訓練及びベスト・プラクティスの共有によるものを含む。)を探求する。