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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] エジプト、ガーナ、ケニア及びモザンビーク訪問等についての内外記者会見(岸田内閣総理大臣)

[場所] 
[年月日] 2023年5月4日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文] 

【岸田総理冒頭発言】

 エジプト、ガーナ、ケニア及びモザンビークへの訪問を終えるに当たり、所感を申し上げます。

 今回、私は、3つのテーマを持ってアフリカ諸国歴訪に臨みました。1つ目は、G7広島サミットを見据え、今回訪問した各国を含む「グローバル・サウス」と呼ばれる国々とG7との間の連携を橋渡しすること。2つ目は、TICAD8(第8回アフリカ開発会議)で示した、アフリカと「共に成長するパートナー」である日本としてのコミットメントを推進すること。そして3つ目は、スーダンの安定化に向けた連携を確認すること、です。

 ロシアによるウクライナ侵略開始以降、私は、多くの「グローバル・サウス」と呼ばれる国々の首脳と意見を交わしてきました。また、G7議長国に就任した年初以降は、G7全ての首脳と対面で議論を深め、本年G20で議長を務めるインドのモディ首相とも考えをすり合わせ、さらに、訪問したウクライナでは、ゼレンスキー大統領と率直な会談を行いました。こうした一連の外交の中で、主権及び領土一体性の尊重といった、疑いようのない、当然の原則の擁護と、法の支配に基づく国際秩序の堅持を繰り返し訴えてきました。また、各国の首脳と意見交換をする中で、個々の国が直面する多様な課題に耳を傾け、その解決に向けて真摯に協力していかないことには、こうした訴えも賛同を得がたいということも痛感いたしました。「グローバル・サウス」と呼ばれる国々の多くは、食料品高やエネルギー高に傷つき、そして苦しんでいます。その原因は、本来ロシアによるウクライナ侵略という暴挙に求められるべきですが、我々G7による対ロシア制裁がその原因だといった誤った印象などを与えることで、世界を分断しようという動きがあります。そのような中で、今、日本に求められているのは、エネルギーや食料、保健、開発等の分野で、目に見える形でのG7による積極的な協力を示し、G7と「グローバル・サウス」の橋渡しを行い、法の支配を貫徹することです。今回の歴訪において、私は、アフリカの東西南北の主要国を訪問し、各国が直面する様々な課題について協力することを確認しました。そして何よりも、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化の重要性や、力による一方的な現状変更の試みは世界のどこであっても認められないことなどを確認し、国際場裏における連携を強化していくことで一致をいたしました。こうした外交的取組の先にこそ、国際社会の平和と安定、そして我が国の安全と繁栄を一層進めることができると信じています。今回もG7での良い議論に繋がる意義のある訪問になったと考えています。

 昨年のTICAD8では、私から、日本とアフリカは「共に成長するパートナー」であり続けると呼びかけました。アジア・中東と欧州を結節するエジプト。西アフリカ有数の経済拠点であるガーナ。インド太平洋へのゲートウェイであるケニア。資源国として潜在力を有する南部アフリカのモザンビーク。アフリカの主要な経済拠点である国々との間で、日本企業の進出の促進を始めとする経済関係の一層の強化を図るとともに、「自由で開かれたインド太平洋」の新プランの下、海の平和利用や連結性の強化にも取り組んでいきます。また、ガーナでは野口記念医学研究所を視察し、長年にわたる日本の保健分野における貢献を目の当たりにしました。日本の知見を活かし、相手に寄り添った協力を更に進めてまいります。加えて、今回、訪問した各国において、JICA(国際協力機構)専門家や青年海外協力隊員、スタートアップに携わる若手の在留邦人の方々から直接話を伺う機会を持ちました。若手の方々が、日本からアフリカに渡り、アフリカの未来を支える人材として、各国各地で活躍していることに、敬意を表します。日本のこうした若者たちによる、きめ細かな、日本ならではの支援に対して、各国首脳からも、多大なる称賛の声と感謝の念を頂きました。

 各国との間では、戦闘が続くスーダン情勢についても議論を行いました。スーダンからの邦人退避については成功裡に遂行することができましたが、スーダンの不安定な情勢は、今後も地域の安定に悪影響を及ぼしかねません。日本は、G7議長国、安保理非常任理事国として、スーダンの安定化に積極的に貢献します。「アフリカの角」担当大使の派遣や緊急人道支援の実施などを通じ、事態の沈静化や民政移管プロセスの再開、秩序の回復に向け、引き続き各国と連携していきます。

 議長として主催するG7広島サミットまで、あと二週間となりました。国際社会が歴史の転換点を迎える中で、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜くとの強い意志を力強く世界に示すためにも、これまで世界中で繰り広げてきた外交の成果を広島サミットでの議論の糧にし、G7の結束及び「グローバル・サウス」との連携の強化に繋げていきます。そして、その成果を、「アジアの視点」を持って、今年9月のG20ニューデリー・サミットや、12月に日本で開催予定の日ASEAN(東南アジア諸国連合)特別首脳会議での議論に引き継いでいきたいと思います。明日、シンガポールで行う首脳会談も、その一歩にできればと考えています。

 最後に、我が国の新型コロナ対策について申し上げます。5月8日から、新型コロナをインフルエンザと同じ5類感染症に移行します。5月8日以降、新たなフェーズに入ります。2020年1月15日、日本で初めての新型コロナ感染症患者が確認されてから、約1200日。国民の皆さまには、大変なご苦労、ご心配をおかけいたしました。ウイルスとの戦いに最前線で奮闘された、医療・介護・福祉関係者の皆さま、感染防止対策や営業自粛に御協力いただいてきた、飲食店や宿泊・サービス業を始めとする事業者の皆さま、そして、大切な方々を守るために、最大限の努力をして下さった国民の皆さま、お一人お一人に、心から敬意を表するとともに、御礼を申し上げます。この春、経済再生に向けて、明るい話題が増えています。30年ぶりとなる賃上げのうねりを地方・中小企業に広げるべく、全力を尽くしていきます。さらに国内投資促進、インバウンド、そして新しい資本主義を力強く前に進め、日本経済を一段高い成長経路に乗せていきます。もちろん、新型コロナウイルスが無くなったわけではありません。感染や重症化を防ぐため、ワクチン接種は引き続き、無料で行います。5月8日から、高齢者や基礎疾患をお持ちの方々の追加接種を行います。医療については、今後はより多くの、一般の病院やクリニックで診療を行う体制へと段階的に移行していきます。また、重症者に対する入院調整や高齢者施設における医療体制への支援などは、継続します。感染動向については、日々の感染者数の公表はなくなりますが、定点調査などを行い、感染動向を捉える体制を整備します。また、オミクロン株と大きく病原性が異なる変異株の出現など、科学的な前提が異なる状況になれば、対策を迅速に実施いたします。引き続き、備えを万全にしながら、国民の皆さまが、安心して豊かな暮らしを送ることができるよう、全力を尽くしてまいります。

 最後になりますが、今回の訪問を受け入れてくれた各国首脳及び政府関係者の皆様に感謝申し上げます。ありがとうございました。


【質疑応答】

(NHK 伏見記者)

 冒頭の発言でも言及ありましたけれども、今回のアフリカ訪問ですね、当初からの狙いの一つとして「グローバル・サウス」を重視する姿勢を示していらっしゃったかと思うんですけれども、今回改めてグローバルサウスを重視する姿勢を示すことができたのか、評価をお聞かせください。また今回の訪問を、G7広島サミットでの議論につなげていきたいということをおっしゃっておりますけれども、具体的にサミットでのテーマ設定あるいはその成果文書のとりまとめなどに向けて、どのように反映させるおつもりか、お聞かせください。

 それからもう一点、先日、日本の総理大臣としては5年ぶりとなる韓国訪問を表明されましたけれども、一方中国との首脳の往来は途絶えたままになっています。年内に中国の首脳を日本に招いたり、あるいは岸田総理自身が中国を訪問するお考えはありますでしょうか、お聞かせください。

(岸田総理)

 まず冒頭申し上げたとおり、2週間後にG7広島サミットを控える中、今回訪問した各国を含む「グローバル・サウス」と呼ばれる国々の声に耳を傾け、G7との間の連携の橋渡しを行うことは、今回のアフリカ諸国歴訪におけるテーマの一つでした。今回の歴訪を通じ、我が国として、各国の抱える多様な課題に耳を傾け、その解決に向けて共に協力していく姿勢を示すことができたと考えています。

 日本とアフリカは、援助する国・援助される国という関係ではなく、「共に成長するパートナー」であると申し上げてきています。日本は、アフリカの成長に力強く貢献するとともに、日本自身もまた課題解決を通じて成長する。このアフリカのエネルギーを是非頂きたいということを申し上げてきました。そのために、「人への投資」や「成長の質」を重視し、相手の個々のニーズに応じた、きめ細やかな協力を行っていく。こうした日本ならではのアプローチは、今回、各国首脳からも、高い評価、そして感謝の声をいただいたと感じています。

 G7広島サミットでは、今回歴訪した各国から頂いた声をG7に届け、G7として「グローバル・サウス」と呼ばれる国々への関与の強化を具体的に示し、そして、一方、各国の直面する課題の解決にG7が積極的に協力する、こうした議論をおこなっていきたいと思います。こうした議論を日本としてリードする、こうしたリーダーシップを発揮していきたいと考えます。そうすることによって、国際社会が歴史的転換点を迎える中で、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜くとの意志を、より強く、より広がりのあるものとして、力強く世界に示していくことができると考えています。

 そして、もう1つの日中関係についての御質問ですが、日中関係については昨年11月の日中首脳会談で得られた前向きなモメンタムを維持しながら、主張すべきものは主張し、そして責任ある行動を強く求めつつ、諸懸案を含めて対話、これをしっかりと重ね、共通の課題については協力する、こうした「建設的かつ安定的な関係」を日中双方の努力で構築していくこととしています。こうした基本姿勢の下、中国との間では、首脳レベルを含めあらゆるレベルで緊密に意思疎通を行なっていくことで一致しており、その一つとして先日、林外務大臣の訪中も実現した、こういったことであります。今後の具体的なハイレベル往来については、現時点では何ら決まっておりませんが、今言ったこの基本的な考え方、方向性に基づいて日中関係を日本政府としても考えていきたいと思っております。

(ノティシアス紙 アナ・リタ・テネ記者)

 私はアナ・リタ・テネと申します。モザンビークのジャーナリストです。質問はTICAD(アフリカ開発会議)ですが、モザンビークはTICAD及びそれにかかる機会をどのように評価しているとお考えでしょうか。

(岸田総理)

 はい、ありがとうございます。TICADについては、日本は、1993年にTICADを立ち上げました。それ以降、一貫して、強靱なアフリカの実現に向けて、日本ならではの、きめ細やかなアプローチでアフリカ自身が主導する開発を支援していく、こうした精神で取り組んでいます。私も、今回のアフリカ訪問を通じて、アフリカの可能性とそして潜在力を肌で感じ、未来に向けた協力の重要性に対する思いを新たにいたしました。昨年8月のTICAD8では、今後3年間で官民合わせて300億ドル以上の資金を投入し、アフリカ・ビジネスを最大限支援していくことを日本は約束をしました。今回の訪問においては、ウクライナ侵略等を受けて高騰する食料やエネルギー価格の影響等、様々な国際課題への対応で連携することを確認するとともに、TICAD8で約束したことのフォローアップを含め「共に成長するパートナー」として日本とアフリカの関係を深化させていく決意を示しました。その中でモザンビークは、南部アフリカの主要国です。モザンビークのナカラ港の開発は、自由で開かれたインド太平洋における連結性の強化や、モザンビーク、及び周辺地域の成長を牽引することとなるものだと考えています。こうした協力の一環として、今、まさに、50人規模のビジネス関係者が参加する官民合同ミッションが、ここモザンビークを訪問しています。本年、TICADは30周年を迎えます。日本は、TICADプロセスを活用しつつ、LNG(液化天然ガス)開発事業などのエネルギー分野を含め、引き続きモザンビークとの関係を拡大、そして深化させるべく取り組んでいきたいと考えています。

(朝日新聞 阿部記者)

 内政に関してお伺いします。各種の世論調査では、内閣支持率が上昇傾向にあり、与党内からは、G7広島サミット後、又は臨時国会冒頭で解散し、衆議院総選挙に臨むべきだといった声も聞かれます。一方、野党側は警戒感を強め、候補者の擁立等を急ぐ方針を明らかにしています。解散・総選挙について、どのように対応する考えか、お聞かせください。

(岸田総理)

 その御質問については、従来から申し上げておりますが、今、重要な政策課題に結果が山積する中、こういった重要な政策課題に結果を出すことに全力を尽くしているところであり、今は、解散総選挙については考えておりません。御質問についてはその答えに尽きております。

(AIM(モザンビーク情報エージェンシー)アルベルト・マサンゴ記者)

 2007年以降、モザンビークは北部でテロの脅威を受けております。岸田首相にお聞きしたいのは、このテロ対策ということについて、日本はどのような支援を行ってくださるのかということと、気候変動の枠組みについて、分野について、様々なサイクロンがモザンビークを襲っておりますけれども、フレディーというのも最近来ましたが、日本がモザンビークに対してこの分野において支援を拡大するという可能性がございますでしょうか。そして最後に、岸田首相にお伺いしたいのは、日本と、日本はですね、中国又はロシアの進出、アフリカに対する進出をどのようにご覧になっているかということです。ありがとうございます。

(岸田総理)

 はい、ありがとうございました。まず、モザンビーク北部における治安の回復、これは、日本企業がモザンビークに進出する上においても大変重要な課題です。もちろんモザンビーク政府も、様々な努力を続けておられるわけですが、日本としましても、こういった努力を後押しするべく、無償資金協力を行うなど、この治安回復を後押しさせていただきたいと考えております。こうした形で、北部の治安回復に協力をしていきたい、貢献をしていきたい、このように思っています。

 そして、気候変動につきましても、このモザンビークにおける様々なエネルギー分野における開発ですとか、あるいは、様々な企業進出、こうしたものを、日本として、後押しをさせていただきたいと思っております。気候変動問題については、先日モザンビークにおいてもサイクロン・フレディーにおいて大きな被害が発生した、心からお見舞いを申し上げるわけですが、こうした気候変動によって大きな影響を受けておられる、こうしたことに対しても日本として様々な支援を行わさせていただいております。いずれにせよ、国際社会と連携しながら、気候変動問題についても、日本はモザンビークに寄り添いながら協力をしていきたいと思っています。

 そして最後に、中国とロシアについて御質問を頂きました。本年TICADが30周年を迎えるように、日本とアフリカの協力関係には長い積み重ねがありますが、中国やロシアもそれぞれアフリカに関与してきていると承知をしています。今回、アフリカの4か国を訪問し、食料・エネルギー価格の高騰により悪影響を受けているとのお話をお聞きいたしました。この食料・エネルギー危機は、ロシアによるウクライナ侵略がもたらしたものです。今回の訪問では、日本として、この食料危機への対応を含め、アフリカの国々が直面する様々な課題に対して、具体的な支援・対応について各国首脳に説明をいたしました。また、透明で公正な開発金融の重要性についても議論を行いました。中国やロシアもアフリカにおいて様々な活動を展開しておりますが、日本は、アフリカと「共に成長するパートナー」として、「人への投資」や「成長の質」を重視するとの日本らしい、また、きめ細やかなアプローチで、アフリカに寄り添いながら、日アフリカ関係を一層深化させていきたいと考えております。