データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 内外記者会見

[場所] 
[年月日] 2017年5月27日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【安倍総理冒頭発言】

 1年前G7の首脳たちは日本の伊勢志摩に集い、世界の平和と繁栄をけん引していく、その強い決意を確認しました。

 あれから1年、リーダーたちの顔ぶれは大きく変わりました。私にとって6度目のサミットとなりましたが、今回もこれまで同様、私たちは胸襟を開いて率直で熱のこもった議論を交わしました。

テロとの闘い、世界経済、シリアを始め中東情勢、そして海洋安全保障、ウクライナ情勢など世界の様々な課題について共に手を携えて行動していく。強い結束を改めて確認することができました。

 なぜなら私たちG7は最も大切な基本的価値を共有しています。自由、民主主義、人権、法の支配。こうした普遍的な価値を高く掲げ世界の平和と繁栄をリードする。その確固たる意志を持つ国々が私たちG7であるからであります。

 しかし、今そうした価値がかつてない挑戦を受けています。北朝鮮が国際社会の度重なる警告を無視し、核・ミサイルによる挑発的行動をエスカレートさせています。先週発射されたミサイルの軌道は高度2000キロを超え、ユーラシア大陸から太平洋に至る広大な地域を射程にとらえていることが明らかになっています。

 この20年以上私たちは北朝鮮問題の平和的解決を模索してきました。もちろん今もそうであります。しかし、これまでの現実を見れば、対話の試みは時間稼ぎに利用されてしまった。北朝鮮は国際社会による平和的解決への努力をことごとく踏みにじり、ICBM(大陸間弾道ミサイル)、核兵器の開発を続けてきました。

 この1年余りの間に2度の核実験を行い、30発を超えるミサイル発射を強行しました。その全てが国連安保理決議に明白に違反しています。国際的な無法状態が、残念ながら常態化しているのです。

 これは、世界中で息をひそめながら核・ミサイル開発への野心を持つ勢力に誤ったシグナルを送りかねない。この問題をこのまま放置すれば安全保障上の脅威があたかも伝染病のように世界に広がる危険性を帯びています。

 もはやこの問題は東アジアにとどまりません。世界全体の脅威であります。そのことを、今回、G7のリーダーたちと共有しました。今、問われているのは平和を守り法の支配を貫徹する国際社会の意志であります。そして、その意志を担保する具体的なアクションであります。

 全ての選択肢がテーブルの上にあるとのトランプ大統領の強いコミットメントを日本は高く評価します。サミットに先立つ首脳会談では危険な挑発を繰り返す北朝鮮に対し日米がさらなる制裁などの圧力を強めるために協力し、韓国を始め関係諸国と連携していくことに合意しました。

 サミットでも、北朝鮮は即時かつ完全に全ての核・ミサイル計画を放棄しなければならないとG7は明確に合意し、そのためには制裁などの措置を強化する用意があることも完全に一致しました。拉致問題の即時解決に向けた決意も共有しました。

 20世紀前半、世界は二度に及ぶ悲惨な戦争を経験しました。その多大なる犠牲の上に平和のための国際秩序を築き上げてきた。しかし今、その平和が、国際秩序が脅かされている。

 今こそ国際社会は団結しなければなりません。とりわけ、北朝鮮と国境を接する中国やロシアとの協力が不可欠です。私はこの機会に改めて中国やロシアを始め国際社会全体に結束と行動を呼び掛けたいと思います。

 そして、この北朝鮮問題を今回のサミットにおいて最優先事項と位置付け、力強いメッセージをまとめてくれた、議長であるジェンティローニ首相のリーダーシップに感謝したいと思います。

 どこまでも青く、穏やかな地中海。シチリアの豊かな自然。伝統を受け継ぐ街並みのあちこちで談笑する人々の姿。

 この平和で満たされたタオルミーナの街に立つ時、私はほんの数日前にイギリスのマンチェスターで起きた悲劇を思わずにはいられません。

 何の罪もない未来ある若者たちの命が、その笑顔が卑劣なテロリストたちによって一瞬で奪われてしまった。わずか8歳の幼い少女までもが犠牲となりました。強い憤りを禁じえません。

 そして改めて犠牲となった全ての方々、その御家族に心からの哀悼の意を表します。

 今回のサミットでは、昨年、伊勢志摩で取りまとめた行動計画に基づきG7で連携してテロとの闘いを一層強化していくことで合意しました。テロの根絶に向けて日本も国際社会と連携しながら、我が国として果たすべき役割をしっかりと果たしていく決意であります。

 暴力の温床ともなる貧困や格差の問題にも私たちは協力して立ち向かわなければなりません。

 産業革命の到来は繁栄をもたらした一方で資本家と労働者の間に格差を生み、社会問題を生み出しました。しかし、先人たちは労働者の権利を守り産業革命の果実を社会の隅々に行き渡らせることによって、この問題を解決した。国民教育の充実は20世紀のイノベーションをけん引する力ともなりました。

 今また、グローバル化という新しい波が世界を覆っています。

 国境を越えた物の取引、人の往来、資本の移動が飛躍的に増大する。自由貿易によってもたらされるダイナミズムは産業革命がそうであったように世界の平和と繁栄の礎となるはずです。

 しかし、それは誰にでも開かれた、そして努力した人が報われる公正なものでなければなりません。市場を歪(ゆが)める不公正な慣行がまかりとおれば自由貿易体制そのものを脅かしかねません。

 TPP、さらには日EU・EPA。日本はあらゆる手段を尽くして、自由でルールに基づく公正なマーケットを世界に広げていく。これからも自由貿易の旗手としてリーダーシップを発揮していく決意であります。

 同時に私たちはそれがもたらす不平等の問題を直視しなければならない。グローバル化がもたらす不安、不満に、しっかりと対処していくことも重要です。今年のサミットでは、この点も経済政策の大きなテーマとなりました。

 成長の果実を生かし、教育や社会保障に大胆に投資することで、あらゆる人にチャンスをつくる。誰もが活躍できる社会を築くことで新しい活力が生まれ、次なる成長につながっていく。成長と分配の好循環をつくることが問題解決の鍵であります。

 日本が現在進めている一億総活躍社会への取組は、正にその先駆けであります。女性も男性も、お年寄りも若者も、障害や難病のある人も、誰もがその能力を存分に発揮できるようチャンスをつくることで、経済はもっと成長できるはずです。

 今回のサミットでは私から経済成長と格差への対処を同時に達成することの重要性を訴え、G7が協力して包摂性を高め持続的な経済成長を目指していくことで一致しました。

 来月にはアベノミクスを更に進化させていく新しい成長戦略を決定いたします。そのキーワードも、あらゆる人にチャンスをつくる、であります。

 リカレント教育を充実し、子育てなどを理由に仕事を一旦辞めてしまった皆さんにも、新しいチャンスをつくり出す。

 教育投資を拡充することで、どんなに貧しい家庭で育っても意欲さえあれば、高校にも、専修学校にも、大学にも、進学できるチャンスをつくり出す。

 日本を誰にとってもチャンスあふれる国とすることで、未来の持続的な成長サイクルをつくり上げていく。その大きなきっかけとなるような、未来を拓く成長戦略を策定したいと思っています。

 私からは以上であります。

【質疑応答】

(NHK 原記者)

 総理、今の会見でも北朝鮮の件について多くの時間を割かれましたけれども、北朝鮮は、各国からの警告にもかかわらず挑発行動を一向にやめようとしていません。北朝鮮に対して最も鍵となる重要な点はどのようなことだと、どのように事態の打開をしようとお考えでしょうか。

 あわせて今回のサミットでは、地球温暖化対策や難民問題、あるいは気候変動などで、各国の意見の隔たりもあったように見えますけれども、G7は今後こうした課題に対して結束していけるのでしょうか。今回6回目という御出席になったわけですけれども、G7の意見の集約に向けてどのような役割を果たせたと、手応えはいかがだったでしょうか。

(安倍総理)

 まず、今回のG7サミットにおいて、北朝鮮の問題が、北東アジアにとどまらずグローバルな脅威であるとの認識を共有することができました。G7として、北朝鮮への圧力を強化し、国際社会での取組を主導していくことで一致しました。

 トランプ大統領との会談では、制裁や国連安保理での緊密な連携を通じて北朝鮮に対する圧力を強化していくことで一致しました。北朝鮮の脅威を抑止するため、日米で防衛体制と能力の向上を図るための具体的行動をとることで合意いたしました。

 貿易については、G7として、自由、公正で、お互いに利益のある貿易こそが成長の鍵であるとの認識の下、過剰生産能力問題を含む不公正な貿易慣行に対して断固たる立場をとりつつ、開かれた市場を維持し、保護主義と闘うことで一致しました。大規模な移民、難民の動きに関しては、緊急人道援助と長期の開発支援の双方が必要であるとの点で一致いたしました。こうした点で、G7で結束できたことは大変大きな意義があると思っています。

 また私は、昨年の議長として、今回のサミットの冒頭で、国際秩序が大きな挑戦にさらされる中、基本的価値を共有するG7が結束してルールに基づく国際秩序を推進する必要があると訴えました。このG7の意義そして結束については、昨年の議長国として一番最初に私が意見を述べることになったのでありますが、正に経済においても、安全保障においてもG7がつくり上げてきた国際秩序に対する挑戦が今あるからこそ、普遍的価値を共有するG7が結束を強化することの意味は極めて重要である、との認識において一致することができたと思っています。G7が今後も結束して世界の重要課題に対応していくとの力強いメッセージを打ち出すことができたと思います。

(ANSA通信 リカルディ記者)

 総理は、アジアにおける緊張、特に北朝鮮情勢をめぐる緊張を解決するために中国とロシアの協力が不可欠であると述べ、両国にメッセージを送りました。しかし、G7コミュニケの中で北朝鮮に関する12番には、両国への言及がありません。これに関して、総理は少し失望されていますか。今回のG7でもっと多くを引き出したかったと感じていますか。

(安倍総理)

 今回はG7において初めて北朝鮮の問題が主要課題として、最重要優先課題として取り上げられたわけであります。そして私からも時間を掛けて、北朝鮮の脅威、問題点、どのようにG7として対応していくべきかお話しました。各国のリーダーたちからもそれぞれ意見の表明があった。北朝鮮は昨年以降、2回の核実験を強行するとともに、30回を超える弾道ミサイルの発射を強行しました。その脅威は、新たな段階に入っています。父親の金正日総書記時代の18年間に発射したミサイルの数は16発でしたが、その倍以上の数を金正恩委員長時代に、この1年余りで発射をしたということになるわけであります。北朝鮮が危険な挑発行為を中止し、その全ての核ミサイル計画を破棄するよう、国際社会全体が結束して行動しなければならないわけであります。今回、このG7において結束して、しっかりと北朝鮮に圧力を掛けていくという点において結束できたことは極めて意義があると思っています。そして国連の場においても、G7で協力して厳しい安保理決議の採択に向けて成果を出していきたいと思っています。

(共同通信 倉本記者)

 テロ等準備罪を新設する組織犯罪処罰法改正案などについてお聞きします。今回のサミットでは、G7として結束してテロに立ち向かうことを確認されたと思います。総理は今回のサミットでの議論を踏まえて、改正案の本国会での審議にどのように臨んでいくお考えでしょうか。また今後の参議院での審議について丁寧でできる限り分かりやすい説明を心掛け成立を期すと発言されていらっしゃいますが、加計学園の問題をめぐり文部科学省前次官が会見し、野党が予算委での集中審議を求めているなどしていますが、今後の国会対応含めてお聞かせください。国民の理解を深める上で6月18日までの会期を延長するかも含めてお聞かせください。

(安倍総理)

 今次サミットにおいて、国際組織犯罪防止条約に関し、私からは、例えば4月のG7外相会合等の機会に示された我が国の取組への支持、つまり国際組織犯罪防止条約を締結するために必要な担保のための法律、テロ等準備罪処罰法案について今国会で議論を進めているわけでありますが、そうした取組に対する支持に対してG7で支持を頂いた、この外相会合で支持を頂いたわけでありますが、それに対する感謝を述べたところであります。また、今般発出をされましたテロ対策G7特別声明において、G7の総意として国際組織犯罪防止条約を含む国際文書や関連安保理決議を実施するために協力を強化していくべきとの認識が示されました。

 このような議論からも明らかなとおり、我が国が国際組織犯罪防止条約の締結に必要な国内法整備を行い、本条約を締結することは、G7を始めとする国際社会と協調して、深刻化するテロの脅威を含む国際的な組織犯罪に対する取組を強化する上で、極めて重要であります。国際化するテロ組織に対して、お互いに捜査協力を進めていく、あるいは犯人の引渡し等を進めていく上においても、この条約に加盟することが必要であることは、もう既に国会審議で明らかになっているとおりであります。テロ等準備罪処罰法案については、先日、衆議院で可決されたところでありますが、政府としては、参議院においても、丁寧な、そして、できる限り分かりやすい説明を心掛け、確実な成立を期していきたいと思います。

 また、国会の会期等につきましては国会がお決めになることでありまして、残された会期、引き続き丁寧な説明に努めていく考えであります。

(ブルームバーグ通信 チャンピオン記者)

 総理、北朝鮮に言及されました。北朝鮮がミサイルや核の能力を高めていると述べられ、トランプ大統領とも日米の防衛体制の強化について協議をなさったということをおっしゃいました。日本の防衛能力を高めるとおっしゃいましたけれども、どのような能力を日本として開発しようとしておられるのでしょうか。

 また、冒頭発言の中でおっしゃいましたけれども気候変動及び貿易に関して難しいサミットであったということだと思います。6回もサミットに出られたベテランでいらっしゃいますけれども、特徴づけるとしたら、トランプ大統領の参加がどのような影響を及ぼしたのでしょうか。

(安倍総理)

 今回、トランプ大統領を始め4名の新しいメンバーがG7に加わったわけであります。その中で、世界的な課題についてかなり突っ込んだやり取りができたと思っています。トランプ大統領とは、例えばパリ協定についても議論を行いました。脱退するかどうか、残るかどうかということについては、この後決定するということになると思いますが、しかし、今までのG7の議論、あるいは我々の議論について御理解いただく意味においても有意義ではなかったかと思います。

 また、貿易については、これも率直な意見交換があったわけでありますが、保護主義に対して闘っていくということについて一致協力できたことは良かった。私がこのサミットの冒頭申し上げたように、今こそG7が価値を共有する、このG7が結束していくことが大切だ、この認識の下に最終的にまとめることができたと思っています。

 そして、北朝鮮に対してでありますが、我が国自身の防衛力を強化し、そして、日米同盟の抑止力、対処力を強化していくことが大切だと思います。これまで、安倍政権は10年間にわたり削減されてきた防衛費を再び増加させました。5年連続で防衛費を増やすことを既に決定し、実行してきています。弾道ミサイル防衛を含め、自衛隊の能力向上を図り、また、平和安全法制の制定によって、あらゆる事態に隙間のない対応ができる体制を整備し、そして日米同盟の絆の一層の強化を図ることにより、抑止力、対処力の向上を図っています。特に、平和安全法制を制定したことによって、日米が日本を守ることにおいて、お互いが助け合うことができる同盟になりました。助け合うことができる同盟は、当然、その絆を強くします。

 今回も米国の空母打撃群と海上自衛隊、航空自衛隊との共同訓練を実施することができました。これは、抑止力向上においては、大きな意味があった。また、BMD(弾道ミサイル防衛)については、現在6隻保有するイージス艦のうち4隻がBMD能力を有していますが、さらに2隻にBMD能力を付与する改修を進めるとともに2隻の新規建造を進めており、8隻体制の実現を急いでいます。また、日米共同開発中の新型迎撃ミサイルの配備も進めていく考えであります。

 さらなる防衛力の強化については、現行の中期防衛力整備計画が来年度で期限を迎えることから、今後、国家安全保障会議において厳しくなったアジア太平洋地域の安全保障関係をしっかりと考慮しながら検討を行っていきたいと思います。いずれにせよ、我々は日本人の命、安全をしっかりと守るためにも、そのための防衛力の整備を進めていく考えであります。