データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 内外記者会見

[場所] 
[年月日] 2016年5月5日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【安倍総理冒頭発言】

 本日5月5日は、日本では子どもたちの健やかな成長を願う国民の祝日であります。

 次の世代を担う子供たちのために、より良い世界を築く。これは、政治家たる者の共通の務めであります。そして、世界中のどの国のリーダーもその決意は変わらない、と信じます。

 3週間後に、日本の伊勢志摩で開催するG7サミットは、その「決意」を「行動」へと移す。世界が直面する様々な課題に、力を合わせて立ち向かう。その大きな一歩を踏み出す場にしたいと考えています。自由、民主主義、人権、法の支配といった基本的な価値を共有し、世界の平和と繁栄を牽引してきたG7には、その大きな責任があります。

 先ほど会談を行ったキャメロン首相とも、フランスのオランド大統領やイタリアのレンツィ首相とも、さらには、ドイツのメルケル首相とも、その使命感と責任感を共有できたことは、今回の欧州訪問の大きな収穫でありました。

 首脳たちからは、先月の熊本地震について、犠牲となった方々への哀悼の意と、被災された方々へのお見舞いの言葉をいただきました。

 この5月5日を、自宅を失って、残念ながら、避難した体育館の中で迎えた子供たちがたくさんいます。しかし、先週訪れた避難所では、不自由な生活の中にあっても笑顔を絶やさず、励ましあい、助け合いながら復興に向けて頑張る、被災者の皆さんがいました。その思いに応えるため、政府も現在、復興対策に全力を挙げているところです。

 被災地である九州の熊本や大分は、日本が世界に誇る観光地であります。今回も、日本の投資先としての魅力、観光地としての魅力を、各首脳に目一杯アピールしました。ベルギーでは、神戸市の久元市長や、つくば市の市原市長の参加を得て、日本の「地方」が持つ魅力を発信いたしました。どうか、ヨーロッパの皆さんも、今年の夏休みには日本に、そして九州にお越しいただきたい。豊かな自然や、温泉を満喫していただきたいと思います。力強く復興が進む姿を、その目で確かめていただければ大変嬉しく思います。

 改めて、この場を借りて、ヨーロッパを始め、世界中から寄せられた、被災地へのエール、心温まる支援の数々に対して、心からの御礼を申し上げたいと思います。国境を超えた「絆」は、被災地の人々を大いに勇気づける、大きな「力」となっています。

 これほどまでに相互依存が高まった世界にあって、今日、私たちは自然災害を始めとして、様々なリスクを共有し、共に立ち向かわなければならない。そうした時代を迎えています。

 ベルギーでは、あの非道なテロが行われた現場に足を運び、犠牲者の御冥福をお祈りし、献花をいたしました。暴力的過激主義は、今や、世界の平和と繁栄に対する大きな脅威となっています。中東から欧州へと押し寄せている難民への対応も、政治問題であるだけでなく、世界経済にも大きな影響を及ぼす課題であります。

 こうしたリスクの高まりに加えて、昨今の原油価格の下落は、資源国を始め新興国の経済に、大きな打撃を与えています。さらに、過剰設備や不良債権の問題が指摘されるなど、中国の景気減速への懸念も背景に、年明け以降、世界的に市場が大きく変動しており、世界経済の不透明さが増しています。

 世界経済の「下方リスク」と「脆弱性」が高まっている。こうしたリスクに、G7が、いかにして協調して立ち向かうことができるかが、伊勢志摩サミットの最大のテーマであります。G7がリードして、世界経済の持続的かつ力強い成長への道筋を示す。政策協調への力強いメッセージを打ち出さなければなりません。

 なすべきことは、明確です。

 アベノミクスの「三本の矢」を、もう一度、世界レベルで展開させることであります。

 自由な競争の中から、新しい技術革新が生まれ、そして、新しい付加価値が生まれます。構造改革を推し進め、「良いものが良い」と評価される、自由で公正な市場を創らなければなりません。そのためにも、日本は、TPPや日EU・EPAの実現を急いでいます。

 多くの専門家は、今年、更なる景気悪化と、世界的な需要の低迷を見込んでいます。安定した成長軌道を目指し、この低迷した状況から、一気呵成に抜け出す。「脱出速度」を上げていくためには、金融政策だけでなく、財政政策においても、機動的な対応が強く求められています。新興国を中心に、質の高いインフラや環境分野での投資を、一層拡大していくことも必要です。

 イギリスを代表する保守政治家、チャーチル首相の言葉がよみがえります。

 「『行動』を起こすことを、私は、まったく恐れない。

 恐れるのは、ただ無為に時を過ごすことだけだ。

 (I don’t worry about action, but only inaction.)」

 世界経済が抱えているリスクが顕在化し危機に陥る、その前に、私たちは「行動」を起こさなければなりません。私たちG7に、今、求められていることは「行動」であります。

 1か月ほど前、ワシントンで、オバマ大統領やカナダのトルドー首相と一致した、この認識を今回ヨーロッパの友人たちとも共にすることができた、と考えています。

 明日、私は、ロシアを訪問します。

 ロシアともまた、世界が直面する様々な課題に立ち向かう関係を築きたい。ウクライナ問題においても、シリア情勢、また、北朝鮮の問題においても、その解決のためには、ロシアの建設的な関与が不可欠であります。幅広いテーマについて、プーチン大統領と話し合う予定であります。

 日露間では、戦後70年以上を経た今も、平和条約が締結されていないという異常な状態にあります。プーチン大統領との首脳会談は、今回で13回目となりますが、この問題は、首脳同士の直接のやりとりなくして、解決することはできません。北方四島の帰属の問題を解決し、平和条約を締結する。その共通の目標に向かって、胸襟を開いて、率直な会談を行いたいと考えています。

 隣国である、日本とロシアの両国民は、長い歴史の中で、深い友情を培ってきました。現在の異常な状態を解消し、経済分野を始め、日露の協力が秘めている大きな可能性を、現実のものとする。その道筋について、プーチン大統領と話し合いたいと思います。

 私からは、以上であります。

【質疑応答】

(NHK 原記者)

 伊勢志摩サミットで機動的な財政出動について強いメッセージを発したいとおっしゃられていますが、今般会談されましたイタリア、フランス、EU、今日会談されたイギリス、昨日のドイツとの間では温度差が見られるように感じました。総理の御認識はどのようなものでしょうか。また、そうした認識の違いを今後、どのように埋めていこうとお考えでしょうか。

 また、為替について伺います。こうした世界経済の状況の中で為替の変動で円高が進んでおりまして、日本企業への影響も懸念されています。G7サミットで為替について議論されたり、具体的な対応について検討される予定はありますでしょうか。

(安倍総理)

 今回、各国首脳会談において、私は、世界経済について通常の景気循環を超えて、危機に陥るリスクを回避し、世界経済を再活性化させるため、G7には、構造改革の加速化に合わせて、機動的な財政出動が求められていること、そのため、伊勢志摩サミットでG7として一段と強い、そして明確なメッセージを発出したいと考えていることを各国首脳にお伝えしました。この点について、手応えをしっかりと感じとることができました。それが、今回の一連の首脳会談の大きな成果だと思います。

 すなわち、金融政策、機動的な財政政策、構造改革をそれぞれの国の事情を反映しつつ、バランス良く協力を進めていくことが重要であるという点で各国首脳と一致できました。今申し上げた点においては、イタリアのレンツィ首相、そしてフランスのオランド大統領、そしてドイツのメルケル首相、英国のキャメロン首相と一致することができました。

 伊勢志摩サミットにおいては、首脳が一堂に会して、さらに、今申し上げた共通の認識をベースに、議論を深め、G7として明確な力強いメッセージを発出していく。そのことで一致しました。

 そして、為替についてでありますが、まず為替の水準については、総理大臣として言及を差し控えたいと思います。その上で申し上げれば、為替の急激な変動は、例えば我が国の貿易関連企業に大きな影響を与えるなど、望ましくはありません。

 足下の為替市場では、急激で投機的な動きが見られていますが、G20でも、為替市場における過度の変動や無秩序な動きは、悪影響を与え得るものであり、為替レートの安定が重要との認識が確認されています。オランド大統領、そしてメルケル首相とも、為替の安定は重要であり、急激な変動は望ましくないということについて一致をしたところであります。為替市場の動向を、注意深く良く見て、必要に応じて対応したいと思います。

 また、伊勢志摩サミットでは、世界経済の課題について幅広く議論をしていくことになりますが、その中で、必要に応じて、為替についても議論されることになるのではないかと思います。

(バズフィード アルベルト・ナルデッリ記者)

 安全保障、ウクライナ、あるいは中東の問題等について、現在のG7とロシアとの関係に鑑み、目に見える成果が上げられると考えているか。

(安倍総理)

 今回、例として挙げられました安全保障に関わる課題、これはシリアの問題もそうですし、そしてテロの問題もそうですし、また難民の問題もそうだと思います。そしてウクライナ、また、ロシアとの問題、また、南シナ海の問題等もあると思います。

 G7というのは、自由や民主主義、そして人権、法の支配、普遍的価値を共有する国々であります。正に私たちが集まって議論していく、そして、今申し上げたような課題にしっかりと立ち向かい、メッセージを出していくことが求められていますし、それがG7にとって責任でもあろう、とこのように思います。

 その意味におきましては、特にテロについては、我々はG7において、テロ対策の行動計画について示していきたいと思っています。大切なことは、G7が結束力を示し、そうした課題にしっかりと取り組んでいく、私たちが創り上げてきた世界の秩序に対する挑戦、そうした動きに対して私たちが答えを出していく、そして処方箋を示していくことが求められていると思いますし、伊勢志摩サミットにおいては明確なメッセージを出したい。

 先ほど経済分野において明確な力強いメッセージを出したいと、このように申し上げましたが、安全保障においても、しっかりとした力強いメッセージを示し、G7の結束力を示したいと思います。

(日本テレビ 矢岡記者)

 明日行われます日露首脳会談についてお伺いいたします。安倍総理としては、北方領土問題の解決、平和条約の締結を目指すとともに、今回各国と議論されたようにウクライナ問題、シリア問題、G7一体となったメッセージを出す役割もあります。日本の総理大臣としての立場、そしてG7サミット議長としての立場と、どうバランスを取って、明日のプーチン大統領とのトップ会談に臨むお考えでしょうか。お聞かせください。

(安倍総理)

 戦後70年経っても平和条約が締結されていない状況は異常な状態である、この認識はプーチン大統領と一致をしていることであります。北方領土問題は首脳間のやり取りなくして解決はしません。北方四島の帰属の問題を解決をし、平和条約を締結するとの基本方針に基づいて、プーチン大統領と直接話し合い、領土問題の解決に向けて粘り強く取り組んでいく考えであります。そして、日本とロシアは、最も可能性を秘めた二国間関係であります。産業経済や国民生活の面でも互いに協力を深め、この可能性を実現させる工夫も重要であります。プーチン大統領とはこうした面も含め胸襟を開いた対話を行っていきたいと、このように思います。正にこの可能性を現実化させるためにも,平和条約の締結が必要であります。そうしたこともしっかりと念頭に置きながら、プーチン大統領と議論したいと思います。

 また、プーチン大統領とは、シリア、ISIL、ウクライナ、北朝鮮、イラン等について、ロシアの建設的関与を得ていくことも重要であることについても、率直に話し合いたいと思います。

 そしてまた、プーチン大統領の訪日についてでありますが、これを有意義なものとすべく、引き続き最も適切な時期を探っていきたい。このように思います。

 もちろん私はG7の議長国であります。議長国として、G7の枠組み、そして結束はしっかりと守っていきたいと思っています。

(ブルームバーグ通信 アレックス・モラレス記者)

 米国は最近、為替政策に関するウォッチリストに日本を載せたが、これに対する見解を伺う。更に円高が進めば、介入を行うのか、また、G7サミットの前に介入を行う可能性はあるか。

 さらに、トランプ大統領が実現した場合、日本は建設的に協力できると思うか。

(安倍総理)

 まず、為替については先ほど申し上げた通りでありまして、為替の急激な変動は、我が国の貿易関連企業に大きな影響を与えるわけでありまして、望ましくないわけであります。足下の為替市場では、急激で投機的な動きがみられています。G20でもそうですが、為替市場における過度の変動や無秩序な動きは、悪影響を与え得るものであり、為替レートの安定が重要との認識が確認されているということであります。今後とも為替市場の動向を、注意深く良く見て、必要に応じて対応したいと思います。

 そして、アメリカの対応についてでありますが、日米の貿易において黒字であることに鑑みて指定されているわけでありまして、我々が恒常的に為替に対して影響を与えているわけではない、ということであります。

 そしてまた、米国の大統領選挙についてでありますが、米国大統領選そのものについてコメントすることは差し控えたいと思いますが、その上で申し上げれば、地域の安全保障環境が一層厳しさを増す中、日米安保体制を中核とする日米同盟は、アジア太平洋の平和と繁栄の礎であり、そしてそのことは今後も変わりはないであろうと思います。

 誰が大統領になるにせよ、日米同盟の重要性がますます増している、日米同盟の役割がますます重要になっている中、米国の新たな政権とも今後とも引き続き緊密に連携しながら、日米同盟を更に深化、強化させていくように努力していきたいと思います。そのことがアジア太平洋地域の平和に資することになろうと思います。

(テレビ朝日 吉野記者)

 今回の歴訪では、新興国経済ですとか南シナ海の問題もテーマとなったかと思います。この問題は今後サミットでもテーマとなると思うのですが、いずれにしてもこれは中国とも密接に関わる問題なのだろうと思います。

 ただ今後、秋のG20は中国が仕切ることになるわけなのですが、G20に今回のテーマをどうつなげていくか。その辺のお考えをお聞かせください。

(安倍総理)

 中国を始めとする新興国の景気減速への懸念、そして原油価格の低下、地政学的なリスクなども背景に世界経済の下方リスクが高まっています。こうした時こそ、G7が世界経済の持続的かつ力強い成長を牽引しなければなりません。

 G7伊勢志摩サミットでは明確なメッセージを世界に向けて発信をして、秋のG20につなげていきたいと考えています。

 南シナ海の問題につきましては、広島で行われたG7外相会合でも充実した議論が行われました。自由で開かれた海洋は、国際社会の繁栄の礎でもあります。そうした観点から、G7伊勢志摩サミットでは法の支配と平和的解決の重要性について、各国首脳と認識の一致を見たいと考えています。

 そして9月には、中国の杭州で行われるG20サミットがありますが、杭州で行われるこのG20サミットにおいては日中首脳会談も行いたいと考えています。新興国経済や南シナ海の問題はいずれも重要なテーマであり、G7サミットの成果を基に世界の平和と繁栄に対する中国の建設的な関与を働きかけていきたいと考えています。