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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 安倍内閣総理大臣記者会見

[場所] 
[年月日] 2015年3月10日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【安倍総理冒頭発言】

 あの東日本大震災から、明日で4年となります。改めて、大震災によってお亡くなりになられた方々に心より哀悼の意を表したいと思います。

 愛する家族を失い、そして友を失い、被災した皆さんの今も癒えることのない悲しみと厳しい生活環境の下での御苦労に、今後もしっかりと寄り添いながら復興に全力を挙げていく。その決意を新たにしております。

 4年前、発災直後に被災地へと足を運んだ際、その被害の大きさに愕然といたしました。あの時の光景は今もこの目に焼きついて離れません。

 そんな時、宮城県の避難所で1人の女の子に出会いました。震災で曾お祖母さんとお母さんを失った小野望美ちゃんは当時、小学校3年生でありました。私は望美ちゃんに「夢」と書いた色紙を贈りました。2年前、総理大臣となって再会を果たした時、望美ちゃんは小学校を早く建ててほしいという夢を私に語ってくれました。そして、昨年夏、その夢は叶いました。10月、新しく完成した長瀞(ながとろ)小学校の校舎を、6年生になった望美ちゃんは誇らしげに私に紹介してくれました。

 住まいの再建は、この春までに1万戸の公営住宅が完成し、随時、避難していた皆さんの入居が始まっています。これからの1年で更に1万戸の完成を目指します。高台移転も加速し、来年3月までに全部で1万戸分の宅地を整備してまいります。

 津波で大きな被害を受けた1万8千隻に及ぶ漁船の復旧が完了し、水産加工施設はその8割で業務を再開しています。

 今年は震災前の7割を超える農地で作付けが行われる予定です。

 被災地を南北に貫く常磐自動車道も全線で開通しました。浜通り地域のおいしいお米や海の幸を消費地へと送り、観光客が行き交う大動脈として、復興の起爆剤となることを期待しています。

 福島では、除染した土の中間貯蔵施設への搬入が、いよいよ今週から始まります。受入れを決断してくださった双葉町、大熊町の皆さんに改めて御礼を申し上げます。皆さんのふるさとを思う気持ちを胸に刻みながら、福島の再生に向けて除染を一層加速し、県内8万8千か所に及ぶ仮置場の一日も早い解消に取り組んでまいります。

 長期にわたって仮設暮らしを強いられている皆さん、厳しい状況に置かれている方々がまだまだたくさんいらっしゃることも事実です。そうした皆さんのお気持ちを考えると大変辛い思いです。

 東京電力福島第一原発の廃炉・汚染水対策についても、引き続き、国が前面に立ち取り組んでまいります。

 そうした中でも、一歩ずつではありますが、復興は確実に新たなステージへと移りつつある。月1回のペースで続けてきた被災地訪問で、私はそのように感じています。

 福島に完成したばかりの復興公営住宅で一人の御婦人が私にこのように語ってくださいました。「将来への不安はある。しかし、前向きに、明るく生きていきたい。」大きな不安を抱えながらも、懸命に今を生きる、こうした被災者の皆さんの気持ちにしっかりと寄り添っていく。そして、必要な支援は全てやっていく。この安倍内閣の決意は、これからも揺らぐことはありません。

 地域の新たなきずなづくりを支援します。長期にわたって厳しい避難生活を送っている皆さんへの見守り体制を強化するなど、心の復興に一層、力を入れてまいります。そして、生業(なりわい)の復興も今後、更に加速してまいります。

 今般訪れた岩手の大船渡では、再建された魚市場が震災前を上回る水揚げに沸いていました。朝5時からの仕事は大変だと思いますが、「やりがいを持ってやれる仕事です。」と、一人の若者が語ってくれたことが今でも強く印象に残っています。

 来年3月で、5年間にわたった集中復興期間は終了いたしますが、次の5年間の新たな復興支援の枠組みをこの夏までに策定いたします。

 閣僚全員が復興大臣である。その思いの下、内閣の総力を結集して策定作業に当たるよう、先ほど指示をいたしました。

 被災地の皆さんの自立を支援し、一人一人が希望に満ちた将来を描くことができるよう、政府としてこれからもできる限りの支援を行っていく考えであります。

 福島では、新しい復興拠点をつくり、まちづくりを進めてまいります。さらに、ロボットや再生可能エネルギーといった分野で、世界最先端の研究、新産業が生まれる地へと再生してまいります。

 あの原発事故から5年目を迎える今、被災者の皆さんの自立への道を後押しする。そのために、営業損害賠償の再検討と併せ、事業や生業(なりわい)の再建に向けた支援策を大幅に拡充してまいります。

 こうした福島再生のための政策パッケージを、早ければ本年5月にも決定し、福島の自立に向けた将来像をこの夏頃までに取りまとめてまいります。

 復興はいまだ道半ばです。しかし、私たちの歩みは確実に前へ前へと進んでいます。そして、これからも前進あるのみであります。

 先週、岩手では、地元の皆さんが待ちに待ったJR山田線の復興工事が始まりました。その起点となる釜石は、先日、2019年ラグビーワールドカップの開催地に決まりました。海外からもたくさんの観光客がお越しになるはずです。その時には、是非とも、日本が誇る美しい三陸海岸を北から南まで満喫してほしいと思います。

 宮城では、この春、地域の皆さんの足である石巻線、仙石線が順次全線で運行を再開する予定です。

 福島の富岡駅には、2年前に私も訪れました。駅の周辺には今もなお、津波と原発事故の爪跡が残されたまま、帰還困難区域を通るJR常磐線は4年を経た今でも再開の見通しが全く立っていませんでした。

 今般、地元の皆さんの強い期待に応え、JR常磐線については、浪江-富岡間も含めて、将来的に全線で運行を再開させる。その方針を決定いたしました。今後、順次開通を目指してまいります。

 「外で遊べるようになって、みんなが元気になった。」真新しい長瀞(ながとろ)小学校のグラウンドで笑顔いっぱいの小野望美ちゃんがこう語ってくれました。この春、望美ちゃんは中学生になります。夢と希望を持って新たなスタートを切ってほしいと願います。

 福島では、この春、ふたば未来学園高校が誕生します。少し早いですが、152人の新入生たちの新たな船出を心から祝福したいと思います。双葉地域は今、原発事故から再び立ち上がり、力強く復興しようとしています。その姿を自らの目に焼きつけながら、先進的な教育環境の下、成長していく。3年間の学びの日々は、必ずこれからの人生において大きな糧となるに違いありません。

 子供たちは未来への希望であります。大いに学び、遊び、そして、友達と交わりながら、福島のみならず、日本、更には世界をリードする人材へと成長してもらいたいと大いに期待しています。

 私からは以上であります。



【質疑応答】

(内閣広報官)

 それでは、皆様からの質問をいただきます。

 質問を御希望される方は挙手の上、私が指名いたしますので、改めまして御自身からお名前と所属をおっしゃっていただいた上で、質問をお願いいたします。

 それでは、最初は幹事社の方からいただきます。どうぞ。

(記者)

 幹事社のテレビ東京の宮﨑です。

 総理に福島第一原発での対応についてお伺いします。福島第一原発をめぐっては、汚染水が排水路から海に流出していた事実が発覚し、東京電力による公表が遅れるなど、安全管理の体制について問題が指摘されています。また、高レベル放射性廃棄物の最終処分場の選定も依然として行われていません。総理は、こうした諸課題について、いつ頃までに、どのように対応していくお考えでしょうか。

(安倍総理)

 東京電力の情報公開が不十分であったことは、誠に遺憾です。十分な情報公開を徹底することにより、漁業関係者を始めとする関係者の信頼関係を再構築し、また、排水路を通じた放射性物質の流出を抑制するための適切な追加対策をとるよう、東京電力に指示をしています。

 安全面についても、原子力規制委員会が、変化する施設の状況に応じた能動的な規制を実施していきます。

 東電任せにせず、国も前面に立って廃炉・汚染水対策に取り組んでいく考えであります。

 既に、我が国は相当量の使用済燃料を保管しており、原発の再稼働の有無にかかわらず、高レベル放射性廃棄物の最終処分場が必要であることから逃げることはできません。このため、廃棄物を発生させた現世代の責任として、将来世代に負担を先送りしないよう、これまでのやり方を見直し、科学的根拠に基づき、国から適地を提示するなど、国が前面に立って最終処分場をしっかりと確保していく考えであります。

(内閣広報官)

 次、もう一問幹事社からいただきます。どうぞ。

(記者)

 日本経済新聞の中山と申します。

 震災から5年が経過する来年には、G7サミットが日本で開催されることになっており、被災地からは仙台も会場候補地となっております。

 先ほど、ラグビーのワールドカップへの言及がありましたが、2020年の東京オリンピックに当たっては、総理は以前から被災地復興をアピールしたいとの考えを示していらっしゃいました。

 現地の復興の状況にもよると思いますが、こうした機会において、総理は震災からの復興の姿をどのように世界に発信していくお考えですか。

(安倍総理)

 来年のサミット開催地については、現在、選定に向けて作業を行っているところです。本年6月にドイツでサミットが開催されるまでには決定したいと考えています。サミット開催地は、警備や宿泊施設、会議場など、様々な観点から総合的に検討していくことになりますが、開催地がどこになるにせよ、主要国のリーダーが一堂に会する来年のG7サミットにおいて、力強い復興を世界に向かってしっかりとアピールできるよう、引き続き、全力を挙げて被災地の復興に取り組んでいく考えであります。

 そして、2020年のオリンピック・パラリンピックは、何としても復興五輪にしたいと考えています。先月末にIOCに提出した大会の基本計画では、聖火リレーの実施など、被災地支援と復興の発信が盛り込まれたところであります。今後、被災3県と政府、そして東京都、組織委員会等による協議会で具体的に検討していく考えであります。

 また、先日、2019年のラグビーワールドカップが釜石市で開催されることが決まりました。これらの大会が復興の後押しとなり、被災地が見事に復興をなし遂げた姿を世界に向けて発信できる、そういう大会にしていきたいと考えています。

(内閣広報官)

 それでは、これからは幹事社以外の方からの質問を頂戴しますので、御希望される方は、どうぞ挙手をお願いいたします。

 では、最初に外国のプレスの眼鏡をかけた記者の方、お願いします。

(記者)

 フィナンシャル・タイムズのハーディングでございます。

 アベノミクスの目標はデフレを脱却するということでしょうが、世界的にデフレ傾向が強まってきていることで、この目標にどのような影響を与えていますか。それに対してどのような政策が必要だと思われますか。以上です。よろしくお願いします。

(安倍総理)

 世界経済は全体として緩やかに回復をしています。その中にあって、物価については原油価格の下落によって、その影響によって先進国を中心に伸びが低下をしているというふうに承知をしています。一方、日本においては、原油価格の下落は、輸入物価の下落を通じて企業収益や家計の実質所得を押し上げるという効果がありますし、経済にプラスの影響を与えると考えています。

 日本銀行は2%の物価安定目標を掲げ、大胆な金融緩和を実施をしているところでありますけれども、その具体的な手法については日本銀行に委ねております。消費者物価については、日本銀行は原油価格の下落の影響が薄れるにつれて伸び率を高め、2015年度を中心とする期間に2%程度に達する可能性が高いと見ているというふうに承知をしています。

 いずれにせよ、デフレ脱却、経済再生は日本にとって最重要の課題であります。引き続き、三本の矢の経済政策によって、経済の好循環を確かなものとしていく考えであります。

(内閣広報官)

 それでは、次の質問をいただきます。では、杉田さん。

(記者)

 共同通信の杉田です。

 復興財源についてお伺いします。集中復興期間が終了した後の2016年度以降の復興財源について、被災地の自治体からは全額の国費負担を継続してほしいという声がある一方で、政府内には自治体負担を求める声もあります。総理の見解をお聞かせください。

(安倍総理)

 まずは復興の加速化に重点化しております平成27年度予算の成立に向けて、全力を尽くしていきたいと思います。その上で、28年度以降も必要な事業は引き続きしっかりと実施をしていきます。財源も含めて今後その在り方を検討していきます。28年度以降も我々は止まらない。これが基本的な姿勢であります。被災地の方々の心に寄り添いながら、しっかりと対応していきます。

 来年3月で5年間の集中期間は終わりますが、次の5年間の新たな復興支援の枠組みをこの夏までに策定します。その中で、地方負担の在り方も含め、被災地の声に耳を傾けつつ、丁寧に検討していく考えであります。

 復興は新たなステージに移りつつあります。被災者の皆さんの自立を応援し、政府としてこれからもできる限りの支援を行って、取り組んでいく考えであります。

(内閣広報官)

 もう一問だけいただきます。では、原さん。

(記者)

 NHKの原と申します。

 復興事業の関連で伺います。宅地を造成しても戻る人が思ったとおり戻ってこないのではないかという懸念が出る中、被災地では復興事業の遅れから、復興事業と住民のニーズの間にミスマッチが出てきているのではないかという指摘が出ています。住民のニーズというのは今後も変わっていくことが予想されますけれども、大型の公共工事と住民のニーズとの間のミスマッチをどのように是正していくお考えでしょうか。

(安倍総理)

 高台移転について、事業主体である市町村において被災者の住まいに関する意向を調査した上で、整備する場所や戸数を決定してきているというふうに承知をしております。事業には一定の時間を要することから、被災者の意向に変化があった場合にも、市町村において可能な限りその意向に添えるよう調整等を行っていただいています。

 また、国としても、住民意向の把握や適切な規模への見直しについては、職員が市町村を訪問するなど必要な助言をしてきたところでありまして、こうした取組によって実際に高台移転の全体の計画戸数が変更されてきているところでもあります。

 確かに、時を経て、被災者の方々のお気持ちが変わるということは十分にあり得ることであります。そうした皆さんのお気持ちの変化にも丁寧に、そして、そうしたお気持ちに寄り添いながら対応していく、調整していくことが大切だろうと思います。今後とも市町村において高台移転事業の早期整備と併せまして、丁寧に被災者の皆さんの意向を把握をしながら事業を進めていただきたいと考えております。

(内閣広報官)

 それでは、以上をもちまして安倍総理大臣の記者会見を終了いたします。皆様どうも御協力ありがとうございました。