データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 内外記者会見

[場所] 
[年月日] 2014年2月8日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

 【冒頭発言】

 ソチ・オリンピック、パラリンピック。誰もがワクワクする、4年に一度の「眠れない日々」が、いよいよスタートしました。まずもって、この大会を成功裏に開催された関係者の皆さん、ロシア国民の皆さんに、心からのお祝いを申し上げます。そして、私をご招待いただいたプーチン大統領に、お礼を申し上げたいと思います。

 昨日、国会、そして国民の皆さんのご理解をいただいて、ここソチを訪問し、開会式に参加を致しました。日本選手団は、大ベテラン41歳の主将・葛西選手から、中学3年生15歳の平野選手まで、総勢113名。しかも、その6割が女性選手です。小笠原選手が掲げた「日の丸」を先頭に、開催国・ロシアに敬意を表して日露両国の国旗を手に入場しました。その日本選手団の堂々たる姿。世界各国の首脳たちと共にその姿を見ながら、私は、大変、誇らしく思いました。

 選手一人ひとりが、この4年間、誰にも負けない厳しい練習を、積み重ねてきたに違いありません。その自信と、日本代表としての誇り。そして何よりも、日本からの熱い応援。これらを胸に、最高のプレイを見せてくれることでしょう。

 「頑張れば、夢は叶う。」これまでの血のにじむような努力を実らせ、世界の檜舞台で、大きな結果を出してほしいと思います。そして、日本中に、夢と、希望と、勇気を、与えてほしいと願っています。その願いを込めて、これから決戦の場に向かう日本選手全員に、心からのエールを送ります。

 今夜は、フィギュア・スケート団体戦の女子シングル・ショートプログラムに、浅田選手が登場します。土曜日ですから、テレビの前で夜更かしをされている方も多いことでしょう。会場で、皆さんの分もあわせて、精一杯、応援したいと思います。

 ソチでの日本選手たちの熱い健闘が、「2020年」の成功につながっていくはずです。それまでに、「Sport for Tomorrow」で、日本から世界100か国1千万人以上に、オリンピック精神を広めていきたいと思います。

 プーチン大統領とは、5回目の首脳会談を行いました。プーチン大統領からは、私の出席に対する感謝する旨述べ、昼食会をはさんで、個人的な信頼関係の下、非常によい雰囲気で胸襟を開いた会談となりました。

 日本とロシアは、「最も可能性を秘めた」二国間関係だと、私は、かねがね申し上げてまいりました。日本は、ロシアのエネルギー産業の発展に、大きく貢献しています。ものづくり、和食や医療など、様々な分野で、ロシアの皆さんは、日本に注目しています。ロシアと日本は、互いが互いを必要としています。共に大きく繁栄する「可能性」に満ちているともいえます。

 しかし、日本とロシアとの間では、戦後68年を経てなお、平和条約が締結されていないという厳しい現実があります。二国間にいまだ眠っている大いなる「可能性」を開花させるためにこそ、日本とロシアは、一日も早く、困難な課題を解決をして、平和条約を締結しなければなりません。6月のG8サミットの際には、ここソチで、再び、話し合う機会をつくりたいと思います。秋には、プーチン大統領が日本にやってくることで一致を致しました。これまで築き上げてきた私とプーチン大統領の個人的な信頼関係を、二国間関係の発展という次元へと、一段と高めていきたいと思います。今年は、日露関係を一段と飛躍させる年にしてまいります。

 さて、月曜日には、来年度予算案の審議が始まります。今週成立した補正予算とあわせ、経済の好循環を実現し、景気回復の実感を全国津々浦々にまでお届けする。そのためにも、一日も早い、予算成立を目指したいと思います。

 日本の選手の皆さんが大活躍をし、そして表彰台にのぼる姿を見ることなく、ここソチを去るのは、後ろ髪をひかれる思いではありますが、日本に戻って、眠たい目をこすりながら、テレビの前で応援したいと思います。

 【質疑応答】

 (NHK 原記者)

 北方領土問題について伺います。ロシア側は、戦後、第二次世界大戦で、北方四島はロシア領になったという認識を堅持していますけれども、北方四島の帰属の問題を堅持して、その後平和条約を結ぶという日本の立場はこのまま堅持していくお考えでしょうか。また、過去には二島先行返還論など、打開点を模索する議論があったかと思うが、こうした問題についてどのようにお考えでしょうか。更に先ほどプーチン大統領が秋の訪問で一致したということですけれども、その際の成果として、どのようなことを考えていらっしゃるのか。また、北方領土交渉の解決をいつ頃までに成し遂げたいとお考えでしょうか。

 (安倍総理)

 日本政府としては、ロシアとの関係をあらゆる分野で進め、日露関係全体の発展を図りながら、四島の帰属問題を解決し、平和条約を締結する、この基本方針のもとで、粘り強く交渉に取り組んでいく考えです。プーチン大統領より、次官級協議の結果について、報告を受けていると発言がありました。引き続き、両国間で協議を重ねていくことで合意をいたしました。

 プーチン大統領がこの秋に訪日されることになりました。昨年の私の訪露以来、大変テンポ良く進んでいます。このテンポ良く進んでいるこのスピード感を維持しながら、建設的で率直な意見交換を行いたいと思います。

 いずれにせよ、この問題を次の世代に先送りしてはならないと思います。日露両国民が心の底から信頼し合える関係を作り、両国の協力を飛躍的に発展させるためには、可能な限り早期に解決を図っていかなければならないと決意をしています。

 (インターファクス通信 ドミトリー記者)

 周知の通り、北朝鮮の脅威に関連して、日本はミサイル防衛分野における努力を活発化させている。ミサイル防衛分野に関する日本の計画に、中国というファクターも影響を与える、と考えても間違いではないか。私の理解では、日本のミサイル防衛システムは、米国の進めるグローバルなミサイル防衛システムの一部になろうとしている。ロシアはこれまでアメリカの計画に対して懸念を示し、米国政府に対し、このシステムがロシアに向けられたものではないという法的保証を要求した。もし、同様の要求を行った際、日本はロシアに対してそのような法的保証を与えてくれるのか。

 (安倍総理)

 日本の弾道ミサイル防衛システムは、弾道ミサイルによる攻撃が行われた場合に国民の生命や財産を守るという専ら防御的なものであります。その背景には、北朝鮮の核・ミサイルの開発が、日本の安全に対する重大かつ差し迫った脅威となっているという事実があります。

 日本のミサイル防衛システムは、ロシアに向けられたものではないということは、日本の総理大臣としてはっきりと申し上げておきたいと思います。

 日本は、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から、日本が地域と世界の安定にこれまで以上に積極的に貢献していくことを安全保障の基本方針としています。その観点から、ロシアは重要なパートナーであり、引き続き安全保障分野の協力を発展させていきたいと考えています。

 (時事通信 宮澤記者)

 安倍政権の高い支持率の背景には、いわゆるアベノミクスによる「円安・株高」の傾向があったと思いますが、米国や新興国の経済の先行きに対する懸念から、このところは「円高・株安」に振れています。現在の世界経済の情勢をどのように意識されていますでしょうか。また、何らかの新たな対策をお取りになる検討はされてますでしょうか。更に、マーケットでは安倍政権の成長戦略への期待が高まっていますけれども、6月に取りまとめる新たな成長戦略の柱として、どのような具体策を考えていらっしゃるでしょうか。

 (安倍総理)

 市場の動向や要因ということについては、総理大臣としてはコメントはしない方がよいと思います。「三本の矢」の政策によって、日本経済は、消費においても、雇用においても間違いなく改善しています。デフレ脱却に向けて着実に進んでいると確信しています。昨年12月に発表された日銀の短観によってもあきらかに、企業、中小企業も含めて、業況判断は改善しておりますし、先般発表された有効求人倍率、失業率についても改善していると思います。こうした企業の収益の改善を賃金に結び付けていく、それによって、さらにまた経済の好循環に入っていくことができるのだろうと思います。賃金の上昇や雇用の拡大を私たちは重視しているわけであります。その中において、景気回復の実感を全国津々浦々に広めていかなければなりません。そのための今回の補正予算であり、本予算であります。5.5兆円規模の補正予算であるが、早期に実行いたしまして、4月から消費税が5%から8%に上がりますが、その反動減等影響を緩和し、現在の成長軌道に戻れるようにしていきたいと思っています。

 成長戦略については、昨年6月の策定以降、電力市場の自由化に向けた改革、再生医療を産業化するための改革、40年以上続いた米の生産調整を見直す、「できるはずがない」とされてきた多くの改革をしっかり取り組んで、結果を出そうとしています。

 そして、安倍政権の成長戦略は「進化する成長戦略」であり、これからがまさに正念場であります。年央の成長戦略の改訂に向けて、さらなる構造改革に全力で取り組んでいく考えです。

 (ロイター通信 ヘリテージ記者)

 日本とロシアは、長年領土問題があり、当然、歴史的には、第二次世界大戦中に敵対関係にあった。それにもかかわらず、貴総理はプーチン大統領と5回の会談を行い、関係改善及び領土問題の解決に向けて努力している。一方、日中関係は、領土問題、歴史問題のために緊張関係にある。日中の首脳が会うことすらできない中で、日本とロシアは少なくとも問題解決に向けた努力をしていることを可能にしている (日中関係との)大きな違いは何か。

 (安倍総理)

 私は、日露関係を「最も可能性に富んだ二国間関係」であると定義づけています。そして、ロシアをアジア太平洋のパートナーとして重視しています。日露関係の強化は、両国の利益に合致するのみならず、地域の安定にとっても重要であります。日露両国にはこうした観点から対話を重ね、協力を発展させていくことに利益を見いだしていると考えます。

 今回の会談は、昨年4月の私のロシア公式訪問を皮切りに、私とプーチン大統領の5回目の会談となり、個人的信頼関係も強固なものになったと感じています。今後、引き続き首脳会談を重ねて、信頼関係を一層深めつつ、経済、安全保障等あらゆる分野でロシアとの協力を進め、関係を全体として高めていきたいと考えています。確かに、両国の間には平和条約が締結されていない、平和条約を締結していくという大きな課題があります。この課題があるからこそ、私たちは信頼関係をつくり、両国の関係を発展させ、人的交流を重ね、両国民間の理解を進めていきたいと考え、努力してきたわけであります。平和条約締結という最も困難な課題、これは歴史的な課題と言ってもいいと思いますが、この歴史的課題であるからこそ、私とプーチン大統領はその課題を解決していくという大きな歴史的使命を負っていると思います。解決に向けて全力を尽くしていきます。

 中国との間では、残念ながら、これまで首脳会談が実現してきませんでした。しかし、日中関係が最も重要な二国間関係の一つであることには変わりはありません。「戦略的互恵関係」の原点に立ち戻って、関係を改善していきたいと考えています。日中間では困難な課題があるからこそ、前提条件を付することなく、率直に話し合うべきであります。私は心からそう願っています。日本の対話のドアは常にオープンであり、中国にも同様の姿勢、態度を期待しています。